ここひと月で目まぐるしく変わっていったハルヒだったが、その状態になってからハルヒの様子は変わらなかった。
俺や朝比奈さんが話し掛けても淡々と、曖昧で凡庸な返事しか返って来ない。

ハルヒは、普通だった。

授業も真面目に受け、品行方正。
問題も起こさず、成績優秀。
黙っていれば、容姿端麗。
学校側から見れば、まごうことなく優等生だ。

事実、鈍感な教師達の一部は、そのハルヒの異常事態を喜ばしいものと受けとめていた。
が、大多数の人間はそんなハルヒに不気味さすら感じていたようだった。
まるで、嵐の前の静けさ。

…俺も流石に心配になってきていた。

ハルヒの機嫌が悪いのはいつもの事だったが、今回はそんなのじゃない。
例えば誕生日の朝。あの時の方がまだ可愛気というか隙があった。
けれど今のハルヒにはそれが感じられない。
薄く硬く透明な、ひどく透明な壁に覆われているように。
頑なな、純然たる拒絶。


…本当の事を言えば。
俺はそんな日々に安寧を感じると共に憂欝なものを感じていた。
…なんだかんだ言って俺もハルヒに振り回されるのを楽しんでいたフシがあったらしい。
何も無い日々は、平穏であると共に退屈で。
人ってのは無い物ねだりなんだなと改めて気付く。

…ハルヒ。お前は何を考えているんだ。

























「なぁ、ハルヒ」

今日最後の授業が終わり、同時に後ろの席に話し掛ける。
それは授業が終わる度の最近の日課になっていた。
ハルヒからはロクな返事が返って来なかったが、それを止める訳には行かなかった。
ハルヒは最近じゃ部室に顔も見せない時すらある。
そんなハルヒを朝比奈さんも心配していたし、何より俺自身放っておけなかった。

…いや、そんな言い訳はいいか。
俺はハルヒと話がしたかった。
…なんでもいい。どんなつまらない事だとしてもハルヒと話がしたかったんだ。

「…なによ」

相変わらずハルヒは俺の目を見ようとはしない。
その態度も事務的に、まるで作り物のようだ。
…これが、あのハルヒか?

「今日は、部活、行くのか?」

俺もそんなハルヒに妙なプレッシャーを感じ、流暢に言葉が出てこない。
一語一語はっきり区切って腹から声を出した。

「…今日は行かない。じゃ」

俺の言葉にハルヒは短く返すと立ち上がり帰ろうとした。


…ハルヒが帰る。
…帰ってしまう。
…帰していいのか。
…ずっとこのままで。いいのか。


「…待てよ」

……気付くと俺は立ち上がりハルヒの手を取っていた。
…その手は細く冷たい。
…こんなに頼りなかったか?
ハルヒの手はもっと暖かかった気がしたが。

「…なんなの? …離しなさいよ」

ハルヒは振り返らない。

「えー…とだな。…良かったら…、良かったら今度の休み、どっか遊びに行かないか?
部活の連中も誘ってさ。古泉はちょっと忙しそうだから無理かも知れんが。
なんなら不思議探しだっていい。付き合ってやるぞ」

…何を言ってるんだ俺は。
…俺が自分からこんな事言い出すなんてな。
だが、今のハルヒは放っては置けなかった。
あまりにも危なっかしい。

…それは自己満足なのかも知れない。
ハルヒは放っておいて欲しいのかも知れない。
けれどそれは、違う。
何かが、間違ってる。
そんな気がした。

「………」

ハルヒは、何も言わない。
振り返ろうともしない。
…気付けば俺達は教室中の注目を集めていた。
皆が皆、息を詰めて俺達の様子を見守っている。
…そんな周りの事なんかどうだっていい。

「………キョンは」

ハルヒが、喋った。

「…キョンは、どうしてあたしに構うの?」

…おいおい。
そりゃないだろ、団長さんよ。
ここ一ヶ月、お前はあれだけ俺に構っておいて、自分が構われたらそれか?
…ったく、とんでもねぇな。
こんな自己中な所だけは変わってやしねぇ。


…だが、何て答えればいい。
…そもそも俺は何でコイツに構ってるんだ?
なんでこんなにコイツが気になるんだ。

…朝比奈さんが心配するからか?
…古泉が大変そうだからか?
…ハルヒに元気になって欲しいからか?

…どれも違う。
似ているようでいて、それらは全く別の感情。
今の俺の心じゃない。


…結局自問しても答えは帰って来なかった。
その結果、俺の口から出た言葉は。

「……いや、最近お前と遊んでないな、と思って」

…我ながら見事なまでに凡コメントだ。
自らの語彙力の無さに軽く鬱る。

「…そ」

そう言ったっきりハルヒは黙りこくってしまった。



永遠とも思われる時間が流れる。
クラスの誰かがゴクッと喉を鳴らした。
そんな音が聞こえるぐらい、教室は静寂に包まれていた。
その静寂を破ったのはハルヒ。

「…いいわ、今夜、連絡する」

……意外な答えがもらえた。
最近の様子から考えてシカトされるか、断られるかと思ったがな。

「そうか。…んじゃ、待ってるわ」

…そのまま再度時間が凍り付く。
教室も俺達に注目したままだった。

その内に、ハルヒがクイッと手を揺らした。

「…手、離しなさいよ」

「あ、あぁ…スマン」

パッとその手を離す。
どうやら俺はずっとハルヒの手を握ったままだったらしい。
…そんな事に気付かないほど俺はテンパっていたのか。

「…じゃね」

ハルヒはもう一度そう言うと教室から出て行った。
教室全体から一気に溜息というか安堵というか、そういったものが漏れる。

…ハルヒは結局、一度も振り返ろうとはしなかった。



















「今日、ハルヒは来ないそうです。だから…各自解散という事で」

その足で部室に顔を出した俺は、団長様は今日もサボリという事を伝える。
部室には今日も朝比奈さんと長門しか居なかった。
…この部屋もずいぶん寂しくなっちまったな。

「そう…ですか…」

朝比奈さんの悲しそうな顔。

「朝比奈さん、そんな顔…しないで下さい」

「…えへ…、ごめんなさい。あたしが悪いって思っちゃだめ…なんですよね」

…あの時。
朝比奈さんがボタンを付けようとしてくれた時。
それをハルヒに見られてからアイツは変わった。
いくら俺でもそれぐらいは分かる。
ハルヒが何を考えているのかは知らないが、でもそれは、決して朝比奈さんを責めるような事じゃない。

あの後の朝比奈さんは見ていて痛々しいほどだった。
自分が全ての責任のように落ち込みきっていた。
最近では説得の甲斐もあってか、少しずつ落ち着きを取り戻してくれているようだったが、その表情はやはり未だに少し堅い。
…ハルヒよ。朝比奈さんにこんな顔をさせるな。

「えぇ。朝比奈さんが悪い訳じゃないと思いますから。…それより、今度の休み、何か用事はありますか?」

「…ふぇ?」

「ハルヒと遊ぶ約束をしたんです。…なんていうか、ハルヒのヤツがちょっとでも元気になればと。
だから、朝比奈さんも長門も、どうですか? 事後承諾で悪いんですけど」

…嘘臭い。
自分で喋りながら俺はその嘘臭さに反吐が出そうだった。
完璧な嘘って訳じゃない。その気持ちは本当だ。
けれど、その言葉には真実が無い。カラッポな気がする。

「…キョンくん、涼宮さんはなんて?」

「ハルヒも来るって言ってました。それで…えと…不思議探しとか馬鹿やって…、つまんない事で怒って…、俺の財布が軽くなって。
…そういうのが、多少でもウサ晴らしになるんじゃないかと思って」

…嘘臭さは拭えないままだ。
喋れば喋るほど、俺の気持ちとはズレていく。
なにか俺、透けて無いか。



「…そっか。そう…なんですね」

朝比奈さんは俺の言葉を受け、何かを考えているようだった。
彼女の視線が大きくゆっくりと左右に揺れる。
そうしてたっぷりと間を取ってから朝比奈さんは言った。

「……ごめんなさい、キョンくん。今度のお休みはダメなんです」

「…何か、用事でも?」

「ううん、用事があるわけじゃないの。でも、行けない。
……それに…ね?」

彼女が凛と立つ。
その姿には決然と、確固たる意思が見えた。

「涼宮さんが求めてるのはそういう事じゃないと思う。たぶん、そういう時間はもう過ぎてしまったと思うの」

…意味がよく分からなかった。

「…朝比奈さん。すみません。どういう意味なんですか?」

「…ごめんね。キョンくん。それをわたしの口から言う事は出来ないの。
それはキョンくん自身が見つけないといけない事だと思うから」

朝比奈さんは穏やかに、とてもいい顔で笑う。
俺内、朝比奈さん笑顔ランキングでもかなりの高ランクに位置するいい笑顔だった。
…そんな顔をされてしまったら、何も言えなくなるじゃないですか。



「…それじゃあ長門は? 何か用事はあるか?」

いつもの席に座り、静かに本を読んでいた長門に話を振ってみる。

「…わたしも、無理」

長門が本に目を落としたままそう言う。
…否定。

「…どうしてかダメなのか、聞いてもいいか?」

「理由は無い。けれど行かない」

「…どういう意味だ?」

俺の問いかけに長門が初めてこちらを向いた。

「…行くべきでは無いから」

「それは、その……お前の上司の決定か?」

「違う。わたし個人の意思」

俺を見る長門の視線は強い。
何か俺にチカラを与えてくれるような。
俺の背中を押してくれるような、いつもの長門の視線。

その視線を見ていたらじんわりと理解した。
…俺とハルヒ。二人で会って来いってそういう意味なんだろうな。

今のハルヒと一日中二人っきり、ね。
…一体、何を話せばいいんだか。



「…キョンくんにはね?」

俺が普段ならありえない事を考えていると朝比奈さんが話し出した。

「幸せになって欲しいんです。…ううん、なってもらわないと困るんです」

…俺が幸せに?
…どういう意味だ?

「ね、長門さんっ?」

「…コクン」

長門がうなずく。

朝比奈さんは楽しそうにしていた。
…よく見れば長門も微笑んでいる、ような気がした。

「だから、今度のお休みは頑張って下さいね。わたし達も応援してますからっ」

そう言い、可愛らしくガッツポーズを取る朝比奈さん。
…つか、わたし、達?
…なんだかよく分からんが、今日の朝比奈さんと長門は息がピッタリだな。

「えぇと…よく、分かりませんけど。なるべく、頑張ります」

そうとしか言えない俺。
…ハルヒが元気になってくれさえすりゃ、いいんだけどな。

「はい、頑張っちゃって下さいっ」

笑顔の朝比奈さん。
…どう頑張りゃいいのかは分からないままなんすけど。



「それじゃ、今日は俺はこれで」

二人にそう告げ、部室を出ようとした時、声が掛かった。

「…待って」

「…なんだ?」

長門が立ち上がり、近寄ってくると俺に何かを差し出す。
それは普段、長門が使っている携帯電話だった。

「…これが、どうかしたのか?」

「預かって」

…預かる?
…長門の携帯をか?

「…何故に?」

「理由は聞かないで」

長門が有無を言わさず、俺にそれを押し付けてくる。

「いや、だってお前が困るだろ?」

俺の手の中には長門の携帯。
よくある携帯だ。何も変わった所は無い。

「困らない。…肌身離さず、身に付けて。寝る時も入浴する時も」

「…風呂にいれたら普通に壊れると思うんだが」

渡された携帯を開いてみると、そこには恐らくデフォルトであろう簡素な待ち受け画像。
長門らしいっちゃ長門らしい。

「完全耐水、耐圧、耐熱加工。問題無い」

…D型装備ってか?
そんなに変わった携帯には見えないがな。
だが…これも長門のやる事だ。
きっと何か意味があるんだろう。
俺にはよく分からんが。

「…分かった」

俺は何か釈然としないものを感じながらもそれをズボンのポケットに詰めた。

「じゃ、俺はこれで」


「………気をつけて」

部室を出ようとした時、最後に長門がポソッと呟いた。
…なにやら、嫌なフラグが立った気がした。



















「…なんだこれ?」

朝比奈さん達と別れた後、昇降口を訪れ、靴を履き替えようと下駄箱を開いた時、それに気付いた。

…それは、封筒。恐らくは手紙。



―――ゾクリ


その事を理解した時、背中に冷たいものが走った。
…下駄箱に手紙。
…そんなありきたりなシチュエーションで背筋が寒くなるのは俺だけだろうな。
先程の長門の言葉が思い出される。

…マジか。
封筒は俺の靴の上に鎮座ましましている。
スルーして帰るって選択肢は最初から用意されていないようだった。

…恐る恐る封筒を手に取り、とりあえず振ってみる。

…軽い。
どうやら中身は紙だけのようだ。
カミソリが入ってたり、爆弾が仕掛けられてるって事は無さそうだ。

…やれやれ。
…なんで手紙なんかに、こんなに注意深くなってんだかね俺は。


覚悟を決めて手紙を開けば中には便箋が一枚。そこにはやたら達筆な字で、

【屋上にて待つ】

とだけ書いてあった。
…まるで果し合いだな。
この字は長門の字じゃない。もちろん朝倉のでもない。
裏や表を確認しても差出人の名前はどこにも無かった。



「…キョンッ!」

俺が手紙を確認していると昇降口に声が響いた。
…ちょっとしたデジャヴだ。
声のした方の先、そこにはやはり谷口が居た。

「どうしたんだ。帰ったんじゃなかったのか?」

「…オマエを待ってたんだ」

…谷口が? 俺を?
…おい。もしかしてこれから谷口ルートが始まるのか。
いや、そんな、まさか。

「…この手紙を出したのはお前か?」

手の中にあった手紙をちょいと持ち上げてみせる。
…冷静に考えて谷口がこんな事をするとは思えんが。
やはり谷口はザックリとそれを斬り捨てた。

「そんなのは知らねぇ。それより、キョン。オレの話を聞け」

……なんなんだコイツはいきなり。
やたらと熱血してやがるな。
最近俺の周りはおかしい奴等ばっかりだ。
…俺もその中の一人かも知れんが。

「…5分だけでもいいのか?」

「充分だ」

…谷口は大マジだ。
貸した金のことなど、どうでもいいらしい。…むしろ俺が貸してる気もするんだが。
しかし、谷口のこんなマジな表情を見るのは、妹が事故った時以来だった。
そんなに真剣にならなきゃならない話ってなんだ?

「…キョン。今までオレが誰にも言わなかった話をする。聞いてくれ」

「…お前が実は異世界人だとかいう話か?」

「何言ってんだオマエ。ふざけんな。真面目な話なんだぞ」

…俺は俺で、俺なりに真面目なんだがな。



「…中学時代の昔話だ。話は三年前、オレが中一の頃。初めて涼宮と同じクラスになった時まで遡る」

…ハルヒの、話か。
…さっき教室でやり合ったばかりだ。
それを谷口が見ていない訳が無かった。

「オレは、ふとした拍子に涼宮の誕生日を知った」

……誕生日、ね。

「言っておくが調べた訳じゃないぞ。たまたまだ。よく人ん家とか行くと卒業文集とか見るだろ?
ソイツは涼宮と同じ小学校の出身でな。で、パラパラとめくってたら偶然、涼宮の誕生日が目に入ったんだ」

偶然目に入った日にちを覚えられる訳ないだろ。

「でもな。涼宮のヤツ、誕生日が近くなると段々機嫌が悪くなっていくんだよ。
コイツはこんな性格だから、誰からも祝ってもらえないんだ。だから荒れてるに違いない。
その頃、まだ純粋だったオレはそう思った」

お前は今とあまり変わって無さそうだけどな。

「だから俺は寂しい寂しい涼宮の誕生日に、ボールペンをプレゼントしてやった」

…いくら中一だからってもっとマシなモン贈れよ。

「だけどな、涼宮はそんなオレを悪魔のような目で見て来たかと思うと、オレの目の前でボールペンをヘシ折りやがった!
いくら150円だとはいえ、ひでぇだろ!?」

…ひでぇ。
つか、すげぇ。

「でも、オレはそれぐらいじゃめげなかった。それは意地みたいなモンだったんだ。その来年もオレは涼宮の誕生日にプレゼントをくれてやった」

…タフだな。

「去年は安物だったのがいけない。そう思ったオレは当時流行っていた恋愛小説をくれてやった。しかもハードカバーでだ。
お前もこれでも読んで少しは女らしくなれ、そう思ったオレの配慮だ」

…長門なら…喜ばないか。
アイツが恋愛物を読んでいる所を見た事がない。

「だけどな!? 涼宮はそれをオレから受け取るとパラパラっとめくって「つまんない」そう言って窓から投げ捨てやがった!!」

とんでもねぇ。

「…窓の下はプールだった…」

…悲惨だ。

「そしてその来年。オレが中三の頃だ。これが最後のリベンジ。そう思ってオレは気合を入れた」

…誰かコイツに賞状でもくれてやってくれ。

「オレも考えに考えた。そうして最終的に行き着いたのは小物。それならヘシ折られる事も無いだろうし、水没しても大丈夫だ。
そうしてオレは、当時流行っていた曲のオルゴールをプレゼントしてやった」

どうでもいいが流行り物が好きだな。

「涼宮はそれを受け取った。三年間で初めてだ。もちろん礼なんか無かった。けれどオレは勝った気でいた。
あの涼宮がオレのプレゼントを受け取った。それでオレは満足してたんだ」

健気な。

「だけどな!? その次の日、涼宮がオレに妙なシャフトを見せやがった。オレも聞いたさ。何だよこれはってな。
そうしたら「もっと蹴りやすい物にしなさい」と言いやがった! 涼宮はオルゴールを誕生日の日、蹴りながら帰りやがったんだ!!
…シャフトはその慣れの果てだった…」

…ハルヒ。いくら誕生日が嫌いだったからって外道すぎるぞ。

「…そうして今年。また涼宮と同じ学校、同じクラスだ。
けれどオレにはあの頃の情熱はもう無かった。オレはもう諦めていた。
今年の涼宮の誕生日はおとなしくしていよう。それがオレの身の為だ。そう気付いたんだ」

気付くの遅ぇよ、谷口。





「………だけどな。キョン」

谷口の声のトーンを落とした。
…どうやらここからが本題らしい。

「…最近、涼宮が付けてたペンダント。お前が贈ったモンだろ」

「…あぁ」

…目ざとく見てるな、谷口。

「だと思ったぜ。誕生日の前後になると不機嫌だった涼宮も、今年は誕生日の翌日にはやたらと機嫌が良かった。
ちょうど妹さんが事故った次の日だ。お前達が何かしたんだろ?」

「…ちょっと、な」

ハルヒの誕生日。
…色んな事があり過ぎた日。

「正直に言う。負けた気分だった。完敗だ。
オレが三年かかっても出来なかった事をたった半年でやっちまうんだからな。
さすがは涼宮と愉快な仲間達だ」

「…褒められてる気が全くしねぇ」

「まぁそう言うなよ。涼宮も高校になってから、よく笑うようになった。
中学の頃を知ってる奴から見たらまるで別人だぜ?」

「…そうかよ」

ハルヒの笑った顔…最近見てないな。


「……だけどな。キョン。さっきのアレはなんだ」

…クラスでの、事。ハルヒの頼りない手が思い出される。

「…お前と涼宮がどんな関係だとか、涼宮が何でまたあんなんに戻っちまったのかとかは、どうだっていい」

……そんなの俺が聞きたいぐらいだ。

「詳しく聞こうとは思わん。お前らにも色々あるんだろうし、どうせオレは部外者だ」

………。

「…けどな。オレが言えた立場じゃないのは分かってる。だけどな。一言だけ言わせろ。…涼宮を泣かせるな。」


………谷口は、終始マジだった。
確かにその通りだ。
何で谷口にそんな事言われなきゃならないんだ。

…だが。
谷口は谷口なりに、ハルヒの事を考えてくれている。
…その事が妙に嬉しかった。
それに、なんだかんだ言って中学校時代のハルヒにも祝ってくれているヤツが居た。
…不思議な安心感。

「…分かった。約束する」

ハルヒが泣く事なんて全く想像も出来なかったがそう答えた。
折られたボールペンと、水没した恋愛小説と、シャフトだけになったオルゴールの為にも。



「…分かってくれりゃいい。………って、なんだか無駄に熱い話しちまったな。
なんでオレが涼宮なんかのために、こんな事言わなきゃならねぇんだ?」

…お前が無駄にイイヤツだからだろ。
たぶんな。

「おし、それじゃ帰るか! 久しぶりにゲーセンでも寄って行こうぜ。
オマエはいっつも涼宮とツルんでっからな。オレのラクス・イン・アカツキの動きに驚くがいい」

谷口が靴を履き替える。

「…いや、悪い、谷口。俺これから用事があるんだ」

「用事? 帰るんじゃなかったのかよ?」

意外そうな谷口。
俺もついさっきまで、そのつもりだったんだが。

「…どうやら第四の刺客が待ってるらしいんでな」

「第四の刺客? …なんだそりゃ?」

…なんだろうね。

「…まぁ、仕方ねぇか。んじゃ…今日はとっとと帰る事にしますかね」

谷口がカバンを肩にかけ、昇降口の出口に向かって歩いていく。
俺はその背中を呼び止める。

「谷口!」

「あ? なんだ?」

谷口が首だけで振り向く。

「…来年もたぶん、ハルヒの誕生日を祝う。良かったら、お前も来るか?」

ハルヒの誕生日を祝うのに、こんなにも相応しいヤツは他に居ないだろう。
けれど俺がそう言うと谷口は。

「…ヘッ、誰が行くかよっ!」

谷口はそう言って笑った。



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