カボチャと紅茶と若布の甘さ

 

第一話 《milk tea》

 

「そういえば喜緑君、そろそろ生徒会室にもあの黄色いドデカボチャを飾らないか?」

「もうそんな時期ですか。いいですね、確か生徒会室の【行事物・秋・Halloween】の箱に入ってると思いますよ」

「では明日辺りにでも飾るとするか。それにしても、早いものだな」

 

「今年も会長の為に腕によりをかけてカボチャタルトを作りますから、楽しみにしててくださいね」

「タルトもいいが、今年はカボチャのプリンが食べたい気分だ。聞くところによるとミルクティーを混ぜると一層美味しくなるらしい」

「まぁ、会長が自分からリクエストされるなんて珍しいですね。明日は雪でも降るんじゃないですか?それにしても、プリンですか。頑張って会長のお口に合うようなカボチャプリンを作りますね」

「喜緑君が作ったものが俺の口に合わなかったことなど、今まで一度も無かったじゃないか。それに俺は君が作ってくれる料理ならどんなものでも嬉しいぞ」

「もう、会長ったら。今日は何か変ですよ?でも、こういう会長も私はいいと思います。これからはもっと自分を出されてみてはいががですか?」

「こればっかりは仕事だからな。君も知ってるだろう。仕方ないんだ」

「………」


 私と二人きりの時くらいは仮面を外してそのままの会長でいて欲しい、なんて言ったら一体会長はどういった反応をしてくれるのでしょうか。残念ながらこの件に対する思念体の解答は返って来ませんでした。ですが……


「ん?どうしたんだ喜緑君、急に黙り込んだりなんかして」

「いえ、なんでもありませんわ会長」

 私はまだ今のままの関係で十分なのです。この会長のお傍にいられればそれで。
とりあえずは来たるハロウィンに向けて、カボチャプリンの作り方を勉強しないといけませんね。えーっと、ミルクティーを入れるのが会長の好みでしたっけ。そんなもの本当に合うんでしょうか? 早速家に帰って作ってみたくなりました。
と、私が一人の世界に入り込んでいたら、


「…プリン、楽しみにしてるぞ」

 会長が小声で呟いています。

「はい。私も会長に食べてもらうのが楽しみです」

 まだどんな味かも自分で分からないのに。気付いたらそんなことを言っていました。

会長は少しだけ俯いてから

「それじゃぁな」

とだけ言って、自宅の方へと歩いていきました。

 私は少しの間だけそれを見つめてから、マンションのロビーに入りました。

さて、この世界に楽しみなことがまた一つ増えました。きっと当分は忙しくなるでしょう。
ミルクティー以外だと何が合うんでしょうかなどと考えながら、私はまた誰もいない部屋へと一人帰っていきました。

 


第二話 《Trick or Treat.》

 

 今日は一日中爽やかな秋晴れで、久しぶりに上着をクローゼットから出さずに済みました。最近上着のせいで肩が凝り気味だったんで助かります。上着って意外と重いんですよね。それに動きづらくなるし。

まぁ、いつも私の寒さを防いでくれてるので、上着さんも今日はちょっとお休みできてよかったんじゃないでしょうか。

 

 と、いうわけでカボチャプリンを作ってみました。もちろんミルクティー風味です。何てったって会長のリクエストですからね。
それにしても少し作りすぎちゃいました。折角なので誰かにおすそ分けでもと思うのですが、やはりこういう時に思い浮かぶのは……

 

「……呼んだ?」

「今から行こうかなと思ってたところです。それよりも急に目の前に現れないでくださいよ。驚くじゃないですか」

「……情報操作は得意」

「何誇らしげな顔してるんですか。次からはちゃんと玄関から入って来てくださいね」

「……善処する。それよりも……

 

 一つ一つのプログラムが甘い。側面部の空間閉鎖も、情報封鎖も甘い。だからわたしに気づかれる。侵入を許す」

 ……えーっと、急に何を言い出すんでしょうかこの子は。

 

「邪魔する気?」

 訂正。この子『達』は。本当にいつ来たんですか、全くもう。

「このプリンを超能力者の彼にでも渡せば、間違いなく会長氏は動く。これ以上の情報を得るにはそれしかないのよ」

 あれ?今何て?

 

「『君は俺の書記のはずだ。勝手な行動を許可した覚えはない。いいから俺の傍にいろ』」

 ああ、物真似のつもりでしょうが、残念ながら全然似てませんね。

「『嫌ですと言ったら?』」

 いや、言いませんから。それに会長はそんなこと言ってはくれないでしょうし。

「『全力で君を止める』」

 台詞はかっこいいんですけど、ね。

「『やってみますか?ここでは私のほうが有利です。会長は生徒会室にあるハサミの位置すら分からないじゃないですか』」

 それはこの前教えたんで大丈夫だと思いますよ。

「『別に喜緑君さえいてくれれば問題ないさ』」

 うっ、今のはちょっと言われてみたいかも……

 

って、そろそろ終わらせましょうか。

「長門さん、私といる時の会長の声はもっと丸くて優しめですよ。それに朝倉さん、会長は最近ボンドと糊の区別だってちゃんと付くようになったんですから」

「……違った?有機生命体の感情という概念がわたしにはまだ理解できていない」

「あら、人間って結構学習能力あるのね。ちょっと見直したわ」

 いいえ長門さん、ちゃんと理解してるじゃないですか。こうやって私をからかってることが何よりの証拠ですよ。

 

「それに二人とも、食べる前に何か言うことがあるんじゃないですか?」

「……美味しかった」

「それは食べた後よ。正解はいただきますだわ」

 んー、どうやらもう一押しみたいですね。

「まあそれでもいいんですけど、今日は折角なので伝統に則って……」

 

「あ!分かったわ。長門さん、ちょっと」ゴニョゴニョ

 ふふ、どうやら思い付いたようですね。

「じゃあせーので一緒に言うわよ、長門さん。せーのっ」

 

「……「トリック オア トリート!」」


Trick or Treat. 完.

 

 

 

おまけ

 

会長「なあ古泉、今回は俺が主役のはずじゃなかったか?」

 

古泉「当初の予定ではそうだったのですが、どうしても朝倉さんが喜緑さんに会いたいと言ってきかなかったもので…。おそらくそれはまた後日ということなのでしょう。会長もちゃんとカボチャプリン貰えるみたいなので安心してください。」

 

会長「ふん。俺が頼んだんだから当たり前だろ。それはそうとお前は喜緑君のプリンを貰ったのか?」

 

古泉「ええ、大変おいしくいただきましたよ。流石は喜緑さんといったところでしょうか、って会長!?いきなり何をするんですか!」

 

会長「俺よりも先にそのプリンを食べるなんてけしからん!一口よこせ!」

 

古泉「……もう食べてしまいましたよ。それにしてもあなたが暴力に走るなんて……これは今後に期待できそうですね」

 

続く.


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