「会長、校内で煙草はやめてくださいと言ったはずですが」
 
二人っきりの生徒会室にて、書記である喜緑江美里に注意を受ける。
ふむ、確かに女性の目の前で煙草を吸うのはいささか思慮不足であったか。
 
「そういうことではありません」
「冗談だ。以後気をつける」
「全くもう。あ、そこに積んである書類、一度は目を通しておいてくださいね」
「…なんだこれは」
「文化祭に行う企画の承諾証です。クラス毎に分かれていますので」
 
…面倒だな。
 
「だから目を通すだけって言ってるじゃないですか。貴方にも少しくらい把握してもらわないと」
「…わかった」
 
流し読み程度にパラパラとA4用紙を捲る。
高校生の出し物にしてはなかなか種類が豊富じゃないか。
 
「私の記憶が正しければ、会長も高校生なはずなんですがね」
「そう言うな。折角生徒会長なんていうポストに立てたんだから」
「威張る前に、仕事の一つや二つこなしてみてくださいよね。はい、こちらの書類も」
「…まだあるのか?」
「今度は部活ごとに、です」
 
そう言って彼女はにっこりと笑う。
いや、別にいいんだ。書類に目を通すくらい。
 
ちなみに、一つ尋ねていいか?
 
「何でしょう?」
「さっきからカーテンに何を振りかけているんだ?」
「ファブリーズです。煙草臭いので。お気に召しませんでしたか?」
「…いや、かまわん」
 
ため息をひとつ吐いて、手渡された書類を読む。
こちらも特に問題は無いように思えるが。
 
「……む?」
 
とあるページにて手が止まる。
部活名は「SOS団」。
 
あいつら、また何かやらかすというのか?
 
「…映画上映」
「気になる出し物でもありましたか?」
「出し物というか、部活というか」
 
団長は神様に選ばれた女の子、だったっけか?
 
古泉の奴が言ってたことが正しければだいたいそんな感じだ。
 
「SOS団ですか」
「知っているのか?」
「えぇ、一度依頼をしに。会長は?」
「…知らん。いや、知りたくはなかった」
 
ま、この団長の存在で俺はここにいることができるんだがな。
 
「それって、どういうことですか?」
「ん?さぁな。自分でもよくわからん」
 
なし崩しになったようなもんだ。
ま、条件も悪くはなかったからな。
 
「ということは、この団のおかげで私たちも巡り会えたということですか?」
「…そういうことになるんじゃないのか?」
「ふーん。運命ですかね」
 
薮から棒になんなんだ一体。
俺の後ろから書類を覗き込む彼女に尋ねてみる。
 
「あ、いえ。何となくです」
 
たまに思うんだが、何考えているのかさっぱりわからん。
 
「…例えばの話なんですけど」
「ん?」
「もし私が消えてしまったら、会長は探してくれますか?」
 
…やっぱり
 
「何考えてるかさっぱりわからん」
「そうですかね?」
「大体な、なんで俺が君を探し出さなきゃならんのだ」
「だって、折角巡り会えた相棒だからじゃないですか」
「………」
「私、何か変なこと言いましたか?」
 
よくもまぁ、そんな台詞を真顔で言えたもんだ。
 
「あれ?漫画とかで良くこんな感じのこと言いませんでしたっけ?」
「それこそ作られた世界での話だろうに。聞いてるこっちが恥ずかしくなる」
「で、結局探してくれるんですか?」
 
好奇心か、無意識か、少し輝かせた目で彼女が詰め寄る。
ふわりと髪から心地よい香りが漂う。
 
…禁煙でもしてみるかね?
…いや、性格上無理そうだな。
 
「…物理上行ける所ならな」
「例えば?」
「屋上とか、近所の公園とか、そんな所だ」
「家出した猫じゃあるまいし」
「だったらそこまで心配される存在になってみせろ」
「んー、善処します。会長が星空までも探し出してくれるまでに」
 
…ちょっと待て。
何故そこまでスケールがでかくなるんだ。
 
「いえ、もしものことがあった時の話です」
「…もしも、ね。なるたけそんなところに迷い込まないようにしてくれ」
「何故ですか?」
「時間がかかるからに決まってるじゃないか。君のところに辿り着くまで何マイル旅しなきゃいけないんだ」
「計算しましょうか?」
「いや、いい。頭が痛くなる」
「というか、最愛の人に会いにいくのに時間なんか気にするんですか」
「誰が最愛の人だ。誰が」
 
あー、わかったわかった。
にっこりしながら自分を指差すのを止めろ。
 
「会長、例え話ですよ?」
「…はぁ、いいか?別に俺はな、時間がかかるのが面倒なわけじゃないんだ」
「ふむふむ」
「………」
「…間の手ですよ。続きをどうぞ」
「仮に君が俺にとっての最愛の人間だったとしよう」
「はい」
「君の居場所がわかったとして、そこに迎えに行くことになる。だが、君に辿り着くまでの時間、俺は何を思えばいいんだ?」
 
彼女がひとつ、首を傾げる。
わからないって言いたいのか。
 
「不安なんだよ。長ければ長い程。こうして向かっている間にも、君に何か起こってはいないかって」
「…なるほど」
「納得したか?」
「…一つ良いですか?」
「…なんだ」
「…顔、真っ赤ですよ?」
「とにかくだ、心配して欲しかったら、それ相応の存在になってみせろ」
「無視ですか」
「五月蝿いぞ」
「ふふ、まぁ、会長のためにも宇宙で迷子になるのは止めておきます」
 
ったく、茶化したいのか質問したいのかどっちなんだ。
 
手にしていた書類をまとめ、机の上に放る。
 

「さて、俺はもう帰るが、君はどうする?」
「もう少しファブリーズをかけてからにします」
「…嫌みか?」
「嫌みです」
「…わかった、俺も手伝うよ」
「ありがとうございます。ところで会長」
 
カーテンを開けながら、彼女が訪ねる。
 
「また例え話か?」
「いえ、そういうわけではないんですが。今ならどこまで探しにきてくれますか?」
 
…そうだな。
ま、とりあえずは…
 
「…煙草の吸えそうなところなら、どこにでも行ってやるさ」
 
おわり
 


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