サンタクロースをいつまで信じていたか、なんて事は、恐らくこの世界を普遍的に生き抜くにおいて何ら意味をなさない質問でしょう。しかしながら、いつまで僕がサンタクロースと言う四世紀頃の東ローマ帝国の教父聖ニコラウスを起源とした、何かが三倍なのかも知れない紅き紳士を信じていたかと言うと、物心ついた頃から信じていなかったと言うのが回答として適切でしょう。

というのも、理論的にあり得ませんからね。物理法則を捻じ曲げてまで見知らぬ子供のために不法侵入をするご老人なんて現実的ではありませんし、世界中に存在する何十億と言う子供のために用意するプレゼントの資金も非常にとんでもない額になるはずで、国家予算並にはなるでしょう。そんな巨額を1年周期で無差別に払えるとは思えませんし、時間をも捻じ曲げない限り1日で全てを配り終えることも絶対に不可能です。

 そう、理論的にあり得ないのです。

 

 

 

 

 【もしもシリーズ:第参号作『古泉ちぇんじ』】

 

 

 

 

「れーてん」

 

……はて、その“れーてん”なる単語はどこの国の単語なのでしょうか。発音からして、何となくですが英語やドイツ語ではないでしょう……ああ、ロシア語。

 

「日本語よ。漢字で書けば、“零点”」

 

そういって、目の前に座る涼宮ハルヒさんがノートの端に見事な達筆を披露してくださいました。ところで、畢竟するに何を仰いたいのでしょうか?

 

「だから、あなたが言ってるのは完ッッ全な間違い、荒唐無稽もいいとこだわ。いーい? サンタはね、いるのよ」

 

……ははあ、ご両親がよほどの役者なのでしょうか。涼宮さん自身も素晴らしい容姿をしていらっしゃるのでさぞかしの名優夫婦なのでしょう。サインでも頂きに伺いましょうか。

 

「何それ。見た目が俳優の質を決めるんじゃないの、全国のサスペンスドラマとかに良く出てくるいかついおっさんやケバいおばさんに失礼よ」

 

むしろあなたが全国のサスペンスドラマとかに出てくる名優の方々にごめんなさいしてください。

 

「うっさいわねぇ。大体ね、サンタが一人しかいないって考えてる時点でもう駄目なの。何人も何人もいるに決まってるわ、それで時空間跳躍技術なんかを駆使してんのよ」

 

「お言葉を返すようですが、たとえ日本の八百万の神々が役割分担して、よーいドンで真夜中から夜明けまでに全世界の子供たちに夢を運びきる事はできないと思いますよ?」

 

「サンタなめんじゃないわよ」

 

即答で形而上的意見による一刀両断ですか。流石は涼宮さんです。

 

「サンタが、クリスマス以外でなにやってるか、考えたこともないの?」

 

奥方と共に豊かな年金生活をお送りになられてるかと。

 

「どうせ週休二日で、残りの週五は皆勤でクリスマスの準備をしてるに違いないわ。そのための時間跳躍よ」

 

「時間跳躍は確定ですか」

 

そう僕が言い終わるか否か、というタイミングで涼宮さんが勢い良く席を立ち、素晴らしいストライド走法で廊下へと走り去って行きました。唐突過ぎる展開に、僕は数瞬思考を止め、そしてある結論に至りました。ああ。

 

「チャイム、鳴ったんですね」

 

午後の授業はエスケープだそうです。

 

 

 

 

 

ところで、僕がこの“SOS団”なる非常に奇矯な団体に所属している理由は、単にノリと流れ、というわけでもありません。

 

「おや、朝比奈さんに長門さん、お早いですね」

 

「古泉君こんにちは~」

 

「……………………」

 

ふむ、僕よりも早く出かけていかれた涼宮さんも、我がマイベストフレンドはまだですが。半分安心、半分残念。

麗しく完璧な笑みを浮かべてお茶をくださる未来より来たりし天使、朝比奈みくるさんにお礼を返してから、その奥で静かに本を読む完全無欠のサイレントビューティーこと対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース、畢竟するに宇宙人の長門有希さんに視線を移します。

おそらく昨日と全く1ピコメートルも変わらない同じ場所で不動の体勢で本を読んでいるだろう長門さん。あのような事態があって、それを助けてくださったと言うのに何も変わらない風景に、若干拍子抜けしたような気概を感じます。

 

「長門さん」

 

「………」

 

僕の呼びみかけにも全くの無反応。ちゃんと聞こえているのか不安な部分が多いのですが、多分大丈夫だろうと解釈して続けます。

 

「先日は助けてくださりありがとうございました。おかげさまでまだ生きていられるようですね」

 

「……謝礼は先日聞いた」

 

もしかしてこれが本日の第一声じゃないのだろうか、と思いながら

 

「今度は、何を読まれてるんですか?」

 

「…………」

 

……少々無骨なメガネを通して見える、凪いだ湖のような黒い瞳に射抜かれています。アイコンタクト、なんて高等な情報伝達手段は僕にはわかりませんよ、長門さん? あと、宇宙的パワーを用いた情報伝達技術に関しても答えかねるのですが。そんなことを説こうか説くまいかと5秒強ほど悩んでいると、ゆっくりと表紙をみせてくださいました。

…………すみません、字が読めません。

 

「…………」

 

「…………」

 

「え、えーとぉ……あ、はぁい」

 

……だ、ダメです。会話が成立し得ません。助けられて、信頼できることを確認したので仲良くなろうとしたのですが、どうです。いえ、悪気がないのはなんとなく……わかる、んだと思います。実は宇宙人だった朝倉涼子殺人未遂犯による襲撃を助けてくれたとはいえ、致命傷にならないようにしてもらえたからといって、あとで回復していただいたとは言え、攻撃回避のために何回も何回も何回も何回も蹴られあげて結局そこそこぼろぼろになったのですが、それもそれが最善だからであって、攻撃が鼻先すれすれ通ったときだって庇うそぶりも見せなかったのは必要がなかっただけで、悪意はなかったはずです。……ですよね、長門さん?

そうして、ふとドアが開いたことに気付きます。ああなるほど、先程場を取り繕うとしてくださった朝比奈さんが断念する寸前でどこかへ行かれたのはノックが聞こえたからですか。……ということは!

 

「ちわっす」

 

おお、これはこれは、我がベストフレンディストじゃあないですか!長門さんがドアの方を向いたことを気配で察しながら僕も彼へと笑顔を向けます。

 

「なんだ、長門と朝比奈さんと……」

 

こちらをちらりと胡散臭そうに一瞥してから、

 

「……だけか」

 

「おやおや」

 

「いやいやよかった。ゆっくり休めそうで安心したぜ。さっきもどこぞの大馬鹿野郎のせいでバイトだったしな、ったく。シフトに無理やり組み込んでやろうか」

 

う゛。も、もしかして先程のアレですか……これは申し訳ありません。ぎろり、とさっきも含んでにらんでくる彼へ、引きつってるであろう笑みを浮かべながら誠心誠意の謝罪を向けます。

 

「まったく、大変だったんだぜ?今回はそうでもなかったが、森さんが途中で足をくじいちまったらしくてね。俺が背負って家まで送らにゃならんほどだったんだぞ」

 

それは妖しいですね、なんてことは言えません。森さん、と言うのは彼と同じく閉鎖空間に発生する涼宮さんのストレスの塊、神人を狩る超能力者の若い女性で、先日彼に閉鎖空間へ連れて言っていただいた際にいらしていた方です。つまるところ、まあそおゆうことなんでしょう。口には出しま……いや、出せませんが。

 

「……………………………………………そう」

 

「うふふ、こんにちはぁ~、キョ・ン・君♪」

 

「え、ええ、こんにちは。……んで?我らが団長殿はどこなんだい」

 

二人の黒いオーラに心持ち圧倒されている彼の態度に苦笑を禁じえません。

 

「昼休憩終了直後に走っていかれましたからね、わかりかねます」

 

「やれやれ、面倒なことにならないで欲しいもんだね。ほいほいと『機関』を使えるほど余裕はないんだし、森さんや新川さんたちにも面倒ごとが及ぶのは心苦しいんだがな」

 

などといいながら、自らの身分故にがなにか涼宮さんが提案した際にはイエスマンになるのが彼なんですけどね。ですから、結局抵抗できるのは僕だけ。朝比奈さんに権利はなさそうですし、長門さんに関しては意見発表自体が考えにくい。賛成2、反対1、棄権2が確定すると言うことは、即ち無条件当選に近いものを感じます。これを生粋の実力でやってのけてしまう団長が末恐ろしい。

そして、この日もまた僕の勝ち負け表の欄に黒星コレクションが増えたと言うのは、いわゆる一つの規定事項なのでしょう。

 

 

 

 

 

さて、これはどういうことでしょう。

現在、僕は我らがSOS団メインコンピュータである団長様用パソコンの液晶と睨めっこしています。というのも、僕がある程度頑張り、ある程度適当に作ったホームページが正しく表示されず、その原因究明及び正常化を命ぜられた次第なのです。

しかしながら、サーバーのデータがエラーを発露したかとファイル自体を更新してみたのですが現状を解決できず、その他諸々のあの手この手で対抗手段を行使しているのですが、正解らしき結果が出てきません。……はて、どうしたことか。珍しくも2人で将棋版を囲っている彼と長門さんに救援をもとめてもそろいにそろって「知らない」で一蹴され、朝比奈さんはいらっしゃらず、涼宮さんに関しましては言わずもがな。

涼宮さんの不機嫌ゲージは目に見えるように上がってゆき、段々と無理難題を押し付けられ始めた黄昏時、それは救いの天使のノックでした。

 

「あぁ、遅れちゃってゴメンなさい。四時限目までテストがあって……」

 

そう謝辞を伝えながら現れたのはSOS団屈指、いや北高一の癒し系である朝比奈さんでした。……それとこの場を借りてお伝えしますが、僕はヘテロであり、不変的な男子高校生と同じように朝比奈さんに対しては憧憬の気概を抱いています。甚だしく屈辱的な考え等は現時点を持って破棄していただけると有難い。

 

「えっと……その、ですね……。あの!お客さんを連れてきました……」

 

僕が妙なモノローグを発動している間に、如何にも清楚な感じのわか……ではありません、美しい翠髪(文字通りに)をウェーブさせた女性が、恭しく礼をしてくださってました。

 

 

 

 

なんということでしょう!?

別にビフォー&アフター的なそれでなく、来るはずのない悩み相談者が来てしまったのです。不覚です、あんなポスター活動しなきゃ良かったかもしれません。

彼女は喜緑江美里さんと仰る、見たままに大人しく清楚な感じの2年生だそうです。

 

「するとあなたは、我がSOS団に行方不明の彼氏を探して欲しいと言うわけね」

 

「はい……」

 

「ふーん……あ」

 

……いや、そこで完全に勝ち誇ったような顔を向けられましても反応しかねるのですが。

つまり、この喜緑さんと言う方は我々SOS団の活動目的を本当によろず悩み相談所か、便利や家業と誤認してしまったようです。どこぞのよろず屋でもないんですが。

 

「では、悩み事の確認なんですが……」

 

「彼が、もう何日も学校に来ていないんです……」

 

「電話してみた?」

 

涼宮さんが身を乗り出して聞かれます。

 

「電話にも出なくて、家にも言ってみたんですけど留守でした」

 

「うーん、その彼氏の家族は?」

 

「彼は独り暮らしなんです。ご両親は外国にいらっしゃると聞きました。でも私は連絡先を知りません」

 

「ふーん、外国ってカナダ?」今は亡き朝倉さんは関係ないかと。

 

「いいえ、確かホンジュラスだったと思います」

 

「ふーん、ホンジュラスねぇ、なるほど?」

 

『なるほどぉ~?』じゃないでしょう。どこにある国なのか知っているのかが甚だ疑問です。えーと、確かメキシコの南辺りでしたか。ラテンアメリカですね。

 

「夜中に訪ねても真っ暗でしたし、わたし心配で」

 

先ほどから思うのですが、この方の芝居がかってすらいない感情のこもってない声はどう言うことなのでしょう。感情を押し殺してる、とかそんな解釈であってるのかが微妙に不安ですね。

 

「うん、アナタの気持ちは、わからないでもないわ」うそをつきなさい。恋愛感情を精神病と言い切るあなたに理解できるんですか。

 

「にしても、良く我がSOS団のとこに来たわね。動機は?」

 

「彼が良くSOS団のことを話題にしていたんです」また奇矯な人物もいたものですね。人の事は言えませんが。

 

「や(おや、猫が鳴きましたね。野良猫でしょうか。いやはや、猫と言うのはたくましい、人間よりよっぽど高尚な生き物です)……です」

 

「……誰だっけそれ?

 

SOS団とは近所付き合いをしているように言ってましたけど……」

 

 

 

(そういえばこの辺は変換したところであんまし意味がないとここに来て判断した為以下中略。自己補完を求む)

 

 

 

 

 

さて、話が住んで十幾分。喜緑さんが帰られると言うので送っていかれた朝比奈さんも戻っていらっしゃいました頃です。

 

「あの、涼宮さん?」

 

「なに、どうかした?」

 

なに、じゃないと思うんですが、声には出さず、

 

「あんなに簡単に引き受けてしまって良かったのでしょうか。解決できなかったらどうするおつもりです?」

 

「できるわよ!きっとあの部長は、二ヶ月遅れの五月病にかかって部屋に引きこもってるはずよ。2,3発ぶん殴って家から引きずり出せばいいだけの話よ」

 

本気でそう思われてるようです。五月病も季節がはずれればただの鬱病でしょうし、もしそうだとしても、そのような実力主義的強制召還を行使したところで根本的解決ができるとも思えませんが、口には出しません。

しかし、部長氏は喜緑さんのような美しい恋人がいて、何故学校にこないのでしょうか。お茶を運びに来てくださった朝比奈さんに声をかけます。

 

「失礼ですが、喜緑さんとは親しいのですか?」

 

「ううん、一回も話したことなかったです」

 

朝比奈さんが丁寧に机においてくださった湯のみを丁重に持ち上げます。はて、相談するなら教諭か警察に申告すればいいのでしょうに、何故に我々なのでしょうか。いや、既に相談したにもかかわらずに相手にされず、それで藁にすがってきたと言うところでしょうか。そんなとこでしょう。

涼宮さんは、これを気にもっと大々的に依頼を募集し、片っ端から解決することを考えていらっしゃるようです。

 

「また校門前でチラシ配りするのもいいわね」

 

「ひっ」

 

とりあえず、現在の依頼について考えて欲しいものです、是非に。

 

「まったくだな」

 

そういう彼と、長門さんの本を閉じる音が重なり、本日の団活はこれにて終了と相成りました。

 

 

 

 

 

部長氏の自宅は、可もなく不可もなく新しいとも古いとも言えない平凡な三階建て半地下一階のワンルームマンションでした。

そして部長氏の部屋の前まで来た我々ですが、まあなんやかんやあって、長門さんによって侵入可能となり、文字通り侵入することとなりました。

その部長氏の部屋なのですが、男子高校生一人のたたづまいにしては整理整頓の行き届いた綺麗な部屋でした。人柄がにじみ出るとはこういうことでしょうか。僕の部屋とは全然ちが……まあそれはおいておきましょう。

まあ当然、その部長氏が部屋の片隅で膝を抱えて丸くなっていると言うこともなく、主不在のこの部屋のベッドで我らが団長殿は跳びはねています。下の住人に申し訳無い。

 

「古泉君、あなたほかに二ヶ月遅れの五月病患者がいきそうなところ知ってる?

 

知るはずがありません。

本棚を眺めますが、小説や参考書と言うよりもコンピュータ関連の書物が多いようです。流石はコンピ研部長氏ですね。他にも南米に関する本もあります、ご両親がラテンアメリカにいらっしゃるのは恐らく本当でしょう。とすると、ご両親を訪ねて中南米辺りを旅行中か、本気で行方をくらましているかのどちらかでしょう。

 

「……でた方がいい」

 

「ああ、そうだろうな」

 

ふと、長門さんと彼の声が聞こえてきました。涼宮さんは気付いておらず冷蔵庫を漁ってらっしゃいますが。見ると、やはり長門さんと彼が何かしらの会話をしているようです。……にしても顔が近いですね。軽く息が拭きかかってませんか?彼もまんざらではなさそうですが。

それで、です。

 

「仲間はずれですか」

 

「ああ」

 

…………。

 

「冗談だ。なに、奇妙な違和感を感じるんだ。んで、これに近い感覚を、残念ながら俺は知ってる」

 

賞味期限が三日前になってるそうです。それを朝比奈さんに食べさせようとしている涼宮さんに気をはらいながら、「なにに似てるんです?」

 

「閉鎖空間だ。ここは、あそこと同じようなきな臭い匂いがすんだよ」なるほど、流石は超能力者ですね。

 

「次元断層が存在。位相変換が実行されている」

 

なるほど、つまり、「ここは一時撤退した方がよろしいようですね」

……ところで、そのわらびもち美味しそうですね。

 

 

 

 

で、一旦解散して涼宮さん意外で再集合した我々は再び部長氏の部屋に来たわけですが。

 

「この部屋の内部に、局地的非侵食性融合維持空間が、制限モードで単独発生している」

 

すみません、復唱できないくらい聞き取れてません。そんな辞書を引いて適当に単語を並べたようにいわれましてもですね。

 

「感覚としてはあの閉鎖空間に近いものだな。ありゃハルヒが発生源だが、こっちはどうにも違う臭いがする」

 

一拍をおいて。

 

「長門、部長氏の行方不明はその異常空間のせいなのか」

 

「そう」

 

 

 

 

 

やれやれ、という彼の声が聞こえたとき、我々は砂漠のど真ん中に立ち呆けていました。待ってください、と言うべきでしたね。

 

「ひゃあっ!?」

 

この異常なシチュエーションに怯えた朝比奈さんは、思わずと言ったご様子で彼に抱き着きました。さて、羨ましいだなんて思っている暇はないですか。確か、僕がいたのは手狭なワンルームであったと記憶していますが?こんな少々気味の悪い場所ではありませんでしたよね。

 

「侵入コードを解析。通常空間と重複。位相がずれているだけ」場所は同じで、一階か二階かの違いみたいな感じですか。

 

「閉鎖空間、てわけじゃないみたいだな」

 

「似てる。でも違う。但し空間の一部に涼宮ハルヒが発信源らしいジャンク情報が混在している」

 

「どの程度だ」

 

「無視できるレベル。彼女がトリガーとなっただけ」

 

「ほ~お、そうかい」

 

なんとか着いていけてますよ。朝比奈さんはハッキリ言ってわかりませんが。あと、彼は軽く思案顔ですが、朝比奈さんに抱き着かれている状況じゃ説得力なんて小指の爪の欠片ほどもありません。

 

「ここに、コンピュータ研の部長氏がいらっしゃるんですか」

 

「どうやらそうらしい。このトンデモ空間が哀れにも実室に発生しちまって、なんかしらの理由で閉じ込められちまったんだな。やれやれ、人のことはいえんが、パソコンの時といい今回といい、あの人も相当な可哀そう体質だな。同情するぜ」

 

確かに。

 

「して、どこにいらっしゃるんです?」

 

「知らん。長門よ、どこだ?」

 

長門さんはちらりと彼に目をやり、ゆっくりと腕を上げます。……ちょっとストップです。

 

「待ってください!これからなにをするのか、先に教えてはいただけませんか。覚悟くらいはしたいんですが」

 

「何も」

 

答えた長門さんははっきりとbeyond meを指差し、

 

「お出まし」

 

……こんにちは、わけのわからない明らかに物騒そうな塊さん。さようなら、僕の健康な身体。

 

「やれやれ、露骨な敵意を感じるぞ。濡れ衣もいいとこだな、少しゃ落ち着いて欲しいもんだぜ」

 

いや、あなたがた二人は自分を守るすべがありそうですが、僕と朝比奈さんにはありませんよ!?まあ朝比奈さんに関しては彼が守るんでしょうけども。じゃあ僕はどうなるんですか、長門さんに過去あんな扱いを受けた僕は!

 

「知るか、精々走り回ってろ」

 

そうこうしている間に、物騒そうな黒い塊は集束してゆき、ある生物を形作りました。

…さて、皆さんは“カマドウマ”という虫をご存知でしょうか。知らない方に、目の前の光景を見せて差し上げたい。

 

「……なんですかこれは」

 

「カマドウマだな」

 

「それはわかっています、それはいいんです」

 

「……この空間の創造主」長門さんが静かに告げます。

 

「まさか、これも涼宮さんの影響ですか」

 

「原因は別。でも発端は彼女」

 

こんなゲテモノが、ですか。正直涼宮さん、あなたの感性を疑います。せめて敵キャラらしく、スライムとか盗賊とか、或いはモンスターらしいモンスターにして欲しかったものです。忙しく動く触角が生々しい。

 

「確かにな。まあここじゃ俺の能力も不完全だが有効化されるみたいだな。威力は向こうの1/10程度か。やれやれ、これで十分ってことか?どうせならフルパワーで一撃殲滅といきたかったんだがな」

 

「それより、です。長門さん、あの昆虫の招待は何なのですか?部長氏はどこにいらっしゃるんです?」

 

「情報生命体の亜種。男子生徒の脳組織を利用し、存在確立を高めようとしている」

 

「ひょっとして、部長氏はあの中か。えらく気持ち悪そうだが」

 

「そのもの」

 

「なるほどねぇ。つまりこのカマドウマは部長氏の苦手なもんであり、これを片付ければヘンテコ空間も崩壊するってか。やれやれ、皮肉なもんだな。自分自身が苦手なもんになっちまうんだから」

 

「同意する」

 

やはり長門さんにもあるのでしょうか、苦手なもの、というのが。

 

「さて、そんじゃあ倒し「ひょえええぇぇ~~~~!!」……朝比奈さん?大丈夫です、絶対に倒しますから。あなたにはキズ一つ負わせないので、落ち着いてください」

 

「た、闘うのは危ないです。怪我しちゃいますよぅ」

 

「あ~……長門」

 

「なに」

 

「頼む」

 

「了解した」

 

まるでツーカーですね。素晴らしい。では朝比奈さんも離れたことですし、

 

「早くヤってしまってはいただけませんか」

 

「急くなよ」

 

そういって、彼は手に浮かんでいたソフトボール大の赤い球を高く投げ上げ、同時にそれを追うようにかけだします。そう、まるでバレーのスパイクのように。

……何故でしょう、なんだか胸が高鳴ってわくわくします。何か、このあとにとても楽しみにしていた事が起こるような。そして彼が素晴らしい跳躍力で飛び上がり、

 

「ふん……」

 

ワクワクが最高潮となり……!!!

 

「忌々しいッ!!!!!!

 

まさにスパイク。鋭く飛んで言った紅い球は真っ直ぐにカマドウマの顔面へと飛んでいき、直撃。爆音と共に砂塵が舞い上がります。ですが……。

ですが、なんなのでしょう、このガッカリ感は。虚無感は。まるで、ものすっごく期待してたのに裏切られたかのような。……なんなのでしょう、この残念な気持ちは。

 

「ちっ、思ったより速いな」

 

おっと、現実に戻らなければ。

彼の攻撃が直撃したはずのカマドウマは元気いっぱいに動き、彼のいたところへ突進を仕掛けました。紙一重で彼がかわしたようです。……ていうか、速過ぎて見えないんですが?

長門さんが高速詠唱を唱えた一刹那後には高速カマドウマと長門さんとの間に大層な斥力波が発生しています。長門さん、あなたはどちらの汎用人型決戦兵器ですか。

 

A.T.フィールドじゃあないだろ」

 

「それはわかってます、そんなことはいいです」

 

結局、カマドウマの方がこの鍔迫り合い(?)に負けたようで弾き飛ばされました。……ところで、あれはなんです?

 

「カナブンだな。キズの手当てをしているらしい」なんですかそれ。

 

「知らん。……つーか、これでくたばれ!」

 

例の紅い玉を全力投球する彼。ていうか、それは投げるも打つもOKですか。あとなんなんでしょうか、さっきからのこの喪失感は。

大きくカーブを描いた赤球は再びカマドウマへと直撃。

 

「終わった」

 

そのようです。活動限界を迎えたらしいカマドウマは紅い光をともしていた目が光を失い、灰となって散りました。回復したんじゃなかったんですか?

 

 

 

……………………

………………

…………

……

 

 

「はっ、ドリームですか」

 

 

 

 


 

 

ここは居酒屋。

 

 

ナルシスホモ「さて、逃げたかと思った作者がやっと僕のそれを書きやがったわけなのですが」

 

文句がありますか。

 

ナルシスホモ「ええ、大いに。まず、なんか僕の待遇ひどくないですか」

 

仕様です。

 

ナルシスホモ「……つぎに、なんか短くないですか」

 

だって、書きたかったのは『例の部分の変換』だけですもん。要望があれば書くかもしれませんが、とりあえず自己補完で。ぶっちゃけ、この程度の力しかないなら事故補完された方がすっきりしません?

みくるとちぇんじ酷かったですし。やりすぎましたね。批判もありましたし。

 

ナルシスホモ「ほかにもイロイロありますが、ここで何故僕は名前がかかれないんですか!?ふざけるのも大概に」

 

キョンなんてずっと本名ないんですよ。名前無き子です。リアルに『名無しさん」ですよ。

それともなんです、●がよかった?

 

ナルシスホモ「論点が違います。第一、これが定着してしまったらどうするんですか!?」

 

ダイジョブ、そんなに読んでる人いないよ、そんな反響もないし。読んでる人ー、そうでしょ?

あと、ナルシスホモはタブリスの物ですし。

 

ナルシスホモ「……呑みます。呑みますよ」グワー

 

 

 

 

居酒屋での夜は更ける。

 

 

 

 

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最終更新:2021年07月17日 20:21