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人の口に戸は立てられないとはよく言ったもんだ。
膝枕事件の翌日には既に俺とハルヒは学校公式に付き合っている扱いになっていた。

新聞部にはインタビューされるわ、クラスからは祝福を受けるわ。
仕舞いには見ず知らずの上級生からまで、
「ほら…あの人が…」「あぁ…あの涼宮の…」「普通そうなのに…すげぇよな…」
などとヒソヒソ囁かれる始末。

俺はその噂を沈静化するのを諦めていた。
どーせすぐ飽きるだろう。
…いたたまれないのは確かだが。

そんな俺だったが…最近、ハルヒの夢をよく見る。…むやみやたらと。
…その意味はあまり深く考えないようにしていた。


膝枕事件の事は耳に入っているハズだろうに、古泉と長門は何も言わなかった。
長門はともかくとして、古泉は何か言ってくるかと思ったがそれも無し。
ただ朝比奈さんには「頑張ってくださいねっ」と極上笑顔で言われてしまった。
…何を頑張れってんだ?

当のハルヒはと言えば、新聞部のインタビュアーをぶっ飛ばした後はおとなしくしている。
というか、最近の故障っぷりから考えればおとなしくしすぎだった。
俺が話し掛けても心ここに在らずといった様子。
部室でもいつもの席に座り、パソコンをイジっているだけだ。
たまにチラチラと俺の方を伺っているのが激しく気になるが、俺が目を合わせると慌てて視線を逸らしてしまう。
…何がしたいんだかね。




















† 10月23日、くもり †


なんなの?
なんだってのよ!
なんであたしがこんなにキョンごときを意識しなきゃなんないワケ!?

…でも、しょーがないじゃない。
…キョンが側に居ると、落ち着かなくてしょうがないんだから。
どうしてもアイツの事が気になってしまう。
…キョンの事ばかり考えてしまう。
キョンが散々キャラじゃないって言ってたけど、あたしだってそう思うわよ。バカ。


…あたしらしく、しなきゃね。

…キョンはあの時、あたしのコト、トクベツな存在だって言った。
たぶん、そういう意味。

だったら、あたしはあたしでいたい。
キョンがトクベツと言ってくれた、あたしで在りたい。


…って、こんな事考えてる時点であたしらしくないじゃない!
もっとこう、ガーッていって、バーンッてすればいいのよ!
どーせキョンだってあたしの事が好きなんだろうし。

うん、明日っからまたキョンをユーワクしてやるんだから。


























ハルヒの故障はもはや末期的なものになっていた。
おとなしいと思ったのはここ数日だけで。



ある日の朝、家を出てすぐの通学路でハルヒを見かけた。

「キョ、キョンじゃない。久しぶり、奇遇ねっ!」

久しぶりと言ったが、おもっくそ前日も会っていた。
それに奇遇と言うがハルヒの家は、全然別の方向だったハズだ。

「なんなら…一緒に学校行く?」

流石に断る理由も無かったので、並んで歩いていると、

「…あんたが繋ぎたいっていうなら手、繋いであげてもいいわよ?」

との言葉。
…そっぽを向いていたが照れてるのがバレバレだった。
…そんな事言われたら、握らない訳にはいかないだろうが。
俺が黙ってその手を握ってやれば嬉しそうな横顔。
…なんなんだろうね、これは。



別の日の昼飯時。

「…ねぇ。キョン。これ、ちょっと作り過ぎちゃったんだけど。良かったら食べる?」

…差し出された弁当箱は前の時と全然量が変わっていなかった。
ちょっと作り過ぎてあの量が出来上がるなら、この世に貧困なんて言葉は存在しないだろう。

クラスからは相変わらずのひやかし。…谷口が挙動不審なのも相変わらず。
だが、違った事がひとつだけ。

「う、うるさいわね! あんた達!」

…ハルヒがクラスメイトに反応した。
クラスの連中はそんなハルヒに一瞬だけ静かになったが、その後は更にひやかされていた。
…火に油を注ぐようなもんだ。

しかしハルヒも、クラスの目を気にするようになったんだなと感心した。
先日、俺の机に弁当を叩き付けたハルヒとはまるで別人だ。


…正直に言えば。

…あえて言えば。強いて言えば。どっちかと言えば。
最近、そんなハルヒの事が可愛いんじゃないかと錯覚する時がある。
……俺もずいぶん病んで来ているのかも知れない。



そんな、ある日の事。















ガチャ


部室の扉を開けるとそこには朝比奈さんと長門、古泉が居た。
…ハルヒはまだ来ていないらしい。

「あ、キョンくん。今日は遅かったんですね」

「えぇ…ちょっとホームルームが長引いたもので」

編み物をしていた朝比奈さんが立ち上がり、コートを脱ごうとしていた俺を手伝ってくれた。
…あぁ、やっぱり朝比奈さんは気の付くいい奥さんになるだろうな。
毎日帰ってくると、おいしい料理とあったかい風呂と朝比奈さんが待っていてくれる。
朝比奈さんと結婚する奴からは良妻税を取るべきだ。

それにしてもハルヒは部室に居ると思ったがな。
ハルヒの指定席は空だった。
アイツが部室に居る時は大体起動しているパソコンも電源が落とされたまま。

「あ…。…ふふっ」

俺のコートを椅子にかけながら、朝比奈さんが急に微笑んだ。
…俺の顔に何か付いてるってのか?

「どうしたんですか? 急に」

「…今、キョンくん、涼宮さんの事考えてたでしょ?」

朝比奈さんの指が軽快に揺れる。

…えーと、だな。なんで分かったんだろう。
まさか朝比奈さんにも隠された新たな能力が!?
…って、そんなにホイホイ隠された能力が出て来てたまるか。
蟲寄市じゃあるまいし。

「図星、ですか?」

俺が黙っていると朝比奈さんがイタズラっぽく言う。
…隠すのもアレか。

「えぇ…まぁ。ハルヒはホームルームが終わると同時に扉を蹴破る勢いで出て行きましたから。
てっきり先に部室に来てると思ったんですが。というか、何で分かったんですか?」

「えへへっ。それはね? キョンくんが涼宮さんの席をあっつーい視線で見てたからですっ」

…熱い視線て。

「でも…、わたし達が居るのに、やっぱり涼宮さんが居ないと寂しいんですね…」

朝比奈さんが悲しそうに眉をひそませる。

「って何でそうなるんで―――」

「ねぇ、古泉くん、聞きました? 涼宮さんが居ないとキョンくんは寂しいんだそうですよっ?」

かと思えば楽しそうに朝比奈さんが古泉に話を振る。
なんだか今日の朝比奈はヤケにテンションが高いな。
その表情が変声期のカメレオンみたいに変化する。
…つーか、俺はドン無視ですか。そうですか、そうですね。

「嗚呼…それは悲嘆すべき事態ですね…。ですが、やはり学校公認のお二方。片時も離れて居たくは無いのでしょう」

古泉も古泉でニヤニヤしながら、大袈裟に芝居がかった口調でホザく。
その目の前の机にはチェスの板が広げられていた。
…お前はゲームの相手が欲しかっただけじゃないのかと。

「…あつあつ」

…あまつさえ、あの長門までもが本に視線を落としたままポソッと呟いたが、ありがたく聞き流す事にした。



「あの、何か誤解してるようですけど。俺とハルヒはそんなんじゃありませんから」

朝比奈さんに向けて。ひいては長門と古泉にも向けての言葉。

「そんな、隠さなくてもいいじゃないですかっ!」

えーと。俺が何を隠してるっていうんでしょうか。

「えぇ。もう事は学校全体にまで知れ渡っているのですから。
あなた方は……いえ。特にあなたは、もう少し自分に素直になられた方が良いのでは?」

したり顔の古泉の援護射撃。
…聞いた所によると、やたら爽やかなイケメンがその噂をせっせと助長してるって話もあるらしいんだがな。

「…俺のどこが素直じゃないっていうんだ」

椅子に座りながら憮然と答える。

「それです。あなたが素直で無いという事をあなた自身が認識していない。これはいけません」

古泉が間髪入れず反論してきた。
…まるで答えが用意してあったかのようだ。
俺はかなりの勢いで自分の気持ちに素直に生きていると思っていたがな。
平々凡々、日々平穏。それが俺のモットーで。
…そのモットーは最近、全くと言っていいほど役に立っちゃいないが。

「いいじゃないですか、涼宮さんにあなたの本当の気持ちを伝えてあげれば。
きっと彼女も喜ぶと思いますよ?」

…俺の本当の気持ちって何だそりゃ。

「…お前はよっぽど俺とハルヒをくっ付けたいらしいな」

「いえいえ、僕個人がではありません。学園全体の総意として、ですよ」

サラッと髪を払う古泉。
…余計タチが悪いわ。



「…あ」

俺と古泉の会話を立ったまま聞いていた朝比奈さんが俺の顔を見て、何かに気付いたように呟いた。
いや、正確には俺の胸辺りを見て言った。
なんだ? 胸毛でも漏れてるか?
…ってどんな剛毛だ。俺はミスターサタンか。

「朝比奈さん、どうしました?」

「ほら、ここ…、ボタンがほつれちゃってます」

朝比奈さんが俺の制服のブレザー、そのボタンの一つを指差す。
見ればそのボタンは確かに外れかけ、ブラブラしていた。

「あぁ…」

「えへへっ、ちゃっちゃと直しちゃいますねっ」

朝比奈さんは、部室に備えられた朝比奈さん専用裁縫道具箱をカチャカチャと鳴らし出す。

「いえ、いいですよ、これぐらい。外れてる訳じゃないし」

「いいえ、だーめですっ!」

俺は軽い気持ちで言ったのだが、パッと振り返った朝比奈さんに強い口調で返されてしまった。

「やっぱり身だしなみというのは大切だと思うんですっ。
涼宮さんも彼氏さんがだらしない格好してたら、げんなりしちゃうと思いますし」

……誰が、誰の彼氏ですって?
今、俺の耳がおかしくなっていなければとんでもない発言が聞こえたような気がするんですが。
しかし朝比奈さんはそんな俺に構わず、道具箱から針と糸を取り出すと、椅子を引き寄せ俺の隣に腰掛けた。

「あのー…朝比奈さん?」

「じっとしてて下さいね? すぐに済みますから」

朝比奈さんは俺の制服を手に取り、有無を言わさずスッとボタンに針を通した。

…あー…なんだこれは。
…なんというか。マジで新婚さん気分だ。
朝比奈さんのきめ細かい指が踊り、リズミカルに表へ裏へと針を通す。
その度にボタンはしっかりと留められていく。

「…えーと、すみません。こんな事して頂いて」

「ふふっ、いいんですよー。キョンくんにはかっこいいキョンくんで居て欲しいですからっ」

…近距離みくるビームが眩しいっす。
それにしても、かっこいい俺とはどういった意味なんでしょうか。
何やら深読みしてしまうんですが。
というか。ボタンをちゃんと付けてるとかっこよさが上がるのでしょうか。
まほうのじゅうたんとかもらえちゃうんでしょうか。
むしろ、俺のかっこよさはボタン一つで左右されるものなのでしょうか。
それって微妙じゃないっすか?
ソイツってホントにかっこいいんすか?


…つか。そんな事よりも。近い。
繊細な仕事をしているのだから、その距離が近いのは当然なのだが、朝比奈さんの睫毛の数まで数えられそうだった。
しかも朝比奈さんは多少前傾姿勢になっているので、そのメイド服と相まって朝比奈さんの身体的特徴が暴力的なまでに強調されている。


…パ、パイレーツ・オブ・カリビアンッ!


…海賊がどうしたってんだ。








ガチャッ!


「みんな、遅れてゴッメー…! ………ン」

俺が朝比奈さんの体の一部に目を奪われていると、部室の扉が勢いよく乱暴に開かれた。
この扉をそんな開け方をする人間を俺は一人しか知らない。

ハルヒだ。
マズイ。



………って何がマズイんだ?

……別に何もマズくない…ハズだ。
…なんで俺は今、マズイだなんて思ったんだ?
だが、すぐ側に居た朝比奈さんは目に見えてうろたえていた。

「す、涼宮さんっ、これはその、ち、違うんですっ!」

朝比奈さんが慌てて俺から体を離す。通されたままの糸が俺の制服を引っ張った。

「…みくるちゃん。何が違うの?」

ハルヒが扉に手をかけたまま、そう言った。
…なんというか、その顔が恐ろしく無表情だった。
…あまり見ないな。ハルヒのこんな顔は。

「あのっ、これは、ボタン、そうっ、ボタンをっ!」

「…それぐらい見れば分かるわよ。キョンのボタン、付けてあげてたんでしょ?」

あたふたする朝比奈さんとは正反対にハルヒが淡々と答える。
…その声にもあまりにも抑揚が無かった。声に感情が無い。
まるで長門のような喋り方をする。
コイツの中ではものまねでもブームなのか。
ぶっちゃけ似てないぞ。

「ハルヒ、遅かったな。てっきり俺より先に来てるもんだと思ってたが」

俺がそう言うとハルヒは「…ちょっとね」とだけ答え自分の席に着き、パソコンの電源を入れた。
CPUファンが低い唸り声をあげる。

「えと、あの、そのっ」

朝比奈さんはそんなハルヒと俺を交互に見やり、ずいぶんと慌てている。

「…朝比奈さん? どうしたんですか?」

俺が声をかけると朝比奈さんは、

「えぇと…そうだっ、あの、涼宮さん、か、代わりますかっ?」

ハルヒの方に針を差し出しそう言った。
というか朝比奈さん、伸びてる、伸びてるんですが。

…つか、代わるって何をだ?
…ボタン付けか?
…どうしてだ?

「…いい。あたしよりみくるちゃんの方が上手いと思うし」

しかしハルヒは、朝比奈さんの方を見もせずにパソコンの画面を凝視したまま、その提案をあっさりと断った。
…たぶん、まだ立ち上がってないと思うんだがな。

「…朝比奈、さん」

それまで黙って俺達の様子を伺っていた古泉が声を発した。
先程までと違い、その表情が険しい。
朝比奈さんが弾かれたように古泉の方を見ると、古泉は「早く」とでも言うかのように彼女の手元に視線を移した。

「じゃ、じゃあ、すぐ付けちゃいますねっ」

古泉の視線に触発されるように朝比奈さんがボタン付けを再開する。

「あ、あれ? えと、えっと…」

だが、先程引っ張ったせいか糸が絡まり、その作業は、はかどらないようだった。




カチカチカチカチカチカチカチカチ


…静かな部室にハルヒのクリック音だけが響く。
…というか。
なんだってこんなに静かなんだ。

長門はいつもの事としても、古泉も何も言わずにチェスの駒をなぶっていた。
朝比奈さんはあぁでもないこうでもないと必死になってボタンを付けてくれている。…そんなに慌てなくても良かろうに。

そうして。
部室で常に騒がしくしているハルヒが今日は異常におとなしい。
ハルヒが部室に来てから恐らく15分程度。入ってきた時に喋ったっきり黙りこくったまま、パソコン画面と睨めっこをしている。
…状態異常(黙)にでもかかってんのか?


「なぁ、ハル―――」

カチッ!

…沈黙に耐え切れず俺がハルヒに話しかけようとした時、叩くようなクリック音が響いた。


「…ハ―――」

カチッッッ!!!

…打てば響く。まるで返事のようにタイミングよくクリックが返って来る。しかも左クリックがぶち壊れそうな勢いだ。
恐らく、そのクリックの意味は「話し掛けるな」か「黙れ」。
…どっちも似たようなもんだが。
…やれやれ。何をそんなに苛立ってるんだか。
その内、ESCキーどこいった!? なんて言い出すんじゃねぇだろうな。


つか、空気が重い。
…いや、重いんじゃないか。
やたらと乾いている。

指先がチリチリする。
口の中はカラカラだ。
目の奥が熱いんだ。
クックックッ……黒マテリア。


「…帰る」

あまりの居たたまれなさに脳内ソルジャーごっこで遊んでいると、ハルヒが来たばかりだというのにスクッと立ち上がった。

「…古泉君。電源、落としといて」

ハルヒが伝える。
…やはりその声にはまるで感情が見えない。

「…御意に」

古泉も短く端的に返す。
その内ハルヒが荷物をまとめ、カバンを手に取り、扉を開けた。



「…ハルヒ」

その背中は明らかに話し掛けるなと言っていたが、俺は思わず話し掛けてしまっていた。

「…何?」

ハルヒが振り返らないまま機械的に返事をする。
…ってちょっと待て。
俺は、なんで引き止めたんだ?
…帰るっていうなら帰らせればいい。
…帰らせればいいハズだ。
……何も、おかしい所なんか、無い。

「…いや、何でもない」

「…そ」

ハルヒは短くそう言い、結局振り返らないまま部室を出て行った。

…なんだこの後味の悪さは。



「ひぇぇぇん! ど、どうしましょう!?」

ハルヒが扉を閉めた途端、朝比奈さんがヤケに慌て出した。
顔の回りに汗マークが出るほどの焦りっぷりだ。

「あ、朝比奈さん?」

「ご、ごめんなさいっ、キョンくん! わ、わたし…わたしぃ…」

…なんで俺が謝られてるんだ?
朝比奈さんの目には涙が浮かんでいた。

「と、とにかく落ち着いてください、朝比奈さん」


…ヴーッ…ヴーッ…ヴーッ…

俺が朝比奈さんを慰めようとした時、携帯の震える音が聞こえた。
振動しているのはどうやら古泉の携帯らしい。
しかし古泉は鳴りっ放しの携帯を見ようともしないまま「ふぅー…」と大きく溜息を吐き、天井を仰いだ。

「…これは…参りましたね」

…そこに先程のニヤけ面は欠片も残っちゃいなかった。
あるのは苦悩。
……何が参ったっていうんだ?

…何もおかしい所なんて無い。
……無い、ハズだろ?
なのに。
…なんだってんだこの焦燥感は。



パタン

…長門が、本を閉じた。




















◆ 10月31日、曇天 ◆


気付いた。

部室の扉を開けた時、その時のキョンとみくるちゃんを見たら気付いてしまった。
キョンはあたしと居る時にあんな顔をしない。

…だからってベツにキョンはみくるちゃんが好きってワケでも無いと思う。
そんなに短絡的なおめでたい頭は持ち合わせてない。

ユキと一緒に居る時にしか見せない顔もあるんだと思う。


あの時キョンが言った、トクベツって言葉。

でもそれはたぶん、みんながトクベツって意味。
あたしも、みくるちゃんも、ユキも、古泉君も、鶴屋さんも、妹ちゃんも、あたしの知らない誰かも。
キョンにとってはそれぞれが、それぞれのトクベツ。
…イヤになるほどアイツらしい。


だから、気付いてしまった。

キョンは…あたしのコトが好きってワケじゃないのかも知れない。
…自惚れじゃなく、良くは思ってくれてると思う。
けれどそれは、きっと恋愛って感情じゃない。

舞い上がってたのは、あたしだけ。
…つまんない。



















あの日からハルヒの故障は更に進化したようだった。
…いや、むしろ修理されたのかも知れない。

俺や、他の誰かが話し掛けてもひどく淡々とした態度。
ハルヒの方から話し掛けてくる事は皆無。
…その様子はハルヒと出会ったばかりの頃と似ていた。
あの頃と違う所があるとすれば一つ。ハルヒは俺の目を見なくなった。

あの頃のハルヒはそりゃ不躾に、まるで射殺すかのように俺の目をガッツリ睨んで来たが、今ではその目を合わせようとしない。
ただの一度たりとも。
…その横顔からは何も読み取れなかった。

部室でも重たい空気。
長門は普段と変わりなかったが、朝比奈さんも何やらいたたまれないようだった。
…俺だってそうだ。
あれだけ騒がしかったハルヒが終始無言なんだからな。
古泉はと言えば、その出席率が異常なまでに低下していた。
一週間に一度、姿を見ればいい方だ。

だが古泉は古泉で様子がおかしい。
たまに学校に来て、部室に顔を出したかと思えば、何も言わずにただじっとそこに居る。
その視線がヤケに鋭い。そうしてそれは時に俺を射抜いた。
…何か、言いたい事でもあるのだろうか。
古泉はひどく疲れた顔をしていた。
…あのハルヒの様子を見れば古泉が何をしてるのかは簡単に予想がついたが。


…なぁ、ハルヒ。お前は何をそんなに苛立ってるんだ。
…俺に、何か出来る事は無いのか。

















■ 11月10日、たぶん雨 ■


キョンの目が見れない。
キョンはあたしのコトが好きって思ってた時は何も考えずにどんどん突っ込んでいけたのに。
ブレーキが掛かる。

何だかうまく話せない。
肌の裏側がザラザラする。

キョンと話したい。


最近よくキョンからもらったペンダントを触っている自分に気付く。

…絆。


…あたしらしさって、なんだっけ。
よく分からなくなって来ている。


キョンと、話がしたい。


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