「見当たりませんね。」
「そうだね。みんなどこに行っちゃったのかな?」
僕たちSOS団のメインメンバーと名誉顧問である鶴屋さんの6人は、涼宮さんの、
「みんな!夏祭りに行くわよ!」
という鶴の一声で、地元の夏祭りにやってきたのですが、思いのほか祭りの参加者が多く、
僕と鶴屋さんは他のメンバーと逸れてしまいました。
「みくるやハルにゃんのケータイにかけてみてもでないし。」
「周りの音が大きいですからね着信音が聞こえていないのかもしれません。」
「そうかもしんないね。」
「これからどうします?」
みんながかけなおしてくるのを待つ、合流場所メールする等、考えられる手はいくつかありますが…。
「うーん、そうだね…。」
そう言いながら鶴屋さんは考え事を始めました。おそらく善後策を考えているのでしょう。
「もう少しみんなを探してみよっか。」
「そうですね。」
時間は十分ありますしそんなに急ぐ必要も無いでしょう。
 
 
 
再び他のメンバーを探すことこと数分、僕たちは涼宮さんと彼を発見した。
「あっ、ハルにゃんとキョンくん見っけ。」
彼らは二人で何か話しているみたいですね。
「様子から察するにお二人とも他のメンバーと逸れた事に気が付いてないようですね。」
「案外二人っきりになるためにわざと逸れたんだったりして。」
「それはないと思いますが。」
お二人の性格的に。
「二人が何話てんのか気になんない?」
ニヤッと悪戯っ子みたいな笑顔で鶴屋さんがそう問いかけてくる。
彼と涼宮さんが二人っきりではどのような会話をしているのか、確かに興味深いですね。
「気にならないと言えば嘘になりますね。」
 
「あっちはあたしたちに気付いてないみたいだし、ちょろっとお二人さんの様子を見てみないかい?」
盗み見ですか。あまり趣味がいいとは言えませんが、
「いいですね。」
僕も好奇心は人並みにはありますからね。気になるものは気になります。
お二方には悪いですが僕の知的好奇心を満たさせていただきましょう。
「そんじゃ、行こっ。」
僕たちは気付かれないように二人に近づいた。
 
「一つだけだったら食べてもいいわよ。」
そう言ってたこ焼きを彼に差し出す涼宮さん。
「ありがとよ。」
「美味しい?」
「ああ。」
「よろしい。」
 
「うわー、すっごく自然な会話。ひょっとして何時もやってんのかな?」
そういえば去年も似たような会話をしていたような。
「どうでしょう。」
機関もお二人の行動を全て把握してるわけじゃないからわかりかねますね。
「あっ、見て見て。また、何かしそう。」
鶴屋さんに言われて視線を二人の所に戻すと涼宮さんが彼の持っているお好み焼きをじっと見ていた。
 
「そのお好み焼き美味しそうね、よこしなさい。」
彼はお好み焼き伸ばされる涼宮さんの手をかわす。
「おっと。」
 
「おっ、素早い回避。手馴れてるねキョンくん。」
「彼は時々涼宮さんに弁当を狙われてるそうですからね、そのせいでしょう。」
「へー。」
 
「こら、よけるな!」
「たくっ、ちゃんとやるからそんなにがっつくな。……ほら。」
そう言って彼はお好み焼きを一口サイズに切り涼宮さんに差し出す。
 
「おっ、これはひょっとして…」
彼はあれをするつもりなんでしょうか?
 
「ちょっと、箸を貸しなさいよ」
「ダメだ。箸を渡したら全部食われるかもしれんからな。」
「…わかったわよ。」
 
そう言って若干恥ずかしそうに口を開ける涼宮にお好み焼きを食べさせる彼。所謂“あーん”てやつですね。
「うわー、やっぱやっちゃうんだ。やるねぇ、キョンくん。隅に置けないなぁっ。」
そう言う鶴屋さんの表情は楽しさの成分が多量に含まれていた。
気持ちはわかります。お二人のやり取りを見ていると心豊かになりますからね。
 
「美味いか?」
「………うん。」
「そりゃ、よかった。」
 
ただ、僕もれっきとした男子高校生なわけでして、彼らのふれあいを見て心豊かになる反面、
若干の物寂しさやら羨ましさも同時に感じてしまい…まあ、要するに二人の仲の良さに
当てられてしまうんですよね。困ったものです。
 
「ハルにゃん顔真っ赤で可愛いー。」
確かに、恥ずかしさで顔を赤らめている涼宮さんはとても魅力的ですね。
そう思ったのは彼も同じらしく、すこし顔がにやけていた。
 
「…間抜け面。」
「誰がだ。」
「あんたしかいないでしょ。」
「あのなあ。」
「たくっ、何考えてたんだか。いやらしい。」
「別にいやらしいことなんか考えとらん。ただ、照れてるお前も…。」
「何よ。」
「…忘れてくれ。妄言だ。」
そう言って彼はやや恥ずかしげに涼宮さんから顔を背けた。
「ちょっと、気になるじゃない。言いなさい!」
「拒否権を発動する。」
「そんなの認めないわ!さあ、言、い、な、さ、い!!」
「嫌だね。」
「こらっ、逃げるな!」
 
「おやおや。」
「行っちゃった。」
「行っちゃいましたね。」
「アハハ、あの二人は仲がいいね。」
「そうですね。」
「ほんと、仲がいいな。」
この台詞だけ声のトーンが他のものと違った。
どうしたのかと思っていると、
「!!」
鶴屋さんは急に頭を僕の肩に預けてきた。
 
「どうしました?」
動揺しているのを隠しつつ尋ねる。
「へへっ。」
僕の問いかけに対して鶴屋さんは何時もとは違い少し淑やかさがブレンドされた笑顔を向ける。
「二人のやり取り見てたらさっ、当てられちった。」
い、一瞬心臓が高鳴ったような気がするが、気のせいのはず。べ、別に何時もと様子の異なる鶴屋さんにときめいたわけでは…。
「あたしの勘だけどさ。」
「何でしょう。」
鶴屋さんの勘は恐ろしいぐらいに当たるので正直な所、何を言われるのか内心ひやひやしていると、
「一樹くんもあたしと同じなんじゃないかな?」
と鶴屋さんは仰った。
うっ、図星です。
「そう…ですね。彼らに当てられていないと言えば嘘になりますね。」
鶴屋さんには嘘をついても直ぐにばれそうだったので素直に答える。
「やっぱりね。」
僕の返答が満足いくものだったのか鶴屋さんの笑顔に少し安堵の色が強くなる。しかしその一方で
彼女の緊張の色も少し強くなっている気もした。こういうのを二律背反と言うのでしょうか。
「何かさ、変な感じだよね。寂しいようで羨ましくて、辛いようでいて嬉しい。
そんでもって、心が満たされるようで何か物足りない。」
まるで詩でも朗読するように言葉を紡ぎ出す。
「ねぇ、一樹くん。」
返答はしなかった。いや、できなかったといった方が正しい。こういう場面で
どう反応すればいいのか僕にはわからなかったからのですから。
「同じものを感じてる者同士。二人でなら足りない部分を埋められると思うんだけどどうかな?」
ええっと、それはアレですか?ひょっとしてアプローチなんでしょうか?
「…………。」
僕の返事を待っているのか、さっきの問いかけを最後に鶴屋さんはく口を閉ざしてしまった。
これは…どう返事するべきなんでしょう。機関と鶴屋家の間には不干渉定約があります。
しかし、先ほどの鶴屋さんの問いかけはあくまで鶴屋さん個人ものであって、鶴屋家の一員
としてのものではないはず。だが、それを周りがどうとらえるかはまた別の話で…。
 
でも、本当に重要なのはそこなのだろうか?今回の行動が彼女個人的の意思によるものなら、僕も
機関などのバックグラウンドを考えず、あくまで僕個人の返答をするべきではないのだろうか?
 
どれくらいの間考えていたのだろう。あまりに唐突な事態で時間間隔が狂ってしまってよく
わからなかった。ほんの数秒だった気もするし、失礼なことに何分も考え込んでいた気もする。
「鶴屋さん。」
返事をするために彼女の方に振り向く。
珍しいことに、いつも明るい笑顔が絶えない鶴屋さんの表情が今は緊張で若干強張っていた。そんな
彼女の様子に言葉では言い表せない微妙な感覚を感じつつも僕は彼女の耳元で返事の言葉を囁いた。
「―――――――――――。」
 
僕の返事を聞き終えた鶴屋さんの表情からは緊張した様子がなくなりいつもの笑顔に戻っていた。
「これからよろしくね。一樹くん。」
さて、返事の件ですが、僕が何と言って返答したのかは恥ずかしいので秘密に
させていただきますが、とりあえず彼女の申し出に対して肯定の返事をしました。
「こちらこそ。」
これは機関と鶴屋家の取り決めに反することであり、あまり周りにとって都合のいいことでは
ないでしょう。
「これからどうしましょうか?」
ただ、確かに僕たちは普通でないバックグラウンドをそれぞれ持っていますが、それと同時に僕たちは一介の高校生でもあります。
「そうだね…向こう行っちゃったハルにゃんとキョンくんを追いかけなきゃいけないし、みくると
有希っこも探さなきゃいけないけど…その前にさっ、せっかくだし、その…もう少し二人だけ祭りを楽しみたいっさ。」
それに今はそういう季節でもありますし。
「いいですね。」
ひと夏の思い出を作る権利くらい僕たちにもありますよね。
 


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