機械知性体たちの即興曲 メニュー

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□弟四日目/昼

教室

キョン         「…………」
ハルヒ        「窓の外ぼーっと眺めて……どうしたのよ。今日ずっとそんな調子じゃない」
キョン         「……ああ」
ハルヒ        「……まさか、有希のことでも考えてたの?」
キョン         「あ? ああ。そうと言えんこともないな……」
ハルヒ        「え?」(ドキ)

キョン         (どうしたもんか……)
キョン         (あと何日っていったっけ。三日? 四日?)
キョン         (それまで、誰にも知られず、俺ひとりだけで、ほんとうにあいつらの面倒をみてやれるのか?) 
ハルヒ        「……キョン?」

キョン         (……今頃、どうしてるだろうな)
キョン         (置いていったカップ麺、ちゃんと食えてるだろうか。喧嘩とかしてないだろうな)
キョン         (どうも長門が頼りない。というか、率先して騒ぎを起こしている気もするんだが) 
ハルヒ        「ちょっと……聞いてるの、キョン」

 

キョン         (……せめて朝比奈さんあたりにでも相談できればな)
キョン         (家事だけでも手伝ってくれれば、だいぶ楽なんだが……)
キョン         (……とにかく手がかかるからな……今のあいつら)
キョン         (同じ女性でも、ハルヒにだけは知られるわけにはいかんし)

 

ハルヒ        「…………」

キョン         (古泉あたりにでも知れたら、あいつはともかく、その後ろにいる連中がなにをしでかすのかもわからんし)
キョン         (いっそぶっちゃけて、ふたりに手を借りるか。この際?)
キョン         (いやいや待て。それは最後の手段だ……今はまだ早い)

ハルヒ        「こらーっ!」

キョン         「うぉっ……な、なんだよ。いきなり耳元で大声出すな」
ハルヒ        「団長の言葉を無視するなんて、いい度胸してるじゃない。せっかく人が心配してやってるのに……!」
キョン         「ぐお。ま、まて……ネクタイは……ネクタイはよせ……マジで、シャレになら……」
ハルヒ        「そんなに有希のことが心配? わたしの声が聞こえなくなるくらい?」
キョン         「な? なに言ってるんだ……? ぐえ」
ハルヒ        「……ったく」
キョン         「この……げほ。手加減しろよな……」

ハルヒ        「……で。有希が休んだ理由、あんた知ってるの?」
キョン         「は?」
ハルヒ        「あんた、今日わたしがここに来たとき、もう有希が休みだって知ってたじゃない。なんか聞いてるんでしょ?」

キョン         (……マズい。あいつらが一番心配してたことじゃないか)
キョン         (どうごまかす……? 考えろ。すぐに、とにかく適当にこの場を切り抜けるなにかを……!)

 

キョン         「……実はこれは人づてに聞いた話なんだが……どこで聞いたかは聞いてくれるなよ?」
ハルヒ        「…………」
キョン         「……落ち着いて聞けよ。長門のご両親が、仕事の赴任先で病気で倒れたらしいんだ。いや、事故だったかな……?」
ハルヒ        「どっちにしても大変じゃない!」

キョン         「そうなんだ。大変なんだ。その、赴任先が遠い国でな……なんていったかな……シーランド公国?」
ハルヒ        「どこかで聞いたような……それ、ほんとに国だったっけ……?」
キョン         「(うっ)いや、聞き違いかもしれん。とにかく、そのヨーロッパっぽい、どこか、だったはずだ」
ハルヒ        「なによ、その「ぽいっ」て」
キョン         (適当なことをいってるとどんどんボロが出てきそうだ……)

                   「とにかく。そういうことで、今、長門はそのなんたら国というところに行ってるんだ……たぶん」
ハルヒ        「だから。なんで説明の語尾がいちいちぼやけるのよ」

キョン         「とにかく。とにかくだ。そういうこと、らしいんだ。くわしくは俺もしらん」
ハルヒ        「(じとー)」
キョン         (……余計に疑わしくなったか。すまん、長門……俺はもうこれでいっぱいいっぱいだ)

ハルヒ        「……そういえば、有希のご両親のことなんて全然知らないのよね」
キョン         「そ、そうだな。いわれてみれば」 
                   (あの親玉も両親といえるのか……? 厳密には違うとしても)

ハルヒ        「あのマンションにひとり暮らしでしょ? 朝倉もだけど。高校生の娘ひとり置いて、なんてちょっと変といえば変よね」
キョン         「いや、変ってことはないだろ。人様の家にはいろいろ事情ってもんがだな……」
ハルヒ        「どんなご両親なんだろ。有希のああいう静かで無口なところとか、影響があるのかしら……」
キョン         (別の意味でヤバい方向にいってる気がする……ような)

ハルヒ        「…………」
キョン         (……胃が痛くなってきた)

 


 七〇八号室

にゃがと    「断定する。我々は現在攻撃を受けているということ。不可知、かつ未知の攻撃手段によって。その仮定に立って行動する」
あちゃくら  「そのへんの認識に異論はないです」
ちみどり    「では、まず敵の正体を探り出すところから始めねば。対策はそこからです」
にゃがと    「……やはり、ここから出て能動索敵を実施する必要がある」

あちゃくら  「でも、物理的接触範囲内にいるとは限らないと思うのですが……」
にゃがと    「そうではない。もしもなんらかの攻撃が加えられているとすれば、それは涼宮ハルヒの周辺環境に変化をもたらしている可能性が高い」
ちみどり    「というと?」
にゃがと    「あくまで推測でしかないが……現在、我々を含めてだが、この世界は涼宮ハルヒを中心として微妙なバランスで均衡が保たれている」
あちゃくら  「宇宙人、未来人、超能力者、ですか」

にゃがと    「そう。『涼宮ハルヒの軌跡』なる物語においてもその必要性は充分に語られていた」
あちゃくら  「ここでいきなりそういうことをいうか」
にゃがと    「問題ない。あったらごめんなさい(作者の方)。そして、その三勢力のひとつ、我々、つまり宇宙人勢力が彼女の周辺から姿を消した今……」
ちみどり    「世界の均衡が崩れつつあるかもしれないと?」
にゃがと    「そう。もしも天蓋領域が首謀勢力だったとするなら、最終的には我々端末のコアが狙いかもしれない。
           しかしそのためには、まずその均衡を崩す必要がある」
あちゃくら  「……?」
にゃがと    「涼宮ハルヒの干渉力を歪め、彼らが動きを採りやすい環境を作り出すことが目的のひとつなのかもしれない」

 

 

にゃがと    「……というわけで、涼宮ハルヒの近辺に斥候を派遣する。情報はなによりも重要」
あちゃくら  「どうやって。玄関のドアを開けられたとしても、外に出て、わたしたちのこの姿を人間に見られたら、ただごとじゃすみませんよ?」
にゃがと    「かつてのあなたの経験が役に立つ時がきた、というべきか」
あちゃくら  「わたしの……?」
ちみどり    「……?」

 台所――

あちゃくら  「あああああ」
ちみどり    「……ほんとにやるんですか、これ」
にゃがと    「くじは公正。選ばれた突入隊には敬意を表する」
あちゃくら  「……なんでいつもわたしなんです! 思ったんですけど、いつもあみだくじ作るの長門さんですよね!?」
ちみどり    「なんか線の引き方が微妙に怪しかったんですけど……」
にゃがと    「このような状況で仲間を信用できないというのは悲しむべきこと。リーダーであるわたしを疑うのは特に」
あちゃくら  「……ぜってー怪しいです」

ちみどり    「……はい。これ。残ってた赤ちゃん用の服です。一着しか買ってこなかったやつですけど」
あちゃくら  「妹さんの人形の服汚すのはイヤですからね。着替えますよ」ガサガサ
にゃがと    「武装はこれ。彼が購入してくれたカップ麺に付属していた割り箸を、槍に仕立てたもの」
あちゃくら  「仕立てるも何も、ただ普通に割っただけじゃないですか、それ」
にゃがと    「ないよりマシ。これでゴ……」
ちみどり    「その名前は言わないでください!」

にゃがと    「……と戦うことができる。たぶん」

あちゃくら  「……シクシク」


にゃがと    「……ではこれより、台所シンク大扉内に貯蓄されている、料理酒奪還計画を開始する」

 

あちゃくら  「ううー……ほんとにわたしひとりであの台所に入るんですか……」
ちみどり    「こんなことになるなら、キョンくんにゴ……を退治してもらってればよかったですよね……」
にゃがと    「過ぎたことを言っても始まらない。朝倉涼子。あなたの使命は脅威目標を排除しつつ、料理酒をなんとしてもここに持って帰ってくること」
あちゃくら  「わかりましたよう……はい。ベビー服、着れました。割りば……槍をください」
にゃがと    「我々は後方で、目視による支援を実施する。健闘を祈る」
あちゃくら  「ただ後ろで、黙って見てるだけってことじゃないですか!」


あちゃくら  「……出ませんように、出ませんように」(ソロソロ)

にゃがと    「作戦開始。計画立案、および司会はわたし、にゃがとゆき。解説は喜緑江美里。よろしく頼む」
ちみどり    「はい。よろしくお願いします」
にゃがと    「さっそくだが、突入隊員の朝倉涼子が、問題の台所に侵入を果たしたようす」
ちみぢり    「よほど恐ろしいのでしょうね。足取りがとても不安そうです」
にゃがと    「彼女が今着ているベビー服……もとい防護服の性能については」
ちみどり    「購入する際、汚れに強いというセールスポイントを重視しましたので、

                    脅威となるゴキ…太郎さんには有効な防御力を保有していると考えられます」
にゃがと    「なるほど。仮にあの割り箸……もとい槍で突き刺したとしても、その、はみ出したモノからは充分に身を守れると」

あちゃくら  「そういう恐ろしいことを、安全な場所から言うなーっ!  人ごとだと思って……うううう」

にゃがと    「そういいながらも、問題のシンク大扉まで約五〇cm地点まで接近を果たした」
ちみどり    「脅威生物はいないようですね。このまま何事もなければよいのですが」
にゃがと    「二〇センチ……一〇センチ……タッチダウン」
ちみどり    「どうやら無事に辿りつけたようです。ナイスプレーです、朝倉隊員」

あちゃくら  「……よかった。さっさと扉を開けて、問題のブツを……」

にゃがと    「朝倉涼子、大扉に手をかけた……が」
ちみどり    「なかなか開かないようですね。三〇cm程度の体ですから当然といえば当然ですが」
にゃがと    「ここで朝倉涼子が槍を扉の隙間に差し込み、テコの原理での開閉を試みている」
ちみどり    「咄嗟の判断としてはなかなかのものです。これは将来が楽しみな選手ですね」

あちゃくら  「あのふたりは……」(ワナワナ)

にゃがと    「お、ついに……」
ちみどり    「マグネット部分の負荷を退けましたね。すばらしい」
にゃがと    「内部の探索に移るようだが」
ちみどり    「残念なことに、蛍光灯はつけられません。日中とはいえ、シンク下の収納部分内での探索は困難が予想されます」
にゃがと    「照明は携行できるサイズのものがない。やむをえない」
ちみどり    「……これは……」
にゃがと    「決断したようだ。単独で内部に突入するもよう」
ちみどり    「すばらしい勇気ですね。褒め称えられるべきでしょう」

 
 
あちゃくら   「これはソース……これは醤油のビン……これは……」(ゴソゴソ)

にゃがと    「捜索は難航している模様」
ちみどり    「ここからだとよく見えませんね」
にゃがと    「……まぁ、あまり片付けてなかったし」
ちみどり    「……結局、あなたがいつもいつも事態を複雑化させている気が……」

あちゃくら  「これ……は味醂(みりん)か。あー、もう。なんでこんなにゴチャゴチャしてるの!」

にゃがと    「申し訳ない」
ちみどり    「まったく……」

あちゃくら  「それでこれは……これだ!」

にゃがと    「お」
ちみどり    「ついに目的の物が発見されたようです」

あちゃくら  「やったぁ……く……重い、けど。これをなんとか……」

  (……カサカサ)

あちゃくら  「……!」
にゃがと&ちみどり  「…………」
あちゃくら  「いやぁあああっ!」

にゃがと    「これはなんという不意打ち。よもや目的地でアンブッシュ(待ち伏せ)をしかけてくるとは」
ちみどり    「かなり高度な訓練を受けた太郎さんのようです。成功したと思わせた瞬間に、心理的打撃を与えてくるなんて」

あちゃくら  「くぉおのおおおっ! ここまで来て引けるかあぁああっ!」(ブンブン)

  (ササッ)

にゃがと    「敵は地の利を最大限に活用している。これは手ごわい」
ちみどり    「ええ。収納庫内部ですと、さまざまな調味料が邪魔をして、割りば……槍を有効に振るうことができません」

あちゃくら  「くっ……このっこのっ」(ブンブン)

  (……バサバサッ)

にゃがと    「……あ」
ちみどり    「……飛びましたか」

あちゃくら  「ぎゃあああああっ!!」

 

にゃがと    「……むーざんむーざーん」
ちみどり    「ああ……とてもお伝えできる光景ではありません」

あちゃくら  「ひいいいっ! ゴ、ゴキブ……か、かおにいいっっ!」

にゃがと    「絶叫がこの放送席にまでこだましてきている」
ちみどり    「……ごめんなさい、朝倉さん。でもあなたの犠牲は無駄には……」

あちゃくら  「(ブチ)……もう、切れた」

にゃがと    「おお」
ちみどり    「太郎さんにのしかかられたままの朝倉さんが……料理酒を……倒した!?」

あちゃくら  「そうやって人にしがみついてればよいです……見てろよ……」(キュポ)

にゃがと    「……調理酒の蓋を開けた」
ちみどり    「ええ……その場でこぼれる調理酒を飲んでますね……浴びるように」

あちゃくら  「(グビグビ)……おええぇえ。まず~い……」(シュウウウ……)

にゃがと    「早まったことを……」
ちみどり    「あ、煙が……朝倉さんの体から煙が……!」

 
??          「ふふ……ふふふふ……」

にゃがと&ちみどり  「…………(ごくり)」

朝倉          「……こ~の~……害虫ごときがいつまでもいい気になってるんじゃないわよ……」

にゃがと    「トランスフォーム、成功……のようだが」
ちみどり    「ほんとにこのモードでアルコール摂取すると、元のサイズに戻るんですね……なんてお馬鹿な設定」
にゃがと    「すでにお屠蘇(とそ)で確認済みではあったが……しかし」
ちみどり    「ええ……ちょっと」
にゃがと    「ベビー服を着た女子高生……かなり、これは、いろいろといけないものを感じる」
ちみどり    「サイズが元に戻った時でも、着てたものまで一緒に大きくなるんですもんね……」
にゃがと    「ある特定の趣向のマニアにはたまらないものがあるだろうが」
ちみどり    「……いえ、わたしにはかなり悲惨な光景のように見えるのですけど……」

朝倉          「(ヒック)ええ、もうどうでもいいわ。汚れてしまったのよ、わたしは……もうどうなったっていいのよ。このっ」(ベシッ)

にゃがと    「なんと……」
ちみどり    「す、素手で……あの太郎さんを……いくらなんでも思い切り良すぎ……」
にゃがと    「今の彼女に正常な判断能力は残されていない。しかしこれは」
ちみどり    「うわー……これなんて地獄絵図です?」

朝倉          「(ヒック)ふふ……ふふふふふ」(ユラーリ・・・…)
 
朝倉          「長門さ~ん……喜緑さ~ん……」

にゃがと    「……朝倉涼子が接近してきている」
ちみどり    「……完全に我を忘れてますね」

朝倉          「いっつもいっつも……(ヒック)……わたしばっかりがこんな目にいぃぃ~……」

にゃがと    「ゆらゆらとした足取りだが、確実に我々を標的とみなしている」
ちみどり    「……ちょっと……朝倉さん。忘れないで! ここからがほんとうの目的なんですよ!」
にゃがと    「そのとおり。ようやく外見が通常の人間に見えるようになった今、涼宮ハルヒのそばへ行け……」

朝倉          「もうどうでもいいのよ~(ヒック)……素手で、あの……あんなのを叩き潰して……
             そんなわたしが、キョンくんのところに……行けるはずないじゃないの……。 
                    しかもよくよく考えたら、着られる服がこれしかないのよ……? 長門さんの服じゃサイズ合わないし……。
             どうやって外に出られるのよ……すぐに逮捕されちゃうわよ、こんな格好じゃ……!」(ユラ~)

にゃがと    「あー……」
ちみどり    「わざわざベビー服に着替えさせて……大失敗じゃないですか……」
 

ちみどり    「なんか、ただ酔っただけにしては様子が……」
にゃがと    「もともと料理酒は飲料用に造られていない。しかもあの体で大量に、浴びるように摂取したため、
                   体のコントロールが利かない状態になっていると思われる」
ちみどり    「……また計画倒れですか、これ」
にゃがと    「……もうあと数歩のところまで朝倉涼子が接近してきている」
ちみどり    「ああ、みなさん、さようなら。もはやこれまで」

朝倉          「長門さん……このやり場のない悲しみ……受け取っ!」(ガッ)

ちみどり    「ここで、つまづい……っ!」
にゃがと    「……残念無念」

にゃがと&ちみどり  「あーっ!」

 ……ドサッ!!


―第四日目/夕に続く―

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最終更新:2020年08月21日 20:08