「んー…今日も良い天気ですね」
 
学校の屋上は密かにお気に入りの場所です。
行くと決めた日は誰も登校してないくらい早く学校に行き、のんびりと空を見る。
 
「…最近は閉鎖空間ばかりで睡眠優先でしたからねぇ」
 
久しぶりだなぁ、ここに来るのも。
まだ太陽も上がりきっていないせいか、夏の空気は程よい温かさとなっていた。
 
風が気持ちいい。
 
フェンスから町を見て、ひたすらにボーッとする。
時間を忘れるほどに、次第に暑くなるのも気が付かない程にその行為に夢中になる…まぁボーッとするだけですが…
 
しかし、それも何時もならばのことである。
 
風が気持ちよくないわけではない。
別に自分の体調が不良だとかそんなわけではない。
 
いつもの屋上と、今日の屋上を比べてはっきりとわかるイレギュラー要素。
 
 
…なんであんなところにダンボールハウスがあるんでしょうか。
 
 
控えめとも巨大とも言えないいかにもな大きさのそれは、屋上の隅にきっちりと陣取られ、やはり人が住んでいるのか、ご飯を炊いているような良い匂いがした。
 
「………」
 
………。
 
…駄目だ。気になります。
無かったことのように振る舞いたいんですが、時折ダンボールハウスから聞こえてくる物音がする度に反応してしまう。
 
というか屋上に住み込んで良いのだろうか…いや、恐らくは無断だろう。
…一応注意した方が良いのかな?
 
そう思い、もう一度ダンボールハウスを見る。
…あ、誰か出てきた。
 
「………」
「………」
 
出てきてすぐにこちらに気が付いたようだ…僕のことをガン見している。
小柄な身長にセーラー服、ショートボブの紫髪。
 
「…おはよう、古泉一樹」
「…何をしてるんですか長門さん」
 
『夏の夜空と家無き子』
 
「…鍵を無くした」
 
長門さんが言うには、三日前、いつもの様に団活を終えて家に帰るとあるべき場所に鍵がない。
このままでは家に入ることができないので、情報統合思念体にアクセス、しかし…
 
『前略…というわけで鍵の再構成の許可を…?』
『はい、こちらは情報統合思念体です。只今我々はお盆休みのため休暇に入っております…』
 
…とのことだそうで。
…しかし留守電じゃないんですから…
 
「よくバレませんでしたね」
 
どこかで購入したのだろうか、歯ブラシでモゴモゴしている長門さんに聞く。
 
「…運が良かった」
「…そうですか。ちなみに思念体とアクセスできるのはいつになるんですか?」
「…ガラガラ…ペッ…恐らくは今夜か明日の朝」
 
…というか今うがいした水を屋上から吐き捨てましたよね?
 
「…それまで凌げば問題は無い」
 
…無視ですかそうですか。
 
「…HRが始まる」
「あぁ、もうそんな時間でしたか」
 
とりあえず僕と長門さんはそれぞれの教室に向かうことにしました。
 
「…古泉一樹」
 
階段を下りる僕を長門さんが呼び止める。
 
「どうかしましたか?」
「…秘密にしておいて」
「…はい、わかりました」
 
◇◆◇◆◇
 
…さて、どうしましょうかね。
流石に長門さんのあんな状態を見なかったことにするのも心が痛い。
…長門さんなら自分の力で全て解決できそうなのですが…いや、許可が降りないと使えないのかな?
 
…というか、僕に何ができるんでしょうか?
 
…何にしろ、長門さんがダンボールハウスで暮らしているのは事実なんだ。
…もう少し人を頼っても良いと思うのですが…涼宮さんも朝比奈さんも、長門さんを拒まないと思い──
 
「おい、古泉。お前の番だぞ」
「…すいません、考えごとをしてました」
「なんかまた面倒なことでもあったのか?…ハルヒ絡みで」
 
自分が取ったチェスの駒をいじりながら彼が尋ねる。
勿論、団長机でパソコンをいじっている涼宮さんには聞こえないように。
 
「いえ、そういうわけではありませんので安心してください」
「…そうか」
 
そう言って自分が取ったチェスの駒を弄り始める。
…しかし、相変わらず勝てませんね。
やはり僕が弱いのでしょうか。
 
「…と、ここにルークを動かします」
「…いや、普通にチェックメイト」
 
…あ。
 
「…良い入門書貸してやろうか?」
「いえ…お気遣いなく」
 
…やはり僕が弱いんですか…
 
「そういやさっきからハルヒは何調べてるんだ?」
「んーとね、流れ星。丁度今夜あたりに流れるのがあるらしいんだけど」
「流れ星ですかぁ…」
「おや、朝比奈さんは見たことがあるんですか?」
「いえ、私はいっつも流れ星を待っている間に眠っちゃって…」
 
そういえば僕も無いですね。
 
「…まさかお前、今夜全員で見に行くとか言い出さないよな?」
「その通りよ!と言いたい所だけど、今回はダメよ」
「珍しいな」
「流れ星一つには一人分のお願いしか乗せられないの、だからみんなで集まって願い事をするわけにはいかないわ」
 
…まぁ涼宮さんがそう思うなら本当にそうかもしれませんね。
流れ星か、久しぶりに眺めてみたいものです。
 
「全く、ケチケチしないで流れ星の一つや二つ、盛大に流せば良いじゃない!」
「…そんなに沢山降り注いだら有り難みも減ってしまう」
「…長門の言いたいことはわかるが、流れ星に有り難みは無いと思うぞ、希少性ならわかるが」
「…それが言いたかった」
 
そういうと長門さんはパタンと本を閉じる。
あぁ、もう帰宅時間ですか。
 
「よし、それじゃあ帰りましょうか!」
「じゃあ私は着替えますね」
 
じゃあ、僕達は部室からでましょう。
 
「あれ、長門さん?」
「…先に帰る」
 
あぁ、屋上で住んでるのは秘密にしたいんでしたか。
 
「そうですか…あの、何か問題があったら連絡してください。可能な範囲で手助けしますから」
「…了解した」
 
立ち去る長門さんを見送りながら彼が呟く。
 
「…長門、何かあったのか?」
「いえ、何もないですよ」
 
…まぁ、約束なので。
 
◇◆◇◆◇
 
「…疲れた」
 
家に帰って鞄を下ろす。
何てことのないアパートだけど、やはりほっとできる。
 
…寝ますか。
何故かはわからないが瞼が重い。
少しだけ寝て、夕ご飯を食べよう。
閉鎖空間が発生したなら…きっと携帯が…鳴る………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ピリリリリリ…ピリリリリリ…
 
「ん…」
 
携帯が鳴ってる…閉鎖空間が発生したか…
 
ピッ
 
「もしもし、場所はどこですか?」
「………」
 
沈黙。
…あれ?
 
「あの…閉鎖空間の発生した場所は?」
「…私」
 
その声を聞いて携帯電話のディスプレイを覗く。
 
「すみません。長門さんでしたか。機関の者と勘違いしてました」
「…構わない。それより助けてほしい」
「何かあったんですか?」
「…食料が底をついた」
 
…さて、寝るとしますか。
 
「………」
「冗談です。沈黙しないでください。怖いです」
「…今から指示する物を持ってきてほしい」
「…わかりました」
 
◇◆◇◆◇
 
長門さんに頼まれたものをスーパーで購入する。
…肉類が多いのは何でだろうか。
ついでに僕からたかろうとでも考えているのでしょうか?
 
…まぁいいです。
 
「…暗いですね」
 
夜の学校、か。
…大丈夫なんでしょうか、長門さん。
 
人気のない校舎に入り、階段を上って屋上にでる。
 
「…何でダンボールハウスから電気が?」
 
勝手に配線を引いたのか、それとも単に懐中電灯の灯りか。
…何でもいいか、とりあえず長門さんに食料を渡して帰ろう。
 
「長門さん?持ってきましたよ」
 
そう言ってダンボールハウスの扉らしきものを開く。
 
「…待ってた。ありがとう」
 
…あぁ、やっぱり灯りはランタンの物か、電気も通ってないみたいだ。
…いや、そうじゃなくて…
 
何故あなたはバスタオル一枚で待機しているんですか。
 
「…お風呂に入っていた」
「あぁ、だから外にドラム缶が置いてあったんですか…じゃなくて、失礼します!」
 
すぐさま扉を閉める。
 
…はぁ…心臓に悪い。
…いや、確認しなかった僕も悪いんですが…
というか得した気分になったのはなんででしょうね。
 
脳内に焼き付けた先ほどの画像を展開してみる…長門さんの肌…綺麗だったなぁ。
 
…しかし、やはりまな板…
 
「…すり潰されたい?」
「いや、人の心を読まないでください」
 
ほんのりと湯気を立てて、パジャマに着替えた長門さんがでてくる。
 
「…すり潰されたい?」
「…わかりました、ごめんなさい…あ、これ、頼まれたものです」
「…感謝する。これでカレーを作ることができる」
 
…カレー好きなんですね。
 
「質問していいですか?」
「…何?」
「何故にダンボールハウスなんですか?涼宮さんや朝比奈さんなら快く泊めてくれると思うんですが…」
「…可能なことは自分でやりたかった」
「食材は?」
「…お金が無かった。ダンボールなら道端に落ちていたからタダ。ドラム缶も拾った」
 
…そうなんですか。
 
「…心配?」
「…それは…まぁ心配ですよ。こんなところに女性が1人なんですから」
「…そう…ありがとう」
 
そう言うと長門さんはスーパーの袋から食材を出す。
 
「…カレー、食べる?」
 
そういえば何も食べてませんでしたね…
 
「なら、お言葉に甘えて」
「…了解した。調理にかかる」
 
そうですか。
いや、調理に入るのは別に構わないんですよ?
 
「…何故に薪を並べているんですか?」
「…燃やす」
「駄目ですよ!火事にでもなったらどうするんですか!?」
「…問題無い、昨日は火事にならなかった」
「道理で朝方いい匂いがすると思いましたよ!米を炊くのにも火をおこしていましたね!?」
「…そう」
「この調子だと風呂を沸かすのにも火を起こしたでしょう!?」
「…仕方がなかった」
 
…はぁ。
…何だかんだ言ったって、力が制限されたら1人の女の子なんだなぁ。
 
「仕方がないと言ったって、鍵を無くしたあなたが悪いのでしょう?少しは僕達のことも頼ってください」
「………」
「…とりあえず、僕が家からガスコンロを持ってきますから、絶対に焚き火を始めないでくださいね?」
 
長門さんの頭が数ミリ縦に振られる。
わかってくれたみたいだ。
 
「では行ってきます。すぐ戻ってきま…あれ?」
「…どうかした?」
「いや…あの…ですね…」
「………」
「…鍵を落としたみたいで──」
「馬鹿」
 
…今間髪いれずに馬鹿って言いましたよね?
 
「…言ってない」
「いやいや…普段は使っている三点リーダも使用しないくらいの速度で言ったじゃないですか」
「…馬鹿?」
「言い直しましたね!?しかも今度は疑問系ですか!!」
「…その話は置いといて…火はどうするの?」
「…あ」
 
…どうしましょう。
 
「………」
「…昨日は火事にならなかったんですよね?」
「…コクン」
「…なら…やってしまいましょうか」
 
古泉一樹、焚き火初体験です。
 
◇◆◇◆◇

 

「…火事にならずに済みましたね」
「…良い匂い」
 
火の粉がダンボールハウスに飛び移った時はどうなることかと思いましたよ。
 
「…いただきます」
「いただきます…しかし、どこで鍵を無くしたんでしょうか…」
 
家を出たときには確かに鍵をかけたのですが。
…やはり来る途中に落としたのでしょうか。
 
「…おかわり」
「自分で盛ってください」
 
…携帯も家に置いてきてしまいましたしね…
閉鎖空間が発生したらどうしましょうか…
 
「…おかわり」
「だから自分でやってください。食べるのが早すぎます」
 
…確実に森さんに怒られますね。
 
「…スッ…パクパク」
「しかしよく食べますね…あれ?」
「…もぐもぐ…何?」
「…それ僕の分…」
「…気のせい」
 
いやいや、僕の目の前に置いてあった皿が無くなってるじゃないですか。
 
「おかわりくらい自分で鍋から…え?」
「…ごちそうさま」
「長門さん?鍋の中身は?」
「…全て食べた」
 
…いや、僕は何も食べてないんですけど。
 
長門さんは満足そうに夜空を見上げる。
 
…お腹空いたなぁ。
 
「…私は満腹」
「そりゃあなたはそうでしょうよ…」
「…あなたはこれからどうするの?」
 
カレーを横領したことなど気にもせず話しかけてくる。
 
「どうする、とは?」
「…寝床」
 
…あ。
 
「…ここに住む?」
「住みません」
「………」
「…そんな顔をしてもダメです」
「…心配してくれたのは嘘?」
「いや、嘘というわけじゃないんですが…男女で一晩一緒にというのが…」
「…1人だと何があるかわからない」
 
…二人の方が何があるか…はぁ。
 
「…わかりました。今回だけですよ?」
 
…どうせ何を言っても無駄でしょう。
 
「…わかった。ならば先にすることがある」
 
え?
 
そう言うと長門さんはドラム缶をポンと叩く。
 
「…入浴」
「全力でお断りします」
「…何故」
「嫌だからに決まってるじゃないですか」
「…汚っ」
「そういうことじゃなくてですね!別に入浴くらいしますよ!体洗ったりしますよ!」
「…ならば入るべき。カレーを食べたことにより少なからずあなたは汗を掻いている」
 
確かにそうですが…
 
「あのですね、色々と恥ずかしいので勘弁してもらえませんか?」
「…私のは見たのに?」
「…はい?」
「…私のは見たのに?」
「あれは不可抗力です!しかもタオルでしっかり隠してたじゃないですか!」
「…どこを?」
「どこって…あー…」
「…どこ?」
「…勘弁してください。本当に」
「…入浴」
「…わかりました」
 
…意志弱いなぁ…僕…
 
◇◆◇◆◇
 
「…ドラム缶風呂は初めてですね」
 
ギッチギチにタオルを巻いてドラム缶を一望する。
ちなみに長門さんにはダンボールハウスで待機してもらっています。
 
あぁ、暖かい。
 
気恥ずかしさはありますが、こう…夜空の下で入るお風呂も良いですね。
良くも悪くも、やはり屋上はお気に入りの場所です。
 
…まぁダンボールハウスで住もうとは思いませんが。
 
「…湯加減は?」
 
中から長門さんの声がする。
 
「丁度良いですよ」
「…そう」
 
そう言えば熱くなってきた気がしないでも無いが、きっと季節が夏だからであろう。
暑い時に熱いものもなかなかオツなものではある。
 
…そう言えば長門さんもお風呂に入ったんだっけか。
 
「…そう」
「だから人の心を読まないでくださいって…というか覗かないでください」
 
気が付けば長門さんがドラム缶の横で本を読んでいた。
いやいや待て待てそうじゃない。
 
…これ、長門さんの残り湯?
 
「…そう」
 
だから心を読まないでと…
 
「あの…長門さん?」
「…何」
「色々ともうアレなので上がろうかと思うのですが…」
「…1000」
「はい?」
「…1000数えるまであがってはいけない」
「いやいや…」
「…あなたが数えるまで見張り続ける」
 
…本当に勘弁してください。
 
「…早く」
 
…わかりましたよ。
 
「1…2…3…──」
 
これは新川さんの残り湯なんだこれは新川さんの残り湯なんだ……
 
「298…299…300…──」
 
良い匂いなんかしない良い匂いなんかしない良い匂いなんかしない……
 
「731…732……73…4?……」
 
……………。
 
「…999…1000」
 
…熱い。
…後半は我慢くらべみたいになってましたよ。
 
「…数えましたよ」
「…そう」
 
それだけ言うと、長門さんはふいっとダンボールハウスへ戻っていく。
…あがっていいんですよね?
 
「…はぁ」
 
自然とため息がでる。
…こんなに疲れる入浴は初めてです。
 
茹で蛸のような状態で着替えに戻ると、長門さんが用意してくれたのか、タオルとパジャマが置かれていた。
 
…何で僕のサイズのパジャマがあるのだろうか。
 
「…先程ようやく思念体にアクセスできた」
「だから覗かないでくださいって」
「…驚かない?」
「もう馴れましたよ」
 
そうか、それならば鍵を探し出して帰ることができますね。
 
「…今日は屋上で過ごす」
「あ、そうなんですか」
「………」
「大丈夫ですって、僕もいますから」
 
そう言うと長門さんは少しだけ満足そうに
 
「…お揃い」
 
と、僕と長門さんのパジャマを指差した。
 
「…古泉一樹」
「何でしょうか?」
「…何故頭を壁にぶつけているの?」
「あ、いえ…煩悩を少し」
 
あぁ、理性が危なかった。
お揃いって、お揃いですか。
 
長門さんが言うと破壊力抜群なのは何故なのでしょうか。
僕だけですかね?…僕だけなんでしょうか。
 
「兎に角、着替えたいんであっち行って下さい」
「…了解した」
 
◇◆◇◆◇
 
「ふぁ…」
 
入浴で疲れて眠くなりました…
 
着替えて戻ると、長門さんは相変わらずランタンの灯りで本を読んでいました。
…目、悪くならないんですかね。
 
「長門さん」
「…何?」
「…疲れたので先に眠らせてもらいます」
「…そう。なら一緒に」
「一緒には寝ません。僕は外で寝ます」
「………」
 
だからその目でじっと見ないで下さいって…
 
「流石にこればっかりは…」
「…なら、せめて私が眠るまで側にいて」
「…いや…僕も眠いんです」
「…お願い」
 
…結局、気が付けば僕は長門さんと一緒にダンボールハウスの中にいるわけでして。
 
…狭い。
 
「………」
「………」
 
毛布が一枚だけ敷かれた中には何もなく、長門さんが横になると僕が座るスペースはほとんどなかった。
 
というか本当に狭くて僕が長門さんに膝枕しているようなそんな体勢になっていてまた色々ヤバいというか…
 
…長門さん、もう寝たかな?
…でも長門さんの頭をずらしたら起きてしまうような…
 
「…まだ起きている」
「…眠れないんですか?」
「………」
 
目を瞑ったまま長門さんが呟く。
 
「…星が見たい」
「さっきさんざん見たじゃないですか」
「…流れ星」
「そういえば今夜流れるんでしたっけ」
 
…待ってる間に眠ってしまうと思うのですが。
 
「…残念」
「願い事でもしたかったんですか?」
「………」
 
…顔だけだして確認してますから。
流れ星が来たら教えますよ。
 
「…それでは間に合わない」
「大丈夫ですよ、流れる前に光るんですよ。すぐ呼べば…あ、光りました!」
「…!?」
 
痛っ!
…そんなに勢いよく出てこなくても。
 
「…どこ?」
「謝罪無しですか…ほら、あそこです」
「………」
「あー…そっちじゃなくて…」
「…あれは?」
 
別の星も…光ってる?
 
「…あっちも」
 
長門さんが指さす方にまた一つ、また一つと光が灯る。
 
『全く、ケチケチしないで流れ星の一つや二つ、盛大に流せば良いじゃない!』
 
…無意識下の望み、か。
 
「…綺麗」
 
先程まで静かだった夜空には、今や幾百もの星が行き来していた。
流星群。
そんな言葉がぴったり合うようなとても賑やかな流れ星。
 
涼宮さんが強く望んだからだろうか。
 
「願い事はしなくて良いんですか?」
「…流れ星が見たかった」
「…そうですか」
「…もう少しだけ見ていても良い?」
「えぇ、勿論です」
 
結局、最後の一つが流れ落ちるまで僕と長門さんはのんびり空を見ていました。
 
◇◆◇◆◇
 
…眠いです。
 
屋上で一夜を過ごした日から早数日。
長門さんから自宅の鍵を再構成してもらい、再び僕は普通の生活をしていました。
 
…森さんにめちゃめちゃ叱られましたよ。
丸一晩連絡もとれずに何をしていたのかって。
 
「星を見てました」
 
…無理です。
絶対に言えません。
 
…はぁ。
 
ため息をつきながら屋上に向かう、どんな時でもお気に入りの場所。
 
うん、今日も良い天気です。
 
…しかし何故か感じる妙な既視感。
 
 
…何でまだあのダンボールハウスが屋上にあるのでしょうか。
 
 
「………」
「…そしてさも当たり前のよいにダンボールハウスから出てくるのは止めて下さい長門さん」
「…ここの住み心地が気に入った」
 
…まだ何も聞いてませんよ。
 
モゴモゴと歯を磨きながら、長門さんはのんびりと空を見上げる。
 
「…好きなときに星が見える。綺麗」
 
…相当気に入ったんですね。
 
「…ガラガラ…ペッ」
「とりあえず水を吐き捨てる癖は止めましょう」
「…善処する」
「ちなみに食料とかはどうなさってるんですか?」
「…思念体から仕送りして貰っている。今週はピーマンがあった。苦手」
「好き嫌いすると大きくなりませんよ?」
「…どこが?」
「身長がですよ」
「…どこ?」
「だから身長ですって!」
 
…とりあえず教室に戻りますよ?
 
「…そう」
「では、また後で」
「…待って」
 
屋上を去ろうとする僕を長門さんが呼び止める。
 
「…楽しかった」
「おや、奇遇ですね。僕もとても楽しかったですよ」
 
たった一晩のことでしたけど
 
「…また鍵を無くしたら来ると良い」
「ふふ、考えておきます」
 
普通の日常とは少しズレただけだけど
 
「…もし貴方が望むなら」
「……?」
 
たまにはこんな日があっても良いなと思いました。
 
「…一緒にここに住む?」
「絶対に住みません」
 
…あくまでたまーにですけど、ね。
 
おわり

 

 


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