――――――キョン――――――

世間一般では宇宙人のイメージは結構画一されているだろうね。
何だ、こう、背自体はそこまで高くなく頭と目がやたらとデカイというのを
俺もちょいと前まではそんな想像が定着していた。そこへ+αで体ヌメヌメ。
一時期はアメリカの政府と裏で繋がっていたっちゅう話が持ち上がっていたな。
現にそれを決定付ける写真もネットやらで出回っていた。最近ではテレビでもやっていたような。
以前観たそれ系の番組ではある一家の家に集団で堂々と踏み込んで襲撃するという映像が流れていたな。
どれも嘘っぱちだとは思うけどね。
既に宇宙人モドキとは遭遇しているし、普段から共に過ごしているのだが、
これは常人としては興奮ものに違いないとは思うけど、俺としてはそろそろ地球人離れした奇形の怪物とお友達になりたいさ。
やれやれ、いつしか俺もハルヒ色に染まっちまっていたんだ。
おっと、カマドウマは御免だぜ。


ただの何とも無い平日。
ギラつく太陽と、遥か上まで続くこの斜面が俺の体力を貪る。
コンクリートの乾いた地面に汗が滴り落ち一瞬にして蒸発。空気に溶け込む。
比較的急斜な坂を全力で踏破し、苦労の末辿り着いた校内はそりゃあもう、外に比べりゃ涼しかったさ。
去年から各クラス一台で導入されたエアコンのお陰でこの夏も何とか乗り越えられそうだ。
「キョーン、あーつーいー」
俺の背後でこの暑さにやられ、すっかりダウンしているの傍若無人女・涼宮ハルヒだ。
「俺だって暑いさ。お前だけじゃない」
取り出した教科書を使って扇ぐ。自分をな。
「むぅ…ケチねえ。それじゃあ女の子にモテないわよ?」
「お前と違って俺は面がこれだ。性格どうのこうの以前の問題だ」
「…あんたの顔、結構カッコいいわよ?」
「世辞は辞めとけ。勘違いを起こすアホがいるかもしれん」
この発言での勘違いと言う意味は二つの意味が取れる。
断じて自分がイケた面してるとも思ってないし、ハルヒに恋焦がれている訳では無いぜ。いや、マジな話。
とまあ、念を押しておく。
「本当にお世辞だと思う?」
「勿論だとも。お前が俺を褒めた事など皆無な気がする」
「…ふーん」
なんて、他愛も無い世間話をしていた。
生き地獄とも置換できる夏の授業を黙々とこなすのと同時進行で俺の胃の欲求は強くなる。
4限目を終えると真っ先に弁当箱を取り出し、谷口と国木田の元へと直行。
既に谷口は大口を開けておにぎりに喰らいついている。
俺の接近に気がついたらしく、
「おっ、なあキョン、今日何か予定あっか?」
いつものあれがある。察しろ。それに口から物を飛ばすな、汚いぞ。
「ああ、すまん、でも勿体無えよ?折角駅前の喫茶店でメチャメチャ可愛い女の子見っけたのによー」
それは単なるお前の自己満足にしかならんだろ。予定が入ってなかったとしても行かないね。
「つれねぇなあ・・・まっ仕方ねぇか、お前には涼mうぐ!」
殴られるだけで良かったな。次そんな戯言抜かしてみろ、パイルドライバーをお見舞いしてやる。
そろそろ胃が悲鳴を上げている頃だと言うのを悟ったので、いそいそと弁当の包みを解く。
「まあまあキョン、谷口も悪気があって言った訳じゃないと・・・あれ、キョンお客さんだよ」
「ん?客?」
国木田が指を指す方向へ首を捻る。
「やあ」
…やれやれ、あいつか。
にしても珍しいな。古泉が俺のクラスに顔を出す頻度なんてどれ程低いのだろうか。
一旦食いかけを机に置き、ニヤケ顔の事情を聞くとしよう。


そこは中庭。人も疎らだか微妙にいる。
誰も彼も友人との会話に花を咲かせているようだ。
ここにやって来た時点で、生憎金は持っていなかったから、缶コーヒーを奢らせた。
あいつも満更ではなさそうだな。
「んで、何なんだよ、こんな所にわざわざ呼び出して」
言い終わると俺は冷え切ったコーヒーを喉へ流し込む。美味い。
「ああ、そうでしたね」
お前当初の目的忘れてたのか?
何か用件があるから俺をここに呼び出したんだろ。
「いえ、そう言う訳ではなく、何と話を切り出すべきかどうか…」
古泉ともあろう奴が、会話の切り出し方を迷ってるとはな、珍しいこともあるもんだ。
何だ、どうせハルヒの奴が一枚噛んでるんだろ?
「…いえ、今回は涼宮さんは全くの無関係です」
ほう、ハルヒが無関係と。じゃあ一体何なんだ?天蓋領域っちゅう奴らか…て言ってもそれにもハルヒは絡んでいるし…。
「では、単刀直入で申し上げます」
「ああ、その方が助かる」

「強大な力を持つ宇宙人を筆頭に未知の勢力が宇宙から攻めてきました。これは緊急事態です」

…ほう、緊急事態と。
宇宙人?天蓋領域とかあの辺とはまた別もんか?
「はい、全くの別物です。情報統合思念体や天蓋領域と言った情報の塊とは違い、実体を持つ宇宙人で、今現在も宇宙船に多数名が乗り、こちらに向かってますよ」
「…つまりだ、世間一般でいう頭でっかちの緑色の化け物の親戚みたいなもんか?」
「親戚…かどうかは不明ですが…。事実を述べれば、僕達人間とは明らかに別な進化を遂げ、姿形も異なっているでしょうね」
と言う一連の古泉の告白を受けた俺であったが大した驚いてはいなかった。
何というか…場数を踏みすぎたせいで精神的なキャパシティに余裕ができちまったんだろうね。
「それより古泉、そいつらはどういった事情でこちらに来るんだよ?明らかに良い予感はしないのだが」
「今は未だ仮定に過ぎませんが、地球人の淘汰が機関内で主流で通っています。簡潔に述べれば、この星が欲しいのでしょう。なんせ奇跡の星とさえ呼ばれているほどですからね」
おいおい、地球人を豪邸に蠢くゴキブリか何かと勘違いしてるだろ。
俺達だって一生懸命生きているんだぞ。
そんなG達を虐殺している俺が言えたことじゃないが。
今になって仇が返ってきたのかね。
つー訳で、お前らはそいつらと穏便に講和条約でも結んで、良い関係を築き上げてくれ、て言うかしてください。
ハルヒが知ればあまりの歓喜で気が更に狂うだろうな。
「それはちょっと無茶な注文ですね。星一個を潰しにかかる位ですから、話で何とかなる相手じゃないでしょう」
「だろうな、さっきのは軽いジョークだ。まあ、せいぜい俺らが死なないようにそっちで頑張ってくれ」
他人事のように思えるだろうが、俺には何もできないのだ。皮肉じゃあない。
「大丈夫ですよ、今回は未来人、宇宙人の方々にも協力を要請しましたから」
大層な豪華キャストだ。本当に気合入っているな。
「当たり前ですよ。なんせ相当な危険分子と交戦を予定しているわけですから」
けどなあ…何か大人気ないような感覚に駆られるのだが。
明日俺が起床する頃合には訪問者が皆、解剖されているなんて展開は止めてほしいぞ。
「なるべくはそうしたいですけどね」
生きた宇宙人が見たいと言う少年の心をあまり踏み躙らないで欲しいな。
もう随分と会話していると思い、体内時計と今現在の時間の照合をはかる。
…あっ、もう五限目始まってるし。
クソ、胃袋よそんなに喚かないでほしいぞ。


訪問時間予定は明日午前らしいね。
着陸地点はなんとこの近くに降り立つらしい、いや、降り立たせるみたいなのだ。
それが何なのか。長門によると
「大気圏に巨大な空間座標情報改竄プログラムを展開した。このプログラムに目標が接触することにより、予め指定しておいた特定の座標へと転送される」
言うなればワープ装置とでも言うのだろうか。
そんなことをした理由も一応、尋ねて置いた。が、
「…」
見事な三点リーダによって華麗にスルー、シカト。
長年…とまでは長くは無いだろうが、俺はこれでもこいつの行動パターンについては大抵認識済みなわけで、
この場合は『知ってるけど教えない』的な感じかね。
ハルヒに目撃されなければいいのだが…。


放課後はと言うと、三人はしっかりと活動に顔を出した。
出動前日だというのに何も変わらんな。朝比奈さんまでいつもどおり過ぎますよ、少しは緊張感を持ったほうがいいのでは?
で、今はまたいつも通り古泉と将棋に身を投じながら、暇を割いている。
「…それにしても、急だな」
パチリ
「まあ、緊急事態だから急なのは当たり前です」
今こんな話をしているのは勿論の事、ハルヒが部室に居ないわけで、
言いたいことはハッキリ言えることはなんて気分がいいのだろうか。
「だが、緊急事態って言っても、何か慌しくないよな。準備とかはないのか?」
パチリ
「僕らは生憎、準備やらの方へは組み込まれていないのですよ。特に我々超能力者はこの空間ではごく一般的、普遍的な人間である為に、バックアップ位しか出来ないですしね」
パチリ
「…なあ」
パチリ
「なんでしょう?」
「その宇宙人、俺、一見したいのだが…いいか?」
生命の保証は多分ないだろう。
だが、俺は幾多(って訳でもないが)死線を潜り抜けてきた経験はあるんだ。
危険を覚悟で本物の宇宙人を見たいと思う俺を誰が攻められようか?
やはり性欲には勝てても好奇心には勝てねえな、ホント。
「…今回だけですよ?あなたが異型の宇宙人を目撃してみたいと言う願望から汲み取ってあげるとします。しかし、もしもあなたが危険な目に遭っても助けることは出来ませんがね」
古泉は肩を竦める。
「分かってるさ。物陰からちょっと覗いたら、家に直帰してお寝んねしてやるよ」
貴重な休日だしな。明日は不思議探索も違和感のない理由を押し付けてサボるか。
色んな意味ですみませんね、団長殿。
…そうら、王手だ。
「…お手上げです。やはりあなたは強い」
お前が弱すぎるだけだ。次は俺に確実に勝てるゲームを持って来い。
古泉の王は獲らずに闘いを終えた。
お遊びにも一段落ついた所で、一度伸びをする。
部室内は紅く染まり、様々な影を作り出している。
長門が本を捲る音以外何も聞えない、なんて平和な情景だ。
まだ熱いお茶を喉へ通しながらそう思った。
ふと、虚空を見つめていた俺の眼は何気なく、盤上の将棋の駒に移る。
古泉の駒は王以外は俺の手元にあるという、まずありえないほどの悲惨な形になっている。


「もしもし、俺だが」

『あ、キョン?どうしたのよ」

「実は今日な、突然腹痛が起こってな…ちょいと明日は休ましてもらう」

『あんたも!?皆何かしらの理由で明日休むのよ』

「すまんな、午前は病院行って処方箋貰いに行くんだ。最近どうも、腹痛の頻度が多いんだ」

『…むぅ。分かったわ。特別だからね!次はちゃんと出なさいよ?』

「分かった。本当に済まないな」

『ああ、そしてちゃんと治す事!いいわね?」

ブチッ

と言う訳で、無事に用件は済んだわけだ。
勿論、腹痛なんてのは嘘っぱちな訳で、仮にかかったとしても家には正露丸が常時備蓄されている。
あれ、かなりの刺激臭だが良く効くんだぜ。お試しあれ。
通話の終わった携帯をベッドに投げ捨て、俺も一緒に転がり込む。
時は既に9時を回ったところだ。
ベッドの下にある…いかがわしい本ではない、普通の雑誌に決まっている。
それを引きずり出し、パラパラと捲る。
もう幾度となくこれは読んだ。
ただ、落ち着かないんだ。分かるだろ?
クリスマスイブの夜、幻想の赤服じーさんからのプレゼントを待ち遠しく思うガキのような気分だ。

そう、本場の宇宙人を拝めるんだ。

これほどワクワクした事は久しぶりかも知れん。
もう常日頃から貴重な体験をしている訳であるが、その中でも更に貴重だ。
何せ俺の中のちっぽけな夢が叶いそうなんだからな。
さて、一体どんな奴らなのだろうか?
言っておくが、あくまでも俺の想像に過ぎないから、もしかしたら手足が大量にあったり、
翼や尻尾が生えていたりする奴らかもしれない。
はたまた機械的な感じで、口に大砲くっ付けてたりしてな。
そして―――――――――
あーもう想像なんてやめだ、やめ。
所詮明日になれば分かる事なんだしな。
で、そうそう。奴らが来る場所はというと、町の外れにある森林地帯らしい。
その周辺も人気がなく、不思議が埋まっていると言う理由で以前ハルヒが俺達を引き連れて来たこともある。
確か薮蚊が酷かったというイメージしかない。
でも…何で本当にそんな場所にしたんだよ?
ハルヒは関係ないから、逆にどこか遠く…サバンナとか南極とかにした方が良かったんじゃないか?
もしもあいつに見つかりでもしてみろ、世界破滅…は無いか?
だがどっちにしろ負の方向へしか進まないな。
まあ、あいつらも何か考えがあっての策なんだろうがな。
んー、それにしてもちょいと小腹が空いたな。


              ――――――涼宮ハルヒ――――――

明日はどういうわけか不思議探索は皆休み。
皆予定…いや、キョンは単なる腹痛らしい。
通話していたとき、結構だるそうな声してたけど多分大丈夫だろう。
最初、有希とみくるちゃんと古泉君が休みって聴いたとき、
明日はキョンと二人っきり?なんて思ってちょっと…一円玉を拾った時位に嬉しかったわ。
これを機会にキョンとの距離を縮まるかなーなんて考えてたけど、
当の本人も休みなんて聴いて、明日の展開に少しドキドキしたあたしが馬鹿だったって思った。
けれどそれと同時に落ち込んでいた自分がいた。
一体この気持ちは何?
「…教えなさいよ、バカ」
誰に対して毒づいたのかは分からないけど、なんとなく気分はスッキリしていた。

そして電気を消し、目を閉じる。

また…あの夢を見てみたい気もする。
いつもそう思ってから眠りにつくのだ。


続く

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