熱い日差しが私の涼んでいる甘味処に設置された窓から突き刺さっており、耳障りな蝉の命をかけた大合唱が、店内へかすかに届いている。
「今年の夏は暑くなりそうだ」
 涼宮さんあたりに頼めば少しは気温の上昇を抑えてくれそうだが、無理だろうね。
 そんな当たり障りの無いことを思いながら、口腔内で堪能している餡蜜を飲み込む作業に没頭している。
 女一人、甘味処で何をしているかと思うだろうが、ここの餡蜜は絶品なのさ。
 中学時代、岡本さんに教えられて以来、私は事あるごとに、ここへ癒しを求めて来ている。
 しかも本日は七夕感謝サービスデイ。浴衣を着てきた客限定で5%の割引が適用されるとホームページに書かれていた。
 と言うわけで、本日は家から藍色の浴衣を引っ張りだし、お気に入りの餡蜜を堪能している。
「……ん?おお!佐々木じゃねーか」
 舌が癒されている最中、店内に流れる静かなBGMをかき消して、キョンが声を張り上げている。
「店内ではお静かに。キョン」
「そいつはわりぃ。そこ、座っていいか?」
 キョンの指が、カウンター席に座る僕の隣の席を指し示す。もちろん断る気も理由も無いので、数コンマで首肯した。
「意外だね。君がこんな情緒溢れる甘味処をリスペクトしているとは思わなかったよ」
「トゲのある言い方だな。つーか俺は旨けりゃ何でもいいんだが、母親がここの店の水ようかんが好きでな。
 ぶっちゃけ、ただのおつかいだ」
 ここの水ようかんか。キョンのお母様は見る目がある。メディアに露出してもおかしくない程に美味だが、店主の確固たるプライドが出演を拒否しているらしい。正に至高の職人魂である。
「そういうの悪くねえな」
 そこまで言って、キョンは和服のウェイトレスに水ようかんを注文した。
「しかしいーな浴衣は。こういう熱い日だと特に」
 キョンの若干の下心が混じった視線が、僕の首筋に集中している気がする。
「くっくっ。なんだいキョン?僕のうなじがそんなに気になるかい?」
 僕は餡蜜の租借を一時的に中止し、椅子をクルリと回転させた。この助平め。そんな君には心拍数を上げる仕置きをしてあげよう。えーと、たしかヘアゴムがあったから……
「ぐはっ!お、お前、それは俺が生粋のポニテリストだと知っててやっているのか?」
 君がうなじに過度の性的興奮を覚えることと、アップした髪を嗜好していることは知っている。岡本さん情報だが。
「岡本っ。なんて妄言を佐々木に吹き込んだんだよ」
 妄言ではないね。事実だし。
「そうだが……あ、できればそのままミニポニテでいてくれ。いてください。この暑い中おつかいに来た俺に一時でも清涼と癒しをくださいお願いします」
「やれやれ。もっとも君の頼みだ。断る理由は無いよ」
 「親友」である君のね。

 

 



「なぁ、ところでその餡蜜旨そうだな」
 僕のうなじを見るためか、カウンターに肘をつきながら横目で眺めるキョンの視線が、僕の餡蜜に止まった。
「ああ。とても美味さ」
 素直な感想である。これを不味いなんて言う人間は、一体今までどれほどの美味しい甘味を食べてきたのか問いただしたい。
「一口くれ」
「へ?」
 キョンの腕が、スリ師よりもすばやく伸び、僕が握るスプーンの手を掴み、
「おお。こいつはイケる」
 一気に口元まで運んでしまった。
「あ……」
 思わず普段より三割り増しほど甘い声が漏れたのは、餡蜜を食べていたからである。絶対。
「すまんすまん。あんまりにも旨そうだったからな。お、ようかん来た」
 キョンは何事も無かったかのようにカウンター席から立ち上がり、水ようかんの入った紙袋を受け取り、言いやがった。
「ん?佐々木、頬が赤いぞ?日射病か?」

「……もう知らない!」

 浴衣の中で真っ赤に彩られている脚が、勝手に女子トイレへと歩を進めた。


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