季節は秋、まだ夏休み気分が拭えないままだるい坂道を登り学校に通う毎日。
今日も今日とてSOSなんて名前の謎の団体の面々は文芸部室に集まっていた。
その部室のドアをノックすると、何度聞いても癒される天使の声が答えてくれる。

「はぁーい」

その声を聞いてからドアを開けると、マイエンジェル朝比奈さんが俺を迎えてくれた。

「あっキョン君。こんにちはー」

「こんにちは、朝比奈さん」

朝比奈さんに笑顔で挨拶してから、部室を見渡す。
SOS団団員その2の無口な宇宙人長門と副団長の笑顔の超能力者古泉は既にいつもの定位置に座っていた。

「おや、涼宮さんは一緒ではないのですか?」

「いちいちニヤニヤするな。ハルヒは岡部に呼び出されて職員室に行ってるよ」

「それは残念」

なにが残念なのか、訊きたくもないね。

古泉の茶々に適当に返しつつ長門の方を確認する。
今日は最近はまっていた文庫本ではなくハードカバーのようだ。
ブックカバーをつけていてタイトルは確認出来なかった。

「よぉ、長門」

「…」

なにも言わず、俺の方を見上げる。これが長門流の挨拶だ、もうなれた。

「面白いか?その本」

「ユニーク」

「そうか、読んだらまた感想をきかせてくれ」

「…」コクリ

小さく頷き、また読書に戻った。
まぁどうせ感想はユニーク一択なんだろうが、ちょっとした世間話みたいなもんだ。

「今お茶いれますねぇ~」

朝比奈さんがそう言ってくれたので、長門から離れ俺も定位置に座った。

 
しばらく朝比奈さんのお茶を飲みながら長門を横目に眺めつつ相変わらず弱すぎる古泉とゲームをしていたら、ようやくハルヒがやってきた。

「いやーお待たせお待たせ。岡部の話が長引いちゃってさ」

「なんの話だったんだ?」

「いつもと同じよ、普通にしなさいって。ばっかみたい!」

どうやら今のハルヒは少々不機嫌なようだな、やれやれ。

「まぁそう言うな。生徒の将来を案じる教師の気持ちもくんでやれ」

「生徒の将来を案じるなら尚更生徒の自主性を重んじるべきだわ!
こんなんだからろくに考えももたないダメな大人が社会に蔓延するのよ!」

いちいち説得力があるから忌々しい。やはり頭のいいこいつに口じゃ勝てないな。
言い合うだけ無駄だと思い黙ることにした。

「まっ、そんなことはどうでもいいわ。みくるちゃん、お茶頂戴!」

「はぁーい」


ここまではいつもの日常のはずだった。
ハルヒがいて朝比奈さんがいて長門がいて古泉がいて俺がいる。
多少のスパイスを含みながらも平和な毎日が続いていたはずだったんだ。
そんな日常がいつまでも思っていた…いや、望んでいた。
しかしそんなことを神は…ハルヒは許してくれやしなかった。
ここから俺の望みは完全に打ち砕かれ、同時に全てを失うことになる。
変化を感じたのは次の日からだった。

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最終更新:2009年07月30日 13:03