男なら。
男だから。
男くせに。
先にあげた三つの言葉には共通のある言葉が続くんだなこれが。
そう『ビビるな』だ。
「あ、あ、朝比奈さん!!歩道をお、お婆さんが!止まっ、止まれええええ」
「ふ、ふえええええええええええ」
何とも可愛いらしい断末魔と何とも情けない男の断末魔が車内に響く。
「さっきはすみませんでしたあ…」
「いえ、お婆さんも無傷でしたしそんな朝比奈さんが謝る事ないですよ」
もっとも俺は人としての尊厳を失ってもおかしくないレベルにまで『漏れて』かけてしまったが…
「やっぱり、私なんかが車の運転するのが間違っていたんです…」
…また始まったよ『私なんか』
「さっきのだって一歩間違えたら…うんうん、たまたま運が良かっただけですs…「朝比奈さん」
「ひゃい!?」
そんなに落ち込んでたりしてたらせっかくの可愛いらしい顔、仕草が台なしになるでしょう?
もっともそんな事言ったところで元気になるはずもなく、こういう時に有効なのは
「なんか腹減っちゃいました。だからお昼にしませんか?」
話題を帰る事に尽きる。
「…は、はい!直ぐに準備しますね」
何とも強引な気がするが、俺は某にやけ面のように口先巧みになんて事は出来ないわけで、これくらい強引じゃねえとしっくりこねえんだよ。
「今日はいつもに増して頑張ってお弁当作ってきたんですよ」
まあ、世の中にはどんな球でも強引に引っ張る事で名を成したプルヒッターはごまんといるんだから別にいいだろ。
「これなんか昨日から用意してたんですよお」
「本当ですか?そいつは楽しみです。じゃあ早速いただきます」
おお、こいつは朝比奈さん補正抜きで旨い。
「ああ、ちょっと待ってキョンくん!」
「へ?」
「さっきからキョンくんずっと約束破ってますよ」
約束…英訳するとPromise。なんかこっちを聞くと某消費者金融を思い出すのがデフォである。
「ちゃんと私の事『みくる』って呼ぶって約束したじゃないですか」
はい、確かにしました。はい。
しかも昨日、そのまた昨日も、そのまたまた昨日も。そう、毎日約束している…もとい、させられているのだが、今だに恥ずかしくてですね…
「ほらちゃんと『みくるの料理は美味しいな』って言ってください」
「自分でそれを言わせますか?」
「ほら早く!」
「み、みくるの料理は美味しいな」
なんだこの演技は!どこの一茂だ。
「よく言えましたぁ」
いや朝比奈さん?そうやって褒めてくれるのは嬉しいんですね、子供にするような頭ナデナデは流石に恥ずかしいです。
「キョンくん、これからもちゃんとそう呼んでね?」
「ぜ、善処します」
こうやって出来もしない約束をするはめになるなんて情けのない男だななんて言う言い掛かりをつける奴はどこのどいつだ?
仕方がないだろうよ。
この天使より天使らしい笑顔を前に男なら出来もしない約束をしてしまうってもんだ。
まあ、その出来もしない約束をし続けるのは俺だけの役目なわけで他の野郎にこれを譲るつもり微塵もないがな。