機械知性体たちの即興曲 メニュー

http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5972.html

 

第五日目/夜・後編

七〇八号室

みくる        「ふんふ~ん♪」(ジューッ)
あちゃくら  「はい、朝比奈さん! コショウです!」(パッパッ)
みくる        「わあ。ありがとう」
あちゃくら  「へへん。これくらいなら、普段やってることなのです!」
みくる        「朝倉さん、お料理得意そうですもんねー(ニコニコ)」

キョン        「……楽しそうだな。台所」
ちみどり    「あちゃくらさん、もともとお料理好きですから」
キョン        「しかし……やはり朝比奈さんがいると、日々の生活の安定感が段違いだな……」

にゃがと    「…………(部屋のすみで考えこんでいる)」

キョン        「(やっぱり様子が少しおかしいのか?)……それで。結局どういうことに? 長門はなんていってたんです?」
ちみどり    「それが……あまり話というか」
キョン        「なにも?」
ちみどり    「ええ。あとで詳しく説明はするって……」
キョン        「ふむ……」

にゃがと    「…………」

 

 

 

夕食の時間

 

みくる        「は~い。今日のお夕飯は、お野菜たくさんと牛肉のオイスターソース炒めで~す」
キョン        「……おお。これか。噂の松坂牛」

みくる        「ほかにも材料がたくさんあったので、いっぱい作りましたから!」
あちゃくら  「キョンくん、キョンくん。わたしも手伝ったのですよ!」
キョン        「えらいな、朝倉。さすがだぞ(グリグリ)」
あちゃくら  「きゃーっ!」(大喜び)
ちみどり    「ほんとに豪勢ですねぇ」

にゃがと    「…………」

キョン        「(朝比奈さんの手料理を二日続けて食えるとは……)……? どうした長門。食べないのか」
にゃがと    「……いや。食べる(モクモク)」
みくる        「届けてくれた食材の中に杏仁豆腐まであったんですよ。どういうわけか。食後に出しますから、いってくださいね」
あちゃくら  「今日はとっても豪華な中華なのです。たまにはいいですよね!」

ちみどり    「ほんとに朝比奈さん、お料理が上手です。おいしい……」
みくる        「そういわれると嬉しいです……よかったぁ」
キョン        「最初の頃の反応の欠片もないな、おまえら……」

にゃがと    「……確かに」
キョン        「ん?」
にゃがと    「こうして、おいしいと思えること。みんなと食事をすることが楽しいと思えること」
みくる        「……長門さん?」
にゃがと    「……それが、とても嬉しい。そう感じる」
キョン        「いいことじゃないか、それ」
 
にゃがと    「ありがとう。朝比奈みくる」
みくる        「……え?」
にゃがと    「……我々は、このようなあなたの支援に対して、なにもお返しができない。それなのにこんなに優しくしてくれて、とても感謝している。
          ……ありがとう」
キョン        「……おまえ、なんか変だぞ。さっきから」
みくる        「長門さん……」

あちゃくら  「……どうしたんでしょうかねー(パクパク)」
ちみどり    「…………」


食後――

みくる        「じゃあ先にお風呂、いただききますね。キョンくん」
キョン        「あ、よろしくお願いします。また食事の片付けはやっときますから。
             ……いいか、おまえら。朝比奈さんのいうこと、ちゃんと聞くんだぞ。中で暴れるなよ?」
にゃがと    「だいじょうぶ。彼女はとても優秀」
あちゃくら  「はーいっ!」

キョン        「ふう……」(カチャカチャ)
キョン        「……仲間には会えたんだろうに。なんで考えこんでるんだ、長門のやつ」(キュッキュッ)
キョン        「……あんまり良い話が聞けなかったのか? もしかして」
キョン        「そんなことはないだろうにな。なにしろあれだけ万能だった長門の仲間なんだろうから」
 
キョン        「(少し考えこんで)人間に化けて潜んでる宇宙人ね……」
キョン        「……長門たちとやっぱり似たようなもんなのかね。そういった連中も」
キョン        「しかし、幼児化からどうやって治るのか、方法くらいはいくらでもありそうなもんだがな。
                   あいつらの親だったら……」

キョン        「……親、か」
キョン        「あいつらの親玉にも、人間が感じるような、子供を大切にしたいとか、そういう感情はあるのか?」
キョン        「……以前、長門がいってたよな。『処分の可能性がある』とかなんとか」

キョン        「インターフェイス……つまり、道具ってことでもあるが」
キョン        「……まさか、な」


入浴後――

みくる        「ふぅ……いいお湯でしたぁ」
キョン        「あ、上がりましたか――って、朝比奈さん!?」
みくる        「……? はい?」
キョン        「そ、その格好は……」
みくる        「あ、これですか? そのー……パジャマですけど?」
キョン        「(鼻血は駄目だぞ。俺。絶対に)あの。ど、どういうことでしょうか。その」

あちゃくら  「ふふ……なんと! みくるママは今夜この部屋に泊まってくれるのです!」
ちみどり    「最初からそのつもりで、着替えを用意してくれていたとかで……」
キョン        「……なんですと!?」
 

 

寝室――

みくる        「それで、今日ですね、本屋さんで絵本を買ってきたんです! これ。かわいいでしょう?」
キョン        「……『泣いた赤鬼』に『百万回生きたねこ』……?」
みくる        「おすすめ絵本で並んでいたので、それを選んできました!」

キョン        「あー……これって、内容知ってます?」
みくる        「いえ。もしかして有名なんですか? これ」
キョン        「有名というか……夜に子供に読み聞かせするのに適しているのかどうか……どうでしょうかね」
みくる        「そうなんですか?」
キョン        (……泣くだろう、それは。普通に考えて。寝るどころの話じゃないんじゃ……)
みくる        「?」

キョン        「しかし……そうすると、ベッドは朝比奈さんと長門たちとして……俺は」
みくる        「……一緒に寝たら、駄目ですか?」
キョン        「…………はい?」
みくる        「子供たち……じゃなかった。長門さんたちも、キョンくんと一緒にいた方が安心して眠れると思うんですけど」
キョン        「(ふふふ……オーケー。落ち着け。これは罠だ。よくわからんが、たぶん、なにかの罠だ。意味がわからんが。
            とにかく落ち着け。こんなうまい話……じゃない、危険な話が……いや――(約五〇秒ほど思考の無限回廊から脱出できず))」
みくる        「……キョンくん? もしかして、わたしとじゃ、いや?」
キョン        「(グビリ)……いや、そんな。イヤなわけ、あるはずが――」

ぴろりろ~ぴろりろ~

 
キョン        「携帯……ちょっと待ってください(画面を見る)」

キョン        「(額に手をやって)ハルヒだ……」
みくる        「え」
キョン        「(落ち着け。落ち着け。さっきから混乱ばかりしているが、ここはほんとうに落ち着けよ、俺……)」

キョン        「(ピッ)……どうした。こんな時間に」
ハルヒ       『どうしたじゃないわよ! 馬鹿キョン!』
キョン        「……どうしていきなり、頭ごなしに怒鳴られなきゃならんのだ」
ハルヒ       『あったりまえでしょ! 病欠とかいって、心配して家に連絡してみたら、あんた友達の家に泊まりこむって!
            サボりじゃない! 規律を重視するSOS団の構成員が、そんなことしていいと思ってるわけ? 大問題よ!』
キョン        「普段から常識なんぞ歯牙にもかけないおまえに、そういうことを言われてもだな」
ハルヒ       『……誰の家に泊まってるのよ』
キョン        「(ぎく)」
ハルヒ       『妹ちゃんは、ただ友達の家に泊まるって、それしか聞いてないって』
キョン        「(迂闊だった……きちんと根回ししておけば……)」
みくる        「…………(うわー……)」

あちゃくら  「(ヒソヒソ)これは大変な事態ですよ、ちみどりさん」
ちみどり    「(ヒソヒソ)ええ。もしかしたら、これまでのどんなことよりも、危険なことかもしれませんね」
あちゃくら  「(ヒソヒソ)みくるママというものがありながら、その実、もうひとりの大本命から……」
ちみどり    「(ヒソヒソ)キョンくんはそういうの、全然理解してないと思いますけどね」
にゃがと    「(ヒソヒソ)……彼は通常人類よりも、そのあたりの感覚は、はるかに水準を下回る感覚の持ち主」
 

キョン        「(携帯を手で押さえながら)……たいへんすまないが。静かにしていただけますか、みなさん(地獄の微笑み)」
にゃがと    「(ヒソヒソ)了解」
あちゃくら  「(ヒソヒソ)余裕のない表情ですねー……」
ちみどり    「(ヒソヒソ)このあたり、天然ジゴロの限界というか、なんというか……」

みくる        「…………(ムス)」

ハルヒ       『……? なに? 誰かそばにいるの?』
キョン        「いや、少し電波が悪いんじゃないか……?」
ハルヒ       『……そうかしら』
キョン        「まぁ、その、あれだ。中学時代の友人の家に泊まりこんでるんだよ。いろいろ事情があって」
ハルヒ       『(ピク)……それって、もしかして佐々木さんのこと?』
キョン        「……なんでそうなるんだ! よりにもよって、この俺が、女友達の家に泊り込むなんて――」

みくる        「(ヒソヒソ)……そんな度胸、あるはずないですよねー(ジトー)」
にゃがと    「(ヒソヒソ)なかなか鋭い意見」
あちゃくら  「(ヒソヒソ)みくるママ、目つきがちょっと怖いかもです……」
ちみどり    (混沌化している……)

キョン        (朝比奈さんまで……!)
キョン        「と、とにかくな。事情はわけあって話せないが、俺の個人的事情でやむなく、仕方なく、どうしようもなく、
                    学校には行けないんだ。頼む。わかってくれ」
ハルヒ       『……それって、わたしにも話せないことなの?(少しだけ気落ちしたような声で)』
キョン        「(どうしておまえは、こういうときに、こういう声で……!)……すまん」

 

 

ハルヒ       『……わかったわ』
キョン        「わかってくれたか」
ハルヒ       『……あんたが信用できないってことが、よーくわかったわ』
キョン        「……おまえ、なぁ」
ハルヒ       『嘘よ』
キョン        「な?」
ハルヒ       『ほんとに、なにか困ったことがあるんでしょ? その声の調子だと』
キョン        「……ああ」
ハルヒ       『仕方ないわね。大目に見て許してあげるわ。その代わり、もしもなにか助けがいるようなら、
           悩まないであたしに相談するのよ? いい?』
キョン        「……すまんな、ハルヒ」
ハルヒ       『いいわよ。それじゃあね。また学校で(ピッ)』

キョン        「……助かった、か」
キョン        (しかし、あのハルヒがなぁ)
キョン        (……少しは成長したってことなのか)
キョン        (しかしこればかりは、おまえには絶対相談できないことなんだよ)
キョン        (……すまん……?)

にゃがと    「じー」
あちゃくら  「じー」
ちみどり    「じー」
みくる        「じー」

キョン        「……なんだ、その視線は? 朝比奈さんまで」
みくる        「……知りません」(ぷい)
キョン        「? ? ?」

 

 

ベッドの上――

みくる        「……こうして、赤鬼さんは……(グス)……いつまでも、いつまでも……泣いていたそうです(グスグス)」
あちゃくら  「…………」
ちみどり    「どうしたんですか? あちゃくらさん?」
あちゃくら  「いえ……なんかこう……青鬼さんの気持ちが痛いほどわかるというか……」
にゃがと    「…………」

キョン        「……朝比奈さんが一番泣いてるんですけど……だいじょうぶですか」
みくる        「(グスグス)かわいそうですぅ……赤鬼さんも……青鬼さんも……人間と仲良く暮らしたかっただけなのにぃ……(グスグス)」
キョン        「そうですね……(この年でここまで感化されるというのもなぁ。未来には寓話とか伝わってないのか?)」

にゃがと    「だいじょうぶ」
みくる        「え……?」
にゃがと    「赤鬼は、そのあと、青鬼を追って再会する。そこであきらめたりはしなかった」
みくる        「そうなんですかぁ……?(グス)」
キョン        「……そんな話があったのか、これ? 続きみたいなの」
にゃがと    「そうではない。しかし、自分に対してそこまでしてくれた青鬼を、赤鬼がそのままにしておくはずがない」
あちゃくら  「……そうだったらいいですねぇ」
ちみどり    「…………」
にゃがと    「わたしだったら、絶対にそうする」
キョン        「……?」

 

みくる        「それだったら、ほんとにいいお話ですよね…っ!」
にゃがと    「そう。だから安心して寝るといい」
キョン        「……立場が逆転しとる」
みくる        「ふふ……ありがとう。長門さん」(ギュ)
にゃがと    「…………」

みくる        「じゃあ、そろそろ寝ましょうか」
あちゃくら  「はーいっ!」

 

キョン        「…………」

キョン        (さりげなく、親子の川の字モードに入ってしまったが……)
キョン        (これ、許されてもいいものなのか?)
キョン        (確かに以前、七夕の時には朝比奈さんとこの部屋で寝たことはあったが……)
キョン        (……それでも、別の布団で寝たわけでして)
キョン        (その時だって、朝比奈さんは清水の寺から飛び降りる勢いで布団かぶってたのに)

キョン        (なんだ、朝比奈さんのこの余裕は……これも、いろいろおかしくなってるってことなのか?)

みくる        「……どうしたの、キョンくん?」
キョン        「え(朝比奈さん……近い! 顔近い!)」
みくる        「少し、頬が赤くなってる……」
キョン        (あなたのせいです! それに、シャンプーの匂い以外の……女の人の香りが……)
みくる        「……震えてるの……?(頬に手を添える)」
キョン        (ああ……もう、健康な男子の構築する堤防が……いろんな意味で危険状態です……ゴッドよ……)

 

 

あちゃくら  「んーっ(グリグリ)」
にゃがと    「これは、危険(グリグリ)」
ちみどり    「……お邪魔します(グリグリ)」
みくる        「まぁ」
キョン        「(間に割って入ってくれたか……今は感謝するぞ、おまえら……!)」

あちゃくら  「一緒に寝るですよーっ!」
にゃがと    「こうしてみんなといると、安心」
ちみどり    「……あったかいですねー」

みくる        「ふふ……ごめんね。みんな」
キョン        「ああ。みんなで寝ような」

みくる        「電気、消しますね」
キョン        「お願いします」
あちゃくら  「みくるママと寝るーっ!」
にゃがと    「……静かにするべき」
ちみどり    「おやすみなさい」

キョン        「……ああ。おやすみ」

パチリ


―第五日目/深夜つづく―

http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6016.html

 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2020年08月22日 12:39