立場(運河)の続きです。

☆忙しくて、いつも以上に推敲少なめです(泣

 

人が踊る時は一緒に踊れ。ドイツのことわざにこんなものがある。

俺の場合、人というより宇宙人、未来人、超能力者が周りでせわしなく踊っていて、俺自身ひいひいいってはいるのだが。
そして一昨日、そのダンスパーティにもう一人が追加された。 ああ、世の中には面白くないことがたくさんある。 神様、あなたは異世界人までお作りになりました。


「それでジョン、私とはうまくいってる?」
そういうわけで、俺は今、小さな橋の上で自転車をかっ飛ばしている。
「ああ、うまくいってるというか、うまく使われてる」
ハルヒはやはり冷たい美しさを保ちつつ、俺の自転車の荷台で微笑んでいる。

「ところで、お前なんでそんなこと根掘り葉掘り知りたがるんだよ。関係ないだろ?」
ハルヒはフッと笑い
「私の彼氏が浮気してたら嫌じゃない。特に…ええと、みくるちゃんとか」
このハルヒは現在俺の彼女みたいな立場にいるらしい。
まあこいつはどんな男も一週間しないうちに振ってたそうだし、俺も(期待はしているが)本気にはしない。
「最近、何か変わったことあった?」
「特別なことは何もない。そうだな、お前がひょっこり出てきたことと…」

ここまで言って気づいた。変わったことはないが、変わったにおいならば後ろに乗っかっている。
「お前が結構臭うことぐらいか」
「ぐぅッ…」
この世界にこいつの家は無い。持っているのは俺のジャージと制服ぐらいだ…まさかとは思うが、聞いてみる。

「お前、暮らしとかはどうしてるんだ?」
「段ボールハウスよ」
「風呂は?」
「銭湯の費用を食費に当てたいから、入ってない」

乱闘だ。乱闘パーティだ。間違っている。というか、何もかも間違っている!
風呂に入らないで『におふ』女とやらを彼女にして喜ぶ男どもがいた時代はすでに千年以上前だぜ。
そもそも住む家がないとなるとなんだなんだ、お前ホームレス中学生ならぬホームレス高校生だったのかよ!
俺のことは根掘り葉掘り聞くくせに、何で今まで言わかなったんだ、ハルヒ!

 

「お前に役に立ってくれそうなヤツがいる。さっさと来い」
「ちょっとジョン!何を突然!ぇええ、ええい!待ちなさい!」
俺はあわてて引き返すと、可能な限りのスピードで長門の家へと急いだ。

 

 

そしてその後、俺は団長様からさんざん「バカ」と呼ばれている理由を我が身で実感する事になる。


がちゃっ

 

708号室のドアが開く。長門は俺を見た後、視線を横にスライドさせた。そして次の瞬間…

灰色の幾何学模様が、マンションであった場所に形成された。

 

…いや、待て。この状況は何だ。

 

「この時を待ってたわ。長門さん」

何で思いつかなかったのか…少し考えたら全く当たり前のことだった。
理由が分かるから困る。消された世界の神として、生き残りとしての復讐である。

…ハルヒはほくそ笑んでいる。

 

「私にも古泉くんにも、みくるちゃんにも見られずに、あなたに復讐する時が来た」

次に見せつけられた表情はもうどうしようもないぐらいの大きな恨みだった。
長門によって力が制限されているハルヒは、それでも渾身の力を込めて復讐をしようとしている。


「私に訊かないで欲しい」
長門の髪がにわかに起こった風になびいている。

 

「先にやったのは誰かなどと、訊かないで欲しい」
長門有希を苦しめたのは、涼宮ハルヒそれ自身だ。

 

「最後にやったのは誰かとも、訊かないで欲しい」
そして、その選択をしたのは、俺自身だ。

 

「訊かないで欲しい。訊かないで、消して欲しい」
想い出がよみがえってくる…。あの長門。皆の能力を奪い、皆が幸せになるように長門は努力した。

 

「もしあなたの気が済むなら、私を消して欲しい」
そして、駄目だった。もう手遅れ。努力は新しい悲しみを生むだけだった。

 

俺はハルヒにすがりつく。情けないだって?でも、大切な仲間を…長門を守るには、こうするしかないのだ。

そうだとも。俺は戦うことのできない、殺すことのできない意気地無しだ。
これ以上人が消えて、悲しみが増えてなんになる。
一体いつになったら俺たちは、復讐することを、泣くことをやめるのか?
俺は忘れたい。俺は生きていたい。

 

俺は怯えている。もしかしたら、泣きさえしたかも知れない。俺にも分からない。

右に、左に視線を向けた。何も見えない。上を見上げれば、灰色。俯(うつむ)いて下を見ると、幾何学模様。
俺には全く親近感のわかないものだった。

 

ハルヒは俺を悲しそうに見下げると…灰色の幾何学模様は消えた。
そして、力尽き、そのまま玄関に倒れた。


もう長門にはわかっているのだろうが、こいつの正体と要件を手短に話す。

長門がうなずいたので、俺はハルヒを担いで部屋の中に入る。

 

しかし、こいつと長門を同じ所に住まわそうと思うのがそもそも間違っていたのかもしれない。
鬼門ってレベルじゃない。間違えると殺し合いを始めてしまうだろう。
俺の家という手もあったが、それは俺の良心が拒否していた。だが…こうなってしまう以上、そうせざるを得ないだろう。
うん、もう一人ぐらい頼れそうな人もいた気がしたが…誰だっけ。

 

通されたリビングにはすでに布団が敷いてあった。情報操作とやらで簡単に作れるらしい。
なるほど部屋が殺風景なわけだ。必要なものはいつでも作れるから当然だ。
布団の上にハルヒを寝かす。長門は風呂場で何かを絞っているようだ。それにしても結構ハルヒの身体って柔らかいんだな。

「脱がして」
風呂場からこもった声で長門がささやく。しょうがないと思ってハルヒの制服に手をかけた…って。
「何故脱がすんだ?」
「彼女は当分起きない。しかし、身体は十分汚れていて、今すぐ洗わないといけない」
タオルを手にした長門は、俺に暖かいタオルを渡して言った。
「身体、拭いて」
長門、お前やってくれないか。俺も一応男だ。脱がしたらいつ襲いかかるか分からない。

「私にはそれをすることはできない」
長門は少し悲しそうに俯(うつむ)く。そりゃあんなにあからさまに恨みを見せつけられた後だ。抵抗があるのは当たり前だ。
長門が見ている前だし、勢い余って襲ってしまうことはあるまい。これも長門のためだ。俺は覚悟を決めて、ハルヒの黒い制服に手をかけた。制服がはだけていく。ピンクのブラジャーが目の端に写った…

 

へ?その後?

制服に隠れてるだけで、キミたちが想像している以上にハルヒの胸はピーとだけ言っておこう…
わっふるわっふる。 



長門と俺は屋上にいる。ハルヒは今頃長門によって構成された寝間着に包まれて、久しぶりの布団で気持ちよく寝ていることだろう。 せめて今宵ぐらいは良い夢よ訪れろ。
右に、左に視線を向けた。冷たく、美しい夜景が見える。上を見上げれば、星空が。下を見ると、俺の立場が見えた。


「いつか私もただの人間としての立場を持てたらいい」
まあな。だが、今のお前には正直あこがれてるんだぜ。強くて、かっこいい、俺を助けてくれるスーパーウーマンとして。
「そうではなかった。事実、あなたには迷惑をかけたし、迷惑をかけている。何かうかつに間違えてしまえば、あなたは私のせいで消失していた」
それを言うなら朝倉の件、お前がいなかったらどうなってた。お前がいたから俺はここにいる。お前はSOS団に不可欠な、大切な仲間だ。
「…」
まあ、そういうことだ。人は結局現状で満足するべきなんだよ。
簡単に言うと、そんなのはどちらでもいいんだ。地位とかそれ以前に、自分が輝いていると思えば、きっとそれで良いんだろ。
「それでも」
長門は続ける。
「あなたの役に立てるようになりたい」


俺のあこがれる人よ。もう十分役に立ってるさ。ならそれで良いじゃないか。
長門と上を見上げる。長門が住んでいた世界のきれいなかけらが、冷たい美しい光となって降り注いでいた。

 

 


立場・理・解)へ続くのか…


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