不味い。遅れてしまった。
放課後になったらすぐに部室集合とハルヒに言われたはずなのに、何故か谷口の失恋話を聞かされてしまった。
あの野郎。何度も俺が「時間がねぇんだよ!」と言っても聞く耳をもたねぇ。

猿か?猿なのかあいつは?

むしろメスなら猿にでもアタックしそうだなあいつは。

「…はぁ…はぁ…着いた…」

息を荒げて部室の扉を開ける

「すまん!遅れt…のわ!!!」

刹那、何かが俺の顔に飛んできた。
ハルヒの蹴りか!?パンチか!?

ここでハルヒの攻撃以外思いつかない限り、本当に相当な時間遅れて部室に到着したのだと悟ってもらいたい。

しかし、飛んできた物は、全く違う「者」だったのだ。

「…犬?」





「昨日みくるちゃんと帰ってたら見つけちゃったのよ」

まだ両手に少し余る程の子犬を抱きかかえてハルヒは言う。
おい、暴れてるぞ。

「見つけたって…勝手に連れてきていいのか?」
「違うんですキョンくん…捨てられてたんです…」

あぁ…把握しました。

「全く、まだそんなことする人間がいるなんて信じられないわ!」
「…あぁ、それで古泉がいないのか」
「ん?何か言ったキョン?」
「いや、なんでも」

恐らくはハルヒの不満…というより怒りのせいで発生した閉鎖空間にでも行っているのだろう。
すまん古泉。今回は俺のせいでもハルヒのせいでもないし、むしろ俺もやりきれない気持ちになってるから今回の閉鎖空間に関しては我慢してくれ。

「で、俺が早く呼ばれた理由は?」
「私の家…犬が飼えないんです…キョンくんの家で飼ってあげられないでしょうか?」
「…ハルヒの家は?」
「あたしは別に平気なんだけど、お母さんが駄目なのよ。それにあたしにもみくるちゃんにも懐かないのよ、その子犬」
犬…ねぇ…

「…考えてみます。流石に猫に続いて犬も持ち帰ったら何て言われるか」
「ありがとうございます…」

そう言って朝比奈さんがお茶を汲んでくれる。
しかしまだ元気が無いのはやっぱりそういうことをする人に対してショックを受けているのだろうか。
ハルヒは再び犬と戯れ始めていた。…と言うか一方的に触っていた。

「あ、ちょっと待ちなさい!」

ハルヒの手から子犬が離れる。
一目散にかけていく犬の先には

「………」

たった今部室に足を踏み入れた無口な文芸部員の長門がいた。

「………」

いや、犬のことははスルーですか。

「遅かったじゃない、有希。珍しいわね」

「…HRが長引いた」

そう言っていつものようにハードカバーの本を定位置で読み始める。
…しかし…

「………」
「………」

長門のそばを子犬が全く離れようとしない。
あぁ、上の三点リーダは読書をする長門とその長門を凝視する子犬のものである。

「ほら、有希の読書の邪魔になるからこっちにきなさい」
「…ちっとも離れようとしないな」
「もしかして長門さんに懐いているんじゃないですかぁ?」
「…この犬は?」

と、ここで初めて長門が子犬についてのコメントをする。

「…捨てられてたんだそうだ。今飼ってくれる人を探しているんだが…」

長門は飼えないか?と、言おうとして口を紡ぐ。
そういやこいつの家はマンションだったな…

「…そう」

目の高さまであげられた犬が長門の頬を舐める。

…けしからん。俺と変わって…いや何でも無いです朝比奈さん。そんな目で俺を見ないで下さい。

「…ウチに来る?」
「あれ?有希の家ってマンションじゃなかったっけ?」
「…そう」

そうって…駄目じゃねぇか。

「…問題ない。なんとかする」
「…お前なら本当になんとかしそうだな…」
「でもよかったです…」

朝比奈さんが安堵の息を漏らす。

「よし、じゃあ今日は子犬の為にパーティーでもしましょう!」
「まて、何でそうなる」
「いいじゃない。折角犬っころの新居が決まったんだし。いいでしょ?有希」
「…構わない」
「じゃあ早速有希の家に行きましょ!古泉くんにも連絡しておくわ!」

…まぁ長門がいいならいいか。

その後、何故か古泉が持ち込んだ酒により、犬そっちのけのSOS団総出で暴れ回ったのはまた別のお話。

おわり

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最終更新:2008年12月16日 11:11