「みくるちゃん、急に呼び出して何のよう?」
「実は涼宮さんに行って欲しい所があるんです。」
「珍しいわね、みくるちゃんがあたしにお願いなんて。」
「あの…詳しくは言えないんですけどとても重要なことなんです。今は何も聞かずにうんって言ってくれませんか。」
「団員の願いを聞くのも団長の仕事よね、いいわよ。それで?あたしは何処に行けばいいのかしら?」
「その――――」



 
7月6日、七夕前日。あたしたちは有希のマンションの屋上で天体観測をしていた。
「わぁ、お星様がきれいです」
「夕立が降ったおかげで空気が澄んでいますからね。」
おかげで去年の夏休みのときよりずっと星が見える。
「今日はよく星が見えるわね。みくるちゃん、望遠鏡をもう少し東に向けて見なさい。夏の大三角形が見れるわよ。」
「あっ、はぁーい。」
「夏の大三角形と言えばやっぱりベガとアルタイルよね。別にデネブがダメってわけじゃないけど、
なんたってベガとアルタイルは七夕の主役だもん。」
「詳しいんだな。」
あら、キョンがあたしの言ってることに素直に感心するなんて珍しいわね。明日雨が降らないといいけど。もし雨がふったら、織姫と彦星が会えなくなっちゃうじゃない。
「別に、これくらい常識よ。理科の授業で習うじゃない。」
「そうだっけか?」
「学校によってカリキュラムが多少異なります。あなたの学校では授業で扱わなかったのかもしれませんね。」
「ああ、なるほど。」
わざわざキョンの戯言をフォローするんて、古泉くんは本当に気が利くわね。キョンも見習えばいいのに。今度、古泉くんのつめの垢を煎じて飲ませてみようかしら。
「こいつは単純に習ったのを忘れてるだけよきっと。」
キョンはテスト直前に暗記して終わったら直ぐに忘れるタイプだから、小中学校で習ったことを覚えている可能性はかなり低いもの。
あたしの反論にキョンは少しだけ顔をしかめた。
「酷い物言いだな。」
「あら、酷いのは普段のあんたの勉強スタイルのほうでしょ。テスト前に慌てて詰め込んで直ぐに忘れちゃうんだから。こないだだってあたしが勉強見てあげなかったらどうなってたことか。」
「それは…」
「そんなあんたが学校で習わなかったって言っても説得力があるわけないでしょ。」
そう言って軽く睨んでやると、直ぐにキョンは諦めたように溜息を吐いた。
「…悪かったな。どうせ勉強に関しては物忘れが激しいよ。」
「わかればよろしい。」
「フフッ。」
「気色悪く笑いやがって。何がおかしい。」
「いえ。お二人とも仲がよろしくてうらやましいと思っただけですよ。」
古泉くんの台詞にまたキョンは少しだけ顔をしかめた。
何よ。あたしと仲が良さそうに見えるのが嫌なわけ?
「二人とも同じクラスで席が前後、そんでもってクラブも一緒ってのが
1年以上続いているんだ友情を深めるには十分すぎるだろ。」
キョン、返答が何だか子供っぽいわよ。ほら、古泉くんも笑いをこらえてるし。
「何だよ?」
「何でもありませんよ。」
古泉くんは耐え切れずに喉を鳴らして笑い出した。
「嘘付け。いいたい事があるならはっきり言ったらどうだ。溜め込むのは精神衛生上よくないぞ。」
それ、前にあたしがあんたに言った台詞。
「いえいえ、滅相も無い。」
本当、この二人も仲がいいわね。でも、これ以上仲良く喧嘩を続けられるのも
ちょっとあれよね。しょーがない、そろそろ止めに入りましょうか。
「ちょっと二人とm…」
「あれ!?」
「「「「!?」」」
みくるちゃんがいきなり困惑の声をあげたのに驚いて有希以外の皆は振り返った。
「みくるちゃんどうしたのよ。」
「お、織姫星が見当たらないんです。」
「単に見えてないだけじゃないの?」
「で、でも…。」
真剣そうなみくるちゃんは悪いけど流石に星が急に消えちゃうわけないわよね。
「まあいいわ。ちょっと見せてみて。」
「はい。」
「どれどれ。」
覗き込んで見ると望遠鏡のレンズには夏の大三角が映し出されていた。
みくるちゃんの言うとおり、ベガだけが見当たらないわね。他の星はちゃんと見えてるのにどうしてかしら…。
「あっ!?」
ア、アルタイルが消えた!?そんなことあるわけ…でもついさっきまで確かにあったのに。
「どうした?」
「ほ、星が消えた。」
「見間違いか勘違いじゃないのか?」
キョンらしい何の面白みもない意見ね。でも、違う。いくらなんでも数秒目を離しただけで星がなくなるわけが無い。
「あたしも信じられないけど事実よ。ちょっと目を放した隙にアルタイルが消えたの。」
「万が一にそうだとしても、雲とかの関係で見えなくなっただけかもしれんぞ。」
それも違う。他の星はハッキリと見えるし雲なんてどこにもが当たらないもの。
「だったら自分の目で見てみなさいよ。ベガとアルタイル以外の星は綺麗に見えるはずよ。」
イマイチぱっとこないけど、これが不思議な出来事であることは間違いない。
調べて行けばひょっとすると面白いことを発見できるかも。そうと決まれば行動あるのみ!
「涼宮さん、どちらへ?」
「ちょっと調べに行ってくるわ。」
「調べるって当てはあるのか?」
「そんなもん行きながら考えればいいでしょ!」
時間は有限なんだからただ考える事だけに使うなんて勿体無いことはしたくないの。
「お、おい。」
小言なら後で聞くわ。今は、何でベガとアルタイルだけが消えているのかの調査が先。
あたしはキョンを無視し、ダッシュで屋上を後にした。
 
それにしても急に星が消えるなんてどうしたのかしら。まさか宇宙人の陰謀?だったら面白いのに…。
そんなことを考えていたので、足元の注意が疎かなっていたのかもしれない。
「えっ!?」
急いで階段を駆け下りていたあたしは足を滑らせて空中に体を投げ出されてしまった。
いくらあたしでも空中で体勢変えられるわけがない…ぶつかる!!
次の瞬間に襲うだろう痛みに備えて目を強く閉じて身構えた。
 
“ドンッ”という鈍い音が響いた。響いたのに…。
「あれ?」
痛くない。どうして?
目を見開いてみると大陸あたりの民族衣装を見にまとってしりもちをついている男に受け止められていた。
「いてて、大丈夫か?」
「!!」
あたしは驚愕した。男が日本のマンションの中にもかかわらず民族衣装を
着込んでいることに対してじゃなく、男の声と風貌に対して。
「キョン!?」
いや、そんなことあるはずがない。キョンはさっき屋上にいたんだもの、テレポートでも
使えないかぎり先回りは不可能で、そんな特殊能力をあいつが有している可能性は0だと断言できる。
「…じゃあないわよね。あんた何者?」
よくよく観察してみると、男の雰囲気はキョンより少し大人びていたし、しりもちを
ついているのでわかりづらいけど身長もキョンより少し高そうに見える。
「俺か?」
「質問を質問で返さないで。あんまりふざけてると通報するわよ。この不審者。」
「悪い、悪い。」
男は笑いをこらえるような顔でそう答えた。
「ちょっと、今のあたしの台詞の何処がおかしいって言うのよ!」
「まあ、そう言うなって。それよりいい加減退いてくれないか?この体勢は話しをするのに向いてるとは言いづらいぞ。」
確かに。あたしはしりもちをついてる男に覆いかぶさるようにしてるし、男はあたしを受け止めた
ときのまま、つまり下から抱きしめるような体勢。とても話をする体勢じゃないわね。
オッケー、話は起き上がってからにしまs…。
「おい、今すごい音がしたぞ大丈夫…」
えっ!?
「…………か…。」
「キョ…ン…!?」
「…………。」
全世界が停止したかと思われた。
と言うのは流石に冗談だけど一気に場の空気が悪くなってしまった。
「何やってんだ?お前…。」
キョンは苦虫を噛み潰したような表情でそう言った。
今のキョンを見てると自分が何か悪い事をした気分になるのは何でかしら。
「あっ、これは…。」
と、とりあえず誤解を解かないと…いや、その前にまずここから退かないと…あー、もう。頭がこんがらがってきたっ!
「こいつが足を滑らせて床にぶつかりそうになったから受け止めようとしたんだよ。もっとも、受け止めきれずにこうやって情けなくしりもちつく結果になっちまったがな。」
あたしが退くのを見ながら男はそう説明してくれた。
「!!」
男の声と風貌にキョンも驚愕を隠せないみたい。無理もない。いきなり自分そっくりな人間を見たんだもの。
「というわけよ。わかった?」
「…ああ。」
キョンは唖然としながらも肯いてくれた。見た感じ納得はしてくれた様子。
「誤解が解けて何よりだ。」
ほんと、誤解が解けてよかった。これで心置きなくこいつの尋問できる。
「で、あんた何者なのよ。」
「ああ、そういえばまだ名乗ってなかったな。いいか、聞いて驚くなよ」
「はいはい、驚かないからさっさと言いなさい。」
「俺は牽牛だ。」
はい?
「牽牛?」
牽牛って確か彦星の別名よね。
「ああ。」
「あんたが?」
「ああ。」
そう言われてみると男の格好は彦星っぽく見えなくもないけど、
「嘘っぽいな。」
キョンの言うとおり何か嘘っぽい。こう、雰囲気とかその他もろもろが。
「確かに嘘っぽいよな。自分でもそう思う。だが、嘘っぽいからって、本当に嘘とは限らないだろ?」
若干挑発を含んだ悪戯っ子みたいな笑顔で自称牽牛はそう言ってきた。
挑発的な台詞ね。いいわ、受けてたってやろうじゃない。
「いいわ。嘘っぽいけど面白そうだし、あんたの言ってること信じてあげる。」
「どうも。」
「おい、信じるのかよ。」
何よキョン。あたしがこいつの言ってることを信じようと信じまいとあたしの勝手じゃない。
「こいつ、あたしが床にぶつかる直前に狙い済ましたように出てきたのよ。しかも突然。
こいつが本当に牽牛かどうかはわかんないけど不思議な奴であることは間違いないと思うわ。」
「不思議なもんがホイホイ沸いてくるわけがない。そいつが突然現れたと思ったのは不意のアクシデントで気が動転してたからとかそんなオチだろどうせ。」
ムカッ。何よ今日はやけに絡んでくるじゃない。何時もはどうでも良さそうにしてるくせに。
「そうやって頭ごなしに物事を否定してばっかだからあんたはダメなのよ。宝くじは買わないと当たらないように、不思議だってその存在を信じてみないと見つからないわ。」
「あのなあ。」
「何よ!」
「まあまあ、お二人さん。」
あたしがキョンに詰め寄ろうとした所に自称牽牛が割り込んできた。
「仲良く痴話げんかしてるところ悪いが一つ聞きたいことがあるんだが。」
「「どこをどう見れば仲良く痴話げんかしてるように見えるのよ(んだ)!?」」
あっ、ハモっちゃった。
「そうだな色々あるが強いて一つ上げるならそういう息ピッタリなところだな。」
「「////////////////」」
は、恥ずかしい。たくバカキョンのせいでとんだ恥をかいちゃったじゃない。
「ぷっ、はははははははは。」
ちょっと牽牛笑いすぎよ。
「そ、れ、で?聞きたいことって何よ?」
恥ずかしさを押し殺すために強気な口調で牽牛に問い返す。
「お二人さん、織姫を見なかったか?」
織姫ってやっぱりあの織姫よね。
「織姫って七夕でベガな織姫でいいのよね。」
「ああ、その織姫だ。」
織姫と牽牛か、えらくタイムリーな話題ね。明日は七夕だし、現在進行形でベガとアルタイルが消えちゃってるし。これって偶然…じゃないわよね
「残念ながら見てないわ。」
「そうか。」
「ひょっとして、ベガとアルタイルが消えちゃったことと関係があるの?」
「まあな。じゃあ、俺はもう行くよ。ここにはあいつはいないみたいだし。邪魔したなお二人さん。」
「ちょっと待ちなさい。」
「うげっ。」
身を翻してこの場を去ろうとする牽牛の襟を捕まえる。
「もう少し優しく引き止めたらどうだ。自称牽牛が咽てるぞ。」
「げほげほっ。」
「うっさいわね。」
「…何だ?まだ聞きたいことでもあるのか?」
多少苦しそうではあるけれど牽牛は殆ど平然そうな感じでそう言った。
えらく立ち直りが早いわね。こういうのに慣れてるのかしら?
「あんた、困ってるんでしょ。それも不思議な悩みで。」
「不思議かどうかは人によりけりだが…そうだな、確かにお前たちからすれば不思議かもな。」
やっぱりね。織姫に牽牛に不思議、何だかワクワクしてきたわ!
「だったら、あたしたちが力になってあげる!」
「そりゃあ助かる。俺一人で織姫を探すのは骨が折れそうで、猫の手でも借りたいと思ってた所なんだ。」
「あたしたちSOS団が手伝うんだから織姫も直ぐに見つかるわ!大船に乗ったつもりでいなさい!」



屋上に戻ってみんなと合流したあたしたちは牽牛の紹介をそこそこに、彼が直面している問題の説明を聞いている。
「――と言うわけだ。」
牽牛の話を要約すると、余りにも退屈な日常に嫌気がさして飛び出して行ってしまった織姫を探して牽牛は遠路遥々地球のこの町までやって来たらしい。
成る程そのせいでベガとアルタイルが消えちゃったのね。…あれ?ベガやアルタイルからは10光年以上離なれてるんだから、彼らがいなくなっても直ぐには星は消えないわよね?…まあ、そんな細かいことどうでもいいか。それより今はこの不思議を思う存分楽しまなきゃね。
「皆状況は把握できた!?」
一応念のために皆に確認を取ってみると、
「もちろんです。」
古泉くんは爽やかな笑顔で、
「えっ、ええっと…、多分…わかったと思います。」
みくるちゃんは自信なさげな感じで、
「……………。」
有希は何時もどうりの無表情で、
「…ああ。」
キョンは何時も以上のむっつり顔で、それぞれ肯いてくれた。よし、皆ちゃんとわかってるわね。
「それじゃあ今からSOS団総出で織姫探しを開始します!」
「少しお待ちください、涼宮さん。」
古泉くんがあたしの台詞を遮るなんて珍しいわね。何かしら?
「どうしたの?古泉くん。」
「いえ。まだ僕たちは織姫さんの風貌をお聞きしていなので聞いておいたほうがいいのではと思いまして。」
「ああ、そう言えばそうね。」
牽牛があからさまな格好をしていることを踏まえると織姫もいかにもそれらしい格好をしてそうだから見かけたら一発でわかりそうだけど一応聞いておいたほうがいいわよね。
「牽牛、織姫ってどんな感じの人なの?」
「どんな感じか…そうだな…。」
何よ人のことジロジロ見てないでさっさと教えなさいよ。
「服装は俺みたいにいかにも織姫っぽいやつで…特徴は…反則的なまでよく似合っているポニーテール、この上なく整った目鼻立ち、銀河系を閉じ込めたみたいに輝かしくて大きい瞳、それから…。」
それじゃあ織姫がポニーテールの美人だって事しかわからないじゃない。でも、いかにも織姫っぽい格好をした美人が街中を歩いてたらかなり目立つだろうから、まあいいか。
そこまで考えたときに、ふと牽牛以外の視線を感じて振り返って見るとキョンが微妙な表情であたしをじっと見ていた。
何よ、人の顔をじろじろ見て。
「なあ、牽牛。一つ聞いてもいいか。」
「何だ?」
「まさかとは思うがその織姫ってハルヒを少し大人にして髪を伸ばしてポニーテールにした感じの見た目じゃないよな。」
はぁ?何言ってんのよ。偶々牽牛があんたに似てるからってそんなことあるわけ…。
「いや、そのとうりだ。」
…あったのね。事実は小説より奇なりだわ。
「あー…そう…。」
「織姫の風貌もわかったことだし今度こそ織姫探しを開始しましょ。」
皆で同じ所を探しても非効率的だから組を分けたほうがいいわよね。
「あたしは牽牛と組んで探すからそっちも二人一組に分かれて手分けして探してちょうだい。さっ、行くわよ牽牛。」
「おう。」
「ちょっと待て。」
「何よ。」
あたしはさっさと織姫探しに行きたいのよ。用件は手短にしなさい。
「俺も一緒に行く。別に二人一組3チームじゃなくて、三人一組2チームでもいいだろ。」
はい?いきなり何言い出すのよ、こいつ。
「別にいいけど、どうしたの急に。」
何時もだったらみくるちゃんと二人っきり的な事を想像して間抜け面になるのに。
「いや……ほら、あれだ…夜は色々と物騒だろ2人で行動するよりは3人の方が安全だろ。」
どちらかと言うと物騒なのはあんたの方だと思うけど。暗がりなのをいいことにみくるちゃんや有希に良からぬことをしだしそうだし。
「それに3人で探したほうが見落としが少なくなるしだな…。」
まあ、いいわ。ここでキョンと話を聞き続けてても時間の無駄だし一緒に行きたいんだった連れて行ってあげましょう。
「わかったわよ。じゃあ、あたしとキョンと牽牛のチームと古泉くんとみくるちゃんと有希のチームに分かれて織姫を探す。これでいいわね。」
「大変結構かと。」
「わたしはいいですよ。」
「…問題ない。」
あたしの問いかけに3人は笑いを堪える顔、やや驚き顔、何時もどうりの無表情で賛同してくれた。
はい。満場一致でけってーい。古泉くんが笑いを堪えてるのが少し気になるけど、それより探索、探索!
「オッケー!じゃあ、行くわよキョン、牽牛!」
あたしは二人の手首を取って駆け出した。
「おっとっと。」
「ちょっ、ハルヒ、いきなり引っ張るな。」
「引っ張られたくなかったらあたしより早く走りなさい。」
「…やれやれ。」
さあ、織姫探しの始まりよ!
 
「見つからないわね。」
「見つからないな。」
あたしたちがマンションを飛び出してはや1時間が経ったけど、一向に織姫の姿は見当たらなかった。
おかしいわね、牽牛同様それっぽい格好でうろついてんだったら目立つはずなのに。現に織姫を探し回ってる間、彦星はすれ違う人々に必ず振り替えられてたし。…でも見つかってないものは見つかってないわけだし……ううん。ちょっと楽観視しすぎだったわね。やり方を変えたほうがいいかも。
「キョン、みくるちゃんたちの方がどうなってるか電話で聞いてみて。」
「はいよ。」
「牽牛、ちょっと。」
「何だ?」
「織姫の人柄を教えなさい。」
「どうしたんだよ突然。」
「織姫の行動をプロファイリングするために情報が欲しいのよ。」
闇雲に探すより、織姫の人物像を掴んで行動を予測しながら探した方が上手くいきそうな気がする。
「成る程な。いいぜ、教えてやる。あいつの人柄は…。」
ちょっとワクワクするわね。織姫ってどんな人なのかしら。
「唯我独尊、傍若無人、猪突猛進―」
え?
「才色兼備、負けず嫌い、普通嫌い、イベント好き、ええっと、それから……ん?どうした?変な顔して。」
はっ、いけない。あたしとしたことが思わず唖然としちゃった。
「な、何でもないわ。」
織姫の性格があまりにもイメージと違いすぎたから驚いた…なんて言えないわよね。
「織姫ってちょっと変わってるのね。」
「そうだな。」
何よ、牽牛。そんなに笑って。何がおかしいのよ。
「変わってるとか、お前が人のこと言えた義理じゃないだろ。」
「ひゃっ。」
「ちょっと、キョン。いきなり後ろから声をかけないでよ。」
びっくりするじゃない。
「そりゃあ、悪かったな。」
「向こうはどうだったんだ?」
「こっちと同じだってよ。」
キョンはぶっきら棒にそう答えた。
キョンの奴、牽牛に対する態度が妙にとげとげしいわね。牽牛の何処が気に入らないのかしら?自分そっくりなのに。
それにしても本当にキョンと牽牛は似てるわね。まるで牽牛がキョンの未来の姿みたいだわ。
でも、どうしてだろ?何か牽牛が他の誰かにも似てる気がする…うーん、誰だっけ。
「それで、これからどうすんだ?」
キョンは視線を牽牛からあたしに移してそう聞いてきた。
「そうね…。」
この一時間で結構色んな所をまわったけど全く収穫無しだし、さっき牽牛から聞いた織姫の人物像だけじゃあ、プロファイリングするには不十分だし…。次は何処に行こうかしら。
 
「…そろそろかな。」
 
ん?
「何か言った牽牛?」
「いや、何も言ってないぜ。」
本当かしら?怪しい。
「キョンは聞こえなかった?」
「聞こえなかったぞ。空耳じゃないのか。」
おかしいわね。確かに、牽牛がボソッと何か言って気がしたんだけど。
「なあ、ハルヒ。お前、七夕って聞いたら何処を連想する?」
いきなりな質問ね。まあ、あたしもさっき似たようなことしたけど
「七夕で連想する場所ね…」
 
―まあ、七夕だしな。似たようなことをしてる奴に覚えがあっただけさ―
 
「東中かしら。あたしの母校の。」
「成る程。じゃあ、そこに行ってみようぜ。」
「あたしが七夕と聞いて思い浮かべる場所に織姫がいるかもってのは理論の飛躍しすぎじゃない?」
「そうでもないさ。織姫とハルヒは見た目だけじゃなく中身も似てるみたいだからな。」
そんなもんかしら?
「お前もそう思うだろ?」
疑問を解消しきれないあたしをよそに牽牛はキョンに話を振った。
「…そうだな、無いとは言い切れない。」
全く、その根拠はどこにあるのよ。まあ、いいわ。どうせ次に探す場所も思いつかないしその案に乗ってあげようじゃない。
「オッケー。二人がそう言うんだったら行ってみましょ。こっちよ。」
 
 
 
 
 
「もう少しで東中よ。」
東中か…4年前の七夕にあいつと出会った場所。そして、あたしが始めて不思議に出会った場所。
……あいつ今頃何処で何をしてるのかしら。
 
「…………い!」
そういえば以前キョンとあいつが似てるって思ったことあったわね。若干雰囲気が似てるのが気になる所だけど、当時はあいつも中1なんだからキョンがあいつなわけ無いわよね。
「……ル……!」
そうか。さっき牽牛がキョン以外の誰かに似てる気がしたけど、あいつだったんだ。見た目の年齢的にはキョンより近そうだけど、これも大概ありえないわよね。でも、ひょっとしたら…。
「おい!ハルヒ!」
キョンが急にあたしの肩を掴んできた。
「何よ。」
「そのまま進むと東中の前を通り過ちまうぞ。」
気が付くとあたしたちは東中の校門前に到着していた。
「あっ。」
いけない、考え事してせいで危うく通り過ぎるところだったわ。
 
まさか、またここに忍び込むことになるとわね。
少し感慨深いものを感じつつ、あたしは以前そうしたように門を乗り越える。
「よいしょっと。」
さて、織姫はいるかしら?
「よっと。」
少しだけ遅れてキョンと牽牛も門を乗り越えてきた。
「さあ、行くわよ。」
「へいへい。」
「おう。」
目指すは校庭。あいつとの思い出の場所。
 
 
 
 
 
「えっ!?」
校庭へとやってきたあたしは驚愕した。校庭に白線で巨大な地上絵が描かれていたからだ。
「嘘…どうして。」
しかも、その地上絵は4年前にあたしが描いたものと瓜二つ。
「あれはあたしとあいつしか…」
「遅い!罰金!!」
どこかで聞き覚えのある声があたしを正気へと呼び戻す。
「よお、織姫。」
「よお、じゃないわよ。あまりにもあんたが見つけにくるのが遅いから待ちくたびれたじゃない。」
視線の先をグラウンドから声のするほうに向けるとあたしより身長と髪が伸びていて髪形がポニーテールないかにも織姫って感じの格好をしたあたしそっくりの人物がそこにいた。
「待ちくたびれるようなら最初っからいなくなったりするなよ。」
「うるさいわね。こっちにも色々事情があるのよ。」
しかし…まさか本当にいるとわね。
「見つけられて良かったわね。」
「ああ。これもハルヒたちが協力してくれたおかげだ。ありがとな。」
お礼を言われるのって嬉しいんだけど何かむず痒い感じ。言われ慣れてないせいかしら?
「お礼なんていいわよ。あたしたちは不思議な出来事に出会えればそれだけでもう十分満足なんだから。ねえ、キョン。」
「ああ…そうだな。」
「何よその微妙な返事は。」
それに表情まで微妙だし。せっかく牽牛が織姫に逢えてめでたしめでたしなのに何か不満でもあるの!?
「別に。あっちこっち探し回って少し疲れてるだけだ。気にするな。」
「ふぅん。」
どうだか。
「さてと、織姫帰るぞ。」
「えー。折角だしもうちょっとここにいましょうよ。」
「ダメだ。」
「ケチ。」
「何とでも言え。」
今目の前で繰り広げられてるのは織姫と彦星の会話という物凄くレアな光景のはずなのに全然そんな感じしないわね。というか、どう見てもただの痴話げんかだし。…そうだ、折角だしさっきのお返しをしてやろっと。
「はいはい。仲良く喧嘩はあたしたちがいないところでやってよね。」
「「なっ!!」」
ふふふ。してやったり。


「気を取り直して…帰るぞ織姫。」
「わかったわよ。」
「二人とも悪いが、後で他の皆にも俺がお礼を言ってたって言っておいてくれ。」
「わかったわ。」
「わかったよ。」
それにしても二人ともどうやって帰るのかしら?
「二人ともちょっと後ろ向いててくれ。」
「何でよ。」
そんなことしたら二人が帰るところ見れないじゃない。
「大方。帰るところを他の奴に見られるわけにいかないとかそういう理由だろ。」
「まあ、そんなところだ。」
ちぇっ、ケチ。
「ほら、さっさと後ろ向くぞ。」
そう言ってキョンが肩を掴んでくる。
「自分で後ろ向くから手を離しなさい。」
「ダメだ。こうしないとお前がこっそり後ろを見るかもしれんからな。」
あたしに後ろを向かせたキョンはそう言ってさらにあたしの目を自分の手で隠す。
「ちょっと、何すんのよ。」
「気にするな。単なる保険だ。」
保険って、少しは団長を信用しなさいよバカキョン。
「じゃあな。お二人さん。」
あっ、牽牛と織姫が帰っちゃう。
「ねえ、牽牛。」
「何だ?」
「あんた、ひょっとして―。」
 
―ジョン?-
 
「ひょっとして、何だよ。」
「やっぱいいわ。」
よく考えてみると牽牛があいつであろうとなかろうと今のあたしには関係ないわよね。
「何だそりゃ。」
だって、今のあたしにはSOS団の皆がいるんだもの。…それに、時には答え知らない方がいい謎ってのもあるかもしれないしね。
「いいから、帰るんだったらさっさとしなさい。じゃないとキョンを振りほどいて振り向いちゃうわよ。」
「ふふ。それは困るわね。」
キョン以外の気配があたしに近づいくる。あれ?何か急に意識が…。
「バイバイ…か…の…たし…キョ…と………く……」
 
 
 
 
 
揺れている。闇の中、浮上しつつある意識の端っこで、あたしはぼんやりとそう感じた。
「………ん。」
寝ぼけながら目を開けてみて最初に見えたのはキョンの後ろ頭。どうやらあたしは背負われてるらしい。
…何で背負われてるんだろう?それ以前に何時の間に寝ちゃったのかしら。確かあたしは有希のマンションの屋上で天体観測をしててそれで…。
「起きたか?」
「…うん…一応…。」
でも、正直な所まだかなり眠い。気を抜くとまた寝ちゃいそう。
「その声だとまだ眠そうだな。このまま背負ってお前の家まで送っててやるからもう少し寝ててもいいぞ。」
「…あり…がと…。」
あたしは瞼の重みに耐えられなくなって再び目を閉じた。
 
「ねぇ…キョン…。」
「何だ?」
「あたし…何で…あんたに背をわれてる…わけ?」
よく思い出せないけど意識が途切れる前、あたしは織姫と牽牛と別れるところだったと思うんだけど。
「お前、天体観測の最中に寝ちまったんだよ。」
え?
「その後2時間くらい待ったけど全然起きなかったからそのまま解散したんだ。で、古泉が朝比奈さんを、俺がお前を家に送っていくことになったってわけだ。」
嘘…あれ?
「それ…本当?」
「嘘ついてどうするんだよ。」
「…そ…う…。」
夢…だったのかしら。確かに今考え直すとおかしな事だらけだったけど…。でも、あれが夢だとしたら物凄くリアルな夢をみたことになるわね。まるで去年の5月末のときみたいに。
「ここんとこ飛ばし気味だったからな、疲れが溜まってたんだろ。記憶が曖昧になってるのはそのせいさ。」
そう…なのかしら。…ダメだ…眠すぎて頭が上手く働かない。
「…………………。」
…お…や…す…み…。
「寝ちまったか?」
「……すー……すー……すー…。」
完全に意識が途切れる直前にキョンが何か言っている気がした。
「………な……ひ…………お……………ん……………ちゃ………………ら…」


 
「行っちゃったわね二人とも。」
「ああ、これで俺たちのすることも全部終了。後は朝比奈さんたちと合流して俺たちの時代に戻るだけだ。」
「にしても、あたしがこんなことをする羽目になるなんてね。みくるちゃんに行って欲しい所があるって言われたときには想像も出来なかったわ。」
「だろうな。俺も似たようなことがあったから気持ちはわかるぜ。」
「だったらもっと早く来なさい。あんたたちがなかなか来ないから暇で暇でしょうがなかったんだから。」
「そうもいかなかったんだよ。俺の記憶では俺たちはあの時間に東中行ったことになってたからな。」
「だからって、これはないわ。わざわざ過去に来てすることが母校のグラウンドに落書きして、その後ずっと待ちぼうけ、そんでもって織姫の真似事ってどんな3流RPGのお使いクエストなのよ!」
「朝比奈さんの依頼は大体こんな感じのお使いだ。諦めろ。」
「むー。」
「そんなにむくれるなよ。俺たちがこれをやったからこそ今があるわけなんだしさ。」
「…そうね、あれもこれもきっかけ作りだったということで納得した方がいいのかしら。」
「いいと思うぞ。」
「でも、やっぱりそれとこれは話が別。みくるちゃんは後でとっちめてやるわ。団長をあごでこき使った罪は重いんだから。」
「はぁ…。程々にしとけよ。朝比奈さんはお前と違って…」
「そうと決まれば早速みんなのところに戻るわよ!!」
「おい、人の話を聞け、袖を引っ張るな、少し落ち着け!」
「問答無用!!」
「やれやれ。何で俺はこんなやつに…」
「皆の所へレッツゴー!!」
「……まっ、今更か。」
「ほら、キョン。もっと早く走りなさい。転ぶわよ。」
「へいへい、わかったよ。」




「ほら、着いたぞ。」
「…………んんっ。」
そういえばキョンに家へ送ってもらってたんだっけ。
「立てるか?」
「大丈夫よ。」
まだ少し眠いけど頭の回転は幾分ましになったわ。さっき眠ったおかげね。
「ならいいが。」
「じゃ、また明日ね。」
とはいえ眠いものは眠いわ。今日はさっさと寝よっと。
「ああ、また明日。」
あたしはキョンに手を振りながら玄関へと歩く。
「………ハルヒ。」
「何よ。」
あたしは眠いのよ。くだらない話なら明日にして頂戴。
「………やっぱり何でもない。」
変なキョン。まあ、いいわ。とりあえず今は一刻も早く布団にダイブしたい。
「あっそ。」
「じゃあな。」
行っちゃった。暗がりにちらっと見えたキョンの横顔に若干朱がさしてたような気がするけど気のせいよね多分。
ふと携帯を見てみる。今日は7月6日、七夕イブ。
「明日は七夕か。」
七夕には色々思う所があって毎年少し鬱になるんだけど今年は大丈夫よね。今のあたしは去年までのあたしとは違う。
それにあたしにはSOS団の皆、みくるちゃんに有希に古泉くん、…そして、キョンがいるから。
「頼むわよバカキョン。」
どうか、明日の七夕があたしたちにとって楽しい日となりますように。
 
 


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