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「あなたも変わったお人だ」
古泉は見当違いな方向に桂馬の駒を進めるとそう言った。
「なにが変わってるって?俺からみりゃお前の方がよっぽど変わってるように見えるがな」
古泉のバカ桂馬を俺の歩が取る。
「涼宮さんのことですよ」
動じずに、古泉はまたしても戦術的に不利にしかならないとこに歩兵を動かした。
「いつもまどろっこしいんだよ。お前の論調は」
部室に今居るのは、ヤカンに入ったお湯の温度を懸命に計る朝比奈さんと、珍しく団長席に座ってパソコンを何やらカタカタと操作している長門だ。
部室にハルヒはおらず、よって古泉は気兼ねなくそっち関係の話を展開出来るはずなのに、クセなのか変態なのかそうしようとしない。
当然こちらとしては面倒だし、ラチがあかないので催促をするわけだ。言いたい事があるならさっさと言え、と。
「フフ。わかりました」
駒を置くと、古泉は両肘を付いて手を組んでみせた。
「あなたは以前から厄介ごとは面倒と嫌っている……まぁ好きではありませんよね?」
「その厄介ごとってのはハルヒ関係の事かよ?まぁ不思議体験は良い経験になったと思うぜ。出来ればもう勘弁だがな」
「ならば何故、今もまだ涼宮さんと一緒にいるのか…?と、質問したらどう答えます?」
古泉の線だった目が若干開く。
コイツは一体どういうつもりで言ってんのかと、さすがに動揺を禁じえない。
「面倒なら離れりゃいいってことか?でも、そうするとお前らが困るんじゃないのかよ」
「えぇ。ですから仮定での質問です」
無責任でしかも突拍子が無さすぎな質問だ。
しかしながら改めて考えると、はて?なんでだ?と考えてしまう自分が少し忌々しい。
俺がやらねば誰がやる、なんて漫画ヒーローのような使命感があるわけでも当然無い。まぁハルヒを健全な人間にしてやろうという意識なら多少無いことは無いが。
 
思案の末、行き着いた俺の解答は
「まぁなんだかんだいって楽しいからなんじゃねぇの?それに、こんな普通の高校生が平穏の有り難みを理解出来るなんてまずないしな」
「それには、えぇ。たしかに僕も共感しますね。神人と戦争を繰り広げたあとなんかは平穏の有り難みが特に身に染みますよ」
古泉の微笑が30%増す。男である俺は気色悪いとしか感じられんのだが。
「では、それ以外には何かありませんか?」
「なに?
やれやれ……いい加減にしてくれ。もうねぇよ」
このあと、古泉はなんともバカげた発言をする。
「それでは、質問を少し変えて……
例えば涼宮さんが僕だったらです。あぁ僕に限らずとも長門さんでも朝比奈さんでも、いつもご一緒に昼食とってるクラスメートの方でも誰でも構いません。
あなたをこの部へと誘った方が今の涼宮さんではなく、他の誰かだったら、さてあなたは今と同じようにされていたでしょうか?」
なんだと?こいつは。
入学式のあのアホな自己紹介したのがハルヒではなく、もし古泉とかだったとしたら?とかいう仮定の話か。
古泉だったら、んな自己紹介をした瞬間に蹴飛ばしてるだろうな、俺は。
だが朝比奈さんがそんなハルヒ的自己紹介した日にゃ、むしろそれはそれでスゲェ可愛い。加えて鶴屋さんがそれをきっと茶化すだろうからそれに対して、
「ほ、本気なんだからぁ~」
とか強がり言う朝比奈さんの光景が目に浮かぶ。
…長門はどうだ?……なんか淡々と終わりそうだ。むしろ納得さえしてしまいそうで怖い。

そうして、もしもハルヒがアノ三人のうち誰かだったら?を脳内シミュレーションしていたが……
「どうですか?」
タイミングよく古泉が問いかける。俺が脳内シミュレーションを終えたと同時に話しかけてきたからだ。
「ありえないな」
「何が?
…………ですか?」
おまえ今、本性表しそうになっただろ、とは口には出さない事にする。
「どう考えてもハルヒ以外の線は考えられないって事だ」
 
目的もわからん部活発足に手伝わされる場面になると、どうしてもうんざりするか逃げてしまう。いやハルヒにだっていつもうんざりしてることに変わりは無いが。
「まず、ハルヒのあの強引さは誰にも真似出来るようなものじゃないんだよ」
「それでは、みんな押しが足らないため、そんなんじゃ俺を部に誘えないぞ……と、そういう訳ですか」
何か腹の立つ言い回しだが、まぁそういう事だよ。
「フフ」
古泉は依然として微笑顔を俺に向ける。
まだ何か言いたい事がありそうだな。コイツは。
いい加減さっさとゲームを再開しろよ。
「本当にそうでしょうか?」
「…ぬ……」
――バンッ!!
 
「あれ~?皆いるんだ?」
突然ドアがけたたましい音を響かると、それ以外は普通の高校生と同じような感じでハルヒが入ってきた。
見ると、会話を強制終了された古泉は、苦笑を浮かべながら首を軽く横に振って、指で将棋の駒を摘まんでいる。
「こんにちは。涼宮さん」
「あぁ古泉君。
……まったくキョンも毎度挨拶してくれる古泉君を見習って欲しいわね。団長を敬う精神ってもんがアンタには欠けてんのよ」
他に挨拶してない長門と朝比奈さんにはおとがめ無しか。
お前にはドアを労ってやる精神が必要だと思うがね。
ていうか、人の挨拶を「あぁ」で済ませるのよ。お前は
 
「あれ?有希ったら珍しいわね。アタシの席に座ってるなんて。なに?パソコンやってるの?」
長門の下へ向かいながら、ハルヒは鞄を、もう少しで将棋盤に当たるすぐ横辺りにポイと放り投げた。
奴は無自覚なんだろうが、もっとモノを大切しろと、危ないから止めろとは、帰りにきつく言うことに決める。
「うーん…
小難しいわ。有希って面倒くさいことやってるのね」
長門は、ぼうっ…とハルヒの顔を見上げて、
「……使う?」と、今日初の言葉を発した。しかも相当に珍しい疑問形で。
「え?あぁいいわよ気をつかわないでも。アタシもここで何かしたい事があるわけでもないし。適当にみくるちゃんでもいじってるわ」
 
さて、一体長門が何をやってるのか少し気にはなるが、きっと俺には到底理解出来ない事だろう。
なんせハルヒに小難しいと言わしめるぐらいだからな。
朝比奈さんをどうにかすると宣言したハルヒだが、有言を実行に移さずに、けだるそうに長机の真ん中のイスに座った。
朝比奈さんが余りにもヤカンの温度計とにらめっこするのに熱中していて相手にしてもらえなさそうだからか。いやコイツの場合だったら空気読まずに襲うだろうな。
などと、思案にふけっていると、いつの間にか左隣からハルヒが身を乗り出して将棋盤に顔を近づけていた。
「キョンが勝ってるのね」
30秒とかからずハルヒが戦況を把握する。
「その通りです。まったくいつもいつも、彼の強さには歯が立ちません」
「お前が口ほどにも無いだけだろうが」
うーん……と、ハルヒは何やら考えるように唸った。
…おいハルヒ、もし今そこのドアが開いたら、お前の今の背後からの体勢じゃそこから危ういものが見えるんじゃないか。
ハルヒはもはやパイプイスには座らずに、長机の上に乗っかって肘ついてよつんばい状態になっている。体勢的に少し尻が突き上がる形になるため、やれやれ…女子校生ならもっと恥じらいを持って欲しいよと、溜め息をついてみる。
「古泉君、ここよ」
ハルヒが盤面に指を差す。
「……おいおい、まさかお前、この悲惨な状況を打開してみせるっていうのか?」
調子に乗ってハルヒにヒーロー漫画の悪役っぽい台詞を投げかけてみた。
「まぁ見てなさいって。打開どころか逆転してやるわよ」
ハルヒは自信に満ちた笑みをニンマリと俺に向けた――
……さて、何週間ぶりに、ボードゲームの種類を将棋と限定すれば、もう何ヶ月ぶりに本気を出したかわからないが、俺は久しぶりに本気を出した。
ハンデを負っているとはいえ、ハルヒを打ち負かすまたとないチャンスだったからだ。
だが、なぜだ?なぜ俺の王は王手をかけられている?
アレだな。弱いやつと練習しても上手くならないってのは本当のようだ。
 
「やったわね!古泉君!」
「えぇ。涼宮さんのおかげです」
机の上のハルヒはよつんばい状態で喜び、
いや古泉、お前はプレイを途中放棄してハルヒに言われるがまま駒を動かしてただけだろうがよ。
「ふふふ。私の勝ちよ。キョン」
あぁそうだな。だからなんだよ。
ハルヒはよつんばい体勢から体を起こし、腕を組んで半正座の姿勢をとった。
そこからこちらを見下ろす不遜な笑みがなんとも気に障る。
いまの逆転劇が余程嬉しいのか。
「別に罰ゲームがあるわけでもないんだろ。どうせあっても認めないけどな。ていうか、お前いい加減ちゃんとイスに座れ」
「ふふ。いいわよ。次から罰ゲームつけるから。古泉君、他のゲームある?」
「かしこまりました」
その後、ハルヒは古泉の出してくるゲームにことごとく勝利を収めた。罰ゲームの内容に関しては伝えてもしょうもないので省く。
しかしながらハルヒの性格からして、ゲームに飽きるのは時間の問題であり、実際今回も三回程連勝しただけですぐに飽きたようで、案の定、早速つまんなそうにしていた。
「やめたやめた。アタシが参加したら全部アタシが勝っちゃうじゃない
つまんないったらないわ」
そう言うハルヒだが、俺も古泉相手になら全勝であり、お前と同じようにつまらんはずなのだがな。
さて、どうしてハルヒと違い俺は今まで進歩の無いコイツとゲームを続けきたものかと、割りと深刻に考えていると……
「皆さんお茶が入りました~」
今や部室の可愛いメイドさんに定着してる朝比奈さんが、嬉しそうにお茶が出来た事を告げた。
ナニやら今回は随分と手間をかけてくれたようである。
有りがたく頂くとしよう。
「あら、なんか今日のはウマイじゃない」
いつものように出されたお茶を一気に飲み干したハルヒだが、珍しく朝比奈さんのお茶を褒めた。『今日のは』って言葉がちょっと気にかかるなぁ、おい。
その言い方だとまるでいつも朝比奈さんのお茶が不味いみたいじゃないか。
「みくるちゃん!もう一杯!」
「あ、はいはい♪」
朝比奈さんは嬉しそうにお茶を入れにかかる。
 
どうやら朝比奈さん的には、ハルヒの感想はこのメンバーの中では最も公正なものと判断しているらしい。俺と古泉は無論おいしいとしか言わず、長門は気付いたら飲んでるようで感想を発した事がない。
ただハルヒだけ、自分の味覚に合わないものにはヒドイ時には不味いなんて言ってしまうこともあるから、朝比奈さんはそんなハルヒに誉められると余計に嬉しいのだろう。
一応ハルヒは基本は馬鹿正直な性格だし。まぁその日の気分次第によってアイツはウマイを不味いと言うこともあるが。
 
お茶をすぐ飲み干しては、元気よく再びお代わりを求めるハルヒの姿を見て……ふとなぜか、古泉に先ほど聞かれた事を思い出した。
面倒くさいと思うのにそれでも何故ハルヒと居るのか?という問題だ。
 
先ほど古泉に述べた理由の他に、じつはもう一つ理由がある。
……例えば美少女ではあるが、いつも独りで、撫然としていつも不機嫌そうな顔で全く笑わないような少女がいるとする。
だがある日突然、その美少女の、満面の笑みを浮かべている姿を目の辺りにしてしまったらどうするよ。しかもその理由が、自分の発言によるものだったとしたら?もしかしたら一緒にいりゃまた笑うのかな~って期待に似た思いを抱くに違いない。
少なくとも俺はそうさ。
 
まぁしかし、現在に至りこんな事態にまで発展するとは、いや、まさか思いもよらなかったがな。
こうなると未然にわかっていたらハルヒと関わらなかったか?という問題についてはまた別の問題で、また始めから考えなくてはならないためそれこそ面倒くさいことこの上ない。
ま、当然、今言った事は古泉はおろか、誰にも言えないことなんだがよ。
「みくるちゃん!やっぱなんか今日のお茶ウマイわよ!」
「ふふ。ありがとうございます」
さて、ハルヒが今日の朝比奈印のお茶をヤケに絶賛する当たり、何やら本当にウマイらしい。
温度が下がって適温を逃す前に俺も飲むとしようか。
だがその前に、
「いい加減ちゃんとイスに座れよ。ハルヒ」
どうせ聞きはしないのだろうが一応口に出してみる。
正直なとこ、女子の下半部がこう目と同じ高さにあっては落ち着かないんだよ。
 
俺は仕方なく目をつむって朝比奈さんのお茶をすする。
あ、本当にウマイと、目を開けたら視界が先ほどよりもすっきりしていた。それは当然、朝比奈印のお茶によるありがたい効力とか何かではなく、
さっきまで机にいたハルヒがイスに座っていたからである。
「む……なによ」
目が合うなり、一つイスを空けて隣に座るハルヒは横目でそのまま俺を睨んだ。
「なに」と聞かれても、こちらとしてはなんでも無いわけで、かといってそれを正直に言うのも
このままナニも言わないのもこの状況下ではヘンに思う。
「まぁ、言うこと聞いて座ったからよかったよ」
適当に俺はハルヒにそう言って、再び朝比奈印のウマイお茶を堪能する事にした。
「ま、まぁってどういうことよ……」
 
俺は、何かゴニョゴニョ言ってるハルヒを不信に、だが内心可笑しく眺めながら、再び朝比奈さん特製のお茶をすすった。あぁしかし本当にいつもよりウマイな朝比奈さんのお茶。
「一局どうですか?」
古泉が懲りもせず、また勝負を挑んできた。
それに受ける俺も俺だが、やることがないんだからしょうがない。
 
そうして適当に盤上の駒を動かしていると、盤面でふと古泉の一方の金将があらぬところで独りきりになっている事に気が付いた。一体なんでだったのか?自然と俺は丁度正面に立ってた歩でその金の字の駒を取っていた。
「アレ?アンタ今の金取ったって何の意味もないわよ」
ハルヒはまたしても俺と古泉の対局に横から口を挟み、コイツも暇な奴だなと改めて思う。
 
さっきの時と違うのは、机に上がらずに俺の隣のイスに座っているというところか。
俺はハルヒの言ってる事を理解できない訳ではない。コイツの言うところ、古泉の金将の駒は、一回二回動かしたところで何の役割を果たせないような位置にいたのだ。
 
なぜ、その金将をとったかというのは実際オレ自身よく分からず、
「別に」
と一言、俺はぶっきらぼうに、
ハルヒが納得する筈もない答えをこたえるのだった。
その後すぐに、俺は古泉からとった金将を手に取り、すぐ隣にいるハルヒのオデコに何気なく当てるという、自分でも理解不能な行為に出ていたのは、さて、何でだったんだろう。
「…えっ……な…!…い、いきなり…!……な、ななにすんのよ!」
当然ハルヒは怒るわけだが……それからアイツの顔がしばらく赤かったのは一体なぜだったんだ?
 
 
 
 
 
おわり
 

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