東から昇ってくる太陽がこれほどまでに忌々しい季節は無い。夏である。 
 中庸が一番なんだよ、気温に関しても。今日はいくらなんでも暑過ぎる。なんでそんな日に限って探索という名のぶらり旅があって且つハルヒとペアになってしまったのだろうか。
 学校一じゃないかという程に傍若無人な行動も辞さないハルヒに振り回され、俺はもうへろへろである。
 出発した時には既に汗が吹き出していたので、シャツがべっとりとまとわりついている。
 身体が「水をくれ」と悲鳴を上げている。これはヤバい、屋台の鉄板の如く熱せられたアスファルトに倒れてしまいそうてある。
 涼しい場所に行きたい。それだけの理由で入ったファミレスで、ハルヒがフルーツパフェを物凄い勢いで食べている。俺は水で十分である。そこ、ひもじいとか言うな。
 宮廷料理だろうとジャンクフードだろうと、こいつのがっつくスタイルの食べ方は変わらないんだろうな。
「ハァ、お前はなんでこんな暑さでも食欲が尽きないんだろうな」
 ルビーレッドに輝く苺がハルヒの口の中に消えていくのを見つめていた。その視線に気付いたハルヒが俺を睨む、怖くないな。
「ヒマを持て余しているようね。だったら何か面白いことでも考えなさいよ、今後のSOS団を飛躍させるようなのを!」
 たった数分で何が浮かぶと言うのだろうか。面白いアイデアというものは考えて出来る物じゃないと思うんだが。
「だったら携帯いじるなり外を眺めるなりしなさいよ! じろじろ見られてちゃ、のんびり食べられないじゃない!」
 のんびりには程遠いスピードだったがな…。仕方ないので窓の外を見る。
 人々は皆、日傘やタオルで日差しを防いでいる。しかしこの湿度まではどうにもならず、汗でくっついた服を引っ張って空気を通している。
 間が悪い、ハルヒは黙々とパフェを食べ俺は黙って外を眺めている。この状況は打破しなければ後々まで引きずることが危惧される。そこに現れたのは鶴屋さんだった。
「にょろーん、そこにいるのはハルにゃんとキョン君じゃないかっ! もしかしてデート中だったかなぁ?」
「はぁ!? なんでコイツとデートなんか…!」
 興奮するなハルヒ、落ち着け。
「味気ない反応だねぇキョン君…」
「あ、あの、鶴屋さん? あたし達はただ探索の途中で、ここには涼みに来ただけで…」
「りゆーせつめーなんかいらないっさ! お姉さんは分かってるからねぇ」
 まいったなこれは…完全に鶴屋さんのペースである。
「せっかく良い感じになりつつあったところに長居はしないっさ」
 んなわけあるか、と思ったにも関わらず口に出なかったのはどうしてだろうな…。
「ここにどうして鶴屋さんが?」
「のんびり家で過ごしてもいいんだけど、たまには騒がしいのもいいかなってね。ほんで帰ろうかと思った時に二人が登場っとね!」
 中に入ってからずっと喋りが止まらない。このマシンガンの弾はいつ尽きるのだろうか…。
 にしても鶴屋さんはこんな所に一人で何をしていたのだろうか。
 宇治拾遺物語という文字が鶴屋さんの鞄から見えた、古典文学を読んでいたのだろう。どんな話だったか、確か説話だったような…。
 宙ぶらりんになっていた俺の意識を引き戻したのはハルヒの一撃だった。
「人の話はちゃんと聞きなさいって教えてもらわなかった?」とハルヒが言う。それを見て鶴屋さんが笑う。
 未だに立ったままの鶴屋さんに座らないんですかと勧めたが、「いいって、お二人のお邪魔虫はしないっさ」と言って座ることはなく行ってしまった。
 来たときと同じテンションで去っていく背中を見ていたが、あの暑さの中でも元気だなぁ。
 人混みに鶴屋さんの姿が消えて見えなくなると、また俺は外を眺めていたが、食べ終えていたらしいハルヒにいきなり引っ張られていった。(言うまでもなく支払いは俺だった)
 異議を唱えるスキも与えず、灼熱の太陽輝く外へ出る。陽射しを受けて紫外線が肌をじりじりと焼き付ける。
 世間一般から見れば俺達二人の様子は鶴屋さんの言っていた通りデートに見えるのだろうか、いやまさか。
 界隈を手を引いて引かれて歩く二人は「止まる」という言葉を知らないが如く進んでいく。
 人の波を跳ね返すような勢いだ。少しはスピードを落としてくれ、体力がもたん。
 超伝導リニアモーターカーのように真っ直ぐ進み、向こうから来る人を避けることをしない。
 能動的なハルヒと、どちらかといえば受動的な俺のいわば凸凹コンビが通りを突き進む。
 力の差は歴然としている。ハルヒは俺の意見を聞くことなくずんずんと歩いていくので俺は疲れてきた。
「者共我に続け」と言わんばかりに引っ張っていたハルヒが、人まばらな木陰で止まった。
 がっかりした様子でこちらを振り返った。そしてため息をひとつ。
「いい加減にしなさいよ」と言う。いきなり言われても、何がどういい加減にしなければならないのか検討がつかない。
 ただ、不満そうな表情が読み取れた。だからといって、何が不満なのだろうか。
 らせん階段を駆け降りた時に方向感覚を失うように、あれこれ考えているうちにさっぱり分からなくなってしまった。
「あたしがあんたと…二人でやってる理由くらい分かるでしょ!」
 たしかに今日の探索メンバーはクジで決めなかったが、またハルヒの突拍子な提案だろうとしか思っていなかった。
「しかもこれだけ言ってもまだ気付かないなんて……呆れるわこの男。いい? あたしは…」
 のぼせた様に頬が真っ赤になっている。大丈夫か?
「とぼけたこと言わないで、誰のせいだと思ってんのよ!」
 こいつは何を言ってるんだ? どうしてハルヒが視線を反らすんだ?
 ろくなことがないと思っていたのは邪推だったようだ。
 にわかに緊張が高まる。どうしてかは自分でもよく分からないが…。
「来てよ」と願望混じりの命令をするハルヒ。言われた通りにすると、「もっと近く」と手招きをする。
 なんか距離が近くないか? そう思っていると、いきなり胸ぐらを掴まれて…
 さいしょは何が起こったか分からなかった。気付けば、唇に少しひんやりとしたものを感じた。あの時の俺よりも格段に強引だな。
「い、いきなりすんなよ」そう言うと「バカ」という返事が返ってきた。
 以後のことは言わなくても構わないよな。こっぱずかしくて言いたくないしな。
 上昇したままの心拍数は、暑さのせいだ。
 
 
 

 

 

 

※縦読みアリ


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