第三章『なぜならあたしは、天下無敵宇宙最強のSOS団の団長様だからよ!』
「いたたたたたた……って、嘘ぉ!?」
九階から投げ出されたはずなのに、あたしの体は骨折どころか傷一つ付いてなかった。
「どうなってるのよ……それにここはどこ?」
百歩譲って無傷だとしても、あたしは病院の敷地に落ちるはずだ。だけどここは病院ではない。
「どっかのマンションかしら?」
あたしは病院の敷地ではなく、どこか見覚えのあるマンションの一室のベッドの上で目を覚ました。
とにかくここを出よう。フローリングの床に、病院の廊下で落としたはずの鉄パイプとデイバッグあったが、それをを拾い上げて部屋を出た。
その部屋を出ると、奥歯と奥歯の間に挟まった銀紙みたいな既視感の謎が解けた。
「ここ、有希と朝倉が住んでいたマンションだ……」
確かに北高には近づいたが、不気味すぎる。あの病院からここまで何百メートル離れているとおもってるの!?
思わず目眩がした。もう勘弁してよ……。
「……泣き言いってもしょうがないわね。とにかくここを出ましょう」
今、あたしが出てきた部屋は『202』号室とプレートが掲げられていたから二階だろう。確信が無いのは、ここの世界の異常性のせいであり、あたしのおつむが異常なわけではないと信じたい。
その時だ。
「ひゃう!な、なにこれ!」
目の前に赤い光の発光体が出現した。あからさまに怪しいが、ラジオは無反応ということは敵ではないみたいね。
その赤い光はドンドンと小さくなり、最終的にはピンポン玉サイズくらいまで小さくなった。
「……なにこいつ?」
すると赤い光はあたしの体の回りを夏場の蚊みたいに飛び回り続け始めた。しっしっ!あっちに行きなさい!
鉄パイプを振り回して追い払い続けること数分。赤い光はやっとあたしから離れて、『205』号室の扉へ吸い込まれていった。
「……なんだったのかしら?」
しかしやっと解放されたかと思い、『205』号室を通り過ぎた時、そいつはまたあたしの前に出てきた。
「もしかしてここに入れっていってるの?」
一応、そのドアにラジオを近づけてみたが、ノイズは鳴らなかった。どうやら怪物はいないようだ。
「この部屋に何があるのかしら?」
この赤い光について行ってみよう。そう考え、ドアノブを回した。
ドアを開けた瞬間、あたしの頭上に特大のハテナマークと、特大のビックリマークが大量に現れた。
北高文芸部室。あたしは北高の制服を着て、入り口に佇んでいた。
『何考えてんの?あんた、バカじゃないの?今すぐ正気に戻してあげるから、そこの窓から飛び降りなさい!』
口が自分の意思とは裏腹に、勝手に動いた。
『いや、だからこれはだな。俺の中学の中河という野郎がいて……』
懐かしい声がした方角を見ると、キョンが汚職事件のバレた政治家のような顔で、言い訳めいたことを言っていた。
「キョン!?」
キョンの肩に手を触れた瞬間、キョンの体は灰のように崩れてしまった。
同時に、あたしが着ていた服も、さっきまで着ていたベストとスカートに戻っており、部室の中もありふれた普通の部屋に戻っていた。
「今のは何?」
白昼夢にしてはリアル過ぎる。その証拠に手のひらと床にはキョンだった灰がまだ残っている。
「あら?なにかしらこれ?」
床にまかれた灰の中から、どこのコンビニにも売っていそうなコピー用紙が沈んでいた。
「えーとなになに……あれは俺が……」
中身は……読むだけ無駄ね。下手クソな恋愛小説が書かれていた。
「……でもこの恋愛小説の主人公はどこと無くキョンに似ているわ」
そう書かれた以上、何かのヒントかもしれないわ。それをデイバックにしまった瞬間、さっきの赤い光がまた、どこからともなく現れた。
ねえキョン。こいつについて行けばいいの?
部屋を出ると、廊下から見える灰色の世界の風景が、さっきとは違う感じがした。
『603』号室。
あたしが出てきたドアには、確かにそう書かれていた。
「……どうなってるのよ」
『205』号室と『603』号室の空間が繋がっている。最早、そうとしか考えられない。
頭を両手でかきむしり、気分をリセットし、赤い光の先導に従って入った部屋は『604』号室。
『604』号室に入った瞬間、今度は北高の中庭に出た。
『SOS団プレゼンツ、朝比奈みくるちゃんの手作りチョコ争奪、一日遅れのバレンタイン特別アミダクジ大会、参加料一人五百円!』
またもや北高のセーラー服に、なぜかメガフォンを持って、大声で叫んでしまった。
「みくるちゃん!?」
隣にいた、誰が着せたかわからない巫女姿のみくるちゃんに触れた瞬間、さっきのキョンに触れた時と同じく、灰になってしまった。
灰の中にはハンドメイドながら可愛らしい絵本が埋もれていた。
「えーと……そんなに昔のことじゃないんですけど、今よりは前にあったお話です」
書かれていたのはみくるちゃんの筆跡で書かれた童話だった。
……なんで?あたしはみんなとバレンタインなんて過ごしてない。三学期の前に転こ……
――ズガガガガガガ!
頭をゴルフクラブでカチ割るような痛み、工事現場で響くような耳をつんざくノイズが同時に襲いかかった。
「……ハアハア……。頭が痛い……」
これは……恐怖?あたしはなにか大切なことを忘れているの?いや、忘れたいの?
赤い光を追う限り、どうやら怪物は出てこないようだ。ひょっとしてこいつ、あたしを守ってくれてるのかな?
「ふふふ。ありがとうね」
最初は嫌だったけど、今ではなんだか可愛い相棒ができたみたいで、この異常事態の中なのに笑みがこぼれた。
その導きに従い、次は『301』号室のドアノブを回した。
『まかせといて、坂中さん。こう見えても有希は何でもできるしっかりっ娘なんだから。J・Jもすぐによくなるわ』
今度は北高内ではなかったが、お金持ちそうな家の居間にいた。
「有希!?」
置物のように佇んでいた制服姿の有希に触れた瞬間、またも灰になって崩れた。
灰の中から拾い上げたのは、キョンの時と同じくコピー用紙。
「……自分は幽霊だ、と言う少女にであったのは」
なんだか変な小説。幻想的で、ホラーと言えばホラーだけど、正直よくわかんない。
でも、これだけはわかる。これを書いたのは有希だ。さっきの二枚がキョンとみくるちゃんなら、雰囲気から言って、これは有希で間違いない。古泉くんが小説を書くなら、多分ミステリーだし。
それに……あたし、みんなに小説を書かせたことがある気がする。でもいつだろう?
『301』号室を出て、赤い光が次に入った部屋は『104』号室だ。
『そうね、特にキョンなんてこのままにしておいたら冬休み中このことばかり考えているわ。せーの、でいいわね』
泊まり心地が大層よさそうなペンションの中で、あたしは隣にいた鶴屋さんと一緒に腕を高らかとあげて宣言した。
「古泉くん!?」
予想通り、触れた瞬間に灰になる古泉くん。
「えーと……『猫はどこにいった』」
灰の中のコピー用紙には、猫をトリックに使用した推理小説が書かれていた。ここまでくれば、多分これは古泉くんのね。
キョンの恋愛小説。
みくるちゃんの童話。
有希の幻想ホラー。
古泉くんの推理小説。
正常化した『104』号室の中で、四枚のコピー用紙を手近なテーブルの上に並べた。
「……そうだ。あたし、みんなで小説を書いたんだ」
なんで書いたんだろう?
――ズガガガガガガ!
強烈な頭痛と、ノイズが飛び交う。だが、
「う、うるさい!あとちょっとで思い出すんだから邪魔するな!!」
ここから先に真実があるの!だから静まりなさい!!
あたしは強烈な頭痛を気合と根性で振り払った。
それは薄れゆく意識の中で見た、確かな光だった。
「…………ハアハア、機関誌……そう、機関誌だ。あの高慢ちきで態度もプライドも身長も高い生徒会長から部室を守るために、機関誌を発行したんだ」
機関誌を発行して、それが全部はければ、部室立ち退きにはしないとかなんとか言われて、みんなで作ったんだ。
「ハハハ、なんであんなに楽しかった思い出を忘れてたんだろう」
あれ?待てよ?あれを言われたのは確か、三学期の終わりごろだ。
それだけじゃない。キョンの恋愛小説を拾った時にみた光景も、みくるちゃんの時も、有希に古泉くんも、みんなみんな、冬休み以降の記憶だ。
「……あたしは三学期も北高にいた?」
そうでなければ説明がつかない。だけどあたしの記憶を信じるなら、あたしは三学期の前に転校したはずだ。
「……恐いよキョン。あたし、どうなってるの?」
自分の記憶に矛盾があることが、こんなにも恐いことだとは思わなかった。
「あたしは……誰なの?」
疲れた。ここに来て一気に疲労が体に押し寄せてきた。もういやだ。歩きたくない。
寝室に行き、ベッドに倒れると、何もかもがどうでもよくなってきた。
「キョン……会いたいよぅ……」
あんたはどこにいるの?ここにいるの?だったら助けに来てよ……。あんたは確かに取り得が無かったけど、それでもいつもあたしのそばにいてくれたじゃない。最初にSOS団を作ればいいって言ったのはあんたじゃん。
…………SOS団?
ガバッと勢いよくベッドから起き上がった。
「あたしの書いた論文がない」
あの時、編集後記とは別に、『世界を大いに盛り上げるためのその一・明日に向かう方程式覚え書き』だったか?そんなものを書いた覚えがある。
なんで団員のがあるのに、団長であるあたしは無いのだろうか?
「なにもかも投げ出すのにはまだ早いわ」
居間のテーブルに並べられた小説たちを拾い上げ、『104』号室を後にした。もう少しだけがんばってみるね、キョン。
『104』号室は、部屋に出た瞬間に『501』号室に変わっていた。
「今度は五階か」
五階ならば行く場所はわかる。はっきり言ってものすごーく嫌な場所だが、そこ以外思い当たらない。
ほらね。赤い光もその部屋の前に止まってるし。
『505』号室。朝倉涼子が住んでいた部屋だ。
部屋にラジオを近づけてみた。どうやらノイズは鳴らないみたいだ。
「わかったわよ。入ればいいんでしょ。入れば」
ドアノブはなんの苦も無く回った。
『ありがたく受け取ることね!』
あたしは北高の中庭で、チャイナドレスを着て生徒会長に宣言した。
宣言した瞬間、さっきとは違い、あたり一面のすべての風景が灰になって崩れていった。
「ぺっぺっ!口にちょっと入ったじゃない!」
口腔内に広がる気持ちわるい砂っぽさを拭い、膝まで埋まる灰の中からコピー用紙を拾った。
「あった……あたしの書いた論文だ」
それは紛れも無く『世界を大いに盛り上げるためのその一・明日に向かう方程式覚え書き』その物だった。
――ガタン!
論文を拾ったと同時に、入り口のドアから物音が聞こえた。ネズミかなんかだと思いたかったが、そんなわけが無い。
「朝倉かしら?」
鉄パイプとピストルを強く握り、覚悟を決めてドアを蹴り開けた。
頭上に灰色の空が広がる。このマンションの屋上のようだ。
「あれ?奥に誰かいるみたい」
屋上の隅に人影が見えた。
あたしより少しだけ高い背。
白衣。
「佐々木さん……?」
「やあ涼宮さん。待っていたよ」
佐々木さんはあたしに背を向けたまま、横顔だけこちらに向けて答えた。
「こんなところで何してるの?」
「くっくっ、それはあなたに対しての質問だと思うな」
低くくぐもった笑い声あげながらこっちを向いた。その顔は逆光でわからなかったが、その不明性が、ヒドく不気味に思えた。
「どういうこと?」
「こういうことさ!!」
白衣を翻して取り出したもの、それは筒の長い猟銃だった。
「ちょっと待って!そんなの、どこから持ってきたの!?」
今更だが日本は銃社会じゃない。猟銃なんかそう簡単に所持できるわけがない。
「これが私の役割さ!あなたの紅く美しい死に様が、この世界のフィナーレを飾る!」
――ドォン!
猟銃からはなたれた散弾が、あたしの横を駆け抜けた。
「ふむ、朝倉さんが言った通り、確かに反動が凄まじい。だが、それも直に慣れるだろうね」
わけがわからない。あたしを殺す?なんで?
「あんたも朝倉の仲間なの!?」
ピストルを抜き、佐々木に狙いを定めた。
「仲間?違うね。私はこの世界さ」
「はあ!?なにそれ!?」
「わからないならそれでけっこう。死ぬがいい!」
――ドォン!
横っ飛びで回避したため、散弾はあたしに当たることなく空に吸い込まれていった。
「佐々木ィィィ!」
――パン!
「ウクっ!」
弾丸は佐々木の肩に命中した。が、
「…………フハハハハハハハ!こんなものは痛くない!キョンの痛みに比べたら!」
――ドォン!
「キョンを知ってるの!?」
「当たり前だ!私は彼が好きだった!なのにお前は……アアアアアアアア!」
――ドォン!
――ドォン!
――ドォン!
佐々木は絶叫をあげながら、狂ったように散弾をばらまいた。
「殺す!頭蓋骨引き抜いてキョンの墓前に詫びさせてやる!」
マズイ。どうやら本気だ。本気であたしを殺す気だ。今までこそ全弾回避できてるが、佐々木の射撃技術は撃つごとに精密なっている。このままではいずれ着弾する。ならば、
「佐々木!」
短期決戦!鉄パイプを佐々木目がけてブン投げた!
「ゴフッ!」
鉄パイプは真っ直ぐ佐々木の腹に命中した。
「アアアアアア!」
絶叫をあげ、走りながらでの連射!連射!連射!
佐々木は全身から血を噴出しながら、屋上からあと一歩後ずされば転落するところまで後退した。
――カチン。
乾いた撃鉄の音。あたしは足元にあった猟銃を拾い上げ、
「佐々木!」
――ドォン!
反動で肩が外れるかと思ったが、散弾は見事に佐々木を吹き飛ばし、佐々木は内臓をぶちまけながら、屋上からきれいに転落していった。
「キョオオオオオン!」
グチャ。
数瞬後、トマトがつぶれるような音が耳に届いた。
「あたし……人を殺しちゃった」
正当防衛だ。仕方ないと他人は言うかもしれない。
だが佐々木が最期に見せた、あの全世界の呪いをこめたような視線を、あたしは一生忘れることはできないだろう。
「こんなこと、一生体験したくなかった……ごめんなさい」
気がつくと涙が頬を伝っていた。ごめんね佐々木さん。
「あたし、初めて人を…………」
?
「…………キョンは三年前に死んでない?」
なぜそう思うかわからない。でもなぜか、死んでいない確信が生まれた。
北高に行こう。そこで全てがわかる。
佐々木との死闘を終え、足元の鉄パイプを拾い、屋上の出入り口へと向かった。
ちなみに佐々木の猟銃も一応持っていくことにした。弾ならそこらへんに落ちてるだろうし、上手く使えばピストル以上の強力な武器になる。
「あれ?そういえば赤い光ちゃんはどこに行ったんだろ?」
気がつくと、あたしを守り導いてくれた赤い光の玉は、どこかに消えうせていた。
「……きっと役目は終わったってことよね。元気でね」
屋上の出入り口のドアを見た瞬間、ある種、予想通りの展開だなとおもった。
『708』号室。
有希の部屋だ。あの有希なら、この状況の手助けをしてくれる。絶対に。
――ガチャリ。
ドアはあたしの入室を拒むかのように、口を開くことはなかった。
「散弾でブチ破るのは……止めとこう。有希の家だし」
谷口の家だったら迷うことなくブチ破ってただろうけどね。ん?
よく見ると、ドアの下に小さな紙切れが挟んであった。
『YUKI,N>全ての物語が、あなたに最後の選択肢を与える』
そして末尾には、「郵便受けに投函」ときれいな手書きの明朝体で書かれていた。
「全ての物語?……ああ、そういうことね。有希」
デイバッグから機関紙を発行したときに書いたみんなの小説を取り出し、ドアに取り付けられていた郵便受けに投函した。
――カチャン。
鍵が開く音を確認してから、ドアノブをまわした。
あたしを出迎えてくれたのは、生活観のない殺風景な部屋だった。有希の部屋で間違いなさそうね。
郵便受けから小説を取り出そうと手を伸ばしたとき、あたしはある違和感を感じた。
「これ!機関誌じゃない!」
その中にはみんなの小説は無く、代わりに機関誌が一部だけ入っていた。
「ん?なにか挟んである?」
機関誌の一部が盛り上がっており、なにかが間に挟んであるようだ。
「DVD?」
開いてみると、そこにはDVDディスクが挟まれていた。
ピポ
部屋の奥で、パソコンの起動音が聞こえた。
「何?」
あたしのすべての感覚が、部屋の奥で勝手に起動したノートパソコンに反応した。
機関誌とDVDをデイバッグにしまい、土足のまま、ノートパソコンの前に座った。
ダークグレイのモニタ上に、音もなく文字が流れる。
YUKI,N>これをあなたが読んでいるとき、あなたは少しずつあなたに戻っているはず。
……ええ。その通りよ。有希……。
YUKI,N>おめでとう。私も心から祝福している。
ありがとう。みんなの思い出があったからここまでこれたんだよ。
ディスプレイの文字を声には出さず、だけど胸の中で有希の平坦な声で音読する。スクロールは続く。
YUKI,N>これはこの世界を構築するプログラムを最終段階へと導く促進プログラム。起動させる場合はエンターキーを、そうでない場合はそれ以外のキーを選択せよ。起動させた場合、あなたは真実を知る機会を得る。ただし、真実を知った時、あなたに壊滅的なエラーが押し寄せると予想される。
YUKI,N>ここで引き返すことも可能。そうすれば、あなたはあなたの願望が叶った世界に召喚される。
YUKI,N>あなたの自由。__
そこで文字のスクロールは終わった。
有希が言うには、あたしの真実は、もうそこまで来ているみたいね。
ただし、とてもじゃないけど笑顔でハッピーエンドになるとは思えない真実のようだ。
「……みんなの記憶があったからこそ、ここまでこれたんじゃない」
だけど、もしここであたしが引き返したら、その記憶すら無駄になってしまう。
壊滅的なエラー?そんなの関係ないわよ。ここであたしだけ敵前逃亡なんかしてたまるもんですか!
「なぜならあたしは、天下無敵宇宙最強のSOS団の団長様だからよ!」
Ready?
O.K.よ、もちろん。
あたしは指を伸ばし、エンターキーを押し込んだ。
そして――
「きゃっ?」
体が激流にのみこまれた小枝のようにクルクルと回るような感覚に陥った。どこかに堕ちて行くのかしら?ひょっとして地獄?ここのほうが地獄より酷いかもね。
混乱する感覚。ここはどこ?あたしはどこに立っているの?
キョン――。
「きゃあ?!」
平衡感覚をゆっくりと取り戻しながら、少しずつ目を開けてみると……、
「……そろそろクライマックスね」
北高の一年五組。あたしはいつも座っていた自分の席で目を覚ました。
「この先がハッピーエンドじゃないことはわかってる。でも、あたしは絶対に逃げたりなんかしない!」