夏休みも中盤にさしかかり、あまりの高温のためにシャミセンもとろけるようにぐったりする日でも
SOS団というのは休業することはないらしく、汗で水浴びでもしたかのようにびしょびしょになって部室に向かっていた。

部室のドアの前に立ち、ドアをノックする。

………

反応がない。まだ誰も来てないのだろうか。
恐る恐るドアを開けると、古泉や朝比奈さん、それどころか長門の姿すら見あたらず、居たのは団長机に
突っ伏したハルヒだけだった。
どうやらハルヒは熟睡してるらしく、幸せそうな顔をしていた。しかも、陽の光を浴びているせいか、妙にその幸せ度も
アップしているように見えて、この時ばかりはサインペンを持って現れるはずのいたずら心は姿を現さなかった。

「我らが団長様はお昼寝の時間ですか。」

やれやれとため息をつきつつつも、ハルヒの寝顔をよく見るために長門の指定位置に腰を下ろす。
こうしてみると、ハルヒの寝顔はますます幸せそうに見える。こんな顔をしている時は大抵美味い物を
食っているときか、突拍子もないことを思いついて俺に雑用を押しつけているときくらいのものだ。

「キョン…」

…どうやら後者のようだ。

耐えろハルヒの中の俺よ。そう思いつつ合掌する。
…が、次の瞬間、俺はとんでもない言葉を聞いた…気がする

「…キョン……大好きだよ……」

「……………なんだって?」
いまなんつった?大好き?こいつの中の俺はどんなほれ薬を使ったんだ?

「……キョン……」

なぜか顔が熱くなる。落ち着け。これはただの夢だ。ハルヒの夢の中の話だ。現実の俺は関係ない。
関係ないんだ。どんなに口が滑ってもハルヒがこんなことをストレートに言うわけがないだろ。
落ち着け、落ち着け、落ち着け…………
と、そんな風に自分を落ち着けていると、ハルヒの幸せ顔はいつしか消え、次第に悲しみに変換されていった。

「……キョン…待って……」

ん?ハルヒの中の俺はついに逃げたのか?

「待ってよ……置いてかないで……」

徐々に顔つきが変わっていき、幸せ度は0になっている。

「キョン…」

こいつの中の俺は何をしている。何をそんなにハルヒに心配掛けてるんだ?

「…そんな……嘘でしょ……?」

自分のことのはずなのに、ドラマの一途なヒロインの告白を、まるで紙切れを
扱うかのようにかわす男を見ているとき並にハルヒの中の自分に対して腹が立っている。

「待って…キョン…」

徐々に声が大きくなる。

「…キョン…待ちなさい…」

ハルヒの閉じられた瞼の間からきらりと光る物がこぼれてくる。

「…ねぇ…待ってったら……」

寝言までもがふるえている。もうだめだ。耐えられん。俺はハルヒを起こそうと立ち上がろうとしたときだった。

「……キョン!」

ハルヒの突き飛ばした椅子の衝撃で俺までもひっくり返りそうになる。

「夢……か…」

ハルヒはまだ俺が居ることに気づいてないらしく、ぽろぽろと涙をこぼし続けていた。

「キョンは…こんなこと…しないよね…」
「するわけ無いだろ。」

そう言ってハルヒにハンカチを差し出す。ハルヒは少し驚いたものの、何も言わずにハンカチを受け取り、握りしめた。

「…ねぇ、キョン」
「なんだ?」
「ちょっと…泣いていいかな?」
「…ああ。泣いてしまえ。この際だから今までの分も全て出してしまえ。」

それから数十分の間、ハルヒは大声を上げて泣いた。俺はただハルヒを優しく抱いて、頭をなでてやるだけだった。
この日のハルヒはやたらと涙もろく、俺がちょっと慰めてやっただけでまたぼろぼろと泣き出したりなんだりで、
目の周りの腫れが引いて人前に出れる頃にはもうあたりは真っ赤に染まっていた。

「そういえばあんた、いつからいたの?」
詳しくは覚えてないが、ちょうど昼頃だろうか。まだ幸せ度MAXだった頃か。
「あたし、笑ってた?」
そりぁもう言い笑顔だったぞ。
「そう…」

二人の間に沈黙が流れる。沈黙に耐えきれずに最初に口を開いたのはハルヒだった。

「…あたしね、夢見てたの。」
どんな夢だ?
「最初はみんなで町の散策してて、すごく楽しかった。新しくできたファミレスでお昼を食べたり、
ゲーセンのUFOキャッチャーであんたに人形取ってもらったりしてた。」
それがあの幸せ100%の時か。
「でも、次の日かな…みんなあたしの周りから消えていった。みくるちゃんも、古泉君も、有希も…」
俺も…か

「……キョンは…あたしの前からいなくなったりはしないよね?」
「…ああ。」
「ほんとに?明日になって突然いなくなったりしないよね?」
「そんなに心配なら、おまじないでも掛けてやろうか?」
「おまじないって何よ。大体、あたしは…」

俺は何かを言おうとしたハルヒの唇を塞いだ。そのおまじないは、ハルヒに掛けると同時に自分にも
かかってしまう諸刃の刃だった。

「…さて、帰るとするか。ついでだから、いつもの喫茶店にいくか?」
「そ、そうね。そうしましょ。ただし、あんたの奢りだからね。」
「へいへい。」

真っ赤に焼けた太陽の光で確認は出来なかったが、頬が赤く染まっているであろうハルヒはいつもより愛おしく見えた。

「キョン」

「なんだ?」



                  「大好きだよ。」



                                                -fin-

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