「よし、こんなもんかな」
 
粗方片付いた部屋を見てベッドに腰を下ろす。
12月31日の大晦日、俺は部屋の大掃除なるものに没頭していた。
 
…粗方と言ってもまだまだなんだがな。
必要無いものをまとめただけだ。
 
「…少し休むか」
 
適当に財布を掴んで中身を確認する。
いつの間にか滞在していた筈の野口英世先生は家出してしまってるようだった。
 
…そんなに金を使った記憶が無いんだがなぁ。
溜まっているレシートを確認してみると、なるほど、駅前の喫茶店のものばかりであった。
 
殆ど罰金ですかそうですか。
 
「…やれやれ」
 
この台詞が出てくるのも独り言が多いのも疲れているからなのだろうか。
恐らくは今年の疲れの大半を占めているであろうSOS団の活動を振り返ってみる。
 
訳の分からないことだらけだったけど、楽しかったんだよなぁ。
…財布に厳しいのはどうかと思うが。
 
『罰金が嫌なら遅刻しなきゃ良いのよ!』
 
って怒鳴るハルヒが目に浮かぶようだ。
来年は善処してみるか。
 
時計を見ると16時を回っている。
確か23時からSOS団で初詣だったな。
それまでには掃除終わらせないと。
 
掃除そっちのけでシャミセンと遊んでいる妹を横目に冷蔵庫から麦茶を取り出す。
コップは…あれ、お袋が片づけちまったか?
 
「あぁ、食洗機に入ってるわよ。何か飲みたかったらそこの棚にマグカップがあるからそれで代用しなさい」
「あぁ、サンキュー」
「まったく…忙しいんだからそれくらい自分で考えなさいよね」
 
…まてまてまて。
 
「何よ。これから浴槽を洗わなきゃいけないんだけど」
「そうじゃなくて、何でハルヒが俺の家で掃除してるんだ」
「今日が大晦日で大掃除をするべき日に当てられてるからでしょ?」
「そうじゃなくてだな…」
「あー、私も麦茶飲むー」
 
妹か、丁度良い所に来てくれた。
 
「ハルにゃん?お母さんが外で会って、手伝いに来て貰ってるんだよー」
 
…何やってんだお袋は。
 
「最初は軽く話してただけだったんだけどね。なかなか掃除が終わらないみたいだから手伝いに来ちゃった」
「ハルにゃんが来たときにキョンくんに声かけたんだけど、キョンくん掃除に夢中で気が付かなかったんだよー」
「なるほど…気持ちはありがたいがな、自分の家の手伝いをしてこい。年の瀬なんだからやることが沢山あるだろうが」
「もう無いわよ?」
 
へ?
 
「あたしの家は大晦日の三日前からそういうのを始めるのよ。せっかく一年の最後の日なんだからのんびりしたいじゃない。ま、今年は退屈だから外にでてみたんだけどね」
「………」
「何よ、マヌケ面でボケーっとして」
「…いや、尊敬の眼差しを」
「どうせあんたのことだから今日の昼くらいに慌てて始めて、そんでもって適当に踏ん切りがついたところで切り上げてきた、そんなところでしょ?」
「…まったくもってその通りで」
 
はぁ、とハルヒがため息をはく。
 
「仕方ないわね…あんたの部屋も手伝ってあげるわ」
「いや、そこまでしてもらわなくて大丈夫だ」
「任せときなさい!掃除は得意なんだからすぐ終わるわよ!」
 
そう言うとハルヒは俺の部屋へとズンズン歩みを進める。
こうなったら何言ったって無駄だ、素直に手伝ってもらうか。
 
「あら、キョンにしてはなかなかはかどってたみたいじゃない。これ、まとめてあるのは全部要らないやつ?」
「あぁ、そうだ」
「じゃ、とりあえずこれを手分けして運び出しましょ」
 
大丈夫か?結構重いぞこれ。
 
「このくらいなら大丈夫よ。っと、髪が邪魔ね…」
 
と、ハルヒはポケットから髪留めを取り出すと…
 
「またボケーっとして、あんた大丈夫?」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
 
…やっぱりポニーテールはいいなぁ。
 
「…何よ、今度はニヤニヤして」
「いや、似合ってるぞ、ハルヒ」
「な!?ば、馬鹿言ってないでさっさとこれ運び出しなさい!」
 
枕を投げるな!埃が舞うだろ!
 
◇◆◇◆◇
 
「…信じられん」
 
一時間後、そこにはハルヒの手によってこれでもかと言うほど綺麗に片づけられた俺の部屋があった。
 
「うん、まぁこんなもんかしら」
「…驚異的な速度だったな」
「あんたがノロマなのよ。懐かしいもの見つける度に見入ってたじゃない」
「思い出に浸るくらい良いじゃないか」
「時と場合によるわよ」
 
…さいですか。
 
「お前は楽しかったか?この一年間は」
「んー…高校に入ってからね。不思議なことなんか何一つとして見つかってないけど」
「見つかったら見つかったでまた疲れそうだ」
「いいじゃないそれくらい」
「ま、とりあえず…今年一年お世話になりました、と」
「な、何よ急に改まって…」
 
少なくとも、高校に入ってから日常が変化したのはお前だけじゃないってことだ。
 
「変なの」
「ほっとけ」
「じゃああたしからも、来年もよろしくお願いします!」
「…拒否権は?」
「雑用係がそんなもの所持してると思う?」
 
太陽のような笑顔でハルヒが笑う。
 
「…やれやれ、ま、来年もよろしくな」
「よし!それじゃあ夕ご飯の準備にかかるとするかしら!」
「待て、お前はいつまでここにいる気だ」
「いいじゃない。折角来たんだから。どうせみんなと一緒に初詣にも行くんだし」
「まぁ…それもそうだな」
「そうだ!どうせなら夕ご飯もみんなを呼ばない!?」
 
…いや、流石にみんな忙しいだろ。
 
「とりあえず連絡だけでもしてみましょ!キョンは古泉くんにお願いね!」
「わかった…と、携帯携帯…」
 
電話帳を開いて古泉に電話をかける。
…ワンコール、ツーコール…
 
「はい、何でしょうか」
 
スリーコールぴったり。
 
「すまんな突然電話して。今忙しいか?」
「いえ、暇を持て余していた所ですが…」
 
手短に要件を伝える。
ハルヒの方はというと、すでに長門から承諾を得て朝比奈さんに電話しているところだ。
 
「そういうことでしたか。大丈夫ですよ」
「そうか。おい、ハルヒ。古泉大丈夫だってさ」
「ところで、ひとつよろしいですか?」
「ん?どうした?」
「今は涼宮さんと一緒にいらっしゃるんですよね?」
 
そう言ったじゃないか。
何を聞いていたんだ一体。
 
「道理で涼宮さんの精神が安定してると思いました」
「何の関係があるんだ?それは」
「いえ、気になさらないでください」
 
お前、絶対電話の向こう側でにやついてるだろ?
 
「おや、超能力ですか?」
「はぁ…電話切るぞ」
「えぇ、ではまた後ほど」
 
ハルヒ、そっちはどうだった?
 
「二人ともOKですって!」
 
満面の笑みでハルヒが答える。
…いつ時でも楽しそうだなぁ。
 
張り切りながらハルヒが夕ご飯の支度をする。
 
あっと言うまの365日。
また新しく始まる365日。
 
次の節目もこうしてハルヒと楽しく過ごしているのだろうか。
 
「ほらキョン!あんたも手伝いなさい!」
「へいへい」
 
その中の一欠片を紡ぎながら、またこうして過ごしていくんだろうなと、何となく思った。
 
そんな大晦日のお話。
 
おわり

 


「………」
「…どうかしましたか鶴屋さん?」
「ねぇみくる、ちょこっと思ったんだけどさぁ」
「何でしょうか?」
「…お題もらったのは良いんだけど、大晦日過ぎちゃってないかい?」
「……あー…そうですねぇ」
「それとさぁ、ハルにゃんとキョンくんのお母さんって…」
「…いつから顔見知りでしたっけ?」
「…ま、いっか!」
「ですね!と、いうわけで」
 
「「あけましておめでとうございます!!」」
 
細かいミスはスルーで今年もよろしくお願いします。
それでは。
 


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