私が情報思念体に生み出されてから6年がたった。
 
私がここにいる理由は涼宮ハルヒの観測。ただそれだけ。
 
卒業まであと半年を残したところで私の後任が決まり、私は卒業と同時に回収される事になった。
 
もちろん、この話はだれにも話してはいない……
 
 
 
この事を彼に話せば、きっと止めてくれるに違いはない。
 
でも……。私は彼には話せない。
 
彼と彼女は結ばれる運命にあるのだろう。それは間違いない。
 
周りもきっとそう思っている。 私もそうなると確信している……
 
それでも……
 
 
……
キョン「よう。長門!相変わらずそんな服一枚でさむくないのか?」
 
長門「……寒くない」
 
キョン「いいよなお前は。情報操作とやらで体温調整でもしてるのか?」
 
長門「そう……」
 
キョン「そっか。」
 
相変わらず私と彼の会話は短い。 それでも私には十分すぎる程……
 
 
うれしい。
 
 
最近、私は彼と登校するのが日課になっていた。
 
いや……私が彼の登校時間に合わせている。
彼はそんな私にきづいてくれているのだろうか?
 
キョン「最近、朝遅くないか?」
 
長門「……感……」
 
キョン「ん?なんだって?」
 
長門「……なんでもない。」
 
やはり、彼は気付いていない。彼の鈍感さは昔からわかっている。
 
 
こんな気持ちを彼に気付いてもらっても困る。
 
私は消えていく存在……
 
誰か悲しんでくれるだろうか?
 
そんな事を考えている自分が馬鹿馬鹿しい。
 
 
すべてが嫌になってしまう。
 
 
そんな自分との葛藤が毎日続いている。
 
考えるだけ無駄なのに……
 
長門「わかっている……」
 
キョン「何がだ?」
 
口に出てしまっていたらしい
 
長門「……気にしないで……」
 
キョン「そか。 そうだ長門!」
 
 
 
私は彼の一言で残りの半年を……いや、これから一生忘れられないであろう時間を過ごすことになった
 
 
キョン「卒業まであと半年だろ?」
 
長門「そう。」
 
キョン「それでだ。ハルヒや古泉とはけっこうなんだかんだで交流があったわけだが……これといってお前と何かしたか?と聞かれるとそうではない。」
 
長門「……」
 
キョン「勘違いするなよ!お前のことはsos団の中で……いや、世界中で一番の信頼をしている。もちろんお前からもその信頼をもらってると思っている。」
 
長門「……あなたの言っている言葉がよく理解できない。」
 
キョン「まあ、焦るな。本題はこれからだ。」
 
 
キョン「お前にはかなりお世話になって感謝している。世界で一人取り残された時も雪山の時も佐々木の時も……お前はいつも俺の願いを叶えてくれた。」
 
キョン「だからな、卒業までに少しくらいお前に感謝の気持ちを態度で示したいと思ってだな、足りない頭で考えたわけだ!」
 
長門「……なに?」
 
キョン「長門。お前の望みを言ってみろ!まぁ、俺ができる範囲でならなんでもやってやるぜ?」
 
 
彼の言葉を聞いて私はあっけにとられてしまった。
 
私の望み……?
 
 
キョン「すぐには思いつかないだろう?よく考えて俺に聞かせてくれよ!そんじゃまた部室でな!」
 
 
そういうと、彼は白い息を吐きながら足早に校舎の中へと入っていってしまった。
 
その日の授業は頭には入っていなかった
 
窓の外を眺め、朝の出来事を思い返していた。
 
 
この6年間は涼宮ハルヒを中心に色々な事に巻き込まれていた。
 
非日常。これが当たり前になっていた
 
つまらなくはなかった。むしろ、私にとってとても有意義な人生だったのかもしれない。
 
でも、本当にいいのだろうか?
 
残りの半年をこのまま過ごし、何もなかったかのように消える。
 
 
 
 
嫌だ
 
 
……
放課後、いつものように部室の窓際で本を読む。
 
彼や、涼宮ハルヒ・古泉一樹は受験が近いということで問題集と必死に格闘していた。
 
ハルヒ「ちょっとキョン!こんな時期にこんな問題も説けないわけ?あんたは私と同じ大学に行くんだからしっかりなさい!」
 
キョン「だー!もう嫌だ!俺は底辺大学でいいんだよ。」
 
ハルヒ「SOS団は大学に行っても継続するのよ?あんた1人で違う学校にいってどうすんのよ?いじめられるわよ?」
 
キョン「なんで虐められるんだよ……そもそも大学までいってもやるつもりなのかよ!?」
 
 
ハルヒ「当たり前じゃない。まだ宇宙人、未来人、超能力者を見つけてないんだから……ともかく団から浪人生なんて出させないからね!」
 
キョン「この大学一本でやらせるつもりかよ……」
 
古泉「んっふ。」
 
 
3人の光景を横目でみながら、少し胸が痛むのを感じた。
 
長門「??」
 
体に異常は見当たらない。またエラー……
 
いや、違う。これは感情
 
私はきっと3人の事が羨ましいだろう。
 
 
 
なんで?
 
 
 
 
いや、答えは前から知っていた。
 
それを無意識に頭から切り離していただけだ。
 
叶わぬ夢。儚い夢。
 
 
神様だけがきっと叶えてくれるだろう
 
 
 
 
 
 
私は……普通になりたい。
 
 
翌日……
いつものように彼の登校時間に合わせてマンションを出る。
昨日はまったく眠れなかった。今日のことを考えると心拍数があがり、体温も上昇。体のありとあらゆる器官が制御出来なくなっていた。
 
 
キョン「おっす!長門。」
彼が後ろに居たことにまったく気付かなかった私は少し驚いた。
 
長門「おはよう。」
 
動揺を隠し切れていたか不安だったが彼の様子を見て安心する。
しかし、彼の一言でまた動揺することになる。
 
キョン「どうだ?考えてまとまったか?」
 
きた。ついに言う時がきた。
昨日から考えていた私の願い。
これ以上は何も出てはきてくれなかった。
 
 
長門「なにもない」
 
と言ってしまえばそれで終わるだろう。そのまま卒業を迎え消えていく……
私はきっと後悔するだろう。
 
 
 
たった半年の時間だけの我が儘…… 少しでも彼と一緒に居たい……
全てを忘れ、全力で生きよう。
 
長門「あなたの……」
 
 
キョン「あなたの?」
 
 
長門「あなたの彼女になりたい。」
 
 
言ってしまった。
 
私は彼を見ることがまったくできなかった。
 
キョン「……」
 
 
いつもの沈黙が今の私にはとても辛い。まるで世界が自分一人になってしまった感覚に襲われる。
 
待っても待っても彼の返事が返ってこないことに私は我慢が出来なくなり、
 
 
長門「無理にとは言わない。忘れて……」
 
私は後ろを振り向き足早に去ろうとした。
 
キョン「ちょっと待ってくれ!」
 
彼の腕が私のカバンを掴んでいた
 
 
 
長門「……なに?」
 
私は今にも消えそうな声で返事をする
 
キョン「ちょっとビックリしちまってな……その、なんだ?お前からそんな事言われるとは思っていなくてな。」
 
長門「これは私の暴言……」
 
キョン「暴言なんかじゃないぞ?それはお前の大切な感情だろ?そんな言葉で片付けるなよ!」
 
長門「……あなたには涼宮ハルヒがいる。」
 
キョン「ハルヒは関係ない。俺はそんなに奴の事を思ってないぜ?それに……」
 
長門「……?」
 
キョン「俺だって……長門のこと……」
 
長門「私のこと……?」
 
キョン「彼女にしたいと思ってたんだよ。」
 
私は固まった。
彼が私を好いていてくれていた。それだけじゃない。私と同じ気持ちだったなんて……
 
長門「いいの?」
 
キョン「まぁ、あんまり頼れる男じゃないが……卒業までといわず、これからも仲良くやっていこうぜ?」
 
その言葉を聞いて私は彼に罪悪感を抱いてしまう。
私は消えてしまう。彼を置いて消えてしまう。
 
その時、彼は……
いや、今は忘れよう。
今は全力で生きよう。
 
長門「仲良く……やる。」
 
 
彼がにこっと笑う。その笑顔がとても眩しく見える。
私も彼にこんな笑顔を見せてあげよう
 
キョン「んじゃ、学校いくか!」
 
彼が手を出してくる。
 
キョン「ほら!手つなごうぜ?」
 
長門「手……」
 
彼の手をそっと握る。今まで感じたことない人の暖かさ。とても気持ちがいい。
 
キョン「長門の手はあったかいな。」
 
長門「あなたの手も暖かい。」
 
 
キョン「……なんか照れるな。」
 
長門「なぜ?」
 
キョン「なんとなくだ!」
 
 
 
彼が顔を真っ赤にしているのを見て私まで赤くなる。
 
きっとこれが普通の高校生活なんだろう。 私は今までこんな事をできなかったなんて……
 
少し残念……。 けど、今がとても幸せだから昔のことは忘れよう。
 
長門「涼宮ハルヒには説明が必要……。」
 
私は気掛かりだったことを彼に尋ねてみた。
 
キョン「あいつは多分大丈夫だ。それに最近、古泉と仲いいからな?気付かなかったか?」
 
長門「気付かなかった」
 
キョン「まあ、俺もなんとなくだからな……とりあえず今日の団活でみんなにはなそうぜ?」
 
長門「わかった」
 
 
 
……放課後
 
 
キョン「……ってなわけで俺と長門が付き合うことになった!」
 
古泉「これは驚きですね。まさか長門さんから告白されるなんて」
 
ハルヒ「ふ~ん。まあ、いいんじゃない?それよりキョン!デートばかりにうつつ抜かしてちゃダメよ!勉強もしっかりさなさい!」
 
キョン「その点にぬかりはない。長門が直々に俺をみてくれる事になっている」
 
ハルヒ「有希が先生なら安心ね。あんたと違って優秀だからね。」
 
キョン「一言よけいだハルヒ」
 
ハルヒ「けど、本当によかったの?有希。」
 
長門「いい。」
 
ハルヒ「有希もたまにわからないときがあるわね……。いいわ!幸せになりなさい!私はあんたたち二人を応援するわ」
 
 
 
 
その後、涼宮ハルヒは彼にむかって恋愛のなんたるかを語っていた。
とりあえず、私の懸念された事態は回避され胸を撫で下ろす。
 
 
私はそんな二人の会話を耳で聞きながらこれからの生活に胸を弾ませていた。
 
 
 
 
学校の帰り道、彼が私にこんな事を言ってきた。
 
 
キョン「長門、お前に一つ頼みごとがある。」
 
長門「なに?」
 
キョン「それ!それだよ。」
 
長門「……?」
 
キョン「言葉遣いを少し直してみないか?急に全部とは言わん。少しづつ人間らしくしていこうぜ?」
 
彼の言っている事は正しい。私の言葉はいつも原稿用紙一行を越えたりはしない。
私も努力をしなければ……
 
長門「う、うん。わかった……」
 
とてつもなくぎこちないのが自分でもわかり、彼もそれを見て笑っていた。
 
 
 
長門「……おかしい?」
 
 
キョン「悪い!そんなことないよ。ただ、お前のガチガチの顔を見てたらおかしくなってさ」
 
長門「いじわる……」
 
キョン「もう笑わないから!頼むぜ!」
 
そして、また彼は手をだしてきた。
 
キョン「んじゃ、寄り道して帰るか!」
 
その手をを私は掴み、彼の方を見た……
 
キョン「…………!!!」
 
 
 
 
今の私はうまく笑えたかな?
 
 

 
 
翌朝…
 
しかし、昨日の長門には驚かされた。
俺は昨日の帰り道の出来事を思い返していた。
 
キョン「人は変われるもんだな……」
 
いや、宇宙人なわけだが、あえてノリ突っ込みはさけておく。
こるから長門の変化はみのがせないな……
俺はこれからの生活にかなり心踊らせ家を出た。
 
いつもの曲がり角。ここを曲がると長門がいる。
 
キョン「よう!長門!」
 
長門「おはよう。」
 
少し長門が眠そうな感じがしたが……まぁいつものことか。
と、長門を見ていると鞄とは別に紙袋が手からぶら下がっているのが見えた。
 
キョン「なんだそれ?学校でなんかあるのか?」
 
と、聞くと長門は紙袋をなぜか隠すように鞄に詰め込んだ。
 
長門「なんでもない。きにしないで」
 
長門が気にするなってんだから気にしなくていいんだな。
 
キョン「そっか…それより………」
 
 
それから何気ない会話を続けながら学校へと続く坂道を登っていった。
 
 
昼休み
俺はいつものように国木田、谷口と飯を食い始めようとした時クラスの女子に声をかけられた。
 
女「キョンくん。長門さん?だっけ?教室の前まできてるんだけど……」
 
教室の後ろのドアを見てみると俺の視線から隠れるように立っていた長門がいた。
 
キョン「どうした長門?入ってこいよ!」
 
声をかけるが、なぜか長門は出たり入ったりを繰り返している。
 
新しい遊びかなんかか?
少しいたたまれなくなってきたので、迎えにいくことにした。
 
 
キョン「どうしたんだ長門?」
 
長門は下を向いたままこちらを見ようとしない。何かモゴモゴして何か言ってるようだがよく聞こえない。
少し困っていると、長門の手に朝の紙袋がぶら下がっているのが見えた。
 
キョン「それどうしたんだ?」
 
というと、急に長門は俺の顔を見上げた。
顔がゆでダコ並に真っ赤に染まっていた。
 
長門「うまく言語化出来ない…情報の伝達に……いや、でも聞いて。落ち着いて。」
 
キョン「まず、お前が落ち着け。どうした?」
 
 
長門「お、お弁当を作ってきた。味は保障できない……一緒に食べて。」
 
 
絶句してしまった。まさかあの長門が俺に弁当を作ってくれるなんて予想を遥かに越えてしまっている。宇宙人特製弁当が俺の前に差し出されている。
 
 
後ろを振り返ってみるとクラス全員がこちらをむいて口をあけていた。
 
谷口にいたっては……すでに禁則事項の域にたっするほどの驚愕顔だった。
 
キョン「あ、ありがとな。長門。えーと、ちょっとここじゃなんだから屋上で食べるか?」
 
というと長門は俺を見たままコクンと頷きそのまま屋上の方へフラフラしながら歩いていってしまった。
 
キョン「お、おい!待てよ!」
 
 
屋上……
 
長門「おいしい?」
 
キョン「俺は今、猛烈に感動している。長門……お前は今から料理人をめざせ。いや、すでに5つ星レストランの料理長を勤めていてもおかしくわない」
 
 
長門「よかった。朝早起きしたかいがあった。」
 
 
キョン「だから眠そうだったのか?なんか悪いな。」
 
長門「いい。あなたに喜んでもらえるなら……」
 
長門「これから毎日あなたの為にお弁当を作ろうと思う。許可を」
 
キョン「許可って……俺はいっこうにかまわんが……むしろ大歓迎だ。」
 
長門「わかった。あなたの好きな食べ物はなに?」
 
キョン「そうだな……結構和食が好みだな。」
 
長門「努力する。」
 
 
彼が私の作ったお弁当を喜んで食べている。
 
 
よかった……。実は昨日はまったく寝ていない。いくら万能型の私とはいえ、初めて料理はかなり悪戦苦闘の連続だった
なかなか本の通りにはいかないな。
 
 
彼の笑顔を見る。そんなことはどうでもよくなる程まぶしい……  あと、半年。私には時間が無い。
残された時間、彼の為に生きる。彼の笑顔をたくさんみたい。
 
その為なら私はなんだっておしまない。
 
 
神様なんているのかわからないけど、いるのなら彼の笑顔を絶やさぬように私に力をください。
彼を幸せにする力を……
 
そんな気持ちを悟られぬように今日もぎこちない笑顔を彼に向ける私だった……
 
 
季節はチラホラ雪が降り始めた12月中旬。 入試が近くなってきたということで、部室内ではシャーペンの音だけが聞こえるようになっていた。
 
キョン「ふぅ…ハルヒ。今年のクリスマスパーティはどうするんだ?」
 
ハルヒ「そうねえ……。本当はやりたいところなんだけど、みくるちゃんは連絡とれないし、鶴屋さんもなにかと忙しいらしくて……」
 
キョン「お流れか?」
 
ハルヒ「まあね。しょうがないわ!受験が終わったら盛大になんかやりましょう!」
 
キョン「お前の盛大は怖いんだが……まぁしょうがないな。少し残念な気がするが……」
 
ハルヒ「sos団としては情けない限りだけど……まああんたも有希と過ごす始めてのクリスマスなんだから二人でラブラブにすごしなさいよ?」
 
キョン「言われなくてもそうするよ。」
 
するとハルヒが俺の耳を引っ張り顔を近付けてきた。
 
ハルヒ「ちょっとあんた……なんか考えてるんでしょうね?」
 
キョン「なにかってなんだよ!?」
 
ハルヒ「はぁ?あんたバッカじゃないの? プレゼントよ!ぷ・れ・ぜ・ん・と!」
 
キョン「まだだが……」
 
ハルヒ「あんたって本当に最低馬鹿野郎ね。いい?女ってのはこういうイベントを大切にしてるの!」
 
 
 
ハルヒ「しかも相手はあの有希よ!大切な人からもらったものなんてあの子一生大切に持ってるわよ!」
 
キョン「……」
 
ハルヒ「それにね。どうせ奥手のあんたの事だからキスもしてないんでしょ?」
 
キョン「さてな……」
 
ハルヒ「ごまかしたって私には通用しないわよ?あんたら小学生じゃないんだからこれを機会にブチュっとやっちゃいなさいよ!」
 
キョン「へいへい」
 
ハルヒ「まったく世話がやける二人ね。」
 
 
そういうと、なぜかハルヒはプンプンしながらいつもの席に戻っていった。
古泉はいつもの含み笑いを浮かべこっちを見ていた。
 
プレゼントか……まあ実はすでに用意してあるんだがな。
ハルヒに言うと騒ぎ立てられそうだったのでとりあえず黙っておいた。
 
あとは雰囲気づくりなんだが……キスとかは差し置いて、さすがに俺はここまで頭が回らなかった。
 
あとで古泉に聞いてみるか……
 
俺は窓際で本を読んでいる少女にチラリと目をむけ、また問題集をときはじめた。
 
 
 
彼と涼宮ハルヒが何かを喋っている。 少し聴力の感度を上げようかと思ったが下品なような気がしてやめた。
 
もう12月か……楽しい時間はあっというまだな……。
 
待機モードやエンドレスサマーを経験していた私は時間なんて早く過ぎればいいと思っていた。
 
人は変わるものだな……
 
自分を人と言っている事に気付いて少しおかしくなる。
 
私は宇宙人……みんなとは違う。 消えちゃう……
いくら普通になりたいと願ってもそれは叶わない願い。
 
 
 
彼との普通の生活は三月まで……
 
それまでに彼にいわなくちゃ……
 
 
彼を見る。こんな私に素敵な時間を与えてくれている。 感謝なんて言葉ではあらわせないくらい幸せにしてもらっている。
 
キョン「頼りなくてごめんな。」
 
これが最近の彼の口癖…本人は気付いてないだろうけど。
彼の一つ一つの言葉や仕草は私にとって大切な思い出になる。忘れない。
 
 
 
そういえば、世間はクリスマスというイベントが近づいていた。
毎年経験していたものの、これといって特別思い入れはなかったが今年は彼と過ごす最初で最後のクリスマス。
おのずと気合いが入ってしまう。
実はすでにプレゼントは用意してある。考えに考えた結果なので、後は彼が喜んでくれればいいかな?
 
デートの場所までは頭が回らなかった。まあ、ここは彼にまかせておこう。
彼と一緒ならどこでもいいけれども……
 
 
外を見ると少し雪が降っていた。
 
 
ホワイトクリスマスになるといいな……
 
 
その日の帰り道……
 
キョン「なぁ長門……クリスマスなんだけど……」
 
長門「…うん」
 
キョン「泊まり掛けでどこかにいかないか?」
 
長門「泊まり…!?」
 
 
キョン「いや!下心とかそんなもんはまったくないぞ?!いや、ないっていったらおかしいかも……いや!とりあえずだ、せっかくハルヒがクリスマスは二人で過ごせって言ってるしな……」
 
彼が慌てて弁解してる姿を見て思わず笑ってしまった。
 
キョン「……なんで笑ってるんだよ?」
 
長門「なんでもない。気にしないで?」
 
彼と一緒なら何処でもなんでも私は嬉しいのに。
彼は本当に鈍感だな。
 
それに……彼なら私は何をされてもいい。いや、多分もっと好きになってしまうと思う。
そんな気も知らずに彼は顔を真っ赤にしてまだ何かを言っていた。
 
長門「泊まりでもいい。あなたにまかせる。」
 
キョン「本当か?よっし。まだ時間あるから急いで探すから楽しみにしてろよ?」
 
長門「うん。楽しみにしてる」
 
すると彼は私をじっと見ていた。
 
キョン「最近のお前は本当に変わったよな?宇宙人って事を忘れるくらいだ。」
 
……
 
彼と別れ自分の部屋に戻ると、私は洗面台の鏡で自分をまじまじと見てみる。
 
変わったかな……?
 
確かに昔より言葉使いが改善され、彼との会話も続くようになっていた。
 
だけれども、どうしても笑顔がうまく出来ない。ぎこちなさではなく、何か影が見え隠れしている……やはりこのまま隠しておくのは……
 
駄目だ。今はまだその時ではない。せっかくのクリスマスも台無しになってしまう。
 
私はソファーに身を投げだし、天井を見つめる。
 
 
私は彼に本当の笑顔を見せることができるのだろうか……?
 
そしてそのまま私は深い眠りについていた
 
 
 
クリスマスイブ
時間は午前六時。
私はいつものように定刻に起きる。
 
今日は彼との楽しい旅行……なんて大袈裟なもんじゃないけど。
 
 
数日前……
部室にて
キョン「長門……やはり俺には限界があるようだ……」
 
彼が見せてきたのはある遊園地のパンフレットだった。
 
長門「これは……」
 
と、私が言う前にとなりで見ていた涼宮ハルヒが呆れたように口を挟んできた。
 
ハルヒ「ディズニーランド?あんたほんっと応用力ないわね。なんというかベタすぎ!」
 
キョン「うっ…やはり…」
 
ハルヒ「しかもね、クリスマスなんて大イベントの時なんて人でゴッチャゴチャよ?」
 
 
ハルヒ「乗り物には乗れないし、寒い中有希を何時間も外に待たせる気なの!?信じらんない……」
 
キョン「ぐっ……いいかえす言葉がありません。」
 
ハルヒ「今すぐ考え直しなさい。時間はまだあるわ。」
 
キョン「長門……そういう事だ……」
 
というと彼はトボトボと部室を出ていこうとした。
 
長門「まって。」
 
彼が足を止める。
 
137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 12:19:23.07 ID:kZTHfdIOO
 
 
長門「彼女の言ってることは間違いではない。私もそれは思う。けど……あなたが一生懸命選んでくれた場所だから。私はそこに行きたい。」
 
キョン「いいのか長門?」
長門「いい。私はそこにあなたといく。」
 
キョン「……長門」
 
ハルヒ「かぁー!まったくあんたたち二人は!!なんなのこれ。この部屋だけ赤道直下よ!古泉くん。窓全開にあけてちょうだい!」
と、いつもの席に着き後ろを向いてしまった。
 
 
古泉「クスッ。涼宮さんはあぁ言ってらっしゃいますが、本当はあなたたちの事を本当に心配されてるんですよ?」
 
キョン「長門が大切にされているのはわかる。だが、俺はいつも罵倒されっぱなしな気がするが?」
 
古泉「ここだけの話し、あなたたちが居ない間、私は質問攻めにあってるんですよ?」
 
キョン「質問攻め?」
 
古泉「ええ。いつもキョンは有希と喧嘩してないの?仲良くやってるの?プレゼントは決めたのかしら?と、それはもぅうんざりするくらい……」
 
 
ハルヒ「古泉くん。」
 
古泉「おっと。僕の話はここまでです。信じて頂けましたか?」
 
キョン「にわかに信じがたいのだが……」
 
 
 
 
古泉「それは……チラッ 当日になればわかりますよ」
 
 
キョン「なんのことだかさっぱりわからん。」
 
長門の方を見ると何やらパンフレットを穴が空くんじゃないかというほど見入っている。
 
 
顔が少し笑っているような気がした。
 
 
キョン「こりゃしっかりエスコートしないとな……」
 
古泉「頑張ってくださいね。影ながら応援しています。」
 
……
 
………
 
私は鏡の前に立つと髪を整え始めた。
 
少し伸びた髪の毛を見て、もしかしたら結べるかも……
 
少し短い気もしたが、せっかくなので彼の好みに合わせたかった。
化粧も涼宮ハルヒから習い、自分で色々勉強したが
 
ハルヒ「有希はあんまり触らないほうがいいわね。ナチュラルで十分はえるわよ!」
 
と言っていたので簡単にメイクをほどこし、今日着ていくために買った服に袖を通し、小さいキャリーバック片手にマンションをあとにした。
 
 
もちろん、彼のプレゼントはしっかりとポケットの中で出番をまっていた。
 
 
彼との待ち合わせは
駅前に9時集合なのだが…私は一時間前に着てしまっていた。
 
長門「少し早すぎた……」
 
もちろん、彼はまだきていない
 
 
私は何もすることがないのでただベンチに座り、彼を待つことにした。
 
 
何分くらい過ぎただろうか、本を読んでいた私の前に小さな子供がたっていた。
 
 
長門「なに……かな?」
 
なるべく優しい口調で話し掛けた。
 
しかし、女の子は私の顔をじっとみたまま動かない。
私が少し困りかけ始まったとき、急に核心をついてきた。
 
女の子「おねえちゃん、うちゅうじん?」
 
子供は鋭いというが、ここまでの子供は初めてだな…… まあ、子供相手なので嘘をつくつもりはなかった。どうせ親は信じないだろうし。
 
 
 
 
長門「当たっている。なぜわかったの?」
 
女の子「わかんなぁい。なんとなぁく。」
 
女の子はまた黙ってしまった。 私の言葉をまっているのだろうか?
 
長門「あなたはかわっている。とても不思議。」
 
女の子「わたしね、むかしからよくいわれるの。かわりものって。けど、みーちゃんふつうの女の子だよ?」
 
普通の女の子……
あまり聞きたい言葉ではない。この子も将来、他人と違うことに悩み、葛藤するのだろうか……
 
 
 
 
長門「そう。あなたは普通の子。何も気にすることはない」
 
私は今出来る最高の笑顔で答えてあげた。
すると、女の子が笑くぼ付きの笑顔で返してくれた。
 
女の子「おねーちゃん、きれいでやさしいね。」
 
長門「ありがとう。」
 
女の子「とくべつにみーちゃんが、しあわせになるおまじないしてあげる!」
 
女の子「おでこだして!」
彼女はそういうと、私のおでこに手をかざしてきた。
 
長門「………!!!」
 
 
 
急に体に何かが流れ込んでくる感覚に襲われたが、とても温かく、優しいものだった。
 
少女は私から手を離すと
 
 
女の子「みーちゃんのおまじないはぜったいだから!あんまりやっちゃだめ!っていわれてるけど、お姉ちゃんはとくべつね!」
 
長門「あなたはいったい……」
 
「みーちゃん!何してるの?置いてくわよ!」
 
遠くから母親の呼ぶ声が聞こえると少女は私に手を振りながら走り去ってしまった。
 
長門「不思議な子……」
 
 
 
キョン「なんだ知り合いか?」
 
長門「!?」
 
 
キョン「どうした変な顔して?」
 
長門「時間……」
 
キョン「ん?9時待ち合わせだろ?」
 
私は驚いた。確かに少女にとあったときは8時から5分くらいしかたっていなかった。会話をふくめても10分くらいしか一緒に居なかったはず……
私に気付かれずに時間を跳躍した??
 
私は少女の去っていった方向をみたが、すでにどこかにいってしまったみたいだった
 
 
長門「……」
 
キョン「……なんか悪いことしたか?」
 
彼の言葉で現実に引き戻される。どうやら眉間に皺が寄っていたようだ。
せっかくのデートなのに……気分を入れ替えることにする。
 
敵ではないようだし……
 
 
長門「なんでもない。あとできちんと話す。」
 
キョン「そっか。それより……なんかいつもに増して輝いてみえるな、長門。」
 
彼が私をじっと見ている事に気付いて少し恥ずかしくなる。
 
長門「変……かな?」
 
 
 
 
キョン「いや、変なんかじゃない。服もばっちり、化粧もしているのか?それに髪型が……すごくいい。」
 
 
どうやら私の狙いは的中したようだ。一番気付いてほしいところに気付いてくれた彼。
 
さっきの事などすっかり忘れ気分があがってしまう。
 
 
長門「そろそろホームに行く。電車がでてしまう。」
 
 
今日は私から彼に手を伸ばした。
 
長門「行こう。」
 
キョン「おっし!しっかりたのしもうな!」
 
 
 
私が彼を引っ張っていくかたちで歩きだした。
文字通り夢の世界へ期待と幸せを胸に抱きながら……
 
……
電車の中、彼にさっきの女の子の話をした。
 
キョン「ハルヒみたいなのがいるんだし、そんな子だっていてもいいだろ?」
 
長門「……そう。」
 
キョン「しかも、幸せのおまじないだろ?今日はいいことあるかもな。」
 
長門「そうでありたい。」
 
キョン「そうであるさ。なんたってクリスマスイブだからな!」
 
彼の笑顔はいつも私を癒してくれる。
そうだ。今日はクリスマスイブなんだ……
きっとサンタが幸せを運んでくれる。
 
長門「私は彼女を見て可愛いと思った」
 
キョン「そうだなあ。子供はいいよな。」
 
長門「私もいつか……」
 
 
私は自分の愚かな考えに気付きすぐさま捨ててしまう。
 
キョン「ん?なんだ?」
 
長門「……なんでもない。それより外を見て。」
 
トンネルを抜けて窓から見えたのは今日の目的地。
まるでその部分だけ地球から切り取ったような別世界が広がっていた。
 
長門「楽しみ……」
 
長門の嬉しそうな顔を見ながら俺は今夜渡すはずのプレゼントをぎゅっとにぎりしめた。
 
 
……
電車を降り、二人でディズニーランドの正面まできて、なんとなくだが古泉の言っている意味がわかった気がする。
 
キョン「長門、情報操作でもしたかのか?」
 
長門「いや、私はなにもしていない。」
 
キョン「じゃあ、やっぱりこれは……」
 
 
目の前の光景はクリスマスイブというイベントにもかかわらず、平日と勘違いするほど人がいなかったのである。しかも、雲一つ無い満点の青空が広がっていた
 
キョン「さすがハルヒだな。」
 
長門「さすが。」
 
キョン「後でハルヒに礼でも言っとくか……本人はなんのことかさっぱりだろうけどな。」
 
 
 
 
入場門ををくぐると……
それはまさに、非現実が広がっていた。俺も来たのは初めてだが、長門の驚きようにはかなわなかった。
先ほどから、目が空いたままであたりをキョロキョロと見回していた。
 
まるで子供みたいだ……
長門「あれは何?」
 
長門の指を差した方向には言わずとしれたネズミが子供達と一緒に写真を撮っているところだった。
 
キョン「一緒に撮るか?」
長門「撮る!」
 
 
 
 
長門は俺をネズミのところまでひっぱっていき、子供たちをかき分け、すぐ隣のベストポジションにつけた。
少し大人気ないような……まあ、こいつは実質生みだせれてから数年しかたってないからな。少し大目にみることにした。
 
キョン「長門、直立不動ではなんかこう……。抱きついてもいいんだぞ?」
 
長門は少し戸惑っている様子だったが……ネズミがいざ、両手を広げると……
パァッと晴れた笑顔でネズミの胸に抱きついていた。
 
パシャ
 
記念すべき第一枚がとれた。
 
 
 
それから長門はコツ?を覚えたのか、キャラクターを見つけては抱きついていき俺に写真を求めるのであった。
 
キョン「随分たくさん撮るな。」
 
長門「記念だから…」
 
少し長門の顔が曇ったのは気のせいだろうか?
 
キョン「そうだな。それよりそろそろ何か乗ろうぜ?」
すると長門の顔が急に変わった
 
長門「まかせて!!」
 
これを言ったのが間違いだった。
 
 
 
 
長門はまるでこの遊園地の地図をすべて把握しているように……いや、しているんだろうな。
混む時間、回転率、すべて計算し尽くされたかのようにスムーズにアトラクションを楽しめたのだが…
スプラッシュマウンテンに乗った頃から少し長門がおかしくなった気がした。
 
選ぶアトラクションすべてが絶叫系へと変わっていった。
 
長門「もう一度乗る。」
 
 
降りてはすぐこの言葉が出て、まるで高一の頃経験したエンドレスサマーにつかまった気分になっていた。
 
 
 
……
 
長門「大丈夫?」
 
キョン「あ、ああ……少し目が回っただけだ。」
 
俺は連続八回のスペースマウンテンにかなり意識をとられてしまい、今は長門の膝のうえに頭を置いてベンチに横たわっていた。
 
長門「ごめんなさい。少しはしゃぎすぎた……」
 
キョン「いや、お前のせいじゃないよ。お前にとっては初めての経験だろ?誰だって初めてのものは興奮するさ」
 
 
長門はじっと俺の顔を見つめ
 
長門「あなたは優しすぎる。少しは怒ってもいい……。」
 
少し悲しそうな顔をした。
キョン「そんな顔するなよ。今日はお前を楽しませるためにきたんだからな。」
 
 
長門「わかってる。でも、あなたにも楽しんでもらいたいの。」
 
キョン「俺は結構楽しんでるぜ?普段は見れないお前を沢山見れるからな。だから俺は楽しい。」
 
長門「……あなたも変な人。」
 
キョン「お互い様だろ?少し気分がよくなったよ。それじゃまた、つづきといきましょうか?」
 
俺は直ぐに立ち上がり戸惑う長門の手を掴み、再び夢の町へと走りだした。
それから俺たちは辺りが暗くなるまでディズニーランドを満喫していった。
 
 
 
夜も遅くなり、俺たちは夜の花火を見るためにシンデレラ城近くのベンチに腰掛けていた。
 
さっきから二人はずっと無言のまま。
 
俺はプレゼントを渡す機会を伺っていたがなかなか言葉に出ない。
 
なかなか難しいもんだな。
自分の腑甲斐なさをこれほど悔しく思った日はなかった。
 
 
どうしよう……。
 
さっきから彼はずっと無言で何か考えているようだった。
 
彼に用意したプレゼントを渡すきっかけがまったく見つからない。
 
あれほど悩んで決めたプレゼントなのに…… 今日の為にあれほど練習したのに……
 
私は今日ほど自分の腑甲斐なさに後悔した日はなかった。
 
 
長門「あの……」
 
長門が沈黙を破るかのように声を出した。
 
キョン「な、なんだ?」
 
長門「き、今日はありがと……。凄い楽しかった。」
 
キョン「そうか。お前が楽しんでくれて俺も安心したよ。」
 
長門「うん。すごい楽しかった。それでね……」
 
長門は傍らから紙袋を出してきた。
 
長門「あなたにあげる……」
 
長門から渡された綺麗にラッピングされた袋を開けてみるとそこには茶色のストローハットが入っていた。
 
 
長門「似合うかわからないし私はあまり流行り物がわからないから。あなたに似合いそうなものを買った。」
 
長門は顔を真っ赤にしながら、しかし、俺の顔を真っすぐ見ながら言葉をつなげた。
 
長門「私からあなたへのプレゼント。大切にして……?」
 
 
俺はこの長門の顔をみて改めて決心した。
 
俺はこいつとずっと一緒にいたい。
 
 
俺はポケットの中にあった箱を取り出した。
 
 
キョン「長門。お前からもらった帽子はずっと大切に使うよ。」
 
長門「ありかとう……」
 
キョン「実はな、俺もお前に渡すものがあるんだ。」
 
長門「……なに?」
 
キョン「本当はずっと悩んでいたんだ……本当にこれをお前に渡していいものか……」
 
長門「……。」
 
キョン「俺は頼りないし、男らしくもない。おまけにすべてお前に劣っていると言っても過言ではない。」
 
キョン「けど、今のお前を見て決心したよ。こんな俺だけど、お前とずっと一緒に居てやれる事はできる」
 
俺はそういうと長門の左腕を掴んだ。
 
 
キョン「俺、必死になって勉強するよ。ハルヒたちと同じ大学にいって、いいところに就職する。きっとそれは楽な道じゃないと思う。けど、俺はお前の為に頑張るよ」
 
キョン「ハルヒのことも全部まかせろ!だから全てが終わったら長門……。俺と結婚してくれないか?」
 
 
長門「キョンくん……」
 
キョン「初めて名前で呼んでくれたな?」
 
すると長門は俺の泣きながら抱きついてきた。
 
 
その長門の小さな小さな左薬指には明るく輝く指輪がきらめいていた。
 
 
私は彼の胸の中で初めて泣いた。
 
今まで我慢してきたものが一気にこみあげてくる。
 
1人産み落とされ、1人で待った。1人は怖くなかった。1人で何百年もまった。
 
私は強い。自分に言い聞かせていた。 けど、間違っていた。
 
私はあなたを失うのが怖い。1人は嫌。
 
こんな幸せな時間がつづけばいい。
 
 
あっ、そうか……彼女のしあわせになるおまじない。
これだったんだ……。
 
ありがとう。私は今凄く幸せだよ。
 
 
あと時間は残り少ない。
 
でも!でも!でも!
それでも私はあなたが好き。
 
彼にすべてをあずけよう。
 
私は彼の顔を見て、そっと目を閉じた。
 
 
長門が俺を見て目を閉じている。
 
これはそういう流れなんだよな?
 
 
 
 
 
まるで二人を祝福するかのように空から光り輝く白い結晶が降ってきた。
 
 
 
ハルヒ。ありがとう。
 
 
 
 
花火があがり粉雪まう夢の国で
 
俺は長門とキスをした。
 
 
揺れるバスの中、長門は俺の横でぐっすりと眠っていた。
 
今日は初めてづくしで疲れたろうな。
 
 
と思いながら自分がはずかしくなってしまう。
 
よくあんなことできたな俺…
 
あの時の俺はなんだ?神でも降臨していたのか?
 
思い出すほど頭が混乱してくる。
 
俺もホテルに着いたらゆっくり休もう。
 
 
ホテルの前に着き、長門を起こそうとしたが、まったく起きる気配がないのでおぶっていくことにした。
 
フロントにつくと、受付が焦っているように書類をガサガサしていた。
 
キョン「どうしたんですか?」
 
受付「……すみません。こちらの手違いで一部屋しかご用意してなかったんです…」
 
キョン「なっ………」
 
受付「申し訳ございません。大至急空き部屋を探したのですがどこも満室で……」
 
キョン「他のホテルは?」
 
受付「申し訳ないのですが、この時期ですのでどこも満室かと……」
 
キョン「そうですか。」
 
 
 
 
運良く長門も寝てるし、俺は今から他のホテルを探す気力など残っていなかった。
 
 
俺は床にでも寝るか…
 
キョン「わかりました。部屋に案内してください。」
 
ポーターに案内された部屋は何処にでもありそうなダブルの部屋。
 
俺は長門をベットにおろすと一日の疲れを癒すために、シャワーを浴びることにした。
 
下着の準備をしていると長門がゴロンと寝返った。
 
 
キョン「ゴクリ」
 
寝返った長門のスカートはめくれ、胸元から若干下着が見え隠れする。
 
いかんいかん。
俺は自分を押し殺すように、少し冷たいシャワーを頭からかぶった。
 
 
風呂からあがると長門が目をあけてこちらを見ていた。
 
キョン「悪いな。おこしちまったか?」
 
長門「大丈夫。」
 
キョン「明日も早いから早く寝ろよ?寝坊しても起こさないぞ?」
 
俺は長門が寝坊するはずはないなとは思いつつ、自分ように目覚ましをセットしていると…
 
俺の人生18年間。最大最強の衝撃的言葉を耳にする事になる。
 
 
長門「キョンくん……こっちにきて……?」
 
 
キョン「……なんだって……。」
 
 
俺はまたしても混乱した。
「こっちにきて」
なんかのドラマに影響されたのか長門!? まて、早すぎるそれは……
 
俺にもこころの準備ってのがあるだろ。
いや、男なら受けるべきなんろう。 だぁぁぁあ!誰かこの難題の回答を今すぐ俺にPLEASE!
 
なんて事を考えていると……
 
長門「いや……?」
 
キョン「いやじゃな………」
 
俺は長門の目をみて、今まで自分が考えていたことが馬鹿らしくなってしまった。
 
 
なんて悲しい目してやがる……
 
長門は今にも泣きだしそうな弱々しい目を俺に向けていた。
 
キョン「わかった。ちょっと着替えるから待ってろ。」
 
長門「うん。」
 
俺は手近にあったTシャツを着ると、長門のいるベットに入った。
 
 
長門のほのかに甘い香りが心拍数を上昇させるが、それ以上に長門の表情が気になった。
 
 
 
長門が俺にくっついてきた。
 
キョン「どうしたんだ?」
 
 
長門「なんでもない…」
 
キョン「なんでもないわけ……」
 
長門「キョンくん。」
 
キョン「……」
 
長門「手。つないでいい?」
 
キョン「ああ。」
 
長門「キョンくんの手。あったかい。」
 
 
というとまた、スヤスヤと寝息をたててしまっていた。
 
キョン「やれやれだ……。」
 
俺もそのまま目をつぶると深い深い眠りへとついてしまった。
 
 
 
……
キョン「ってのがクリスマスの出来事だったわけだ。」
 
ハルヒ「はぁ?」
 
 
時は流れ、学校が始まった1月下旬。
俺は登校してまもなく、ハルヒと顔をあわせるやいなや、マシンガンのようなハルヒの質問攻めにあっていた。
 
最初は丁寧に答えていたのだが、答えるのがめんどくさくなり、1からハルヒに話してやることにした。
 
 
写真撮ったこと、絶叫マシンにやられたこと、プレゼントを交換し、そこで始めてのキスをしたこと……
 
初めのうちは目をキラキラさせていたハルヒも終盤に差し掛かると段々あきれ顔になっていた。
 
キョン「……なんだよ。」
 
 
ハルヒ「あんた本当に甲斐性ないわね。そこまでいって何もないなんて、世界中の18歳全部調べたってあんたしかいないわよ。」
 
キョン「お前な。あんな長門の表情見てみろよ?愕然とするぜ?」
 
ハルヒ「ふん。男ならそれでもガブっと行くもんでしょ!」
 
キョン「俺はそんな鬼畜人間に育った覚えはない。」
 
ハルヒ「まあいいわ。有希もそんなあんたを好きになったんでしょうね。」
 
というと、ハルヒは手のひらをヒラヒラとしながら教室から出ていってしまった。
 
 
相変わらずよくわからんやつだ。
 
 
 
………
俺はあの旅行から帰ってくるとすぐに、長門監修のもと、猛勉強をはじめた。
 
長門と約束した以上、裏切ることはできんからな。
そんな様子を見た両親が大変長門が気に入ってしまい。ことある事に長門の話を切り出してきた。
 
いつしか、長門が俺の家にいるのが当たり前となり、長門もまんざらではなさそうだった。
 
 
親「有希ちゃん。本当にこんなんでいいの?」
 
キョン「こんなんってなんだよ?」
 
親「あんたは黙ってなさい。こんなにいい子うちの子にはもったいなくて……」
長門「彼はとても優しい人。問題はない。」
 
なぜか親の前だと前の口調にもどる長門。緊張しているのか?
 
 
親「はぁ。ちょっとキョン!有希ちゃん泣かせたりでもしたらただじゃおかないわよ?」
 
その言葉。散々聞かされてますからご安心を
 
親「とりあえず、残り時間少ないんだからしっかりね!有希ちゃん、こんなんだけどよろしくね?」
 
長門「まかせて。」
 
キョン「はぁ……。」
 
 
長門「いい両親ね。羨ましい。」
 
キョン「そうか?いつも俺ばかりけなされて自信をなくしそうだ……」
 
長門「あれは愛情の裏返し。キョンくんの事をとても心配している。」
 
キョン「そんなもんか?」
 
長門「そんなもん」クスクス
 
 
 
長門「それに…ずっと一緒に居られるなんて幸せでしょ……」
 
 
まただ。旅行から帰ってきてから長門はたまに悲しい顔を見せるようになっていた。
なんかあるんだろうかと黙っていたが、そろそろ本格的に気になってきた。
 
 
キョン「なぁ、長門?」
 
長門「なに?」
 
キョン「なんか俺に隠してないか?」
 
俺は確かに長門の眉毛がピクリと上がったことを見逃さなかった。
 
長門「なにもないよ?」
 
平然とした顔で答えをかえしてきているが、あの無表情だった頃のお前から感情を読み取っていた俺だけに、今の長門から読み取る事はたやすいことだった。
 
 
キョン「ならいい。」
 
長門「変なキョンくん。」
 
まぁ、長門は言わないんだから、それ以上は突っ込まないでおこう。
 
 
俺は気持ちを入れ替えると参考書と格闘しはじめるのであった。
 
 
彼は私の変化に気付いているだろう。
 
変なところでするどいんだから……
 
あっという間に時間過ぎちゃったな。
 
けど、まだ言えない。
きっと彼は全てを投げ出してしまうから。
 
悲しいな。
 
彼の成功を見届けよう。私が居なくなった世界でも彼が幸せになるように……
 
辛いな。
 
でも、それが嘘をつき続けた私への罰。
 
見届けよう。
 
それが悲しい結末でも。
 
 
 
 
 
結局一月はなんだかんだで、勉強漬けだった。
大学入試まであと二週間。
とりあえず、今のところ順調にきている。
これも長門のおかげだろう。
 
長門といえば、最近悲しい顔はすっかり影をひそめて、いつもの調子に戻っていた。
 
少し余裕が出てきたのであろうハルヒがこんな事をいいはじめた。
 
 
 
ハルヒ「高校生活もあとわずかねぇ……。結局、不思議なんて一つもみつからなかったわね。」
 
お前だけが気付いてないだけだ……
 
ハルヒ「そこでよ!せめて最後くらいドカーンとなにかやりましょうよ!」
 
キョン「ドカーンは結構だがあまり疲れない事でたのむぞ。」
 
ハルヒ「無理。今回は原点回帰します。」
 
キョン「回帰?なにに回帰するんだ?」
 
 
ハルヒ「あんた、あたしが中学の時に校庭にデカデカと絵を描いたのはしってるでしょ?」
 
キョン「まぁな。」
 
ハルヒ「あの絵には意味があるの。」
 
キョン「ほう。どんな意味だ?」
 
ハルヒ「私はここにいるからいるなら早くでてきなさい!よ。」
 
キョン「まさかと思うが、北高でそれをやるんじゃないだろうな?」
 
ハルヒ「当然よ!」
 
 
キョン「勘弁してくれよ。こんな時期に停学なんてまっぴらだ。おまけにあれは七夕だろ?」
 
 
ハルヒ「この際どうだっていいの!やる事に意味があるのよ。」
 
これは決定事項だな。
古泉をみるといつもの微笑を崩さずにこちらを見ていた。
 
キョン「長門。また変なことになったりしないだろうな?」
 
長門「大丈夫。涼宮ハルヒはすでに力をうしないかけてるから。」
 
キョン「そうだったのか?初耳だぞ?」
 
長門「いい忘れてた。」
 
キョン「大事な事だろ?頼むぜ。」
 
長門「……。ごめん。」
 
 
 
 
長門「喧嘩はやめて…」 
朝倉「人生はひとそれぞれよ?」
長門「生かすも殺すも自分しだい」 
朝倉「何人たりとも人の人生にけちはつけられないのよ!」
長門「みんな一生懸命にいきている。辛いこと、死にたくなることある。」
長門「負けないであなたはそんなに弱くない。」
長門「少しクールダウンする」
キョン「15分後に再開だな?」
ハルヒ「そうよ。まってなさい!」
 


 
ん?ハルヒの力がなくなってる?
 
古泉はそうなると、あのヘンテコ超能力がなくなりつつあるってことか……
 
………
 
それじゃあ、長門は?もともとハルヒの監視役だったはず……
ハルヒの力が無くなってしまったら……?
 
 
嫌な予感が胸をよぎる。
 
長門の方を見ると、せっせと俺の問題集の採点をしていた。
 
キョン「まさかな…」
 
 
ハルヒ「それじゃあ、結構は明後日の日曜よ!もりあがってきたわねえ!」
 
お前だけだと思うんだが……
すると長門が急に席を立ち上がった。
 
長門「私が文字のデザインをしたい。」
 
ハルヒ「いいわよ!デザインが完成したらすぐに見せて頂戴!図面考えるから」
 
 
長門「そういう事だからキョンくん、この二日間はあなただけで勉強して。」
 
キョン「大丈夫だ。しかしどうしたんだ、急に?」
 
長門「……そのうちわかる」
 
 
というと、長門は足早に部室からでていってしまった。
 
なんだろう…… やっぱりおかしい。
 
 
 
俺は変な胸のしこりを残したまま、日曜をむかえることになった。
 
 
 
当日、午後八時。
辺りは周りがまったく見えないほど闇に包まれていた。
 
ハルヒ「いい、北高には巡回のパトカーが30分ごとにくるわ。古泉くんは時間を計って。キョンは白線引き。いい?」
 
キョン「待て。長門は何もしなくていいが、お前は何するんだよ?」
 
ハルヒ「私は横から口出すだけよ?」
 
やっぱりこうなるのか……
 
 
 
俺はこんな事を言いながらも実は少しわくわくしていた。
 
最近、部屋にこもりっきりだったせいもあるのか……
少し童心に戻っている。
 
いい気分転換だな。
 
ハルヒ「じゃあ、いくわよ!」
 
 
ハルヒの声と共におのおのが持ち場につき、俺はハルヒと長門の指示どおりに白線引いていき、古泉の定刻の合図と同時に、 一旦身をひそめる。
 
 
ハルヒといる長門を見てみると、楽しそうに笑っていた。
 
よかった。長門も少しつかれていたのだろう
 
……
 
その作業を4、5回繰り返して、やっと白線が引き終わった。
 
 
ハルヒ「有希。これはなんて書いたの?」
 
長門「……。」
 
長門はそれからずっと答えることはなかった。
 
 
ハルヒ「結構楽しかったわね!」
 
古泉「そうですね。とてもいい気分転換になりました。」
 
ハルヒ「明日の新聞がたのしみね♪」
 
 
オレらはいつもの道で別れると俺は長門のあとをおった。
 
キョン「長門!」
 
長門は少し驚いた様子でこちらを向いた
 
長門「キョンくん…どうしたの?」
 
キョン「わかんない。なんだか追い掛けたくなった。」
 
長門「そっか……。」
 
 
沈黙が続く……長門との沈黙は慣れているはずなのに今はとても辛い。
 
何か言葉を切り出さなくちゃと、頭をひっくり返してみるが何も出てきてはくれなかった。
 
長門「キョンくん。私はね、ずっと一人ぼっちだったの。」
 
キョン「一人?」
 
長門「うん。誰とも接点を持とうとも思わなかった。」
 
キョン「……」
 
長門「でもね、あなたたちと出会ってから私はかわったの。感情っていう大切なものをあなたたちからもらったの……。」
 
長門「私はね、キョンくん。あなたたちの中にずっと置いといてもらいたいの」
 
キョン「言っている意味がわからない……」
 
長門「今はわからなくていい。けど、いつかはわかってほしい。」
 
 
長門「私からはそれだけ。また明日学校でね。」
 
 
長門はそのまま真っ暗な夜道に溶け込んでいってしまった。
 
 
それから二人で居るときはその話を出すことはなかった。
 
長門がいつかわかるというんだ。きっとそうなるんだろう。
 
今は目先の事に集中しよう。試験まであと3日。
長門は泊まり込みで俺の家庭教師をしてくれていた。
あとは、自分を信じるのみ。傍らで教科書をみている彼女との約束を果たすため、今は前だけをみていこう。
 
 
……
試験当日。
 
長門「できることはやった。あとは全力を出して。」
 
キョン「ああ。わかってるよ。今までありがとな!長門。」
 
 
長門「私にできることをしただけ。あくまでも助手。」
 
キョン「お前らしいな長門。」
 
長門「……。そう。」
 
キョン「お前が緊張してどうする?口調がもどってるぞ?」
 
長門「いいの。ほら!電車に乗り遅れちゃうぞ!」
 
キョン「わかってるよ!んじゃまたな!」
 
長門「いってらっしゃい。」
 
私は意気揚々と向かう彼を見つめていた。
 
 
長門「頑張ってね……キョンくん……」
 
 
 
俺は試験に今までの全てをぶつけた。
後悔はなかった。
 
むしろ会心の出来だった。
 
しかし、高校三年間の大半を自堕落に過ごしていた俺に人生の厳しさなどわかるはずもなく。
 
そして、すぐにわかるときがきた。
 
 
長門「補欠合格?」
 
三月も中旬、私はまるで金縛りにあった感覚に襲われる。
 
キョン「すまん。」
 
彼の一言が耳に入ってはこなかった。
 
キョン「欠員が出るまで待っててくれとさ……」
 
 
そっか……私は結局彼の成功を見ないで消えていくんだ…
 
キョン「正直、欠員はでないだろうって……」
 
長門「き、キョンくんは凄い頑張ったよ。うん。私は凄いと思う。」
 
キョン「会わせる顔すら本当はない。すまんが一人にしてくれないか?」
 
 
というと、彼は部屋に入ってしまった。
 
 
結局それから何日も彼から連絡もこなかった。
 
31日。午後10時……
私の回収まであと二時間。さよならもいえずに私は消えてしまう。
 
そう。私はヒューマノイドインターフェース。
 
これが運命なんだ。ましてや、人間となんて結ばれるわけがない。
 
部屋を見渡す。荷物はほとんど処分した。
左手から指輪を外しテーブルの上に置こうとすると、クローゼットの隙間にアルバムが落ちているのが見えた。
最後だから目に焼き付けておこう…。
 
 
 
 
 
 
懐かしいな。
 
高校一年の5月。初めてSOS団がそろった時の写真。
7月。陸の孤島での写真。
8月。何百年にもおよぶ繰り返しの夏休みの写真。
11月。文化祭での写真。
どれもこれも思い出ばかりがつまっている
 
 
ページを進める。
 
雪山。バレンタイン。クリスマスパーティー……
 
インターフェースとしては十分過ぎるかな?
みんなからいっぱい色んなものをもらったんだ。
 
 
アルバムを閉じようとしたら一枚がヒラヒラと足元に落ちてきた。
 
長門「……。」
 
 
 
彼との旅行先。プレゼントを渡し、もらった。 彼の告白を聞いた。 初めて彼とキスをした場所。
 
そこには眩しく笑う二人が写っていた。
 
 
私にはもう関係ないもの。
いらないんだ。 消えちゃうし。
 
私はそれを拾い上げコンロにもっていく。
 
 
バイバイ………
 
 
ポタポタッ ポタツ
 
 
長門「あれ……」
 
 
ポタツ   ポタポタッ
 
 
長門「ぅぅぅ………。」
 
できないよ。 辛いよ。
会いたいよ。 なんで一緒に居れないの?
 
 
私がインターフェースだから?
 
 
ねぇ神様はどうして私を人間にしなかったの?
 
おしえて……
 
長門「キョンくん……。」
 
私は泣き崩れることしかできなかった
 
 
残り一時間。
 
私は泣き付かれて台所で横たわっていた。
 
手のひらには彼からもらった指輪が一つ。
 
 
八年分のレポートを思念体に送った私は、あとは回収されるのをまっているだけだった。
 
長門「ねぇ、キョンくん。私の言葉のいみわかってくれるかな?」
 
残り30分
 
体が少しずつ光の粒になっていく。
 
回収がはじまった。
 
その時、携帯が鳴った。
 
 
しまった。解約を忘れた。チラリと横目で見る。
 
『着信 キョンくん』
 
私は飛び起きて携帯をてにとった。 久しぶりに聞く彼の声…
 
キョン「長門か!決まったよ合格!!こんな夜中に電話なんてあいつらもどうかしてんな!とりあえずよかったよ。」
 
長門「キョンくん……」
 
キョン「長門、泣いてんのか?」
 
長門「私、私はきえちゃうの…」
 
キョン「っっ……!!今すぐ行く!いつもの公園だ!」
 
ツーツー
 
私は携帯を落とすと裸足のままそとに走りだした
 
 
長門の声を聞いてすぐにわかった。
 
 
キョン「やっぱりかよ、長門っっ!!」
 
俺は急いで外に飛び出しチャリを漕ぎだした。
 
時間は11時半を少しすぎていた
 
 
光陽駅前公園
いつものベンチで彼を待つ。時間はあと五分しかない。
 
神様お願い…… 今までしてきたことは全てを反省しています。 だからお願い。 彼に一目会わせて…。
指輪を強く握りしめ願う。
のこり三分を切ったころ、自転車の音が聞こえる。
キョン「長門ぉぉおお!」
 
長門「キョンくん!」
 
私は彼の胸に飛び込んだ。
キョン「馬鹿野郎!なんで黙ってたんだよ!」
 
長門「ごめん。でも、もう時間が無いからきいて」
 
 
長門「時間がない。聞いて。」
 
キョン「なんだよ!あぁ、とめる方法ないのかよ!?」
 
長門「無いの……私はあなたと過ごした半年間凄く幸せだった。」
 
長門の体が消えていく。
長門「私はそのことをわすれない。あなたも忘れないで?」
 
キョン「無理だ!きえるな!」
 
長門「私はね、あなたの成功をみれてよかった。」
 
長門が俺の胸に手を当ててきた。
 
すでに体の大半がすけている。
 
長門「私の書いた絵文字ね。私もここにいるってかいたの。」
 
キョン「そんな……」
 
長門「あなたの中に私がいればいい。それだけでいいの。」
 
長門「もう時間。私はあなたに会えて幸せだった。」
長門「もし、またあえる事があるなら普通……」
 
 
長門は光と共に消えてしまった。
 
 
俺は一人に公園で立ち尽くしていた。
 
自分の言いたいことだけいいやがって……
 
俺の気持ちはどうなるんだよ……
 
足もとに転がる指輪をみつめながら、俺は悲しみにくれていた。
 
 
今日は季節はずれの雪が降っている
 
あの時とは違う。まるで全てを消し去ってしまうような冷たい。雪。
 
 
あれから四年の月日がたっていた。
 
俺はすでに大学卒業の単位をとっていたのですでに遊びモード全開!
 
というわけにはいかなかった。
 
毎年、この時期になると憂鬱になってしまう。
 
 
3月。長門が消えてしまった月。
 
 
 
 
ハルヒ「あんたまた気にしてんの?いい加減に有希のことはあきらめなさいよ!」
 
ハルヒには長門は親の仕事の都合で外国に行ってしまい、もう二度と日本には帰ってこないことになっていた。
 
キョン「お前だって七月はこうなるだろ?」
 
ハルヒ「私はね、失恋じゃないの!あんたにはおしえないけどね。」
 
知ってるよ。
 
 
 
 
キョン「ところで何のようだよ?」
 
ハルヒ「はぁ?今日は不思議探険の日って言ったでしょうが!」
 
キョン「そうだったな。今準備するよ。」
 
ハルヒ「古泉くんも待ってるんだから早くね!」
 
キョン「へいへい。」
 
 
大学に入ってからすぐ、ハルヒと古泉は付き合った。まぁ、俺にはどうでもいいことだが……
 
もちろん、団活は健在で大学四年間の間に色々騒ぎを起こしたのだが……
大きく違ったのは、ハルヒにはなんの力もなく、未来人、超能力者、そして宇宙人なんていないただのお騒がせグループになっていた。
 
 
そして、今日も何も起こるはずのない不思議探険をやるのであった。
 
キョン「今日は何処に行くんだよ。」
 
ハルヒ「今日は公園周辺を探索するわよ?」
 
 
あまり行きたくない場所である。
 
キョン「俺はパス。」
 
ハルヒ「ダメよ。今日が大学生活最後の不思議探険なんだから、全員強制出勤。」
 
キョン「それにほら、今日は雪も降ってるし……」
 
俺はあの日以来、雪がきらいになってしまっていた。トラウマってやつだろうな……
 
ハルヒ「却下。」
 
古泉「残念ですが……いきましょう。」
 
キョン「わかったよ。」
 
 
キョン「きちまったな。」
実はあの日以来ここにはきていない。久しぶりにみた光景はまるであの時から時間が止まってるみたいだ。
古泉「お気持ちお察しいたしますが……やはりあなたも前に進むべきだとおもいまして……」
 
キョン「どうでもいいだろ。」
 
俺は帽子を深くかぶり直した。
 
 
結局ハルヒに連れられ公園まできてしまった。
 
ハルヒ「いい!しっかり探すのよ!」
 
ハルヒと古泉はいつも別行動なのでいつものように俺は一人残され立ち尽くしていた。
 
さて、なにするかな……
 
せっかくこの場所に来たんだからあの時のベンチに向かうことにした。
 
 
キョン「変わってないなここも……」
 
ベンチの色は若干薄れていたものの場所も形もそのままだった。
 
そこに腰をかけるとまるで高校生にもどったような感覚になる。
 
俺もとしとったな……
 
昔を思い出すなんて……
 
 
座っているだけで、鮮明に記憶が蘇ってしまう。
初めて長門と待ち合わせた場所。
そして最後に待ち合わせた場所。
あまりにもそれは悲しい記憶
キョン「長門……。」
 
涙が出そうになりそれを隠すように帽子を顔に被せた。
 
するといつのまにか眠ってしまっていたようだ。
 
すると何時間たっただろう。誰かにゆさぶられて起こされた。
 
目の前には小学生くらいの女の子がたっていた。
 
 
キョン「なんか用かい?」
 
少女「しあわせのおまじないはまだかなってないよ?」
 
キョン「は?」
 
まったく意味のわからない事を言ってきた
 
キョン「誰かと勘違いしてないか?」
 
少女「おにいちゃんだよ?みーちゃんのおまじないはぜったいなんだから!」
 
というと、少女はランドセルを上下に揺らしながらはしっていった。
 
キョン「なんかのアニメの真似かよ……」
 
俺はまた顔に乗せると再び眠りにつこうとした。
 
 
 
ハルヒ「やっぱりサボってたのね!まったく」
 
キョン「いいだろ別に……」
 
古泉「まぁまぁ、涼宮さん。キョンくん暖かい飲み物買ってきたんですが……」
 
キョン「悪いな……」
 
古泉「しかしよくもまぁこんな寒いところ………」
ガチャン!
 
キョン「あっち!あっち!おい!古泉!気を付けろ!」
 
古泉・ハルヒ「……」
 
二人は一点を見つめ唖然としていた。
 
 
キョン「おーい?」
 
二人の前に手をかざしてみるが、まったく反応なし。
なんだ?変なもんでもくったのか?
 
古泉が俺の肩を叩き、ある方向へと指をさした。
 
キョン「?」
 
その方向を見てみると…
俺は絶句を通り越し、魂が抜けていくかと思った。
 
 
キョン「……嘘だろ?」
 
 
古泉の指の先には、女性が立っていた。
 
 
紫かかった髪は腰まで伸びて身長が少し伸びただろうか、顔立ちも少女から女性へと変化していた
 
いや、すべてが懐かしい。
 
俺は四年間ずっとこの瞬間をまっていたんだ
 
 
ずっと……ずっと……
 
「みーちゃんのおまじないはこれが本命だったのね。」
「なんで……」
 
「ふふっ、新しい観察対象ができたの。それの監視役に抜擢されたの」
 
「まて、そのまえに俺はお前に言いたいことが沢山ある」
 
「あとじゃ、ダメかな?一番言いたいことがあるの。」
「なんだ?」
 
彼女は涙を流しながらまぶしいくらい満面笑みで
 
 
 
 
「ただいまキョンくん。」
「お帰り長門。」
 
 
季節はずれの。雪。がまう。
 
それはまるで二人を祝福するように奇麗に輝いていた。

 


おわり

タグ:

◆eblTbhX84c
+ タグ編集
  • タグ:
  • ◆eblTbhX84c

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2020年09月07日 23:28