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「いい?今日の放課後までに調べておいて。
あたしもそれまでに部室を探しておくから。いいわね?」

こうしてキョンを強制的にクラブに入れたのは何日か前のこと。

キョンを入れた理由は暇そうだったから。
それに、普通だけど、どこか普通じゃない気がしたから。


そんな適当な理由で入れたんだけど、
キョンと居るとなんだか楽しいかも……
なんて感じているあたしがいるのも事実。

なんていうのかしらね?
うまく言えないけど、キョンといると飽きないのよね。

だから今現在、SOS団はあたしを退屈から救う唯一の希望となっているの。
みくるちゃんと有希もいるしね。

さて岡部との進路相談も終わったし部室に行こうかしらね。

あたしは部室へと向かった……。

まったくなんでこんな早くから進路相談なんてあるのかしらね?
大した進学校でもないのに。

あたしがそんな不満を抱きながら部室へと続く廊下を歩いているとトイレの中からなにやら声が聞こえた。

別にあたしは盗み聴きの趣味はないから素通りしようとしたんだけど……

「涼宮ってさ~」

あたしの名が話題に出ているのが耳に入ったから、少し聞くことにした。
そりゃあ少しは気になるわよ。
どうせ陰口に決まってるけどね。

「涼宮ってちょっと変よね」

「涼宮って中学の時も変わってたらしいわよ」

ほら、思った通りよ。
ほんとに女ってネチネチしてて嫌な感じよね。

だいたい涼宮、涼宮ってうるさいのよ。
言いたいことがあるなら直接言いなさいよ!

このままいたらイライラが爆発しそうだから、
早く部室に行こうと思い足を踏み出したそのとき……

「キョン君のこと振り回してわけわかんないクラブ作ってるらしいわよ」

一人の女子が言った。

なに?キョンのこと?
あたしは踏み出した足をいったん引き戻した。

すると他の女子が続けて言った……

「迷惑かけてるのわかんないのかしらね?」

は?何言ってんのよ。
バカバカしいわ……

キョンに迷惑がかかってるわけな………

あれ?

なんでそう言い切れるの?
キョンが言ったから?

違う。
キョンはなにも言ってない。

じゃあなんで絶対迷惑じゃないなんて言い切れるの?

もしかしてキョンだって………

その考えにたどり着くと同時にあたしは部室へと走り出した。

キョンに確かめてみないと………。
いや、みくるちゃんや有希だって本当は………

あたしは校則なんて無視して目的地まで廊下の左側を走っていった。

はぁはぁ…
いつもはこのぐらいじゃ息切れしないのに……

途中何回かよろけながらも部室に着くと、

バタン!

あたしは勢いよくドアを開けた。

「おう、遅かったな。
朝比奈さんと長門は進路相談に行っちまったぞ」

あたしが走ってきた原因であるキョンがいた。

長門さんとみくるちゃんはいないみたいね。
これは好都合だと思いあたしはキョンの近くまで歩いていき、言った。

「あんたに訊きたいことがあるの………」

あたしは言葉を続けようとした………
でもあたしの脳がそれを拒んだ。

なんで言葉が出ないの?
──怖いから。
なにが怖いの?
──キョンの本音を聞くのが………

あたしの問掛けに誰かが応えるみたいだった…。

みくるちゃんたちに迷惑って言われたらすごいショックだと思う。

でも………

キョンに言われるのは……怖い……。

……でも絶対に訊かなきゃダメ。
そんな気がした。

あたしは原因不明の恐怖と戦いながらもキョンに訊いた。

「……あたしがキョンのことこのクラブに入れたのって迷惑だった?」

─再び恐怖が襲いかかる。

──体中が少し震えてる。

───なんでこんなに怖いのよ?

迷惑って言われてもいいじゃない。

嫌われててもいいじゃない。

「あっそう」

とか言って捨てちゃえばいいのよ。

一人になってもいいじゃないの。

中学のときだってずっとそうだったじゃない。

なのになんで………


なんでキョンに嫌われるのがこんなに怖いの?


キョンの返事は………

「…………」

無言だった………



あたしは耐えられなくて逃げ出した。

でもそれはキョンに腕を掴まれることによって失敗に終わった。

「まだなんも言ってないだろ!!」
キョンが強めの口調で言う。
掴まれた腕を子供みたいに振り回すあたしを気にせず話を続けた…

「確かに俺は最近お前に振り回されてる…」

─いやだ……聞きたくない……!!

「正直無茶苦茶なこと言われたり……」

─もうやめてよ……!!

─この先を聞いたらあたし壊れちゃう!!

「離してよ!」

あたしはあたしの腕を掴んでたキョンの手全力で払うと、
自分を守るために再び逃走を図る……。

ガシッ

しかしそれも後ろから抱き締められることによって再び失敗した。

「最後まで聞けよ………」

「最後まで聞けよ…」
キョンが優しいトーンで言った。

さっきまでのあたしにまとわりついてた恐怖はスーッと消えていく……

あたしはキョンの意外と力のある腕の中に抱き込まれたまま聞くことにした……

「俺はな……」

あたしが落ち着いたのを確認するとキョンが話し始めた。


「俺はもし嫌だったら毎日こんなとこに来ない。
自分の意思くらい持ってるからな」

「……ほんとに…?」

別にキョンの言葉が嘘だと疑ったからじゃない。
自然と口から漏れた言葉…。

あたしは体の向きを逆にしてキョンと向かい合う…

「ああ本当だ。嘘をつく理由もないだろ?」

と理屈っぽく言うキョンの目は真っ直ぐあたしを見てた。

──よかった………

あたしは心の底から安堵した……。

明日みくるちゃんと有希にも訊かないと……
迷惑だって思われてないよね……?

あたしは新たな不安にかられる……

突然キョンが言葉を発した。

「俺だけじゃない。
きっと朝比奈さんや長門だって同じはずだ」


……え?

あたしは驚いたわ。
考えを読まれたのもあるけど、それ以上に驚くことがあった………


───あたし………


───泣いてる………?


え!?
なんで?

あたしは強いのに……
人前じゃ絶対泣いたりしないって決めたのに

キョンが見てるのに……

なんで?
どうして涙が止まんないの………

あたしは涙の理由を考えてた……。

考えても考えても涙は止まらない……。

スッ…

背中に回されてたキョンの腕がなくなる……。

「思いっきり泣いていいぞ。
誰にも言わないから」

キョンは泣いてるあたしの頭をそっとなでた。

あたしは急に胸が熱くなるのを感じた………

そっか………
わかったかも、泣いてるわけ………

あたしはずっと……

「なにがあったのかは知らんが、
辛かったら俺だって話聞くくらいはできるから…
あんまり溜め込みすぎるな……」

キョンはあたしを抱き締める腕に力を込める…。

この行為があたしにさらに追い撃ちをかける…


今まで心の中に押さえ込んでたモノが一気に溢れてきた…


誰かに認めて欲しかった……

変わろうとするあたしを…

誰かに支えて欲しかった……

無茶苦茶なことするあたしを……

いつからだろう…
あたしはそんな誰かを探してた……


宇宙人や未来人や超能力者よりも強く強く望んでた…。


──辛かった

───苦しかった


────泣きたかった

でも………


みつけた

「こういう時は声出して泣いてもいいんだぞ?」

あたしに優しく促すキョン。

キョン………

あんたどこまで優しいのよ…

こんなに優しくされると、あんたに頼ってばかりになっちゃうわよ……?

ワガママもたくさん言うかも知れないわよ?

あんたのせいなんだからね?

あたしの涙腺は完全に壊れたみたい……。

あたしはキョンの胸にすがりついた……






子供みたいに泣くあたしの声だけが部室に響いてた…




……どれぐらい泣いてたかしらね?

それもわかんなくなる程あたしは泣いた…

あたしが泣きやむとキョンが言った。

「もう落ち着いたか?」

「うん…」
キョンの顔をまともに見れなかった。

「ずいぶん泣いたな。
おかげでシャツがビショ濡れだ」

キョンがからかうみたいに言ってきた。

「な、何事も全力があたしの信条だからね。
全力で泣かせてもらったわ!」
なによ!あんたのせいじゃない!!

…って言いたかったけどキョンが直接何かしたんじゃないから精一杯強がったわ。
弱いとこばっか見せたくないもん。

「なんだそりゃ?」
キョンが腹抱えて笑ってる。

「笑うんじゃないわよ!」
あたしは少しだけ怒った振りをした。

あたしのそんな反応を見てキョンがホッとしたように言う。

「お前には落ち込むのは似合わないぞ、涼宮」


『涼宮』か………

あたしはトイレにいた女子たちを思い出した……

嫌だ…

他の奴らとキョンがあたしを同じように呼ぶのはなんか嫌…。

「これからは『涼宮』じゃなくて下の名前で呼んでくれない?」

気が付けばあたしはこんなことを口にしてた…

「……『ハルヒ』って呼べばいいのか?」
突然のことに困惑したみたい。

でもね。

──キョンは他の人とは違うから…。

「いいから、そう呼びなさい!」

──こんなあたしを見てくれるから…。

「……やれやれ」

──キョンはあたしにとって特別な…

「わかったよ、ハルヒ」

特別な『ただの人間』だから…


あたしが感じたこの『特別』が『恋』だって気付くのはもう少し先のこと………


終わり
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