……ああ、見つかってしまったか。
出来れば佐々木の暴挙を他人に知らしめる事は良しとしなかったから、敢えて見つかりにくいようにしていたのだが、発見してしまうとは目敏いというかしつこいというか……
オホン、だが見つけてしまったものはしょうがない。俺が既定事項を守るため、佐々木がやっちまった失態をお見せしよう。
なお、お子様にはちょっと過激な内容を含んでいるかもしれないから気をつけてくれ。そんなに大したものじゃないが念のためな。
そして、ググって来た人、あるいは更新履歴から辿ってきた人は、物語の最初から読んで頂けば幸いである。
こちらだ。
時は流れて当日。
かったるい英語の授業はチャイムを持って終了を告げ、いよいよ問題の体育の時間前である。
俺はと言うと倦怠感溢れる授業からようやく解放され、腕を伸ばして背伸びをしながらどうやって佐々木をガードしようか、それとも知らん振りしてようか、どっちにしようかなと考えていたその時。
(キョン、それじゃあ始めるよ。よく見ててね)
後ろの席から小声で語りかけてくるのは、やる気を完全に取り戻した一人の少女。
ふと後ろを見ると、既に体操着を取り出して準備万端の状態。あれだけ嫌がっていたのがまるで嘘のような仕草であった。
授業が終わったばっかりなので、教室を移動すべき男子生徒の半数以上はまだ自室に篭っている。勿論俺もその一人。
やるなら今をもって他は無い。
ああ、頼んだぜ。俺はなるべくそっちを見ないようにしてるから、ちゃっちゃとやっちゃってくれ。
(何を言っているんだキョン。キョンにもやってもらうことがあるんだ。ちゃんと手伝ってもらわなきゃ困るよ)
は?
お前、何を言って――
そう言おうと、立ち上がって振り向いた瞬間、佐々木は俺の両腕を掴んで、
(キョンは壁だからそこから動いちゃだめ)
佐々木はそのまま両手を机の上に持って行き、俺の両手が机に付いたのを見定めてからホールド。
つまり今の俺は、自分の椅子を起点にして佐々木の机に手をかけている状態。身を乗り出して喋るハルヒと逆パターンだと捉えれば分かりやすいだろう。
「……壁?」まだ点在している男子生徒からの目線を防ぐための壁ということか? なるほどそれは妙案だ。
覆い被さるように存在する俺は、佐々木の姿の大半を覆い尽くしている。加えて俺達の席は窓際後方の角(この前の席替えでそううなった。結局ハルヒの定位置に佐々木が来たことになる)。
これならば大多数の人間が佐々木の生着替えを直視することは無いだろうし、見えたとしても腕や足の一部だけ。
『私、ライトになります』と言って服を脱いだ後の戸○恵○香が佐々木、カ○プ○ード○ラ○トが俺。
つまりそんな状態だ。
妙案だとは思うのだが……しかし佐々木、ひとつ教えてくれ。
なぜ……俺達は向き合ったままなのだ?
(くっくっくっ……決まってるじゃないか)
妙艶な笑みを浮かべた後、佐々木は迷わず、
(キョンに見せるためじゃないか)
「なっ!!」
(他の男子生徒の目線をカットしつつ、キョンの視線だけはこちらに送る。となればこの方法が一番じゃないか。そう言うわけだからちゃんと壁の役よろしく。ああ、もっと近づいてもいいんだよ。その方が露呈されにくいし、キョンはもっと近くで見られるし)
……やっぱり勘違いしてやがった……
大多数の男子生徒がまだ教室にいるこの時間、佐々木は障害物を巧みに利用し、男子生徒からの死角になるよう着替え始めた。
障害物も去ることながら、集まりつつある自他クラスの女子生徒が上手い具合に包囲網となる。
おかげで佐々木の裸体(といっても下着姿だが)を間近に見る男子学生は殆どいないはずだし、仮に見えたとしてもかなりの遠目で何をしているか分からない状態だろう。
俺、一人を除き。
(よーく見てて……)
佐々木は思考が停止しかけている俺の目の前で、やおらセーラー服のファスナーに手をかけた。
ファスナーを開いた先から、佐々木の白い肌が姿を見せ始める。
うわちょっと待て。水着やバニーガールで女性の肌は見慣れているし、朝比奈さんの下着姿も正直何度も拝んでいる。
だが、ここまで間近で見た事はなかった。
なんだかやばいってこれは!
心の中では道徳心と自制心が入り混じったそんな叫びを上げているのだが、悲しいかな俺の本能たる部分がそれを拒む。
ファスナーは既に全開。チラリと見える、白くて細い腰から目が離せない。
(くくく……キョン、どこ見てるの?)
その姿を見た佐々木は突如、露出した部分を遮るように両手を宛がった。
肌を見せないようにするため……ではなかった。セーラー服を掴んだ両手を、そろそろと捲り上げるためだった。
しかも一気に脱ごうとはせず、線香が燃えるくらいゆっくりの速度で、するするする、と少しずつ肌をさらけ出す。
腰の括れが露になる。佐々木のスタイルのよさは特級品。加えて瑕疵一つ無い艶美な肌が、彼女のフェロモンを助長している。
ゴクリ。
(もう、エッチ)
思わず生唾を飲んだ俺に、佐々木はセーラー服を半分ほど捲し上げた辺りで一旦動きを止めた。
俺の視線があまりにも目ざとかったのか、生唾の音に興ざめしたのか。それとも他の意図があったのか、それはわからない。
しかし、脱ぎかけのこの光景はある意味素っ裸よりも衝撃的だ。
腰は完全に露出し、胸郭の下半分の部分も丸見え。上半身の半分を曝け出している。
中でも見えそうで見えない下着。これは違法だ反則だ。チラリズムここに極まれり、むしろバンザイ。
この体勢を保持したまま平常心を保っていろと言う方が難しい。
さらに佐々木は流し目を送って、
(キョン、この先、見たい?)
コクッ、と頷いてしまったのは俺が健全な男である証拠だ。誰にも責められるべきことではない。
それに満足したのか、佐々木は再び服を脱ぎ始める。
するすると脱ぎ始めるセーラー服、そしてついに彼女の下着が露に……
(ああん、ひっかかっちゃった)
なんとぉっ!
これは困ったトラブルだ! 佐々木のセーラー服の端が、胸の膨らみによって阻まれた!
キュウキュウと苦しそうに悲鳴を上げるのは、佐々木自身ではなく、寧ろ胸。
思いっきり力を入れたらセーラー服が破れるんじゃないか? うむ、それはそれで見てみたいな。
しかし俺の思いとは裏腹に、佐々木は強引にセーラー服を引っ張って、引っ掛かっていた膨らみから強引に開放。
ポヨポヨポヨって……うわあ……揺れすぎ……
そして、ついに佐々木の胸の全容が明らかとなる。
引き締まった体に、場違いに実ったバスト。その大きさを端的に言うと、
『デカイ』
『デカすぎる』
『なんつうデカサだ』
もうそんな言葉しか出てこない。
デカイデカイと連呼しているが、お化けカボチャみたいに巨大なものがくっついているとか、世界ビックリ人間に登場しそうな範疇の大きさではないぞ念のため。
人知の範囲内で――言い換えれば、正常な人間が興味を誘うレベルで、十分大きいのだ。
バストとカップの関係は詳しく知らないが、個人的観測でDは確実に超えている。朝比奈さんと遜色ないか、下手したらそれ以上だ。
残念ながら大人の朝比奈さんよりは少々劣る気がするが、あの人のレベルで物事を考えるのは早計である。高校生レベルとしては超一級のバストの持ち主である。
服を着ているとそんなに目立つようでもなかったのだが……もしかして佐々木は着やせするタイプなのだろうか?
それに半年前――橘の脂肪を利用して豊胸手術をした時――よりも大きく感じる。
それは恐らく、彼女が見につけている下着のせいであろう。
紺色でラメの入っている時点で学校に着てくるのはどうかと思うのだが、問題はそこではない。
佐々木が身に付けているブラは、はちきれんばかりの果実を苦しそうに支えている。下手に刺激を加えたらそのまま零れ落ちるぜ、あれは。
ギュウギュウの下着が胸の大きさをより際立たせているのだ。
佐々木、水着は蒸れるから嫌だって言ってたのに、サイズ違いのブラの方がバストにとって悪影響を及ぼすんじゃないのか?
とは言え、これ以上ない眼福な光景なので黙っておく。
(さ、佐々木! そ、そんなアピールは必要は無いぞ! さっさと脱いで体操着を着てくれれば問題ない!)
少し落ち着きを取り戻した俺は、彼女のみに聞こえるよう精一杯叫んだ。目の保養になる事は間違いないが、場所が場所だけにこんなところで悶々とするわけにはいかない。というか俺がやばい。
しかし佐々木は俺の言葉に対してくっくと喉を鳴らしたのみ。胸の上まで上げたセーラー服を下げる素振りは一向に見られない。
それどころか佐々木は更なる暴挙に出た。なんと二の腕を使って、胸と胸を挟みやがったのだ。
胸と胸の間に出来た漆黒の渓谷は、冗談ではなく本気で吸い込まれそうだ。
(キョン、どうかな? 涼宮さんに引けをとらないと思うんだけど?)
佐々木に言葉に共鳴するかのように、両腕で挟まれたものがふるふるっと揺れた。
(以前長門さんに頼んで大きくしてもらった時よりも立派になってると思わないかい? あれからスタイルをキープするために美容体操は毎日欠かさずやっている。おかげでスリーサイズは黄金比を保持しているんだ)
ふわふわっ、とまた揺れた。
佐々木が喋るたびに、声の振動が胸に伝わって、衝撃を吸収しているためだ。
うわぁ……たまらん。
思わず鼻を抑える。鼻血が出るわけじゃないが、鼻の下は完全に伸びきっている。それを隠すためだ。
しかし佐々木の攻撃は止まらない。
(おや、その顔は信じてないようだね? せっかくキョンのためにバストとウエストをさらけ出してあげたのに……そうか、残りのヒップも見てみたいというわけか。しかたないな、特別に見せてあげよう。くくくっ、本当に『エロキョン』で困るわね)
再び喉を鳴らし、上着の胸の上に保持したまま器用に腰に手をあて、スカートのジッパーを下げ始めた。
噂の着○○って奴だ。下手な裸より刺激的だ。
太腿から続く腰下のラインも露になる……って、
「さ、佐々木! そ、そこの紐って、まさかパン……」
「――――――!!」
思わず声が出てしまった俺は、しかしこれ以上言葉を口にすることができなかった。
怒涛の勢いで教室から放り出されたためである。
――放り出したのは、クラス委員長の朝倉涼子。
「…………」
もの悲しい顔をした朝倉は、俯き加減のまま俺をじっと見つめ、そして静かに扉を閉めたのだった。