「……はぁ」
体に蓄積された疲労を発散させるべく、あたしはうつ伏せでベッドに倒れこんだ
「何やってんだろう……」
そしてあたしは回想する。ただ不必要に、無駄に、無様に、駆けずり回った惨めな一日を。

あたしはとにかく面白いことがしたい、面白いものに会いたい。
それは並大抵のことではなく、突拍子もない、まさに大地がひっくり返るほどの何か。
例えば宇宙人。
例えば未来人。
例えば超能力者。
そんな不思議人間と遊べたらどれだけ楽しいことだろう。
ああ、そんなことが実現できないのはとっくにわかっている。
それでも、僅かな可能性にかけて、あたしは周りの反感を買ってでも、
目的達成のために行動をおこさなければいけない。
今日だって、そのために何度も何度も街中を駆けずり回ってきた。
存在しないことは理解っていても、それでもやらずにはいられない。
このあたしの生き方に内包された矛盾なんて、誰にも理解はされない。

――あたしはこの先、どうすればいいんだろう?

頭の中でそんなとりとめないことをぐちゃぐちゃと考えていたが、何度も溜息をついているうちに
あたしはそのまま眠りに落ちてしまった。

汗水流してあの死ぬほどに長い坂道を越えて、ようやく安息の教室へと足を踏み入れたら……
……やれやれ、どうしてうちの団長様は俺の心に安らぎを与えてくれないのか。
英語と古典の辞書でいつもより少し重たいカバンを机の横に掛けると、
俺は机に頭を突っ伏したままのハルヒに声をかけた。
「おい、ハルヒ。お前は朝っぱらからどうしたっていうんだ?
具合が悪いのなら保健室に行けばいいだろうに。」
ハルヒからの返答が一切ない。もしかして俺は無視されているのか?

シカートデースカ?

軽くペリーの亡霊が乗り移ったところで、俺はさらに言葉をかけてみることにした。
元気のないハルヒなんてネタの乗っていない寿司みたいなもんだからな、味気なくて物足りない。
「本当に大丈夫か?なんなら俺が保健室に連れて行ってやるぞ。」
「…………」
「大方昨日の見回りの疲れがたまってんだろう?今日もやるって行ってたけどヤメとけよ。
体を壊しちまったら意味がないし、見つかる可能性の低いものに時間と労力を掛けるのも……」
ここまで言ったところで、憤怒の表情を浮かべたハルヒが、ガバッ、と机から起き上がった。
「うっさいわね!あたしの事何も知らないくせに知った風な口聞かないでよ!!」
そう怒鳴るとハルヒはまたさっきのように机に頭を乗せた姿勢に戻ってしまった。
教室中の視線が俺に集まるが、数秒後に始まったSHRのお陰で何とか教室の雰囲気は
元に戻っていった。

その後一日、ハルヒとは何の会話もないままに一日は過ぎていった。
帰りのHRが終わり、ハルヒに何か言おうと思ったのだが、その時既に、
ハルヒは学校をあとにしていた。

あたしは自分の心の重苦しさを持て余して、昨晩と同様にベッドへと倒れこんだ。
「……子供みたいに当り散らして、バカみたい……」
あの時、なんでキョンにもっと違うことを言えなかったのだろう。
煩わしいなんて、ただの逃げるための言いわけ。
キョンは逃げる私を追いかけてくれたのに私ときたら……
明日は学校どうしよう?
キョンはあたしと話をしてくれるかな?
あたしをキライになっていないかな?

――いっそのことこの世から消えてしまいたい。

かつてない程にあたしを締め付ける激しい自己嫌悪。
この世界が、私を楽しませてくれるようなものに変わればいいのに……
昨晩と同様に、溜息をついて枕に顔をうずめたところで携帯電話のベルの音が
部屋いっぱいに鳴り響いた。
今はとても出る気にはなれないので、音が止むのをひたすら待つ。
煩わしいのは、ゴメンだから。
しかし、着信のベルは一向に止む気配を見せない。

――あたし、そういえば今朝と同じ事やってるなぁ……

そんな考えが頭をよぎったからか、一生懸命に鳴ってる携帯電話に彼の姿を投影してしまい、
電話が少し、愛惜しく思えた。

電話の発信者を見ると案の定それはキョンだった。
今朝の罪悪感からか少し躊躇ったが、あたしは受信のボタンを押した。
「……もしもし、何よ?」
「いや、ハルヒ。今朝はスマン……今元気か?」
電話越しの彼の声。それはほんの一言二言だったけど、とても、温かかった。
思いがけないキョンの発言に、あたしは何も言葉を発せなくなる。
出ない言葉を無理矢理紡いで、あたしはどうにか彼に答えた。
「……別に普通よ。あたし今寝てたんだけど、もういい?」
「あ、ああ、スマン。それじゃあまた明日な。」
彼がこれ以上喋らないことを確認して、あたしは電話を切った。

“元気か?”

この言葉にあたしは今どれだけ救われただろう。

“また明日な”

この言葉でまた明日は頑張ろうって思える。

今日話せなかった分、明日はキョンとたくさん話そう。
あたしのことをたくさん話して、彼にたくさんあたしを知ってもらおう。
でも、このことだけは話さない。
さっきの電話が終ってあたしが泣いたことを。

――何時までも君は、知らずにいる。


~end~

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