「ふぁ…」

引っ越しを終えて早数日、何とか新しい暮らしにも慣れてきた。
やはり定期的に行われる不思議探索、初めての自炊、何だかんだで始まった大学での講義。
それなりに上手くやっている。
が、しかし。

平穏とは意識してしまった以上、長くは続かないのが道理なようで。

…はいはい、すぐにいくから待っててくれ。
頼むから玄関の扉をぶち壊さないでくれよな?

「キョン!早く開けなさーい!」

俺は小さくため息を吐きながら、休日の朝という質素にして大変素晴らしい時間を盛大にぶち壊す隣人の為、玄関の戸を開けるのであった。

「全く、団長が自ら足を運んでるんだから、さっさと開けなさいよね!」
「そりゃどーも…で、何しに来たんだ?」
「朝ご飯を食べに来たのよ!突撃!隣の朝ご飯!」

…なんでこいつはこんなにハイテンションなんだよ。

「朝食くらい自分で作ったらどうなんだ」
「飽きるのよ、自分で作ってるとたまには他の人の作るものも食べたくなるの!」

で、俺の所に来たと。
「そ!さぁさっさと作りなさい!」

…やれやれ。
まぁいいか。

















「ほれ、できたぞ」

テーブル前にどっかりと座って新聞を読みふけってるハルヒに声をかける。

…が

「…何これ」
「俺の一般的な朝食だ」

テーブルに並べられた朝食を見て、ハルヒが驚愕した表情を見せた。

「白米と、卵焼きと、味噌汁と……」
「そこまでは良いのよ、そこまでは…それ、何?」

それ、とハルヒが指さしたもの…

「…納豆がどうかしたのか?」
「納豆!あんた、あたしの朝食に納豆を並べるだなんて良い度胸してるじゃない!」
「…もしかしてお前…納豆苦手か?」
「苦手なんてもんじゃないわ!嫌いよ!」
「………」

唖然として見つめる俺をよそに、ハルヒは熱説を続ける。

「大体何なのよ!あのネバネバ!意味が分からないわ!口に残ってまでして何がしたいの!?」
「…いただきます」
「あたしはね、大概のものは好き嫌い無く食べるつもりよ!」
「…卵焼き美味いな」モグモグ
「でもこれだけは駄目!ちょっと!聞いてるのキョン!」
「箸で人を差すんじゃありません」
「あ、ゴメン」
「別に嫌いなものは嫌いなもので仕方がないと思うがな…俺だって苦手なものがあるし。ほれ、冷めないうちに味噌汁でも飲め」
「あ、美味しいじゃない!…じゃなくて!!」
「…あ、電話だ」
「別に言いたか無いけどね!あたしは朝はパン派なのよ!」
「ん、古泉か。ハルヒの様子?いつも通りだが…不安定?低血圧なんじゃねぇのか?」
「これは団長として、団員の朝食事情を把握しないといけないわね…モグモグ…キョン!」
「物を飲み込んでから喋りなさい」
「ゴクン…今すぐ古泉くんと有希とみくるちゃんを呼びなさい!」
「聞こえたか古泉。ハルヒが俺ん家まで来いってさ」
「ご飯おかわり!」
「自分で盛れ」

◇◆◇◆◇

「と、言うわけで今日は第一回SOS団朝食談義を行います!」

仁王立ちしたハルヒが高らかに宣言する。

今や居間のテーブルの周りにはSOS団メンバーが勢揃いで座っていて

「…瞼が重い」

みんなひたすらに眠そうだった。
そりゃそうだ。
元気なのはハルヒくらいか。

「あたしのはパン派で、キョンはご飯派、と」
「…いつ俺がご飯派って言ったんだ」
「あら、違うの?」

いや、ご飯でいいや。

「で、古泉くんは?」
「僕もパンですね。ただ、恥ずかしながら、時間が無いときはシリアルで済ませたりしますね」
「…シリアル」

不思議そうに長門が呟く。

「あ、牛乳をかけて食べるものなんですよ」
「いいじゃないシリアル!色んな種類があってあたしは好きよ!」
「…ユニーク」
「今度、長門さんにも食べさせてあげますよ」

シリアルねぇ、パンといいシリアルといい、食った気がしないんだよなぁ。

「みくるちゃんは?」
「ひぇ?わ、私ですか?えと、その…」

…何故この人は朝食ひとつ話すのにこんなにもキョドっているのだろうか。
もしかして未来の禁則やらなんやらに引っかかってるものでもあるのか?

「あ、ご飯派です!鶴屋さんのお宅でよく出してもらってるので」
「鶴屋さんって和風なイメージが強いわよね」
「いっつも頂く食事は和食ですね。すっごく美味しいんですよ」
「確か、鶴屋さんの家がプロデュースした和食の店もいくつかあるそうですね」
「古泉くんそれ本当!?」

ハルヒと古泉が横路談義にしばし花を咲かせている間、俺は朝比奈さんにささやかな疑問をぶつける。

「あの…朝比奈さん」
「どうかしましたか?キョンくん」
「もしかして、未来にしかない朝食とかあるんですか?」
「!?」

明らかにキョドる朝比奈さん。
というか、あるのか。未来にしかない朝食。

「く、詳しくは禁則で言えないんですが…シリアルみたいに牛乳を入れて、混ぜるんです」
「混ぜる?」
「原液があるんです。透明な。それを一袋と、牛乳を瓶一杯分を入れて混ぜると…」

…あぁ、見える。

「大体それで4人分くらいできますね。ピーチ味とかブドウ味とか、色々あるんですよ」

…朝比奈さんの後ろに大量のフルーチェの空き箱オーラが。

「あれ?禁則にかからずにほとんど言えました…何でだろう」
「朝比奈さん…今度スーパーに行ったときに面白いものを見せてあげますよ」
「わぁ、何でしょうか?楽しみです!」

…この人はワザとなのか素でやってるのか…

「…ユニーク」
「今度、鶴屋さんのお店にみんなで行ってみましょう!」
「あ、じゃあ私の方から鶴屋さんに言っておきますね」
「頼んだわよみくるちゃん!じゃあ最後ね、有希」

そう言われて長門はハルヒの方に顔を向ける。
そういやこいつの自宅での食事事情を見たのは、後にも先にも朝比奈さんと長門と一緒に食べたあのカレーだけだったな。

「有希は普段朝食に何を食べてるの?」
「…朝食」

…普段はどんな生活してんだろうな。

「…カレー」
「カレー!?有希ったら朝からカレー食べてるの!?」
そんな驚くことなのか?
俺の家はお袋が楽したい時に、夕飯の残りのカレーが出ることがあるぞ。

「あたしは駄目ね。朝から重いものは食べられないわ」
「…今朝にご飯三杯食ったやつが何を言うか」
「それとこれとは話が別なの!」
「…作ってから三日目のカレーはとても美味しい」
「あ、それはわかります。どうしても三日目のカレーが食べたくて、沢山作りすぎちゃうんですよね」
「…朝比奈みくる。あなたとは是非ともサシでカレー談義をしたい」
「へ?あ、はい!勿論良いですよ!」

そういえば。
ハルヒが女の子らしくなったって話をしたが、朝比奈さんや長門も大分変わったよなぁ。

「おや、僕の顔に何かついていますか?」
「いや、何でもない」

…古泉はよくわからんがな。
長門は自分から積極的に会話に加わるなんてことは無かったし、朝比奈さんなんかそんな長門に対していつもビクビクしてたみたいだし。

「…俺は何か変わったのかね?」
「ん?どうかしたキョン?」
「いや、独り言」

そんな俺の些細な悩みを余所目に、ハルヒは腕を組ながら唸っている。
何考えてんだ一体。

「あ、ほら、結構朝食にも色んな種類があるじゃない。どうせならみんなの定番の朝食でも持ち寄って食べてみたいなぁってさ」
「ふむ、それも面白そうですね」
「そういえば、朝食の話をしてたらお腹が空きました…」
「…私も」

と、言うかだな。

「もう昼過ぎてるぞ?」
「…よし!じゃあ何か食べに行きましょうか!キョンの奢りで!」
「…賛成」
「僕も賛成です」
「私もです」

いや、ちょっと待ってくれ。
ささやかながら異議を申し上げたい。

「却下よ!団長であるあたしの食卓に納豆を並べた罪は重いんだから!」
「え!?キョンくん納豆食べるんですか!?」
「…普通に食べますが…え?何で少し引いたんですか朝比奈さん」
「………」
「…長門?」
「…ごめんなさい」
「いや、謝るなって。誰にだって好き嫌いはあるんだからさ」
「…納豆を食べるという神経がわからない」
「そこ!?納豆じゃなくて俺を否定!?」
「あの、すみません。納豆って何ですか?」

古泉に至っては納豆すら知らないのかよ!

「いい加減にしろよ!納豆だけならいざ知らず、何で俺まで非難されにゃならんのだ!!」
「わーお。珍しくキョンが猛ってる!」
「猛りたくもなるわ!」

◇◆◇◆◇

『ギャーギャー!』

「……?」
「どうかしたのですか佐々木さん?」
「いや、あのアパートが騒がしいなぁって」
「本当なのです。全く、近所迷惑も考えるべきなのです!」
「…懐かしい声だよ」
「え?」
「何でもないよ。さ、早く行こう。九曜さんを待たせるわけにもいかないしね」

◇◆◇◆◇

「…はぁ」
「どうしたキョン。顔色悪いぞ?」
「なぁ谷口…そんなに納豆って邪道かな?」
「あ?別に俺は好きだけどな」
「だよなぁ…」

大学の中庭で昼食を取りながらボーっとする。
まだ大学内で馴染めてない人もいるようで、1人でのんびり飯を食ってるやつもちらほらといた。

「そういや、国木田やハルヒは大学だとどうしてるんだろうなぁ」
「上手くやってるんじゃねぇのか?国木田は何だかんだで社交性があるし、涼宮も前とは違うしな」
「…それもそうか」

しかしなぁ…なーんか嫌な予感がするんだよ。
…こう、気がつかないうちにハルヒが問題ごとを持ってくるような…

「…例えば?」
「…想像したくもないね」



















「あれ?あなたは確か…」
「涼宮さん、かな?」
「佐々木さん!久しぶりね!」

第三章につづく


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