クリスマス直投下「雪のあじ」

 クリスマスの短編です。(ただ十二月六日にも一つ投下したので、結構被ってるかも。)あと、急いで書いたので、わけわかんないかもしれません。

 1

  クリスマスが近づいた。いつかの雪の臭いが蘇る。雪を口に入れたとき、鼻から抜ける少し饐えた臭いだ。いつだったか、雪など食うものではないと知りながら、手で掬って舌の上に乗せた。口の天井と舌で、恐る恐る押し付けると、ただその臭いが鼻から、白い水蒸気となって抜けた。あれはいつの冬だったのだろうか。思い出そうとしても、見上げた空の黒さと、降り続く大きな雪粒しか、思い出せない。
  雪が、降っている。街灯だけが足元を円く照らす。沢山の足跡の上に更にせっせと雪が積もる。僕と彼女はその上を歩いた。まるで、生きていることを知られてはいけないというように正確に。いや、ただ、二人で手をとって歩いているのが恥ずかしいというだけで、意識を他の場所に当てようとしているのだ。小指が一つ、掛け違えたボタンのようにずれている。手をほどいてもう一度つなげるかどうか怖い、、。って馬鹿か俺達は。
  一つ道をずれると、一足早いクリスマスカラーの大通りだが、妙にそれとは合っていない道だ。暗くて、雪の白だけが目に映る。
  ただ、手が暖かい。頬には少し、冷たい風が打っていた。そのせいで、無意識の涙が目から出る。クリスマスカラーの町も、実際には無い余韻を出し、不思議に伸びてしまっている。涙がぼかしているのだ。
 二人は目を避けながら、町のど真ん中に立つクリスマスツリーを見に、せっせと道を進んでいる。止まると恥ずかしさが追いついてしまうから、道も、ドリフトさながらに曲がり、時速を緩めない。
 会話もろくにない。モノクロの無声映画と同じだ。
「今、何時だ?」
「6時半」
「じゃあ、まだライトアップされないな」
「、、。」
「どうする?ピロシキでも買って食うか?」
「、、。」
 彼女が無言なので、俺も少し落ち着いてみようと思うが、やはり足は止められない。知らぬ間に駅前まで来てしまっていた。クリスマスツリーには雪が積もっていた。辺りのランチキ騒ぎを静観するように、じっとそこにそびえている。
 今日はまだ、20日。クリスマスまであと五日もある筈なのに、道の脇の木にはブルーのLEDがかかって、幻想的な雰囲気を出しているのだろうが、それを更に挟む商店は、いかに目立つかしか考えていないようだ。ツリーの脇のベンチの雪を払って座る。少し、冷たい。彼女と俺はくっついた。彼女を右にして座った。流石ベンチを作る人もわかっているのか、その椅子は二人しか座れなかった。他のベンチにもいくつかカップルが座っていた。
 やっと一息ついて、俺は長い白い息を吐いた。少し座っていると、体も冷めたのか急に寒くなってきた。長門の足も、冷たそうだ。俺は上着を脱いでかけてやりたかったが、生憎上着を着ていない。が、左手で握り締めていた鞄の中には、そう、セーターが入っているはずだ。俺は器用に左手だけでそれを取り出して、彼女に渡した。着るとき彼女はその手を離したが、当たり前のようにまた、繋いだ。今度は間違いなく、うまく指と指が重なった。
 三々五々カップルがやってきて、ベンチを埋めていった。やがて、ベンチに溢れてしまった(バ)カップルは俺達に疎ましく一瞥をくれるようになった。
 ここのツリーは、20日の午後七時に、初めてライトがつく。この街に住む若者は皆それを知っているのだ。妙なジンクスを信じているカップルもいれば、ここに来ればもう、部屋に直行だと、作戦を立ててやってくる奴らもいる。ろくなもんじゃない。
 ただ、俺もその中の一人であるということを、認めないわけじゃない。谷口の言うところによると、ジンクス八番「ここで告白すると成功する」のである。いや、それを信じているわけじゃあない。ただもし失敗したとき、なんだ、このツリー大したことねえな。と思うことによって気を紛らわそうという、ネガティブ極まりない考えなのである。だから、俺は、このツリーに、畏怖と畏敬の念を持っている。
 ただ、ツリーのライトが点いてからなのか、点いていなくてもいいのか、点いていてはいけないのかは、聞けなかったのである。今俺はそれが気になってしょうがない。ばかにすることなかれ、地方のジンクスというのは、妙に細かいのである。「ああ、それ、電気が点いているからダメだったんだな」というような、そんなルールも許されるのである。まさか隣のカップルに聞くわけにもいかないし、、。ああ。どうすればいいんだあ!
 そんなことを心配しているうちに、七時が近づいてきた。彼女を退屈させてはいけないと、何か話題を探すが、空を見上げても星は無いし、地面には雪とごみしかない。
長門の顔を見ると、目が合った。どうやら俺の苦悶の表情を見逃さず、じっと見ていたようだ。そのとき不意に彼女の目に、吸い込まれそうになった。周りの全てと、二人が、違う次元になってしまったと感じられるぐらい、彼女の目は美しかったのだ。
 口を開いて、俺は告白しようと思った。が、辺りの歓声が、それを阻んだ。街灯に着いたスピーカーから、点灯五分前と言う声がかかったのだ。俺の勇気はため息となってしまった。スピーカーからは、少し音質の悪いクリスマスソングが、流れ始めた。
 半ばやけくそで、俺はその、オルゴールのメロディに乗せて、あわてんぼうのサンタクロースを歌い始めた。すると隣の、知的なカップルが、鼻歌を始めた。俺は恥ずかしくなって、歌うのを止めた。するとまた静寂が戻った。果ての無い静寂だ。
「、、長門。ごめん。なんか退屈させちゃったな」
「、、。」
「ごめん」
「別に、いい」と彼女は言って、白い息を吐いた。が、彼女の肌の方が、美しい白だった。雪の光が反射しているのだ。少し、頬が赤く見えた。冷たいのかと思い、手を当ててみた。が、頬はとても温かかった。優しい暖かさだった。
 そんな彼女を見ているといつの間にか、俺は落ち着きを取り戻した。ただ二人でここにいて、光がつくのを待っている。それだけでいいと思えた。
 ぎゅっと音がした。雪を握ったときのような音だ。彼女が俺の手を、少し強く握ってきたのだ。俺も少し、強く握った。雪だまを作るように優しく。だ。
 点灯一分前という声がした。辺りの(バ?)カップルが、高い声をあげた。が、それからの一分は、長かった。どのカップルもそう感じたはずだ。
 制限があるからこそか、俺はずっとこのままでいたいと思った。ずっとこうして、点灯するのを待っていたいと思ったのだ。それと同時に、俺は確信した。この点灯を待っているという状況は、つり橋効果のようなものも秘めているのである。いつ点くのかわからないという緊張が、恋に似ているのである。つまりジンクス八番は少なくとも嘘ではなかったのである!むしろ科学的根拠に基づいたすばらしい言い伝えなのである!そして、このときに告白すると、成功するのである!そうだそうだと、脳細胞の全員が納得した。
「な、長門!」
「なに?」
「付き合ってくれ」
「なにに?」
「俺と過ごす時間に、、、、、さ、、、!」
 決まった!俺は、コンボの後にクリティカルヒットを決めた!今までに無い快感が俺を包んだ。ガッツポーズを決めたいような気持ちだ!もちろんOKだろ?長門!
「ええ、、と」
 よし!早く言ってくれ!O、Kってな!よし!言うんだ!勿論ってな!
「、、。」
 なんで黙るんだ、、!いや?まさかな?まさかね、、?
「わたしは、、、、、、、」

そのとき、ツリーが点いた!
「ウワア!」
 歓声が長門の声を邪魔した。俺は心の中で、大きな罵声を、ツリーに浴びせていた。
 その後、俺も長門もその発言に強い思いを籠めたために、呆けた顔でツリーを見ることしかできない。すると一人の男が、ふざけんな、何がクリスマスだ。俺のクリスマスはどこだ。と、泣きの入った罵声を、降り続ける雪に浴びせながらやってきた。聞き覚えのある声だったので、俺は彼女の手を掴んで、駅前から離れていった。どんどん、歓声から離れていった。多分あれは谷口だったと思う。あまりに可哀想な友人の姿だった。
 100メートルぐらい無言で歩いた。その先に一つ、公園があった。あまりに寒すぎるのか、カップルは一組も無かった。俺は長門の手をとってその公園に入って、ブランコに座った。彼女も、雪をどけて座った。足跡は無かった。
 からっぽの公園を見ると、心が少し落ち着いた。落ち着いたはいいが、情熱がどこかへ行ってしまった。さっきなんと言ったのか、聞くタイミングを逃してしまった。ただ、眠気と、妙に減った腹具合だけが気になり、俺の意識はその間を何度も往復していた。
 雪が落ちる様も、妙に脳をぼうっとさせた。ただ倦怠を感じながら、ゆっくりとブランコだけが動いていた。音は何も無かった。
 長門のほうを向いてみる。距離感があやふやだ。同じ場所で前後に揺れている。少し手を出せばつかめる距離にいるが。俺の右手は少し冷たすぎた。
 改めて、手に落ちる小さな粒にこれほどの冷気がこもっていることに感心する。雪の一粒一粒が、時間の一コマ一コマに感じられる。積もっていく過程が、とても美しい。とても寒いのだが、風呂上りに扇風機に当たったときのような心地よさがある。
 決心などというものは、やる気がなければ起きないものだ。ただ座って、雪を見た。それがなんなのかわからなくなるほど、ずっと雪を見ていた。ゲシュタルト崩壊という奴だ。綺麗だからか、何故だか、目が熱くなってきた。
「家に来る?」
 と彼女が言った。行きたいさ。そりゃ。でも、どうだろう。なにがどうだろうなのかわからない。行ける資格は無いような気もするし、彼女を一人にしてはいけないような気もする。ん?今、俺、少しナルシーだったか?
 しかし、まだクリスマスではないから、彼女の部屋はそう、一人でも広くは無いだろうと思った。クリスマス特有の、白夜のような暗さも、そう無いだろう。
「遠慮しておく。ありがとう。」
 しかしそう言っても、さよならの挨拶を交わすわけではない。雪が降り終わるまで、そこにいられるような気がした。



「さて、クリスマスプレゼント特集!今年度!面白いクリスマスプレゼントランキング!」
 テレビの音はとてもやかましく、朝食もまずい。が、妹が飲むはずのマスカットソーダはとても旨かった。果汁を感じる。弾ける果汁の味だ。頬の中で弾けると少し痛いが、まあ、かまわない。
 冷たいものを飲んでしまったからか、体が冷えて冷えて敵わない。さっさと買って来て、布団にもぐりこんでしまおうと思った。
「ろくなもんじゃねえな。クリスマスなんて」
 そんなことを呟きながらどこへとも無く歩いた。何を買おうか、とりあえず商店街にでも行こうか。と思い歩いてみると、いつもよりシャッターが多い。まだ九時であった。
 自分の馬鹿さと来た道の長さを思って、転がっていた空き缶を蹴った。カンカンと、鉄琴のように小気味いい音が鳴った。
 そうだ。ここからはそう長門の家まで遠くない。と気づく。別にサプライズである必要も無いのだから、要望でも聞いてこようかなと思った。とりあえずマンションの前まで歩いて、見上げる。
 冷たい階段を上って、玄関の前に立った。もし起きていなかったら悪いし、呼び出しボタンを一つ押して、出なかったら帰ってしまおうと思った。
 ボタンに手を当て、弱く短く、ピアニッシモぐらいのつもりで押したのだが、大きい上に「ピポーン!」と驚いたようなやかましい音が出てしまった。ほどなくして、長門は出てきた。驚いた顔でじっと見られて、俺も驚いた。そういえば普通じゃないな。と思う。
「、、、どうぞ」
「ああ、すいません」
 部屋の中は思ったよりも暖かい。
「どうぞ」
 そう言って彼女はコトンと、湯のみを炬燵の上に置いた。驚いたのは、彼女が俺のセーターを着ていたことだ。
「長門、そのセーター、、。」というと彼女はあわてて脱いだ。いや別に脱がなくてもいいぞ、と言うと、着た。
 昨日、寒そうであったので、着せたまま帰したのである。が、なぜ今着てるのか、それに驚いた。悪い驚きではない。いい、驚きだ。
 それとあと一つ、気づいたことがある。俺は、大きな湯のみで茶を飲んでいるが、彼女は小さな湯のみで飲んでいるのだ。
 ああ、ちなみに雪は降っていない。街には少し汚れた雪がまだ溶けていない。
 ベランダのドアから見えるのは曇り空である。寒さは遠い。嫌な寒さだ。
 なんだか彼女が恥ずかしそうにしているので、俺は口がよく動いた。
「今、何か欲しいものあるか?」
「、、、なにかくれるの?」
「ああ」
「たくさんある。でもそれはもらうものではない。だからいらない」
「がーん」
 俺はうなだれた。
「もし良かったら、それは何か教えてくれないか」
「、、、ものではなく、関係」
「関係?」
「そう」
「何とのだ?」
「、、、あなた」
「俺?」
「そう」
「どどどど、ど、どんな?」
「すき」
「俺もだ」
―のろけなので中略―
 ピーンと来た。関係を形にすればいいのである。まあ、もちろんその関係をくれてやったのだが。
 そしてその関係を表せるもの。番(つがい)の湯のみだ。それをプレゼントしようと思った。もう、宗教をぶち抜いたプレゼントだが、それが一番だろう。聞くと彼女は少し、嬉しそうに頷いた。
 ルンルン気分で陶器屋に行く途中、ハルヒに会った。




 2

「あんた、どこ行ってたの?」
「えっと、散歩かな?」
 言った途端、理不尽な質問をしてしまったかもしれないと思った。キョンは少し怒った顔をしていた。
「おまえはどこ行くんだ」
「別に、いいでしょどこだって」そういうと私はくしゃみを二回した。どうにも寒い。恥ずかしい上に寒くて、それと苛立ちで、私は睨んでしまった。乾いた頬に風が打って、痛い。
「寒そうだなあ。大丈夫か?」
「あ、うん」
「本当は寒いんだろ?」
「べ、べつに?」
「おまえは、ココアとカフェオレどっちが好きだったっけ」
「買ってくれるの?」
「ああ、、、。あそこに自販機があるじゃん」
 さむっ、、、。枯葉が一つ、コンクリートの上を走った。
「わ、わたしは、砂糖が入った紅茶がすき」
「あ?そんなの売ってねえよ」
「そ、そう。ならいいわ」
「しゃあないなあ。コンビニで午後ティを、買ってくるよ」
「え?いいってば」
「震えてるじゃないか」
「うん。で、でも」
「ここで待ってろよ、あと、これ着てろ」というと彼はわたしに上着を投げた。億劫に着ると彼の体温はわたしの肩から心まで、十分に温めてくれた。
 彼はほどなくして戻ってきた。熱い紅茶は寒い街の床に、よく合った。
「ありがと。」
 ベンチに座って、街を見渡した。さっきから強く吹いていた上昇気流は、彼と一緒にいるせいかもう冷たくなかった。舌に少し渋みが残るが、すぐに砂糖の大群がやってくる。暴力的と言ってもいいぐらい甘い。バイオレンス・ティーだ。これは。違う。紅茶だ。
 隣に彼は座ったが、肩はぶつからない。微妙な距離感だが、大きな隔たりを感じた。
 手を伸ばしてみようかと思う。しかしできない。だから遠くを見る。だから彼も遠くを見る。ちょうど目のようになって、これならずっと遠くにも焦点が合うような気がする。だからといって、どうにもならない。少し目が熱くなった。
「はあ、、、。」
「どうしたんだ。す、、こし目も赤いよ?おまえ」
「あんたのせいよ、、、。」
「ほかほか」彼はおどけた。
「本当なのに」
「、、、ハルヒよ、おまえどこ行ってたんだ?」
「どこだっていいでしょ。」
 彼の家に行っていたのだ。いくら窓に石を投げても出てこない。だからその後探した。でもいなかった。体が冷えた。それを言えたららくだろうに。
「まあ、そうだが」
「あんたこそ、どこ行ってたのよ。あんな楽しそうな顔して、、、、あ、、。」
 そのとき私は、気づいてしまった。
「どこだっていいだろ」
 悔しかった。少し街がかすんだ。すごく孤独な気持ちになった。
「有希の家に、行っていたのね」
「そうだよ」
 がーん。
「はあ」
「おい、お前どうしたんだよ。元気ないぞ。まさか、なんか悪い奴らとつるんでいるんじゃないだろうな?」
「つるむわけないでしょ」
「はやく帰ったほうがいいよ。上着貸しといてあげるから」
「うるさいわね」
「まあ、体を大事にしろよ」
「、、、、、うるさい!」
 ぱちーン!むしろ手が痛いほど、平手はあごにぶつかった。乾燥した肌のせいか、少し、彼の顔に傷が出来てしまったのがわかった。私はそれを確認するや否や、彼に後姿を見せながら坂道を、速く速く駆けていた。
 家に帰って鏡を見てみると、あごから血が滴っていた。絆創膏を貼って昼食を食うと、妹が、ハルヒと会っていたということをずばり言い当てた。
 さっき、自分の部屋の窓に石がぶつかるので、恐る恐る外を見てみると、ハルヒの後姿が見えたという。なに凡ミスをしているんだあいつは。
 その後陶器屋さんに行くと、ちょうどいい、ペアの茶碗があったので、買おうとしたが、現品しかないため、売れないと言われた。なので予約をしておいた。次にくるのは24日だそうだ。俺はそれを長門に電話した。昼には渡せると、言っておいた。
 しかし、人に会うたび上着が減っていく。その晩はよくくしゃみが出た。くしょん。

「ハアーーーーーークション!グアアアア」
「、、、。」
「クシアックシアッ」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だ。シッ!クシッ!」
「風邪にはすぐ効くスグナオールと聞いたことがある」
「ああ、でも平気」
「そう」
「大丈夫。明日には直すからックソン!」
 ハルヒはこの会話を億劫に聞いていた。まだ俺は謝られていない。どうにも治りが遅いのである。
 他の二人は俺と長門をほほえましそうに見ている。ここは部室だ。二学期最後の部活で、反省会をしている。やたら寒い。
 明日はクリスマスだということで話はもちきりであり、反省のはの字もない。俺は22日に犬に噛まれた。ろくなことじゃない。しかし明日は楽しみであった。
 冬の校舎はとても白い。廊下に出ると最早極寒の地である。トイレも冷たいし、洋式は使えない。廊下にはよく足音が響く。空は遠く、終業式日和であった。とくに変わったこともなく、しばしの別れに友人たちは笑って、それぞれの家に帰っていった。こころなしかカップルが多い。窓から外を見ると二人連れが多い。クリスマスさまさまだ。
 耳を澄ませばしゃんしゃんと、ベルが聞こえてきそうな空気である。残念なことに、もう雪は溶けてしまっていた。
 朝比奈さんが熱いお茶を入れてくれる。そのとき長門と目が合った。明日の昼までには行くから、と小声で言った。別に誰に聞こえたとしてもかまわなかった。
「あと、これ」
 と言って長門はセーターを渡した。ハルヒがそれを見て悲しそうな顔をしたが、別に悪いことなどしていない。ただそっちを見ないようにした。
 その部活が終わって、俺はハルヒと帰ることになった。どこまで着いてくるんだろうか。曲がるべきところで曲がらず、どこまでも着いてくる。クリスマスソングが大通りに流れて、前にはあのツリーが見える。彼女と一緒にそのツリーを見たくは無かった。しかし終に彼女は曲がらなかった。
 妙に電飾が光っている。サンタの装飾が二人を上から見ていた。しかし雪は降らない。俺は空を見ていた。
 路地には溶けない白い雪があって、きれいだった。彼女の顔はうつむいているせいで見えない。ツリーの下に行くと、街が見渡せる。
 彼女が何か言おうとしていることはわかった。しかし俺は、それを聞きたくなかった。ガラス細工よりも弱いような、とでもいおうか。雪のように淡い表情で俺のことを見ている。
「ハルヒ、お前、上着早く返せよ」
 彼女は震えた。すぐに涙が零れた。そこに立ち尽くしていた。俺はそのまま、家に帰った。俺は間違っていないはずだった。帰り道には雪が降っていた。少し経って、心配になってその場所に戻ってみると、足跡だけが、彼女の家のほうに向かっていた。ずっとここにいたことを示していた。たぶん。



 3

 妹が、ホワイト・クリスマスに喜びの声を上げた。クリスマスの朝は、悪い目覚めだった。
 雪はまだ降っている。今年は寒い冬らしい。
 少し早かったが、陶器屋へと向かった。雪は大粒であり、肩にも積もった。なぜだか、空気が青い。太陽は雲の後ろに隠れて、漏れた光が雪に反射しているのだろう。
 ぎゅっ。と歩くたび音がする。俺はハルヒのことを思いながら歩いた。
 昨日彼女は泣いたろうか。少し、かわいそうだったかもしれない。もう少し優しく、諦めてもらうことは出来なかったろうか。
 陶器屋さんで茶碗をもらい、その、俺と長門の関係を、持って歩いた。箱に入っている。そしてその箱が紙袋の中に入っている。ピンクと緑に塗られた、少しマヌケな組み合わせだが、どこか若く美しい。
 大事に大事に、持って歩いた。道の脇に一つ、新しい足跡があった。俺はその足跡の上を歩いた。たまに吹く風は冷たく、雪が舞い上がり前がよく見えない。
 もう少しで長門の家に着く。あと一つ、小さな広場を横切れば、もうすぐだ。
 新しい足跡がどんどん新しくなる。広場の真ん中に人影が見える。どこか見覚えのある服だ。とても、幻想的だった。その人影は俺のほうに歩いてやってきた。雪が吹き上げて、その顔が明らかになった。どこか雪は、水槽の中の泡に似ていた。
 彼女の肩には雪が降っていた。俺の上着だった。それを払ってから、彼女は俺の方を見た。彼女は優しく笑っていた。
 ダンスでも踊っていたのか、広場には幾多の足跡があった。
 ハルヒはいつもの顔で俺を見て、一語一語を大切にして話し出した。
「はい。上着、返すわ。あと、このマフラー、あげる。」
 そう言ってにこりと笑った。そのマフラーが俺の首に巻かれるまで、立ち尽くしていた。あまりに可愛く、切なかったからだ。
 彼女は上着を俺の肩にかけて着せると、後ろを向いて、ゆっくり走って行った。
「おい!ハルヒ!」
 俺は知らぬ間にそんなことを叫んでいた。彼女はこっちを向いた。俺はそこまで走って行った。ちょうど隣に立つと、彼女はその笑顔のまま、俺に抱きついた。そして上を向いた。冷たい唇が重なった。俺は彼女の髪の後ろの、雪景色を見ていた。なんだか懐かしいことが全て思い出されてきた。
 冷たい唇は、少しくっついただけで、すぐに離れた。俺は手をぶらんと下げたまま、今までのハルヒとの思い出を見ていた。そう。二つの、足跡があった。
 彼女は俺を抱いたまま、ずっとそうしていた。彼女の髪に雪が積もった。俺の頭にも積もった。ただ雪が空から、降り続ける。長門がこっちを見ていた。迎えに来てくれたのだろうか。すぐに家のほうに戻って行ってしまった。
 雪が、降り続けた。足跡を消すほど多くの雪が降った。まるで夜のように暗く感じられた。
 近くの街灯の上から、雪が落ちたとき、ハルヒは来た道を帰っていった。後姿はとても、綺麗だった。

 俺は長門の家の玄関の前に立ち、2、3回ノックした。
 彼女はすぐに出てきた。少し戸惑った顔をした。
「お茶、入れて待ってたのに、もう、、冷めてしまった」
「ごめん」
「、、いい。ただ、あなたがいればいい」
「ごめん」
 俺は長門の家の中に入った。ドアを閉める前に、外を見た。ただ雪が降っている。涙が頬を伝った。俺は長門を抱きしめた。いつまでもこうしていたい気がした。
 ちょうど二人で。






 終わり


 うーむ?クリスマス終わってしまいました。自分の中ではまとまっているほうです。
 間違いがあったら、ごめんなさい。でも

  読んでくださって本当にありがとう!ありがとうございました。

2008/12/27

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年12月27日 08:23