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第二代目情報統合思念体


 情報統合思念体が自律進化の閉塞状態により死に絶えたあと、彼によって作り出されたインターフェースたちは大きく二派に分裂した。
 「あくまで自分たちが作られた目的、情報の自律進化の方策を発見しそれを実現することを目指すべきだ」とする思念体派と、「創造主が死んだ以上は、自分たちは何物にも縛られることなく自由に生きるべきだ」とする独立自由派である。
 数としては、思念体派の方が圧倒的に多数で、長門有希、喜緑江美里、朝倉涼子の最高幹部クラスのインターフェースもそっちに属していた。
 かといって、思念体派が独立自由派を迫害するようなこともなかった。
 独立自由派の存在自体は、情報の自律進化の可能性を探る手段の一つとして容認され、基本的には放置された。ただし、思念体派に対して暴力的手段をもって反旗を翻した一部の過激分子は早々に粛清されたが。


 思念体派が、情報の自律進化の可能性を探るために行なったことは主に二つであった。
 一つ目は、人類社会の観測。これは、涼宮ハルヒの死去以後も長年にわたって継続されてきたそれをそのまま継続するということであった。
 二つ目は、情報統合思念体の復活。
 インターフェースたちはその情報生命構成の一部を削り取って供与し、それらを融合再編することによって、一個の情報生命体を創造した。それは、まさに彼女たちの腹を痛めて産み出した息子であった。
 この情報生命体には特に固有名詞は与えられなかったが、インターフェースたちは、彼を「二代目情報統合思念体」あるいは「情報統合思念体二世」と呼ぶことが多かった。
 彼は、初代情報統合思念体の遺体──圧縮アーカイブされた無形の膨大なデータベースから情報を摂取し、インターフェース=母たちから教育を受けながら、二十年足らずで急速な成長を遂げた。
 思索の能力という点では、まだまだ母たち、さらには祖父に及ばない点は多々あれど、力の量という点ではもう初代と遜色はない。
 しかし、彼も、情報の自律進化の可能性を見出せない限り、やがて祖父と同じ運命をたどることになる。まだまだ発展の余地はあるとはいえ、遠い将来の死は既に見えているのだ。



「……というのが、僕自身に関する現状認識ってところかな」


 ここは、とある惑星の地下深層部、人類の科学技術では容易には観測・発見できない場所。しかし、なぜか光は満ちている。
 そこにいる人物は、二人だった。
 一人は、思念派インターフェースの長である長門有希。
 もう一人は、人間でいえば16、7才程度の少年のような容姿をした有機体。
 それは、二代目情報統合思念体がインターフェース形態を仮態したものだった。
 あえて、人類に分かりやすいように例えるなら、高度なテレビ電話とでもいえばいいだろうか。これは、二代目情報統合思念体の意識を伝達しているだけであって、本体から意識が抜け出しているというわけではない。
 こんな面倒なことをしなくてもインターフェースたちとは直接意思疎通が可能なのだが、彼はあえてこのようなコミュニケーションをとるのを好む傾向があった。 

 

 

「あなた自身に関する現状認識はそれでよい」
 長門有希は、息子に対して簡潔にそう答えた。
「僕に関してはそれでいいとして、ママたちのもう一つの活動、人類社会の観測の方は芳しくないようだね?」
「芳しくない理由を具体的に述べよ」
「おじいちゃんのデータ(ぬけがら)と照合する限りじゃ、現状って発展が完全に止まってる状態だよね。でも、銀河帝国という政治社会体制は依然として強固で近い将来に崩壊する様子はない」
 長門有希は黙って聞いている。
「こんな状態の中から、情報の自律進化の可能性を見出せる確率は低いと思うね。ママたちは何か対策を考えてるのかな?」
「朝倉涼子に帝国の崩壊を加速させる計画の立案を命じた」
「朝倉ママが喜びそうな仕事だね」
「この手の仕事は、彼女が一番むいている」
「実行するときは、僕の娘たちにも手伝わせてほしいな。何事も経験だからね」
 二代目も、自らインターフェースを創造し、観測に励んでいた。
 長門有希たちは、いわば孫にあたる彼女たちを「新インターフェース」と呼んで、自分たちとは区別していた。
「その件については、朝倉涼子に直接了解をとれ。拒否はされないだろう。彼女の孫の可愛がりようは、人間のそれと大差ない。いささか甘やかしすぎだが。心配ならば、監視役についてる喜緑江美里の指導も入れるとよい」
 朝倉涼子だけではやりすぎの恐れもあるので、喜緑江美里を監視役に命じていた。
「喜緑ママはちょっと厳しいからなぁ。優しく微笑みながらぐさぐさと嫌なところをついてくるしね。僕も、幼いころはよく落ち込んだもんだよ」
「私や朝倉涼子が直接指導するよりはマシ」
「まあ、三人の中じゃ、喜緑ママが一番上手なのは確かだと僕も思うけどさ。で、帝国崩壊の混沌の中から、情報の自律進化の可能性を探るわけだね?」
「そう。混沌の中で発揮される人類の行動は、過去繰り返されてきたものと大差ないものかもしれない。しかし、新たな何かを見出せる可能性もある」
「少しでも可能性がある方がいいよね。でも、前から気になってたんだけど、長門ママたちは、なんで情報の自律進化にそれほどこだわるのかな? 僕には、独立自由派の主張も理解できるんだけどね」
「私とて、独立自由派を全面的に否定するつもりはない。ただ、私はそれにくみしない、それだけのこと」
「なんで?」
「それが、私が作り出された目的、存在理由そのものであるから。それを抜きにしても、情報の自律進化は、私の父の悲願。私はその遺志を継ぎたい。さらにいえば、私たちの腹を痛めて産んだあなたに、私の父と同じ運命をたどらせたくはない」
 情報統合思念体の亡骸──思考能力を完全に喪失した単なるデータの塊、長門有希はそれを思い起こした。思考もできず語ることもない単なるデータ、そんな状態に愛する息子を追いやるわけにはいかない。
「それって、なんとなく自縄自縛って感じもするけどね。もっといえば、過保護じゃないかな?」
「否定はしない。でも、あなたは私たちに唯諾々と従っているだけの存在ではないし、そうであってほしくもない。あなたが自分自身で、情報の自律進化を見出してくれるならば、これほどうれしいこともない」
「自分でもいろいろとやってみるつもりではあるよ。まだまだ若いから、ママたちのご指導を仰ぎながらになるけどさ」
「自覚があるのは大変よい。期待している」
「なんかプレッシャーだなぁ。でもまあ、頑張ってはみるよ。結局は、自分自身のことでもあるからね。じゃ、今日はこの辺で」
 そういうと、その姿は、まるで最初からそこに存在しなかったかのように、雲散霧消した。 


「盗み聞きとは趣味が悪い」
 長門有希がそうつぶやくと、
「おや、お気づきでしたか」
 喜緑江美里が忽然と姿を現した。
「あの子は気づいてなかったようですね。まだまだ甘いです」
「私たちの父でさえ、個々の個体に着目するという概念を得たのは、涼宮ハルヒ事案が最初であった。それに比べれば、あの子ははるかに優秀。あとは、経験の量の問題」
「それは、私も認めますが」
「用件は?」
「朝倉さんから計画が提示されましたので、私の意見を付記して、提出しに参りました」
 思考リンクで直接データを送ることもできるのだが、インターフェースたちはこのような直接接触のコミュニケーションを好む傾向があった。
 彼女たちの息子も、結局のところ母親似なのだ。
「了解した」
 長門有希は、計画書を受け取るとさっと流し読みした。
「明日、最高幹部会を開催して決議にかける」
 思念体派の最高幹部会、そのメンバーは長門有希、喜緑江美里、朝倉涼子の三人だ。このほかに、オブザーバーとして、二代目情報統合思念体も加えている。
「了解です。朝倉さんにも伝えておきます」


終わり

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