掃除を終えて部室に行くと、珍しいことにキョンしかいなかった。
「あら、あんただけなんて珍しいわね。皆は?」
「朝比奈さんと古泉はまだ来てなくて、長門はコンピ研に行ってる。」
キョンはあたしに背を向け電気ストーブで暖を取りながらそう答えた。
「そう。」
キョンとで二人きりなんて、結構久しぶりね。ちょっと嬉しいかも。
「で、あんたは一人、ストーブで暖を取ってたってわけ?」
「ああ。」
「ふーん。団長のあたしがこの寒い中、外で掃除してたってのにいい身分ね。」
「こればっかりはどうしようもない。恨むんなら掃除当番の割当を決めた岡部を恨んでくれ。」
「ふん。」
キョンはあたしと会話しながらもこっちを見ずに電気ストーブで暖を取っている。
今のあたしには寒さのせいで少し縮こままっているその後姿が何故かちょっと可愛いく見えた。

「お前もストーブにあたるか?」
「あら、あんたにしては気が利くわね。」
「その言い方だと、まるで俺が気が利かないみたいだな。」
「みたいじゃなく、そうなのよ。」
「これでも、何時もそこそこに気を利かせてるつもりなんだがな。ほら。」
そう言いながらキョンは電気ストーブの前のスペースを半分くらい空けてくれた。
それも良いんだけど、これ小さいからそうすると二人ともストーブの当たり方が微妙になるのよね。
もっといい方法ないかしら…、あっ、いいこと思いついた。
「別にどいてくれなくていいわ。元の場所に戻って。」
「はあ?何するつもりだ?」
「こうするつもりよ!」
そう言うなり、あたしはキョンに後ろから覆いかぶさった。
「!!」

奇襲成功ね。キョンのやつかなり驚いてるわ。
「これならあんたは動かなくていいし、あたしはあんたから体温を奪いつつ
ストーブに当たれるから、二人で横に並んでストーブに当たるより効率的でしょ?」
「……あのなあ。」
「何よ。その不満そうな返事は。」
「お前さ、今自分が何してるのかわかってるのか?」
何を言うのかと思えば…。こいつはあたしが何も考えずに行動してるとでも思ってんの?
そりゃあたまにはそんな時もあるけど、大体は考えて行動してるわよあたしは。
「何って、あんたと一緒にストーブで暖を取ってるんじゃない。」
「はあ。」
そんな盛大な溜息を吐くこと無いでしょ。別にあたし間違ってないじゃない。
「じゃあ、聞き方を変えるが、お前は俺に何をしてる?」
回りくどいわね。さっさと結論を言えばいいのに。
「そうね、後ろから抱き付いてるってのが一番近いんじゃないの。」
「近いって言うかそのものだろ。」
「まあ、そうね。で?結局あんたは何が言いたいのよ。回りくどいのはメンドイから
さっさと結論を言いなさいよ。」
あたしがそう言ってやると、キョンは少しの間言葉を選ぶように間をとってから返答した。
「ようするにだな…、恋人でもない異性に抱きつくのは止めたほうがいいと言いたいんだ。」
へっ?
「そりゃあ、人肌は意外と暖かいからストーブ替わりには良いかもしれんが、やるならせめて同姓にしとけ。」
ちょっと予想外な展開。これは、ひょっとして…。
「男ってのはお前が思ってる以上に単純な生き物なんだ。こんなことを
普通の男にしたら変な誤解を受ける可能性が高いと思うぞ。」
キョンがあたしのことを異性と認識してくれてるってことよね。
キョンの奴、以前あたしが部室で「着替える」って言っても全く気にも留めずに、
そのまま居座ろうとしたし、何時もあたしのことを同姓の悪友みたいな感じで扱うから
ひょっとしてあたしのこと男だと思ってるんじゃないかと思ったけど、違ったのね。よかった。

「おい、ハルヒ。人の話し聞いてるか。」
「えっ?…ああ、うん。聞いてるわよ。ちゃんと。」
「だったら、そろそろ離れてくれないか。」
別に離れることに異論は無いけど、その前にこれだけは聞いとかなくちゃね。
「その前に一聞きたいんだけど。」
「何だよ。」
「あんたさ。さっき、こういうことしたら変な誤解を受ける可能性が高いって言ったわよね。」
「ああ。」
「あんたもさ、あたしに…その、変な誤解したの?」
あたしの質問にキョンは少し体を震わしたような気がした。
「す、するわけないだろ。言っておくが、さっきの話はお前が他の誰かに迷惑をかけないために
しただけで、あの話に他意は全く無い。」
「ふーん。」
ちょっと、そこまではっきりと否定する必要ないでしょ。そりゃあ、キョンが肯定するなんて
思ってなかったけどさ、否定するにしてももうちょっと言い方ってもんがあるでしょ普通。
何かむかつくからちょっとイジワルしてやる。
「あんたは別に平気なんだ。」
「…ああ。」
「だったらさ、別にこのままでもいいわよね。」
「なっ!?」
「だって、あたしはこの方が二人とも暖かいと思ってるし、あんたはあたしに抱きつかれても
なんとも思わないんでしょ。なら問題ないじゃない。」
「いや…、そういう問題じゃないだろ。」
あら、思ったより動揺してるわね。さっきの台詞が嘘みたいだわ。
「じゃあ、どういう問題なのよ。」
「それはだな……、その…。」
「それは?」
「………何でもない。忘れてくれ。」
「あっそ。じゃあ、このままでいいのね。」
「………好きにしろ。」






あたし達が暖を取り始めてから結構時間がたったけど皆なかなか来ないわね。何やってるのかしら。
「……ハルヒ。」
「何?」
「…やっぱり、離れてくれんか。」
「あら、さっきは好きにしろって言ってなかったけ。」
「確かに言ったけどさ…、もう十分だろ。ストーブが効いてきて部屋の温度もましになってきたし。」
確かに部屋の温度はましになってきてるわね。でももうちょっとこうしてたいな。
キョンってみくるちゃん程じゃないけど結構暖いし、抱きついてると何か落ち着くのよ。
「うーん、もうちょっと。あんたって結構暖かくてこうしてると何か落ち着くの。」
「…そんなこと言われてもな、さすがにそろそろ他の皆が来そうだ。こんなところを見られたら不味い。」
「確かにそうだけど…。」
「だろ。」
だけどさ、こんなことできる機会なんて滅多にないんだから、
もうちょっとこうしてたっていいじゃない。でも…、しかたがないか。
「……わかったわよ。離れればいいんでしょ、離れれば。」
「ふう。」
あたしは渋々キョンをはなした。

あーあ、もうちょっとキョンにくっついていたかったな。
「ずっと屈んでたからか足が痛いな。」
「あっそ。」
「…………。」
「…………。」
「…喉が渇いたんでお茶淹れようと思うんだがいるか?」
「…いらない。」
「そうか。」
「…………。」
「…………。」
「ハルヒ。」
「何よ。」
「さっきから何か怒ってないか?」
「別に…」
あたしは怒ってるんじゃなくて、寂しいとか物足りないとかそんな気分なのよバカキョン。
「あー…、そうか。」
「…………。」
「…………。」
「なあ…。」
「今度は何。」
「あのだな…、ハルヒ。」
「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ。」

「じゃあ言わせてもらうが、ああいうことをするのは俺ぐらいにしとけ。」
「へっ!?」
い、いきなり何言い出すのよ。さっきはするなって言ってたくせに。
「だから、ああいうことをするのは俺ぐらいにしとけと言ってるんだ、」
「な、何よ。最初と言ってることが違うじゃない。」
正直なところ、そう言ってくれると嬉しいけど…、でも…一体どういう風の吹き回し?
「確かに。だが、こうでも言わんと後でお前が朝比奈さんたちに迷惑をかけそうな気がしたからな。」
ああ、そういうことね。確かに否定はできないわ。
「そうなるくらいなら俺が犠牲になったほうがいいと思ったんだよ。」
「ふーん。その言葉に二言は無いわね。」
「ああ。」
「じゃあ、帰りにあんたの自転車の後ろに乗せなさい。」
「おい、何でそうなる。」
「決まってるじゃない。帰りながら、あんたで暖を取りたいからよ!」
「…そうくるか。」
ふふ、そうくるのよ。
「言っとくけど、さっきのやっぱなしとか言ったら罰ゲームだから!」
「わかったよ。罰ゲームは嫌だからな。」
苦笑で答えるキョンにあたしは笑顔で言ってやる。
「よろしい。」
あたしは放課後を楽しみにしつつ、残り少ないであろう
キョンと二人っきりの時間を楽しむことにした。


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