機械知性体たちの即興曲 メニュー

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□第五日目/夕

文芸部室

ハルヒ        「…………」(カチカチ)
みくる         「涼宮さん、お茶のおかわりです。どうぞ」
ハルヒ        「ありがと。そこ置いといてくれる?(カチカチ)」
みくる         「……ずっとインターネットで、なに見てるんですか?」
ハルヒ        「ヒマ潰しよ。ヒマ潰し。とくになにもすることないし(カチカチ)」
みくる         「はぁ」

古泉           「…………」(ペラ)
みくる         「古泉くんも、はい。お茶のおかわりです」
古泉           「ああ、どうも。ありがとうございます」
みくる         「……古泉くんは古泉くんで、なにしてるんですか? トランプを広げて」
古泉           「ヒマ潰しの、ひとり神経衰弱です。お相手もいませんし……朝比奈さん、いかがですか?」(ペラ)
みくる         「あ、いえ。見ている方が面白そうなので」
古泉           「それは残念」(ペラ)

 
みくる         (キョンくんも長門さんもいない文芸部室って、こんなに静かだったんだ……)
みくる         (今頃、どうしてるかなー……長門さんたち)
みくる         (それと今晩、なに作ってあげようかな……んー)
みくる         (……今夜か。今夜は……えへへ)

ハルヒ        「? みくるちゃん。なんか楽しいことでもあったの?」
みくる         「へ?」
ハルヒ        「だって、思い出したみたいに、ニコニコしてるから」
みくる         「あ、その、いえ、なんでもないんです。ごめんなさい。気にしないでください」
古泉           「……ふむ(ボソリ)」

ハルヒ        「……ねぇ、古泉くん」(カチカチ)
古泉           「はい。なんでしょうか」(ペラ)
ハルヒ        「有希のご両親の話、聞いてるわよね」(カチ)
古泉           「(手を止めて)昨日、事情はうかがっています。なんでも海外の赴任先で事故か、病気とか……」
ハルヒ        「……ふだん、有希ってひとり暮らしなのよね」
古泉           「? そのように、聞いていますが」

ハルヒ        「寂しくないのかしら、あの子。そんな遠い外国に、ご両親がいて、こっちにひとりぼっちで」
古泉           「(……?)さぁ、それは、もちろん寂しくない、ということもないとは思いますが」
みくる         「…………」
ハルヒ        「今さらな話なんだけど……わたし、みんなの家族のことなんて考えたこともないのよね」
みくる         「え……?」

 

 

 

ハルヒ        「たとえば、古泉くんは? ご両親は壮健?」
古泉           「……はい。その……まぁ」
ハルヒ        「みくるちゃんは?」
みくる         「は、はい。その……元気でいる……はずです……?」
ハルヒ        「あたしは両親がいる。一緒に住んでもいる、けど」
古泉           「……(? 急になにを?)」

ハルヒ        「……キョンも、有希もそう。あたし、知っている人の誰の親とも会ったことがないのよね」
古泉           (……なにを気にしているんでしょう)
みくる         (どうしてそんな急に、みんなの家庭事情を……)

ハルヒ        「そう。人のこと――これっぽっちも気にしたことなんて、ほんとはなかったのかもしれないわね……」(カチ)

みくる         (長門さんのことが気になってる? そうなのかな)
古泉           (……これまでにない、心理傾向というべきでしょうか。他者の存在に気にかけるなんて)

ハルヒ        「(ぼうっとした目線)……寂しいわよね。きっと。あたりまえのことだわ。
             たぶん。あの子のああいう静かで無口なところとか、人と話すのが苦手みたいなところとか、
                     ずっと理由なんて考えもしなかったけど。もしかしたら、そういう影響を強く受けてるのかもしれないのよね」
古泉           「…………」
ハルヒ        「まだ高校生だもの。親から守られてるはずの子供なのよ。
                    それには違いないのに……その子をひとり、日本に残して……どんなご気持ちでいるんだろ」

古泉           「それは……やはりご家庭の事情というものは、それぞれにあるのではないかと」
ハルヒ        「責めてるわけじゃないのよ。仕方ないことだもの。それくらいはあたしにもわかるわ」
みくる         「……そう、ですよね。事情は……人によってさまざまですから(わたしも、そういわれればそうなのかな)」

 

 
ハルヒ        「(ぼんやりとした視線)……有希はとってもいい子だわ。普段なにもいわないけど。でも、とてもしっかりした、気持ちの優しい子よ」
古泉           「……(意識が……僕らを見ていない……?)」
ハルヒ        「(ぼんやりとした視線)……どんな環境で育てられたのか。
                     小さい頃、どういうふうに過ごしてきたのか。そういうこと――あたし全然、有希のこと知らないんだわ」
古泉           (……どうも……妙だ。こんなことを涼宮さんが気にしたことなど、一度としてなかったのに)

ハルヒ        「(ぼんやりとした視線)……あの本が好きなところとか、コンピュータに強いところとか。
            もしかしたら親御さんは学校の先生とか、技術者とかなのかしら。いえ、もしかしたら――」
みくる         (変……というには少し違うけど、でも……いえ。やっぱり、少し様子がおかしいのかも……涼宮さん)
古泉           (……今、なにかが起こっている。涼宮ハルヒの力が、意識した状態で、この世界に干渉しているのか)

部活後――

ハルヒ        「それじゃ、また明日。有希のことでなにかわかったら、携帯に連絡ちょうだい。あのバカキョンのことでもいいから」
みくる         「あ……はい。わかりました」
ハルヒ        「じゃあ、鍵、よろしくね!」(バタン)

みくる         「……はぁ」
古泉           「(トランプを片付けながら)気疲れしましたか? 朝比奈さん」
みくる         「……まぁ、ちょっとは」
古泉           「(微笑んで)嘘をつき通す、というのは苦手でしょうが、かなりがんばっていましたよ。今日は」
みくる         「……仕方ない、ですよね。今は」
古泉           「彼からは、いろいろ話は聞いています。今夜も行かれるのでしょう? あそこに」
みくる         「ええ。そのつもり(ニコ)」
古泉           「部活前にお話したように、今頃、あの部屋には潤沢な物資が届けられているはずです。少しは助けになるとは思いますよ」

 

 

 

みくる         「……古泉くん。少しお話したいんだけど」
古泉           「はい?」
みくる         「(ためらいがちに)その、今回、長門さんたちは、いってみればかなりの……窮地とまではいわないけど、そうとう困難な状況下にあります」
古泉           「ええ。そのように認識していますよ。だからこそ、彼の要請を受けて――」
みくる         「……あの、これはものすごく失礼ないいかたですけど……わたしには、あなたたちの組織が見返りなしに動くとは、どうしても思えないんです」
古泉           「これは、これは(いつも弱気な彼女とは思えない発言だな……)」
みくる         「ごめんなさい。でもそれは当然のことだと思います。わたしの組織ですら、本来ならそうなのだから」
古泉           「信用されないのは慣れっこです。それに、あなたの立場からしてもそう考えるのは妥当でしょうから」

みくる         「……お願いがあるんです」
古泉           「……それは?」
みくる         「今の、あの状態の長門さんたちに……妙な手出しはしないでほしいの」
古泉           「手出し、ですか」

みくる         「……わたしたち、涼宮さんの周辺に位置している主だった三つの勢力。
                    その中で長門さんたち、情報統合思念体だけが、異質な存在であることはわかっていただけると思います」
古泉           「そうですね。彼女たち……いえ、その本体も含めてですが……彼らだけが純粋に”ヒト”ではない」

みくる         「ええ。ですから、わたしたちの組織もそうですが、もっとも危険視している勢力が長門さんたちです。
                    理解できない。人類の思考傾向が通じない。そういう相手として常に警戒している」
古泉           「……この窮地に際して、その、もっとも危険な存在であるかもしれない勢力の代表格、長門有希をどうにかしようとしていると? 我々が」
みくる         「古泉くん個人が、ということではありません。あなたたちの組織……『機関』が、けっして意思統一された
                     磐石の基盤の上に成り立っているものとは言いがたい、ということを知っているからです」

 

 

 

古泉           「(ため息)……それはあなたがたも同様でしょう。違いますか?」
みくる         「いいえ。それは否定はしません。ですけど、未来からこの時代に派遣された、涼宮さんに対する直接工作は
            わたしを介してのみしか許可はされていないのです――自己の意思は無関係かもしれませんけど」
古泉           「なるほど」
みくる         「この件に関して、介入するための直接命令は、いっさいありません。わたしの裁量での対応が許可されています。
             ですから、わたしの組織――未来人からは長門さんたちをどうこうするようなことは絶対にありません」
古泉           「…………」

古泉           (こうまで内情についてあけすけに語られるとは、予想外だな)
古泉           (それに、あの長門有希に対しては、むしろ苦手意識……もしかすると恐怖にさえ近いものを感じていたと思っていたのだが)
古泉           (……強い意志を感じる。今までの彼女からは感じなかったものだ)

みくる         「……あの」
古泉           「(クスリ)ご心配には及びませんよ。朝比奈さん」
みくる         「…………」
古泉           「我々、『機関』主流派は目下のところ現状維持が最優先です。つまり、今、その三つの勢力の均衡を崩すことなど、論外なのですよ。
                     ましてや、涼宮さんの精神安定の場としてのこのSOS団の構成員を、どうこうするつもりなどありえない」
みくる         「ほんとに……信じて、いいの?」
古泉           「どのような言葉を用いて説明しても、きっと保障にはならないでしょうが、それでも僕の言葉でお約束します。
                     彼や長門有希、そしてほかのTFEI端末たち。彼らに対して支援は行いますが、危害を加えることなどけっしてしない、と」
みくる         「……ほんとに、ほんと?」
古泉           「ええ。ほんとうに……少なくとも、今は」
みくる         「あ……ありが……とう」(ガク)
古泉           「……朝比奈さん?」
みくる         「……ご、ごめんなさい。こういう……こと、あんまり慣れてなくて……ヒザが……震えて止まらなくなっちゃって……」
古泉           「……安心してください。少なくとも今の僕は、長門さんと同じ、SOS団の構成員でもあるんですから」

 

 

 

古泉           (そう。これがほんとうの朝比奈みくるの姿ということなのだが)
古泉           (そんな彼女をして、これほどまでに守るべき対象として、今の長門有希は認識されている)
古泉           (誰からであろうと守るという、この強固な意志)
古泉           (尋常ではない……そのはずだ)

古泉           (……そういえば、森さんの電話もおかしかったような)
古泉           (気のせい……ではないのかもしれない)

七〇八号室

にゃがと    「物資の仕分けはおおよそすんだ?」
あちゃくら  「すごいですよー。松坂牛のブロックを発見しました! 二kgも!」(大興奮)
ちみどり    「……どれだけ食べると思われたんでしょうね。わたしたち」
にゃがと    「順次、冷蔵庫内に運びいれるべき。すでに敵対生物は除去されている。台所は我々の領土」
あちゃくら  「冷蔵庫開けるの大変ですけど、がんばります!」
ちみどり    「服や着替えまでありますね。助かりました」

にゃがと    「……彼は?」
あちゃくら  「まだ寝てます―。もう五時近いのに」
ちみどり    「よほど疲れていたんでしょうね。精神的に」
にゃがと    「……ふむ」

にゃがと    「ここでひとつ、強攻策を実施したい」
あちゃくら  「なんです? それ」
ちみどり    「……まさか」
にゃがと    「ちょっと、ひとりで外に出てみようと思う」
あちゃくら  「ええーっ!」

 

 

 

ちみどり    「さすがにそれは賛同できかねます。昨日の夜、あんなことがあったばかりではないですか」
あちゃくら  「そうですよ! もしもあの周防九曜に接触したら……」
にゃがと    「そこ。問題はまさにそれ」
ちみどり    「……?」

にゃがと    「この七〇八号室の結界――防御フィールドはすでに破られた。
                    今後、彼女の襲来に対して、我々は有効な対策はなにも取れない」
あちゃくら  「それはそうですけど、でも、それでなんでにゃがとさんがひとりで外に?」
にゃがと    「情報統合思念体は、この危機に際してもなんら有効な支援策を打ち出してきていない。
          無論、ほかの端末を常駐させることは困難なのは、例のお子様端末を量産しないための防護策として納得はできるが」
ちみどり    「……実際に、この部屋に侵入された際にも、救援を行わなかった理由ですか」

にゃがと    「そう。少なくとも、今はこんな状態だったとしても、現在思念体が進めている自律進化探求計画に、我々三体はもっとも重要度の高い個体。

                    その三体に危険が及んだにも関わらず、まったく無反応というのは理解できない。理由があるはず」
あちゃくら  「でも、それで外に出てどうしようっていうんです?」
にゃがと    「我々を影ながらサポートしている端末がいる。静観派端末。彼女は必ず、我々の状況をモニタリングしている。
          外に出ていけば、彼女からほかの端末に情報が送られる。向こうから接触してくれるかもしれない」

あちゃくら  「……だったら、ここに来てもいいはずじゃないですか。まさに、今」
にゃがと    「それはできない。なぜなら、そばに彼がいるから」
ちみどり    「……なるほど」
にゃがと    「我々以外の端末は、少なくとも彼やほかのSOS団員の前に姿を現すことはよしとしないはず。
          独自に『機関』工作員と接触している端末もいるはずだが、それとは話が違う」

 

 

 

にゃがと    「……というわけで、ちょっとそこまで」
あちゃくら  「なんか軽いなぁ」
ちみどり    「だいじょうぶですか、ほんとに」
にゃがと    「このまま、ここに閉じこもりでは、状態はなにも変わらない。自ら動くことで、少しでもなにかを掴みたい」
あちゃくら  「急進的ですー」
ちみどり    「……あなたがいうことですか、あなたが」

あちゃくら  「でも……もう少ししたら、朝比奈さんが来ますよ?」
にゃがと    「それまでには帰りたいとは思う。無理であれば仕方ないが、それほど長時間、外にいるつもりはない」
ちみどり    「それでしたら、わたしも一緒に」
にゃがと    「いい。危険と思われる場所に行く人数は少ない方がいい。ふたりも三人も、この状態ではなにも変わりがない」
ちみどり    「……でも」
あちゃくら  「キョンくんが知ったら、怒るんじゃ……」
にゃがと    「……そうしたら、お尻ペンペンで許してもらうしかない」
あちゃくら  「えー、そんなので済みますかぁ?」
ちみどり    「……そこまで子供思考になってる」

にゃがと    「では、行ってくる。朗報を期待して待機するように」
あちゃくら  「……気をつけてくださいね」
ちみどり    「……どうか、ご無事に……」

にゃがと    「……そのつもり」

ガチャリ


―第五日目/夜・前編につづく―

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