エピローグ
 
卒業式も無事に終わり、卒業証書の入った黒い筒を手にSOS団の本拠地である文芸部室へと向かう。何でもSOS団の解散式があるらしく、団長閣下からのありがたいお言葉も聞けるらしい。
これでもうこの部屋も見納めかと思いつつ扉を開けると、そこには古泉ひとりしかいなかった。朝比奈さんや鶴屋さんが来れなかったのはともかく、長門が遅れるとは珍しいこともあるものだ。
「どうかしましたか?」
「お前一人か?」
「そのようですね。それより、昨日何かあったようですね? できれば、何があったか聞かせていただければ嬉しいのですが」
目の前にいる古泉は確かに俺のよく知る古泉だ。長門やハルヒが来るまでもう少し時間がかかるかもしれない。時間つぶしにはちょうどいいだろう。そう思い、かいつまんで昨日起こったことを説明した。
「それは実に興味深い」
「お前はそれしか言えないのか。まるでパブロフの犬みたいだな」
「ふっふっふ、これは失礼。これ以上に適切な言葉が、僕のつたないボキャブラリーの中には見つからなかったものでして」
「まったくお前は初めて会った時から変わらんな。ハルヒもどうせ、また悪夢を見たとでも思ってるんだろう。まったく進歩が無い。まあ、俺の悪夢はどうやら今日で終わりのようだがな」
悪態をつく俺を見ながら、古泉のニヤニヤ顔がいつもにも増してニヤけていることに気づく。
「なんだ、なにかおかしなことを言ったか?」
「いえ、あなたのお話を伺って、ようやく涼宮さんの行動に合点がいきました」
「何? ハルヒはここに来たのか?」
「はい、あなたが来られる十分ほど前に涼宮さんと長門さん、朝比奈さん、鶴屋さんがここにおられました」
「な、俺は仲間はずれということか。もしかして昨日の報復ということなのか?」
「昨日のことが関係あるかと聞かれれば、大いに関係ありと答えざるを得ないでしょう」
得意の知ったかぶりを目の前で披露する古泉を眉間に皺をよせて睨んでいると、古泉は少々呆れ気味に両手で広げるポーズをとりながら頭を左右に振った。
「あなたに直接伝えたいことがあるので、来たら屋上へ来るように伝えて欲しいと涼宮さんから言付けられました。そこで僕が一人、部室に残ってあなたを待っていたわけです」
「解散式はどうなったんだ」
「ああ、それでしたら中止になりましたよ」
「あいかわらず勝手な奴だ」
「おや、皆さん納得した面持ちで帰宅されましたが」
「……で、いったいハルヒは俺に何の用なんだ?」
「きっと、これからも一緒に悪夢を見続けていきたいということではないでしょうか」
まったくもってまわりくどい言い方をする。その古泉の言い方が少し癪にさわったため、古泉を困らせてやろうと質問を投げかけた。
「ほう、では俺はどう答えればいいと思う?」
「あなたの正直な気持ちを伝えていただければよろしいかと。小手先の嘘など涼宮さんはすぐに見破ってしまいますから」
古泉はなんら動揺することなく淡々と答える。
「もちろん、あなたには悪夢を終わらせる権利があります。悪夢を終わらせるか、それとも現状を維持するか、どちらを選ぶかはあなたのご自由です。
涼宮さんは相当な覚悟を持って屋上で待ってらっしゃいますから、あなたがどのような決断を下そうとも、その結果のすべてを受け入れてくれるでしょう」
帰り支度をしながらまるで他人事のように話す古泉。まるであらかじめ結果が分かっているかのようだ。お前は超能力者であって未来人ではなかったはずだろ。
「では、失礼します」
古泉は今日一番の微笑で俺を一瞥してから部屋を出て行った。
大きく溜息をついてから、目を閉じて昨日あった出来事を思い出す。最後ハルヒは俺を追いかけて来た。つまり、ハルヒも未来から逃げない道を選んだんだ。
俺の忠告に従い、ハルヒは未来から、運命から逃げるようなことはしなかった。だから、俺も覚悟を決めなきゃならないな。
ハルヒの用件も、それにどう答えるかも、既に知っていた。部屋を出て昨日あの三人の後について歩いた道のりを再び辿る。
 
永遠のお茶会に出席するために
 
 
~終わり~
 


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