あの日…私がキョンを誘って映画…他にも行ったけど…それに行った日。


私は自分に素直になれなくて…キョンが心配してくれてたのを振り切って…私は一人家に帰った。


そこで私は凄く後悔したの…


なんで私はいつもこうなんだろう…って。


明日こそは素直になろう…。そして素直に謝ろう。そう考えてたの。


だけど…私の携帯に電話が鳴った。


その画面からは…公衆電話?誰だろ急に…わからないまま電話に出た…


そこで聞いた一つ一つの言葉が信じられなかった…


電話の相手はキョンの妹ちゃんだった。凄く慌ててる様子で。


「あの…っ…ねっ……ハルにゃん…っ!今…私…っ…ねっ…お母さんからっ…」


明らかに様子がおかしい事を覚るのにそんなに時間はいらなかった。


「妹ちゃん!?どうしたの!?なにかあったの!?お母さんがどうしたの!?落ち着いて話して!?」
私も最初わけわかんなくてパニクってたわ。妹ちゃんのこんな声聞くのは初めてだったし…


そして…その幼い口から…ゆっくりと…そして…残酷な言葉を耳にした…


「あのねっ!キョンくんが…キョンくんが今お車に引かれてね!病院に運ばれたの!!」



…えっ………


今回ばかりは私は状況を理解するのに時間を要した。
キョンが?車に引かれて?…病院に…運ばれた…?


嘘だ。
こんなの嘘だ。妹ちゃんも演技が上手ね…本当、私騙されるところだったわ。
こんどからこんな縁起でもないことを冗談でも言わないようにキツく叱っておこう。
長い沈黙のち、また妹ちゃんが話し出した。
「なんかねっ…今赤い光が扉の上に光っててね?…変なお部屋に連れて行かれたままねっ…ずっと戻って来ないのっ…」
「ウソッ!妹ちゃん!こればっかしはさすがの私も怒るわよ!?」
「ううん…嘘じゃないの!本当なの!お父さんとお母さんはなんか手を前に組んでずっと動かないの。」


…ものすごく嫌だけど…この状況を認める以外なかった…キョンが…?そんな…
「妹ちゃん?その病院がどこだがわかる!?」
「んとね?車に乗ってるときね?お兄ちゃんが行ってる学校が見えたの。とっても大きな病院なの。」


学校の近くの病院…あそこか。


「ありがとう妹ちゃん!お姉ちゃん今から行くから!」
「うんっ!わかった!お兄ちゃん大丈夫だよね?」
私は断言するだけの自信はなかったが…
「大丈夫!キョンだもん!あなたのお兄ちゃんだもんねっ!」

「うんっ!じゃあねハルにゃん!待ってるから!」


私は挨拶を済ませるとすぐさま家を飛び出した。
途中タクシーを拾って場所を告げた。
しばらくして着いたのは妹ちゃんが言っていた病院。
私は走った。
そして見つけた。
妹ちゃんだ。
「ハルにゃん!ほんとに来てくれたんだ!」
妹ちゃんは抱きついてくる。
私は周りを見渡し、キョンの両親を見つけた。


そして…赤々と照らされる眩しいランプ。そこには「手術中」の文字。
…嘘なんかじゃない…
本当に…キョンは…
私は事故の状況をキョンのお母さんに尋ねた。失礼かもしれないが…聞かないと納得しないのだ。
キョンは赤信号ながらに突っ込んでくる車に引かれたらしい。現場にいた目撃者の証言だ。
しかし、そのはねた車はそのまま逃走し、現在警察が聞き込みなどからだいたいの車の車種などは特定出来てるようだ。


泣きながらもキョンのお母さんは話してくれた。
私はキョンの両親に謝罪を告げた。


それと同時に私に怒り念がわいてきた。


なんで…?なんでキョンなの?そもそもソイツが信号無視なんかしなければキョンはこんな所にいないし、お母さんも悲しい思いなんてしなかったはず。

これでキョンが助からなかったら…私はソイツを一生許さない。本当にキョンと同じ、苦しい思いにさせてやる…
私はSOS団のみんなに連絡するか悩んだ。
でも…いつかは知らなくちゃいけなくなる…伝えなきゃ…


私は病院の中でも電話が使えるスペースに行き、SOS団のメンバーに電話をかけた。


最初に古泉君に電話をかけた。
私は古泉君に説明してる内に嗚咽混じりの涙が出てきた。
最初は古泉君も信じられなかったみたい。だけどさすがは冷静な古泉君だ。すぐに状況を理解し、私を慰めてくれた。
「大丈夫です。キョンくんならきっと助かりますよ。僕もすぐに向かいます。他の方々への連絡は僕が引き受けましょうか?」
いいえ…いいの。これは団長として…それだけじゃないけど…私にやらせて。
「…わかりました。お気を確かに持って下さいね。それじゃ、お願いします。」
ありがとう古泉君。あなたのおかげで意識がはっきりしたわ。


次にみくるちゃんに連絡をした。
みくるちゃんも急に泣き出した。状況が理解出来ていない…認めたくないようだ…

今から直ぐに病院に来て。私も認めたくないけど…でも逃げないで。
「ひぐっ…わかりました…。今から急いで…ひくっ…行きますからっ…涼宮さんも…元気…だして下さいね…ひぐっ…」
そういって電話を切った。


次は有希に。
有希は驚いたのかもわからないような声で「そう…。」と呟いた。
「大丈夫。助かる。あなたは信じてあげて。…今から向かうから。」


一応SOS団のメンバー全員に連絡入れ終わり、ずっと待合室の椅子に座り、手を組んで祈っていた。
しばらくしてSOS団の他のメンバーと、鶴屋さんや、私のクラスの谷口と国木田君が到着した。
古泉君やみくるちゃんが連絡をとったそうだ。


「おい!キョンが車に引かれた!?なにしてんだよアイツ…犯人は誰だ?出てこい!ぶっ殺してやる!!」
「やめなよ谷口!ここは病院だ!…とにかく今は信じようよ…犯人探しは警察の仕事だ。」
国木田君は冷静に谷口を抑えた。
「ハルにゃん…辛いのはわかるけど…私も辛いけど…笑顔で信じようよっ!キョンくんだってさっ、ハルにゃんのそんな顔見たくないにょろよ?」
鶴屋さん…ありがとう。私…大丈夫だから。

嘘。
全然大丈夫なんかじゃない。今にも不安で私の心は破裂しそう…それと同時に谷口と同じことを考えちゃう…


犯人は誰?許さない…殺してやりたい…
だけど…みんなが居てくれてるから…今は信じる。
キョンが絶対に助かる事を…




…どのくらい経っただろう…その間みんなは話さずにひたすらに祈った。


そして…手術中の赤いランプが消えた。
キョンのお母さんが出てきた医者に駆け寄る。同じように、皆駆け寄っていった。




医者の…残酷で…揺るぎない事実の言葉がゆっくり語られた。








「私達は最善を尽くしました…だが、外部の損傷自体は大したものではないものの、頭部を直撃し、脳が著しく損傷したため…お亡くなりにはなっていませんが…いつ亡くなるかわかりません…。」




「いわいる、植物状態…といったものです…一時も油断出来る状態ではありません。私が院から代表して、謝罪致します。」




えっ…植物状態って…嘘だ…キョンが…


病院は一切悪くない。本当にそのお医者さんは申し訳なさそうに言ってくれた。だけど…そんなの認められる訳がないじゃない…!

気づくと、私はその医者の胸ぐらを掴んでいた。


ねぇ?嘘でしょ!?キョン今日あんな元気そうにしてたんだよ!?それなのに…それなのに!なにが最善を尽くしたの!?医者は人を救うものなんでしょ!?なんとか言いなさいよ!?ねぇ!!


そのお医者さんは何も言い訳…言い訳じゃない。本当は正論なんだ。それすら口にせず、私に胸ぐらを掴まれて上下に振られても黙って私の話を聞いてた。


「涼宮さん!」
「おい!涼宮!」
「ちょっと君!」


古泉君、谷口、キョンのお父さんが三人がかりで私を止めてくれた。


「これは現実なんだ!…認めてやってくれ…。……このバカ息子は本当にこんな女の子達を泣かせて…悪い奴だよ本当に…。」
お父さんは笑っていた。無理をしてだろう。


私はその場に力なく落ちて、大声を荒げて泣いた。
「なんて力なんだ…僕の力は…人を助ける事が出来ない力なんて…」
そういうと古泉君は壁を力強く殴った。
キョンのお母さんも、みくるちゃんも、普段涙とは無縁の鶴屋さんも泣いていた。そして、有希も…

ねぇ?キョン?


みんなアナタを思って泣いてあげてるのよ?


同情なんかじゃない。本当にアナタがいないと寂しいから。
アナタはみんなにとってかけがえない存在だから…


ほら!こんな美人が沢山泣いてくれてるのよ!普段は泣かない鶴屋さんだって…有希だって…涙を流してるの…
それはいけないことなのよ?女の子を泣かせるのは重罪よ!ちゃんと起きたらお仕置きしてやるから!


だから…起きなさいよ…キョン…起きて…あの笑顔で笑いなさいよ…




キョン…………





私は変わった…




アイツといたから笑えたのに…アイツがいたから笑えたのに…


私は一切笑うという感情を忘れた。


私はそれから毎日自分の真っ暗な世界で過ごした。


いつか前にキョンといた夢の世界…あの灰色の世界…周りが灰色で風景が真っ暗…そこで一人…自分の部屋の中でずっと過ごしていた。

夏休みが明け、私は学校にいる…


行きたくなんてなかった。でも事情を知っている親なりの配慮だ。そんなの痒いだけ…そのうち、痒さがうるさく感じるようになる…きっと。


私はひたすら前の席…キョンの席を見つめていた。


朝、担任が入ってきて話を始めた。


「えー、今日は暗い話から始まる。」
何?暗いって…
「実は、〇〇の事なんだが…夏休み中に事故に遭ってな…現在病院でいわいる植物状態となっている…先生は悲しく思う。」
悲しく思う?何いかにも他人事みたいに話してるのよ…アイツは今も苦しんでいるのに…


その心ない言葉に私の理性がなくなった。



何よ…あんた他人事みたいに言って…悲しく思う?本当に思ってないでしょ!?だけどね!今アイツは生か死かでさまよって苦しんでるの!
あんたにその気持ちが解らないでしょ!?知った口叩かないで!!
「涼宮ッ!止めろ!!」


止めたのは谷口だった。
止めて?!アイツ、キョンの気持ちも知らないで口から出任せのように言ってるのよ!?あんたはそんなの許せるの!?
「許せる訳ないだろう!!」
谷口が大声をあげた。その手は強く拳が握られていた。中学から知ってるけど、こんなところ見たことなかった…
「先生。涼宮は調子が悪いから早退するそうです。」
担任がわからなそうにしてると、
「行ってやれ。お前あれ以来全然見舞い行ってないだろ?アイツも寂しがってたぜ?やっぱりアイツにはお前がいないとダメなんだよ!」
「それに?お前が笑わない姿見たら、アイツかなり心配すると思うぜ?お前の笑顔見て笑ってたからなアイツは…」
「お前何言って…」
担任が言おうとした事を、
「先生!涼宮さんは実は今にも倒れそうなくらいの大熱で、病院に行かなきゃならないんです!」
国木田君がコッチを向いて微笑んだ。


谷口、国木田君、本当にありがとう。
私は二人に笑って礼を述べた。そして、教室を走って出ていった。


キョン、アナタ本当にいい友達持ってるわよ。


私は走った。まだ暑い九月の始め。


病院に着いた。部屋がどこか聞くと、すぐにその病室に向かった。


キョン――っ!


そこに眠るは相も変わらずマヌケな顔のまま寝ている…だけどいくら言っても返事などしてくれないキョンの姿だった。


キョン…今までごめんなさい…私、今まで現実から逃げてた。キョンがこんな姿だなんて信じたくなかった…


視界が滲んでるのがわかる。それでも返事のないキョンに話を続ける。
でもね…今日気づいたんだ!あのアホの谷口や国木田君がアナタが起きると信じてる…それなのに私は現実から背いてちゃ駄目だもんね…
あの谷口が私に気を使ってここに来させてくれたのよ?学校を無理やり早退させて…国木田君も先生を黙らせて。
あんた、本当にいい友達がいるんだから…早く起きなさいよ?私も…毎日来てあげるから…もちろん!SOS団の活動もちゃんとしてもらうわよ?
あんたの事信じてるから…起きたら伝えたい事もあるの。だから…早く…ね…


涙が頬を伝ってキョンの顔に落ちた。


それと同時に、キョンの目から涙が出ていた…


私はキョンの胸にうずくまって大声で泣いた。ごめんなさい。迷惑だよね…でも…もうちょっと泣かせて…。





それは、夏もまだ終わらぬ暑い日。
空が蒼くて…雲一つない、夏の暑い日。




キョンの前では笑っていようと決意した日。




私が笑わなかったら…キョンが悲しんじゃうから…
キョンの前では泣かずに笑おう………




そう決めた筈なんだけどな…………









季節は過ぎて…二度目の冬。


時の流れは残酷だ…。キョンくんの意識は依然として戻って来なかった…
僕はこの間だけでも酷く疲労し、そして力の無念さに嘆いた。
疲労した理由は…閉鎖空間の発生によるものだった。
夏休みの間はあの一件以来、毎日というほど発生していた。
しかし、それからはあまり発生することはなかった。だがたまに広範囲の閉鎖空間が発生する。
涼宮さんがキョンくんが起きなくて我慢できなくなる時、閉鎖空間が発生し、その中の神人はとても強力です。
仲間みんなの協力でなんとか場の収集がつく…といった次第です。
でも…閉鎖空間から読み取れる涼宮さんの心は…酷く荒んでいて…恨み、悲しみ、さらには自殺願望なんてのもありました。
それは一時的に収まったものの、いつ再発するかわかったものではありません。
でも世界がなくなるなんてことはありませんでした。
僕達が頑張っているから…とは違いますか。
やはり涼宮さんは心からキョンくんとの楽しい一時を心待ちにして信じているようです。
でも彼女のそんな心境を知ると、僕の力ではどうすることも出来ない事が悔やみます。
せめて、人一人を救える能力にしてくれれば…そう思うこともあります。

長門さんに相談したこともありました。


どうにかして、キョンくんを救えないものかと。
しかし、長門の長にあたる情報統合思念体は長門さんの力を使うわけにはいかないと判断したようです。


人間には人間の摂理があるのか…あるいは、それこそ涼宮ハルヒの行動などに興味があるのか…


そのことを長門さんから聞いたとき、彼女は泣いていました…。


あの時…キョンくんが植物状態だと告げられた時のように…


長門さんが言うには、
「あの時に大量にバグが溜まってしまった。なかなか取り除くことが出来ない。この涙も簡単には止まらない…」
…思うがままに泣くといいと思います。きっと…また考えることが出来るようになります。
「……そう…。」


彼女は泣き続けました。ずっと…声はあげずに…静かに…悲しげな顔をしながら…

もちろん僕も最善を尽くしました。


僕の知り合いから名医と呼ばれる名医をよんで調べてもらいました。


だが…すべての名医が残酷に
「今の状況以上は望めない。」
との答えでした。


それでも諦めずに調べさせましたが、涼宮さんが


「キョンは絶対起きてくるんだから!古泉君が心配することないわよ!ほら?アイツ寝ぼすけだからなかなか起きたくないのよ…」


と言って診察をやめさせました。


涼宮さんは信じているのですね…彼が絶対に起きるということを。

そして、今日は冬の寒い日…そして…いわゆるクリスマスというものでした。


去年もSOS団とお友達御一行でパーティーをやりました。
みんな楽しそうに鍋を取り囲んだり、催し物で楽しんだり…そこでキョンくんが心なしか笑っている気がしたのです。


そこで涼宮さんがまた今年も同じようにと、みんなを誘ってクリスマスを過ごすと提案しました。


病院にちゃんと許可を得て、僕達はキョンくんの病室をクリスマス風…なのかわかりませんが…派手な装飾を施しました。


皆さんが揃い、僕達はパーティーを始めました。
鍋を囲いました。相変わらずの食べっぷりの長門さんやそこに鶴屋さんや谷口君も加わり、鍋の周りは戦場と化してます。
涼宮さんは…前の食べっぷりに比べると勢いが劣るようでしたが、一時期よりも大分ましになったようですね。


僕はその戦場から離れ、キョンくんを見ていました。


どうですキョンくん?あなたが眠っている間も相も変わらずあの食べ物での戦争は変わっていませんよ?
「…あぁ…そのようだな…長門の食いっぷりは相変わらず凄いよ…」
でしょう?あなたも参加してみては?
「多分食い物食ったら気持ち悪くなるね。」
「それに…長門や谷口となると勝ち目がないな…」
弱気ですね?たまには目にもくれずに戦ってみては?
「それで本当に死んだら元も子もないだろ?それこそ世界が破滅するぜ?まぁ食いもんぐらいでは死なないだろうが」
そうですね…それは僕個人としても凄く寂しい思いをしますし…
「なぁ…本当に一度聞いてみたかったんだが…お前って…ゲ」
そんなこと言ってる前に涼宮さんの心配を解消させてはどうです?
「……俺も出来ることならしたいけどな…無理そうだな…」
あなたが望めば…あるいは。
「おいおい。俺はハルヒじゃねぇぜ?」
そうですね…だが前も言ったでしょう?あなたは超能力者と言っても過言ではないって?
「…それならとうの昔に起きてたさ…ハルヒの泣き顔なんて見たくもなかったからな…」
そうですか…少し残念です。機関には同年代の仲間がいなかったもので。
「…スマンな古泉。しばらくハルヒを頼む。」
えぇ。でも、ちゃんと起きて謝ってあげるのが王子様の役目ですよ?
「…あぁ。そこは任せとけよ。もう決心はしたからな。」
それはそれは…では…またあなたとオセロが出来ることを切に願いますよ。
「一回ぐらいは勝たせてやるからな?」

ふふっ…油断してると本当に負けますからね?
「あぁ…肝に命じとくさ。じゃあな…」
えぇ。ではまた。


「古泉君?ほら!早く食べないとなくなるわよっ?」
はい。ふふっ…でも彼の寝顔があまりにも楽しそうで…
みんながキョンくんを見ました。


そこにはあのキョンくんの微笑みが広がっていました。


「そうね…本当にあの頃の笑顔…そうよ!あんたはそれでいいのよ!あんたはずっと…笑っていればいいんだから…」
そして…キョンくんの微笑みの瞳から涙が流れてきました…
「なにあんた泣いてるのよ!笑いながら…変な顔ねっ!」


涼宮さんも笑いながらもその大きな瞳には大粒の涙が溜まっていました…


「…さぁ!コイツのためにももっと楽しませてやんなきゃ!そうだ!谷口!あんたなんか芸やりなさいよ!ほらさっさと!」


涼宮さんに芸を強いられる谷口君もまた涙が流れていましたが、その姿はとても楽しそうで…みんなにも笑顔がこぼれてきます。


「あっ…雪よ!ねぇキョン!みんな!雪が降ってきたわよ!」


空から降る神秘的な白く輝く雪。


それは僕らを祝福するように。キョンくんの早い回復を祈るように。




あるとても寒い日の出来事。


空から幾千…幾万もの雪の結晶が降ってきていて…それは冷たくとも暖かい…


僕達は笑いが零れながら、これがサンタクロースのプレゼントか…そう思っていました。




キョンくん…?この世界は…光に満ちていますよ?………



そして…また時は流れる…非情にも…


私は三年生になっていた。だからといっても学校なんかに興味はない。三年生になってもやることなんて大して変わらない。ただ周りは受験のことで頭がいっぱいのようだ…


もうキョンのことがどうという奴らは私たち以外いなくなった。
みんな忘れたように、名前を口にすることがなくなっていた。


そして私はそんな学校に嫌気が差しながらもひたすら窓の風景を眺めて授業をこなす。そうして授業が終わると古泉君や有希を連れ出し、病室に向かう。
みくるちゃんは卒業し、家政婦関係の専門学校に行っているようだ。
そして、その学校が終わる頃にこちらに来て、SOS団集合というわけだ。
これを約二年近く毎日…みんな色々都合がつかないときも、私だけは一度も欠かさずに毎日訪れた。


たまにアホの谷口や国木田君、鶴屋さんなどのいつもの面々も来る。
鶴屋さんはやはり家を継ぐようで、「色々こっちも大変なのさぁ~っ!」とかいつもの調子で経過を語ってくれた。いつも変わらず明るい鶴屋さんがたくましく見える。

そして今は七月の初め。
そろそろ夏休みだとウキウキしてくる時期である。
もう梅雨は終わったのかしら…いささか早すぎる気もする…すでにセミのウルサい声が聞こえていた。


そこでキョンにセミの話をした。私は感極まってしまったが…


急に私は二年前以来、忘れていたイベントがあることを思い出した。
―――七夕だ…
カレンダーを見ると、七夕の日である七月七日は明日に迫っていた。


キョンに早々に別れを告げると、みくるちゃんや有希や古泉君と一緒に買い物に来ていた。
明日は七夕でしょ?笹を買ってそこにみんな短冊付けてお祈りするの!
みんなは賛成した。久々に全員集まってなにかする…楽しみだわ。


最後にみんなが集合したのは…初詣に行った時か。みんなお賽銭をちゃんといれてお祈りしたわ。
私は――キョンが元気に起きてくれますように…――
みんなに問いかけたりもしたのだが、何故か教えてくれなかった。


そこでお守りを買って…中にはアレを入れておいた。キョンが起きたら見せようと決めているアレを…恥ずかしいけど、ちゃんと見せるの!
アイツ驚くかもなぁ~?顔真っ赤になったりして…
ちょっと楽しみである。

もちろん七夕にも同じ願いを書く。なんか、初詣より七夕の方が効きそうな気がするの!根拠はないんだけど…きっとそうなのよ!


彦星と織り姫がが一年に一回再会して、きっとその嬉しさのあまりに笹の葉にさげてある願い事を叶えてくれるの!
なんていい人達なのかしら…あなた達を私は尊敬するわね。


ホームセンターに行くと、さすがはシーズンだけあり、ちゃんと程よい長さに切られている笹の枝がある。


だけど、私はそれを流し、柄の長く大きい笹の枝…もう既に竹かもしれないわね…を買った。
そりゃデカくないとなかなか彦星達は気づいてくれないだろう。夜になったら病室のキョンの部屋から見える場所に配置させてもらいましょう。
それまでは古泉君が預かってくれるらしい。大きなトラックが来て、どこかへ運んで行った。


その他に、短冊や宴会用の食料、飾り付け用の装飾品などを買って今日の所は解散した。


その後もう一度キョンの所に行こうとも考えたんだけど…明日のために我慢だ!
そう考えてやめておいた。
久々にみんなで集まるのが楽しみだもん!キョンもみんなに会えるのが嬉しいだろうから、明日はうんと楽しませてやるんだ!

そうして私は家路に着きベッドで眠りについた。


………私は驚愕した…


そこはいつか見た灰色の世界。
全てが色という概念がなく、灰色で、空が黒い世界。


夢でキョンと二人でいた世界。


私は学校の真ん中で眠っていて、起きてまた夢かと思っていた。
今回はキョンがいなく、私は一人だった。
どこかにキョンがいる気がする…そんな気がする。
私は学校の校舎に入った。


まず教室。それは今私が行っている教室でなくて、一年のとき、キョンと一緒のクラスだった教室、一年五組。
そこにはキョンの姿は見えなかった。
昔のキョンの席の必ず一つ後ろ。私はいくら席替えをしても必ずその定位置にいた。
私がずっとそうであるように、と願ってはいたが、ここまで連続して偶然が重なるのは我ながら凄い事だと思ったわ。


私ってそういう能力者なのかしら―――でも…それならキョンは既に目が覚めている筈だし…偶然ね…
でもキョンの後ろの席でなければ私は学校に行くことを拒んでいたかもしれない。
毎日のキョンとの会話…今でもいくらたわいのない事でも覚えている。
あの会話のために毎日学校に行っているようなものだった。
もちろん!SOS団のみんなと会いたいのもあったけど。

私は自分の席に着いて、前の席を見つめた。


いつもならキョンが体を横に向けた状態で顔だけをこっちに向けて私の話を聞いてくれたものだった。


だけどそれはない。当たり前だと解っているけど…期待してしまっている。
せめて夢なんだから会わせてくれてもいいのに…でも…どこかにいる気がする。


私は学校中をまわってみた。グラウンド、体育館、講堂、職員室…全部まわってもどこにも居なかった。
最後に一番最後にとっておいた部室棟を探した。
追い詰めて、ここで見つけてやるの!そして見つけたらギャフンと言ってやるの!なんで起きないのこの寝ぼすけ!ってね!


そして…我がSOS団の部室のドアノブに手をかけた。
一度深呼吸。肺の限界まで息を溜め込んで、ゆっくりと息を吐く。


そして…ドアノブを回して勢いよく開けた。いつも、昔の私がやっていたみたく…キョンが「もう少し大人しく開けることは出来んのか?」って言ってくれる気がしたから…


だけど…それは叶わなかった…


そこにはキョンの姿は無かった…
期待していただけに、落胆の反動は大きかった…
やっぱり…私にはキョンと会わせてくれないのね…神様って本当に意地悪…

私は自分の団長と書いてある置物がある席に座ってみた。


懐かしい…キョンがあんな事になって以来ここに来ることはなくなっていた。ずっと病院でSOS団のみんなと過ごしていたから。


だけど…そこから見る風景は全く変わっていない。

本棚には沢山の本。全部有希が持ってきたもの。あの子、あんなに読んだのよね…凄いわ本当に…

ハンガーラックにはメイド服やナース服、バニーなどの衣装がそのままだ。そういえばみくるちゃんにコスプレなんて最近着せてなかったわね…今度着せてみることにする。
キョンが鼻の下伸ばしてたらぶっ叩いてやるんだから!私が来ても嬉しそうに鼻の下伸ばしてるのかしら…そうだったら私も着てみようとするわ。キョンが喜ぶんならね!

団長席の机の中を探ると腕章が出てきた。いっぱいあるわねぇ…団長、名探偵など一杯あるわ…よくもこんなに作ったわ。

他にも夏合宿の写真もある。ふふっ…キョンのマヌケな寝顔…毎日見ている寝顔とは違くて…こっちは前のありのままのキョンの顔。こんな顔してたわね…
他にも困った顔、必死な顔、泣きそうになった顔…


でも、一番笑っている顔がかっこよくもあり、可愛らしくもあり…私の好きなキョンの顔だ。

………外から物音が聞こえる…
足音?走っている…?こっちに向かってくるわ!
誰?この世界は私一人の筈なのに…


………もしかして………


扉が開いたその向こうには…私がずっと会いたかった…元気なキョンの姿だった。

キョン………?

キョンは驚いた様子で扉の前で立ちすくんでいた…その目には光が輝いていた…いつも見ている、目を閉じているキョンではなく、とても優しい目…
あぁ…キョンってこんな優しい目をしていたんだ………

キョン…嬉しい…。

私はなりふり構わず勢いよく抱きついた…それをキョンが受け入れてくれた…
キョンの大きな胸…
あぁ…男の人の胸ってこんなに大きいんだ…

私はギャフンと言ってやるのを忘れてずっと抱きしめていた…


そして…光が見えたの…急なとても眩しい光…周りは見えなくてもキョンの胸の温もりはそのままに…


目が覚めると自分の部屋にいた。


ちゃんと夜寝た状態のままだ。だけど…私にはまだ彼の温もりが残っている…


妙なリアルな夢…前もそう。前もキョンとキスして…その温もりが微かにだけど残っていた…


でも夢なのだろう…


今日は休日。集まるのは夕方から。なので昼間はもう一度寝てみた。もう一度キョンに会えるかも…そう思ったから。


だけど…今度はとても嫌な夢を見た。

そこはどこだかわからない…周りは緑が広がっていて…草原のようなものだろうか…


気づくと私がそこに立っていて…そして…キョンもいたの。


キョンは私に何か話しかけて…何かは聞こえなかったのに自然と私の目から涙が溢れだしてきて…その後私を抱きしめたの。

そして…またキスをした。とても暖かくて…キョンの鼓動を感じた。長い間…ずっとキスをしていた…

そして抱きしめあったまま、キョンが何かを呟いて…離れていっちゃって、追いかけたのに追いつかなくて…遠くて…

そして途中立ち止まってこっちを向いてこう言ったの…


「ハルヒ!俺はお前を愛している!この先どんな姿になっても、ずっと愛し続ける!
だから幸せになれ!俺はお前の幸せが一番なんだ。それで、大体七十年後に俺の所へ来てまた振り回してくれよ!その前じゃ絶対に許さん!
…じゃあな。たまには思い出せよ?
…元気でな…。」


ここだけはハッキリ聞こえて…

私は大声で泣きながら追いかけたのに…キョンはどこかに消えてしまった。

そこで目を覚ました。


鏡で見なくてもわかる。目が痛い。赤く腫れ上がっているだろう。泣いていたのか……


夢でよかった…本当に心底思った。


…二度寝なんてしなければよかった…だが起きてみればちょうどいい時間帯。


忘れよう!そう思い準備を始めた。顔をよく洗ってもなかなか腫れが引かない。

困ったものだ。よっぽど泣いていたのだろう。


こんな所キョンに見せたら…


私は少し引きずりながらも、病院へ向かった………



分岐エンド

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