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「さあ! そこでビームを出すの! こうやってポーズをつけて、ほらっ!」
 ……うう、恥ずかしい……。
 生地の少ないウェイトレスの服装を着てるだけでも恥ずかしいのに、そのポーズ
って絶対やらなきゃ駄目ですか? ……駄目なんですよね。
 私を見つめるみんなの視線を堪えつつ、私はそっと片手を目にかざして
「あ、やっぱりここはカメラ目線で行きましょう。みくるちゃん、そのポーズでカ
メラを見ながら叫ぶの! みくるビームって!」
 は、はい……。
 マントを羽織った長門さんから、ビデオカメラを持っているキョン君へと向き直
って……うう、恥ずかしいから早く終わらせよう。
 そうだ、頑張ったご褒美に我慢してたケーキを買って帰ろう。
 何とか自分を励まして、私はカメラに向かってポーズを取りました。
 み……み……みくるビーム! ……え?! 何ですか?
 突然、目の前に飛び込んできた長門さんの手が私の顔に伸びて……な、長門さん、
何するんですかぁ?
 押し倒された私に馬乗りになった長門さんは、無表情なまま片手で私の頭を固定
して、もう片方の手が私の目……目は駄目です~! 何をするのかわかりませんけ
ど、せ、せめて目を瞑らせてくださ~い?
「ちょっと有希! ここはそんなシーンじゃないでしょ?」
 えええっ? こ、これって涼宮さんの指示じゃないんですか?
「おい長門!」
 キョ、キョン君! 助けてくださーい!

 


 こうやって改めて見ても、やっぱり恥ずかしいです……。
「なるべく、朝比奈さんが恥ずかしくないように編集しますから」
 ありがとう、お願いしますね。
 文化祭を翌日に控え、普段は物静かな部室棟も今日はどことなく忙しい雰囲気に
包まれたています。
 明日上演予定の映画「朝比奈みくるの冒険EP0」――これ、本当に上演しちゃ
うんですよね――を編集する為、部室には私とキョン君。そして長門さんが来てい
ます。
「朝比奈さんは明日の準備はよかったんですか?」
 あ、はい。大丈夫です。
 料理の準備とかは、SOS団の方が忙しいだろうから手伝いに来なくていいって
言われてるんです。
「長門はどうなんだ?」
「大丈夫」
 即答する長門さんの手には、小型のプロジェクターのリモコンが握られています。
 映画の編集作業なんですが、まず長門さんが撮影した映像をプロジェクターで再
生して、キョン君がその内容を辻褄が合うように入れ替えてくれます。そして私は
観客の役と、どうしても外して欲しいシーンがあったら、そこだけカットをお願い
しているんです。
「撮影時間だけは無駄にありますから、どんどんカットしてもらっていいですよ」
 はい、ありがとう。
 できれば全部を……なんて言えませんよね。
 ホワイトボードに掛けられた暗幕の上で、キョン君が付けてくれたエフェクトの
みくるビームが飛んで……あ、押し倒されました。
「長門、一回止めてくれ。次のシーンと繋ぎ合わせる」
「了解」
 そういえば、あのビームって凄く危なかったんですよね。
 確か、本当にビームが出てたとか。
 私の質問に頷き、長門さんは私の傍に歩いてきました。
「……貴女に渡す物がある」
 そう言って差し出されたのは、小さな透明のコンタクトレンズ……かな?
 あの、これってなんですか?
「コランダム」
 コラン……ダム、ですか。
 コンタクトレンズのメーカーかなぁ。
「これは貴女の物」
 え? 私、コンタクト持ってないんですけど。
「コンタクトレンズという表現は正確ではない」
 手渡されたそのレンズはとても綺麗で、そして凄く固い素材でした。
 あ、ありがとうございます。
 でもこれってどうすればいいのかなぁ……つければいいのかな?
「そのレンズを装用する前に伝えておかなければいけない事がある」
 ふぇ?
 試しに目の少し前までレンズを持ってきていた私は、長門さんの言葉に手を止め
ました。
「そのレンズは涼宮ハルヒの願望によって精製された物。貴女が装用してあのポー
ズをとった状態でみくるビームと口にすれば、視線上に固体レーザーが射出される
仕様」
 そ、そんなに怖い物なんですか?
 それにそれってオーパーツどころかとんでもない物なんじゃ……。
「そう。私の修正プログラムに対抗するため、彼女は物理的な媒体を用いてみくる
ビームを撃つことを思いついた。その結果が、コンタクトレンズを変異させて作ら
れたその鉱石」
 ふぇ~……あの、そんな危険な物をどうして私に?
「異時間同位体の貴女に、自分の身を守れるだけの何かを準備できないか頼まれて
いた」
 わ、私に? そうだったんだぁ……。
 そっと瞳に重ねてみたそのレンズは、装用の薬品も使っていないのに何の違和感
も無く一回で入りました。
 レンズは目に触れた途端急に柔らかくなって自在に動き、視界はいつもと同じよ
うにしか見えません。
 これさえあれば……私でも。
「おっし、とりあえず修正できた。長門、さっきの1分前の所から再生してくれ」
「了解」
 暗幕の上で押し倒されていた私は、再び立ち上がっておずおずとポーズを決めて
います。
 みくるビームかぁ……えへへ、映画を撮ってもらってよかったかも。
「……朝比奈さん。何だか、嬉しそうですね」
 え? ……はい、実は。
 古泉君の気持ちが、今はちょっとわかる感じです。
「長門と何か話してたみたいですけど、何かあったんですか?」
 ……えへへ、内緒です。
 キョン君、いつも私の事を守ってくれてありがとう。でも、これからは私が守っ
てあげますね?

 


 ――そう思っていたのに……その日の夜、レンズを外そうとした時には何故かレ
ンズはどこにもなくって。
 どうしよう、どこに落としちゃったんだろう……。
 その日を境に、私が提出した武器携帯申請書は一時審査ですら通らなくなってし
まいました。はぁ……自業自得ですよね……。

 

 

 「コランダム」 ~終わり~

 

 

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