「ごめんなさい」
「・・・」
「すいません 今僕には好きな人がいるんです」
「そう・・・ですか」
「・・・」
「いえ、聞いてくれてありがとうございました」
「気持ちに応えられなくてごめんなさい」
「いいんです ・・・それじゃ」
走っていく後ろ姿を見つめながら僕はため息をついた
あ・・・名前も聞いてなかったな

「てんめぇまた告られたのか!?!?
入学してから3カ月で何人目だよ」
・・・見てたのかい谷口
良い趣味じゃないね
「このヤローちょっと可愛い顔してるからって!」バシバシ
痛いよ
「んで?また振ったのか?今の子は俺的にB+くらいだったぞ」
なら自分で行ってくればいい
失恋(僕のせいだけど)した女の子は落としやすいって言ってたのは谷口だろう?
「このヤロー余裕見せやがって」ボカボカ
痛いって
「あーあ なんで俺には春が来ないんだ」
知らないよ もっと努力したら?
「お前も全部振ってるけどなんだ?彼女がいるなんて聞いてないが」
いいじゃないか別に
「良 く ね え」ギリギリ
痛い痛い痛い
「彼女いないのにこんなに振るなんて異常だぞお前」
ほっといてくれよ
「だいたいてめぇは・・・・・」
・・・もうほっとこう
僕は隣の友人(いや、もう知り合いに格下げしようか)の愚痴と文句を聞き流しながら空を見上げた
・・・今日もいい天気だね

「よう、国木田 今帰りか?」
ああ、キョン キョンはいつもより早いね
「あぁ、ハルヒのやつが『駅前にスイーツのおいしい店できたの!みんなで行くわよ!』とか言い出したからこれから行ってくる」
SOS団みんなで?
「今回は鶴屋さんもいるけどな」
そっか 楽しんできなよ
「先週の不思議探索で遅刻した分まだおごってねぇんだよな・・・今日払わされたら俺の財布は世界恐慌だぜ」
・・・ご愁傷様、キョン
話してるうちに他のメンバーもやってくる
もちろん「あの子」も
「・・・・・・」
集団に混じって歩いてくる女の子
みんながスイーツの話で盛り上がっているのに1人何も話さない女の子
でも他の人は黙っている事を気にしない
長門有希
そして僕の好きな人


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


彼女との出会いは中学2年の終わり
塾の帰りにコンビニで見かけた
自分が行こうと思っていた北高の制服を見かけたのがきっかけ
その時は別に何とも思わなかった
次の週にまた同じコンビニで会った
僕が最後のカツカレー弁当を取ると「あっ」と声が聞こえた
振り返ると彼女がいた
僕の事を凝視している
いや、正確にはカツカレー弁当かな
「・・・・・・」
僕には目もくれずただ弁当を見ている
うーん・・・
カツカレーは好きだけど、別にこれじゃなきゃ嫌だというわけではないなぁ
無表情で見られてるのも気まずい
「あの・・・良かったらどうぞ」
カツカレーを差し出す
「いいの?」
「ええ、僕は別に他のでも構わないので」
「・・・感謝する」
彼女は無表情のままそれを受け取る
えっと・・・こっち見て動かないと気まずいまんまなんだけど
「・・・・・・・国木田」
え?今なんと?
小さい声だったけど確かに聞こえた
僕の名前?何で知ってるんだろう
「あの・・・どこかでお会いしたことありましたか?」
僕に高校生の知り合いはいなかったと思うんだけど・・・
「・・・・・・『彼』の友人だから」
?彼って誰だろ
「・・・・・・」
それきり彼女は黙ってしまった
これ以上は聞きづらいなぁ
「あの・・・それじゃ僕はこれで」
踵を返した時、制服の裾がつかまれた
振り返ると彼女がまた無表情のままで
「待って まだこのカレーのお礼をしていない」
え・・・お礼ってほど良い事したわけじゃない気もするんだけど・・・
「いい 気にしないで」
それってこっちのセリフじゃ?


結局コーヒーをごちそうになってしまった
会計の時普通に諭吉出してたよね・・・
しかも1枚じゃなかったのが見えてしまった
見る気はなかったんだけど
「あの・・・ごちそうになってすいません」
「いい 気にしないで」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ええと 帰ってもいいんだろうか
正直この空気は楽じゃない
はっきり言えば帰りたい
別に悪い人じゃないと思うんだけど・・・
「あなたは」
「はいっ」
突然声をかけられて声が裏返ってしまった
うわ 恥ずかしい・・・
「あなたは今でも彼・・・キョンの友人?」
「え・・・?」
キョンって言った?
あのキョン?
ならさっきの『彼』ってキョンの事だったんだろうか
彼女はキョンの知り合いなのかな
「・・・」
「あ、はい そうです」
「そう」
「ええ・・・」
3月も終わりとはいえ夜は寒い
今年は特に寒くないかな
公園の街頭がチカチカしている
「あなたは」
「はいっ」
「あなたはどういう人?」
「はい?」
「彼の数少ない友人であるあなたに興味を持った」
数少ない・・・
「キョンには友達は結構いますよ」
「・・・」
「休みの日に遊ぶほど、ってなると少ないかもしれませんけどね」
実際遊ぶとしたら僕か・・・あとは
「あなたはどういう人?」
さっきの質問
自分がどういう人、なんて考えた事ないよ
進学とか就職の為に面接練習してるわけじゃないんだし
「えっと・・・普通、だと思いますけど」
「・・・そう」
だめな答えだったんだろうか
けど突然なんだしこれで勘弁してください
年上の人とこんなに話すのは初めてだ
なんか緊張する
「あの、北高の方ですよね」
「?」
「あ、制服が北高のものだったので・・・」
「・・・正確にはまだ」
正確にはまだ?なら合格が決まっている3年生なんだろうか
でも合格した喜びから高校の制服着て舞い上がるような性格には見えない
さっきから、というか多分一度も表情が変わってない
声の抑揚もほとんどない
すごく冷静な人に見える
転校生・・・でも同じか 制服着てる理由にはならないかな
「あなたと同じ年」
え・・・ならなんで北高の制服を・・・
「おかしい?」
外見がおかしいんじゃないです
まだ決まってもいないのに制服持ってることは少しおかしいかと
「いえ、ただまだ入ってないのに制服を着ているのはなんでだろうかと・・・」
「入るから」
決定事項なのだろうか
「そう・・・なんですか」
「そう」
「・・・」
「・・・」
さっき彼女は僕に興味があるといった
正直僕も彼女に興味がある
2年生で志望先が決まっている彼女
目指している、のではなく決まっている、らしい
そんなに北高ってすごいとこだっけ?
「なんで北高に?」
「・・・それが必要だから」
よくわからないけど入らなきゃいけない理由でもあるんだろうか
なんかこの先は踏み込んじゃいけない気がする
「それと」
「え?」
「あなたが敬語を使う必要はない
恐らくあなたは服装から私の事を年上だと思い敬語で話していた
けど私とあなたは同い年
よって敬語を使う必要はない」
えっと・・・
急に言われても初対面の人にタメ口をきくのは気が引けるかも
「・・・無理にとは言わない」
「すいません」
「謝らなくても いい」

その時の彼女との会話はそれきりだった
というのも彼女の友人と思われる北高の制服を着た人が迎えにきたからだ
その時彼女が「ナガト」さんなのだと知った
迎えに来たのは青い髪のきれいな人
この人も同い年なのだろうか
「あら あなたは彼の・・・」
「?」
この人もキョンの知り合いなんだろうか
「ふふっ 出来れば私たちの事は他の人たちに話さないでもらえるかしら」
「? ええ、別に構いませんけど」
なんでだろ
「それじゃ私たちはこれで さっ帰りましょ長門さん」
「・・・」
そのまま2人は大きなマンションに向かって歩いて行った
何だったんだろう・・・

その後も長門さんとはたまに会った
いつも同じ時間にコンビニに買い物に来ている
たいていカレーを買っていく たまにおでんも
僕が塾の授業終わって、自習したり友達としゃべったりした後に帰る時に会うから結構遅い
こんな時間にコンビニのカレー買ってるなんて
一人暮らしなんだろうか
中学生なのに
そしていつも北高の制服を着ている
かなり不思議な人だ
会うときは何となく声をかけるようになった
彼女も僕に気付くけれど、先に気付いても声をかけてくることはない
たいていは他愛もない話だ
彼女の方からいろいろ話してくることはないから本当に少ししか会話しない
僕はそんなに口が達者じゃないしね

4月になり僕は中学3年生になった
塾の時間が少し遅くなったから、授業が終わってすぐ帰ると長門さんがいる時間だ
その時は別に「好き」というわけではなかった
ただどこの中学なのかも不明
恐らく一人暮らし(あの時の青髪の人も)
そんなミステリアスな彼女に興味がわいたんだと思う

ある日、いつものようにコンビニで会った長門さんに聞いてみた
「いつもカレー買ってるけど、自分で作ったりしないの?」
彼女は少しだけ、本当に少しだけ首を傾けた
「?」 って感じだ
「えと・・・いつもカレー買ってるし・・・作ったりしないのかなって」
いつのまにか敬語じゃなく自然と話せるようになっていた
彼女の方の様子は相変わらずだけど
「作る?」
「うん、近くにスーパーもあるし」
「作ったことが無い」
意外だった
こんなにカレーが好きそうなら種類の少ないコンビニより自分で作った方がいいと思うのに
っていうかカレーくらいなら誰でも出来そうだし
「そうなんだ・・・」
「そう
 あなたはあるの?」
「え」
無くはない
親がいない時は自分で何か作って食べてるし
「一応あるけど・・・」
「教えて」
教えるほど難しくもないんだけどなぁ
「野菜とか肉切って、軽く炒めたら水入れて煮込んでルー入れる、ってだけで市販のものならできるよ
こだわるなら他に色々あるだろうけど・・・」
我が家ではリンゴは必ず入る
「明日、暇?」
「え?」
・・・な、なんだって?
「明日、時間があるなら私の家でカレーを作ってほしい
材料は用意する」
突然すぎる提案に僕は戸惑った
直接は聞いてないけど一人暮らしなんだろうし・・・
何かあることはないにせよ緊張はする
彼女が顔色1つ変わってないことは救いだった
「あ・・・うん 大丈夫だよ」
明日は土曜日だ
塾も休みだし
「じゃあ午前10時にここに来て」
「うん わかった」
「なにか事前に用意しとかなければいけないものはある?」
「ん~ いや、好きに材料用意してもらえれば…」
「了解した」

次の日
9時30分にはコンビニについてしまいそうな時間に僕は家を出た
彼女とかではないにしろ女の子の家に上がるのは緊張する
彼女じゃないからむしろ緊張するのかも
そんな事を思いながら歩いているとコンビニが見え…
もう長門さんがいた
時計を見る
9時25分
早いんだな・・・
「おはよう」
「おはよう」
「ごめん 待たせちゃって」
「いい 時間に遅れているわけではない」
そうなんだけど…何か申し訳ない気分になる
「ついて来て」
長門さんはマンションに向かって歩き出す
やっぱり今日も制服だった

「・・・・・・・・・・・」
長門さんの家に着いた僕は驚いた
やっぱり一人暮らしだった、という事ではない
女の子の部屋の割に殺風景…と言っては失礼か シンプルな部屋だっ
からじゃない
あの青髪の人(朝倉さんと言うらしい)がいたからじゃない
冷蔵庫にはとても3人で(何か雰囲気的に僕も食べてくような気がする)
べられる量じゃない食材があった
ニンジンが10本もある・・・
さらに驚いたのが
調理器具が無かった
コンロはある
電子レンジもある
炊飯器もある
土鍋(おでん用?)もある
・・・それだけ
包丁すらない
「えと・・・長門さん」
「なに」
「包丁とかまな板とかお鍋ってどこ?」
「無い」
やっぱり
本当に作ったことないんだ・・・
「ならスーパーで買ってくるよ」
「それなら私も行く あなたにお金を出させるわけにはいかない」
そんなにこだわらなくても
まぁ正直中学生に調理器具一式そろえるのはきついんだけどね
スーパーで隠し味用の林檎とかも見てると、長門さんが鍋を持ってきた
「!?!?!?!?」
僕入れても3人だったよね・・
その鍋どう見ても3人用じゃないけど
「これくらいは食べる」
それが本当なら人参10本あったのもうなずけ…ないない!
「ほ、本当に大丈夫?」
「大丈夫」
全くブレることが無い態度を見てると本当に食べそうな気がしてくる
こんな華奢な体なのに…

調理自体は楽だった
「手伝う 指示を出して」
と言った長門さんはすごく器用で、皮むきも灰汁取りも早いし完璧だった
本当に全部入った・・・
学校給食に出てきそうな鍋を見て、僕は不安になった
いくらなんでも2日以内には食べないとアウトだよね
そんな不安は数十分後消えてなくなることになる

「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした~」
「・・・・・・」
か・・・空!?
僕も2杯食べたとはいえこの2人は・・・
何人前あったのか考えたくもない量のカレーは、きれいに無くなっていた
「今度はおんなじ事をおでんでやってみたいわね、長門さん?」
「・・・カレーを推奨する」
ついていけません
この2人は人間なんでしょうか
「ところで国木田君」
「はっはい!」なぜか敬語
「とってもおいしかったわよ♪」
「あぁ・・・どうも」
「美味しかった ありがとう」
長門さんに感謝されるとは…
「また、作りに来て」
「え・・・うん わかった」
勢いとかじゃなく承諾した
自分の料理を食べてもらうのは嬉しかったし
感謝されることも嬉しかった

その後、塾の後にはコンビニで休日には食事を作りに
長門さん(と朝倉さん)に会う機会が増えてった
夏過ぎには毎週のように作りに行っていた

ほとんどがカレーかおでんだったけど
2人はとても頭が良かった
僕より全然
僕もそんなに悪いわけじゃないけれど、この2人は別格だった
食事を作りにいってそのまま勉強してる時もあった
本当は2人はやらなくても大丈夫なんだろう
でも僕に合わせてくれていた

中学3年間も終わり、僕は北高に入った
クラスは違うけど、長門さんも一緒だった
朝倉さんは同じクラスで、委員長をやっている
高校に入って、僕は食事を作りに行かなくなった
土曜日とかはたいてい涼宮さんとかキョンのいるSOS団で集まっているらしいし
塾にももう行ってないから、コンビニに行く用事もない
朝倉さんは何してるのかもよくわからないなぁ
長門さんの部屋に来てただけだし
特に話題もないし、何となく疎遠になった
クラスも違うし話す機会がない
そういえばアドレスも知らないなぁ・・・
僕がケータイ持ったのは中学卒業してからだし
たまにすれ違う時は挨拶くらいする
ただそれだけになっていった

だから・・・なのかもしれない
自分の気持ちに気付いたのは
いつからなのかわからない、自分の心

ただ無表情な彼女を見ていて
カレーかおでんかで冷静ながらも熱く言い争う彼女を見ていて
横で調理を手伝ってくれる彼女を見ていて
表情を変えずにカレーを食べる彼女を見ていて
勉強を教えてくれる彼女を見ていて

いつからだろう
彼女の笑顔を見たいと思った
1度も見たことが無い、彼女の笑顔

もし、
もしも願いがかなうのなら
その、
彼女の笑顔を、
僕一人のものにしたいと思った

人間は強欲だ
僕も、自分で思っているより強欲なようだ
1度思うと止められない
いつかキョンが
「ハルヒは『恋は精神病だ』なんて言ってやがる」
って言ってた

そうかもね
今、僕は病気なのかもしれない
けど、治さなくても良いとも思ってる
初恋は、大事にしたいものから


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おい国木田 何ボーっとしてるんだ?」
いきなり肩を組まないでくれよ
「つれねーなーお前の近くにいりゃ女の子が寄ってくるかも、とか思ったのに」
・・・知り合いから赤の他人に格下げだよ谷口
「スマンスマンそう怒るなって」
呆れてるんだよ
「なぁキョン、駅前の喫茶店行くんだろ? 俺たちも行っていいか?」
俺たち、って
「俺と国木田も、って事だよ」
「あぁ俺は構わないが・・・
おーい、ハルヒ 国木田と谷口もいいか?」
「別にいいわよー」
「よっしゃ決まりだ!
あぁ・・・こんな美少女達とお茶できるなんて…」
美少女って 言い方がアレだね
「朝比奈さんと長門と鶴屋さん・・・明日からすげぇ自慢できるぜ」
他力本願だね ならキョンは毎週自慢できるじゃん
「うるせー お前らにはわかんねーんだよ!」
『ピンポーン』
『1年5組 谷口くん 至急職員室まで来てください
 1年5組 谷口くん 至急職員室まで来てください』
・・・・・これも日頃の行いかな

結局本気で泣きそうな谷口を置いて僕はついていくことになった
「初めまして・・・というわけではないですが改めてよろしくお願いします国木田君」
「よろしく、古泉君」
女の子4人が前、男3人が後ろで歩いて行く
キョンはにやけ面が嫌いとか言ってたけど性格はいい人だ
・・・・ごめん、正直それどころじゃないんだけど
さっきから意識は数メートル先を歩いてる長門さんにしか向いてない
中学時代の事はキョンにも話してないから、多分僕らが顔みしりだってこ
とも知らないだろう
幸いにも自己紹介の後はキョンと古泉君で話していた
今僕に話をしてる余裕はない
もうちょっと落ち着くには時間が…

だいぶ落ち着いてきたころ、例の店に着いた
オープン記念でなんかのフェアをやってる
中はかなり広かった
けどこの時間はさすがに混んでるなぁ…
とりあえず8人掛けの席に座る
男女向かい合う形で
キョンが真ん中だけど涼宮さんの暴走を止めることで手いっぱいだ
古泉君は笑って見ている
涼宮さんは鶴屋さんと一緒に朝比奈さんを挟んで遊んでいる
僕の正面は…長門さんがいるわけで
自分から横の騒ぎに入らない僕と長門さんは無言で過ごしていた
「久しぶり・・・だね こうして話すの」
「挨拶以外では2か月と20日ぶり」
入学式の日以来ってことかな
長門さんの様子は全く変わってない
「お待たせいたしました~」
店員さんが品物を持っtでかい!!多い!!!
男子3人は1品ずつだけど女性陣はこの店のメニューを開店早々制覇しそうなほどの量を注文していた
うわぁ・・・
キョン、土日はいつもこんなん?
「いつもはここまでパワフルじゃないな、さすがに」
だよね、こんなんじゃ誰だってすぐ世界恐慌だよ
「「「いただきまーーす!!」」」
「・・・いただきます」
女性陣はお互いに交換しながら食べていく
男がそんなことしたら気持ち悪いだけだけどね
なぜか、というかやっぱり、というかいじられるのは朝比奈さんの役割みたいだ
男子が全部食べ終わったころ、涼宮さんと鶴屋さんの暴走が始まりキョンが…というさっきと同じ状況になった
ふぅ 多分いつもこんななんだろうなぁ
「・・・」
食べ終わった僕はコーヒーを飲みながら何となく長門さんを見ていた
熱い もうちょっと冷ましとこう
ずっと思ってたけど長門さんってよく食べるね・・・
「・・・?」
僕の視線に気づいた長門さんが顔をあげる
! あわててそらす
・・・やっぱり恥ずかしいな
「・・・・・・」
長門さんがこっちを見ているのがわかる
・・・・・・
あ、下向いたっぽい
食事に戻ってくれたのかな
視線を戻すとそこには信じられない光景があった

「・・・・・・」
「・・・・・・」
な、長門さん?
長門さんがケーキが刺さったフォークをこちらに向けている
えーーーっと・・・
「あなたが私を見ていたので食べ足りないのかと判断した」
・・・・・・
「違った?」
首をかしげる
いや、見てたのは見惚れてたから、なんて言えるはずがない
「食べないの?」

僕が黙っていると長門さんはさらに首をかしげた
いやいやいや食べる、ってこれ間接・・・
困っていると長門さんがさらにフォークを近づけてきた
横を見ると5人とも気づいてない
都合良すぎない?
視線を戻すと目の前にフォークがあった
!・・・・・
ええい!覚悟決めろ!!
パクッ
・・・・・・・
「おいしい?」
「・・・・・・うん・・・」
「良かった」
長門さんは食事を再開する
実は味なんて全然分かんなかった
見られてなかったとはいえ今の僕はだれから見ても異常だと思うほど真っ赤だろう
しばらく・・・しばらく冷却時間を・・・!!

女性陣も食べ終わった後、キョンの自腹と言うこともなく普通に自分の分は自分で払った
よかったね、キョン
相変わらず長門さんの財布には諭吉さんが沢山いるように見えたけど・・・

古泉君は黒塗りのタクシーが来たかと思うとすぐに消えていった
鶴屋さんは朝比奈さんと帰って行った
キョンは涼宮さんに引っ張られどこかへ・・・
そうなると残るのは当然
「・・・・・・」
僕と長門さんなわけで
「・・・帰る?」
「・・・コクッ」
並んで歩きだす
さっきのこともあって僕は長門さんを直視できない
長門さんは…いつもどおりなんだろうなぁ
「・・・」
もうずいぶん陽が長くなっていた

?何か音が・・・
横を向くと車がまっすぐ突っ込んでくる
!!!
「危ない」と声に出すより早く、思うより早く、体は動いていた
長門さんを突き飛ばす
と同時に視界がゆがんだ
右半身に痛みが走る
視界が反転・・・したと思う 見えてなんて無いけど
初めて見た長門さんの無表情以外の顔は、「驚愕」だった

・・・・・
・・・・・・・・・・
ん・・・・
目を覚ます
あれ・・・なんか見たことあるな、この天井・・・
確か・・・・・・・
長門さんの・・・

!!!!!
飛び起きる
あれ?僕はさっき・・・
車にはねられて?
いや、それより長門さんは?
長門さんは無事だったのか?
飛び起きるってのはたとえじゃない
さっき轢かれたはずなのに今の僕には傷が無かった
夢・・・?
いや、あんなリアルな夢ここ長門さんの部屋だし

ふすまが開く

長門さんが顔を出す
良かった・・・無事だったんだ・・・
涙が出てきた
「?どこか痛いの?」「ごめん、そんなんじゃないんだ」
長門さんが僕の前に座る

「・・・いまからの話は私の独り言」
「?」
「あなたはさっきトラックに轢かれた 私をかばって」
・・・・
「轢かれたあなたは普通なら死んでいた 現代の医学ではとても助からなかった」
現に死んだと思ったよ
「だからここへ運んだ 私なら助けられる」

「私は人間ではない
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
???事故で僕の頭がどうかしたのだろうか
「あなたの頭は正常 あえて言うならこの状況が異常」
確かに普通じゃないよね・・・
「私は自分の意志で能力をある程度制限し、人間に近づこうとしていた
しかし今回は命がかかっていたので全力で取り組んだ
その結果、あなたを助けることができた」
そっか・・・いきなり全部理解するのは無理かも知れないけど
「私がここに来た目的は涼宮ハルヒを観察するため
・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・」

キョンも聞いたという説明を聞いた僕は、なぜだかそれを受け入れることができた
あの食べっぷりは確かに人間じゃないなぁ、と笑う余裕さえあった
「最後に重要な話がある」
「? なに?」
「今の治療の影響で、あなたに私の力が少し移ってしまった
今は何ともない 少しずつ情報改変能力が身に付く
と言っても恐らく、触れずに物を動かす程度
超能力、と騒がれるものの一種だと思ってくれていい
そして私は能力が減衰した
代わりに人間に近づいたのかもしれない
自己を犠牲にして私を助けようとしたあなたの『気持ち』が今なら分かるような気がする
・・・ありがとう」
彼女はそう言ってほほ笑んだ
恐らく、いや絶対に他の人に見せた事の無い
僕がはじめて見た彼女の笑顔

「長門さん」
「なに?」
「僕も大事な話があります」
「・・・・・・」
『感情』を知った今、彼女はおそらく僕のこれから言う事が分かるだろう
「僕は・・・あなたの事が好きです
世界のだれよりも、あなたの事を愛しています」
長門さんを抱きしめる
「でも・・・私は人間ではない」
「わかっています それでも僕はあなたが好きだ」
「・・・・・・」
僕の背中に腕が回される
「あなたが私を助けてくれた時、とても驚いた
今なら分かる その時私は嬉しかった
私が轢かれてもその場ですぐ治せた
他者の治療より自分の治療の方がしやすい
その事をあなたは当然知らなかった」
「知っていても黙って見ているなんて無理です
好きな人が傷つくところなんて見たくない」
「・・・ありがとう

でもあなたが傷つくところを私は見た」
「それを言われると痛いなぁ」
「くすっ」
「・・・っていうか僕が轢かれたのが『好きな人が傷つくところ』なんですか?」
「そう、私にとってあなたは『好きな人』」
「!!!」
うわ、多分僕今真っ赤だ
お互い顔が見えなくて良k・・・
長門さんの耳が真っ赤だ
「長門さん」
「・・・・有希でいい」
「有希さん」
「有希」
「・・・有希」
「なに」
「大好きです」
「私も、大好き」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕は今SOS団と鶴屋さん(谷口はまた呼び出されてた 今度は柔道部の先輩に 妹さんにでもナンパしたのかな)で
駅前の喫茶店に来ている
なg・・・有希は少しずつ笑うようになってきた
キョンや涼宮さんたちも驚いてたから本当に今まで無表情だったんだろう
でも付き合ってる事はまだ話してない
有希も他人に言いふらすような性格じゃないし
「お待たせいたしました~」
相変わらず4人はよく食べるね
今日は僕はコーヒーだけ
そんなにおなかも減ってないし
席はいつもと同じだから有希の正面
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ケーキが刺さったフォークが差し出されている
ゆ・・有希?僕そんなに食べたそうに見えた?
「違う これはとても美味しい あなたにもぜひ食べて欲しい」
え・・と 横を見る
全員が口をあけてこっちを見ている
鶴屋さんあんな顔するんだね
「ちょちょちょっと有希!!!どういう事!?!?」
「なななな長門さん!?」
「どうしたんだ長門!!」
「長門っち積極的だねぇ!!」
「・・・・・・」
古泉君が黙ってるよ
「・・・どうもしない
このケーキはとても美味しい 私は彼にもこの幸せを味わってほしい
それだけ」
「いやそれだけって有希、それはかかか間s」
「初めてではない」
「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

さすがにみんなも驚いてるなぁ
・・・・じゃなくって!
確かに有希の部屋で前もしたけど
っていってもバカップルみたい「あーん」とかじゃなくてデザート一口交換したくらいだった
「初めてじゃないってどういう事!?」
「そのままの意味」
「え・・・じゃぁ前にもあったんですかぁ?」
「初めてここに来た時とか」
「初対面のこいつにか?」
「初対面では無い 約1年半前からの知り合い」
「では、もしかしてあなた達は・・・?」
「付き合っている」
「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
店内には静寂が横たわる 店員さんすら手を止めてこっちを見ている
いつの間にか(正確には涼宮さんたちが騒いでたあたりから)店内の視線を集めていた僕たちはそのまま交際宣言までしてしまった
有希は顔が赤くなっている
いや、僕は多分真っ赤だろう
耳まで熱い

「いや~お姉さんもびっくりだ」
「動揺して口癖変わってますよ鶴屋さん」
「いつから!?ねぇ有希いつから!?」
「7月頃」
「もしかして表情が豊かになったのは彼のおかげなんですかぁ?」
「そう」
「いやぁそれはあなたの役割だと思っていたんですが・・意外でしたねぇ」
「顔が近いぞ」
「彼には涼宮ハルヒがいる」
「「!!!!!!!!」」
飛び火した
「ちょちょちょちょっと有希!!!」
「長門!?」
「?」
有希はもう感情はわかるんだ
本気で「?」となってるわけじゃない とぼけてるんだ
この2人をからかってるんだろう
今度は2人が矢面に立たされそうだ
勝手に自爆する涼宮さんとそれを止めるキョンを見てると、横からフォークが来た
「食べて」
あ、そうだった
いただきます
・・・ん、おいしい
「良かった」
そういって彼女はまた微笑んだ

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最終更新:2020年03月12日 20:20