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第三回君誰大会の続きです。雨より晴れより雷より雪が好きなのは、瀬戸内の人間だからです。瀬戸内はあまり雪が降らんのです。
君誰大会 「降りしきる雪の涙」
「そもそも、あなたがのろのろと決断を渋っているからこんな事態になったんです。」
「ぐ、それを言われると……」
「決断しなさい! さあ!」
いつもの喫茶店で、いつもの面子+いろいろの、総勢二十名ほど。
そんな大所帯で、店内の客の七、八割は関係者だ。
そして、さっきの決断を迫られているのが俺ことキョンで、決断を迫っているのが何故だか分からないが喜緑さんだ。
ああ、俺だって馬鹿じゃあないさ。何故こういう状況になったのか、なんてことはよーく分かってる。
どうすればよかったのかも合わせて分かってるが、いまさらくよくよ言ったって始まらない。
と言うか、そんなに深刻なものではない、と思う。
まあ、これは俺の感覚だから他の七人は知らないが、こいつらの中には「失恋したー死んでやるー」なんて言う輩もいないだろう。
逆を言えば死んでやると行かないまでも確実に六人は傷つけるし、悪い選択肢を選べば七人全員を傷付けることになるかもしれない。
しかし、それでも、俺は決めなくちゃならない。そうでなくては、確実に七人全員を傷付けてしまう。それだけは分かっている。
……だが、俺は優柔不断だ。それこそ、自分で泣きたくなるほどに。
自分の心に聞いてみたら、二つ返事が返ってきた。違う意味で。
長門が好きだ。
ハルヒが好きだ。
俺は、自分で決めることさえ、ろくに出来ないのか?
だがしかし、残りの五人にはすまないが、俺はその二人のどちらかを選ぶ。
それだけでも言った方がいいのではないか。
自分で勝手に決めて、自分で勝手に言う。
自分の身勝手さに腹を立てつつ、言葉にする。
「すまん。俺は、長門も、ハルヒも好きなんだ。………少し、考える時間をくれ。」
喫茶店内に、五人の少女のため息と、二人の少女の喜んでいいのか分からないといった表情、残りのやつらのまたか、といった呆れるような響きを持ったため息やらうめき声が溢れた。
「朝比奈さん、佐々木、橘、ミヨキチ、朝倉、すまんが、あ゛ー、その……」
「分かってますよ。別に言わないでもいいです。というか言わないで下さい。」
「そうそう、君は多少アレだとは言え決断を下したんだ。ならば僕らはそれに従うまでさ。例えそれが悲しい結末だとしてもね。」
「これは“キョン君が”選ぶのは誰だ大会なんですから、自分の思うとおりにしてもいいんですよ。」
「お兄さん、今日は一日付き合ってもらってありがとうございました。」
「がんばりなさい。どっちを選ぶにしろ、有希ちゃんを泣かせたら承知しないからね。」
ああ、俺はとんだ果報者だ。それは分かった。
こんなにも素敵なやつらに好きだといわれていたなんて。
「長門、ハルヒ。すまん。こんなにも優柔不断で。絶対、三日以内には決めるから。」
「………分かった。」
「うん。」
長門は緊張した様子で―――それでもやっぱり無表情で―――肯き、ハルヒはどことなくギクシャクしながら肯いた。
…………………この沈黙はきつい。すまん、古泉。助けてくれ。
そんな俺の思いを察したのか、古泉がこちらに目配せしながら助け舟を出してくれた。
いつもはこれで意志の疎通ができるのが鬱陶しかったが、今日ほど感謝した日はない。
「さて、皆さん。そろそろお開きにしましょうか。」
その言葉とともに、全員が三々五々と散っていく。
あるものは名残惜しそうに。あるものは清々したというように。
「すまんかったな。」
「そう思うのでしたら、早くどちらの方を選ぶのか決めてあげてください。これは機関としての意見でも、SOS団の副団長としての意見でもなく、古泉一樹個人の嘆願です。僕としてもあの二人は友人なので、心配だったりするんですよ。」
「善処するよ。」
それでは、と言って古泉は会計のほうに向かって行った。重ね重ねすまんな。
……………………さて、どうするか。
それを決めるのは、俺だ。
◆ ◆ ◆
一日が過ぎた。より正確を期すなら、十四時間と三十二分五十二秒が過ぎた。
今現在の時刻は午前七時二分丁度。私が床に着いてから八時間後。昨夜は一睡も出来なかった。
思わずため息をつく。私らしくもない。
というよりも、“ニンゲン”ですらない私に私らしさなど求めるべきでないのかもしれないが。
昨日の出来事について思考を巡らせる。
昨日はいつもの喫茶店に集まって、彼が誰を選ぶのかということについて皆で喋って迫って主張して。
途中まではただ単に面白かったのだけど、どこで歯車が狂ったのだろうか。もしくは戻ったのか。