「あなたは私に、好きといわれたい?」
「ああ、そうだな」
◆
過ちと、過ちと、過ちと、過ちと、過ちと、過ちと、過ちと
いったいいくつの過ちの上に、この世界は成り立っているのだろう?
この世の中に、世界などと言うどでかいステージの上に、過ちなどをこしらえられるような大層な存在が、一体何人ほど存在しているのか、俺は知らない。しかし、少なくとも。俺の周囲には、そいつをやってのけてしまう、はた迷惑な存在が、ちらほら、幾人が存在していた。
そして俺は、そいつらによって作られた過ちが、誰かの手によって正される瞬間を、幾度か目にしてきた。
しかし、なんだ。
過ちなどと言うものは、誰かがそれに気づいたからこそ生まれるものであり、果たしてこの世に、正しい筋道を経由せずに綴られてしまった道のりが、いったいいくつあっただろう?
その数など、俺には知る由も無い。おそらく、俺以外の、この世の誰にも…それは誰にも正されなかった時点で、過ちなどではないのかもしれない。
……そもそも、正しさとは?
それは、俺には難しすぎる問題だ。
俺にとっての長すぎる年末年始が、ようやく終わりを告げ
長い長い、新しい一年と言う路を、渋々と歩み始めた矢先だった。
長門の部屋で目覚めた、あの日。
この俺の手によって創られた、この世界が始まってから、ちょうどひと月ほどになる。
変わったことは何も無い。涼宮ハルヒと共に生きる日々としては、少し物足りないくらいの、ありきたりなひと月だった。
俺たちはやかましくクリスマスを祝い、けたたましく雪山をはしゃぎまわり、物言わぬふてくされ顔の猫と成って久しいシャミセンをめぐり、古泉一樹のささやかな陰謀を解き明かし、筋肉がとろけて行くような温暖な自室と、脳髄をシャーベットに作り変えんばかりの寒気の中とを行き来し、飯を食い、呼吸をし、風呂に入り、妹に弄ばれ、やがて学校が始まり、朝比奈さんのお茶を飲み、ハルヒと小言を言い合い、古泉と他愛の無いボードゲームに勤しみ…
そして、長門有希と、決して多くない時間の会話をした。
「次は、節分ね」
この世の征服を企てる魔界の王女のささやきにも似た、そんなハルヒの呟きに、ほのかな不安などを抱きつつもいたが。それに代えたとしても、このひと月とは、平穏な時間であったと呼んでいいのではないだろうか。そうでなければ、この俺の徒労も報われない。何しろ俺は、この屈託の無い時間を手にするために、随分と回り道をしてきたのだから。
俺の中に存在する、あまりにも虚ろで、奇妙で、長すぎた不思議な一ヶ月間の記憶。
あれはすべて、俺が見た夢の中の出来事だったのではないだろうか?
ふと、そんなことを考えてしまうのも仕方がないことだろう。
なにしろ、その記憶がすべて、現実にあったことならば。このありとあらゆるものがありふれている日常。見上げれば高く上る寒空。呼吸をすれば感じるにおい、目を開ければそこにある風景。
そのすべては、ついこの間、俺の手によって創られたものだというのだから。
今になって思えば、そんな突拍子も無い話が、現実にあったことなどとは思えなくなりつつある。
長門も、古泉も、朝比奈さんも、もちろん、あのハルヒさえも知らない、俺だけが知る事実。たとえそれが、このまま幻であったことになってしまったところで、誰か困る奴が居るだろうか?
誰も困らない。
一月の寒空の下、俺はそんなふうに思い始めていた。
◆
これは、つい最近知ったことなのだが。
俺はもしかすると、この世が始まって以来、史上最大の、薄情ものなのかもしれない。
◆
この世が始まってから、幾億度目かの「過ち」の発覚。
それは、ある土曜日の昼下がりから始まった。