「お、今回は俺の番か」
「ほらキョン!さっさと注意書きなんか終わらせましょう!」
「そうだな。っと、この話は「朝倉涼子迷走記」と「彼がバイトを始めた理由 前編」と言う話の狭間にあたる話になる」
「話の流れがわからないって言う人は前の話も読んでもらえると嬉しいわ!」
「あとは…そうだな、この話を読むにあたって軽い既視感を覚える方もいるんじゃないかと思う」
「後付け設定みたいになるけど、この話の有希はまったく別の話の有希と同一人物になるわ」
「まぁそこは気にしなくても読み飛ばせるレベルだ。気になった人だけニヤニヤしてもらえればいいかな」
「…こんなもんかしらね、あとなんか言うことある?」
「あぁ、ひとつだけ、この話のあたりから原作と時間軸がズレた話がでてくるが気にしないでくれ」
「と、言うわけで本編をどうぞ!」


「…お祭りに行きたい」

正月も過ぎ去り新年初となる不思議探索中に、長門さんがこんなことを言い出した。

「…お祭り…ですか」
「…そう」

どこに行きたいかと聞いたんですが…お祭り…

「あの…さすがにこの時期に祭りをやっているところはなかなか無いんじゃ無いかと…」
「………」

…そんな悲しい目をされても困るんですが…

「…古泉一樹」
「…お祭り以外ならいいですよ」
「…お祭りでは無くてもカレーまんは食べられる?」
「むしろ今が肉まん類のシーズンですよ。食べに行きますか?」
「…コクン」

さて、こんな寒空の下で突っ立ってるのも何なので、そうと決まったら早速コンビニに行きましょうか。




















「…ありったけのカレーまんを売ってほしい」
「かしこまりました」

…いや、かしこまらないで下さい。
そんなにお金無いですよ僕。

「…大丈夫。持ち合わせならある」
「いや、女性に払わせるのも…お金下ろしてきますね」
「…いい、貸しにしておく」

…そうですか。

「なら、お言葉に甘えて。すぐ返します」
「…なら、支払いを」

そう言って長門さんは財布を出す。
がま口財布ですか。
なかなか渋いですね。

「…今年の夏に入手した。お気に入り」
「夏というと、あの延々とループしたあの夏休みですか?」
「…そう」

10000回を越すループですか…もう少し早く気付いてあげられれば良かったのですが。

「…大丈夫。楽しかった」
「そうですか…」
「…ところで」

どうかしましたか?

「…お金が足りない」

…え?

レジの表示金額を見る。

『21000円』

そして長門さんががま口財布から取り出した金額を見る。
…長門さん…100円だと肉まん一つすら買えませんよ。というかコンビニ側もいくつ蓄えてるんですか。

「………」

…期待するような目でみないでくださいよ。

「…あの…もう全部詰めてしまったんですけど」

困り顔の店員さん。
や、僕だって泣きたいです。

「…早く食べたい」
「お金払わないことにはどうしようも無いでしょうが!」
「あの…支払い…」

あぁ…とりあえず手持ち分だけでも…あれ?…あれ!?
財布の中にお金が無い!?

「…買っておいた」
「何で人のお金使って宝くじ買ってるんですか!?」
「…宝くじではない。夢を買った」

…そんな「誉めて」みたいな態度とられても…
…どうしましょうか…この大量のカレーまん…

「見つけたのです!古泉一樹!」
「はいはい…もうなんでも良いですよ…って」
「へ?何ですか?何でみんな私を見てるんですか!?



「…全く…レディーに支払いさせるなんてどういうつもりですか!」

場所は変わって近くの公園。
突如として現れた橘さんに支払いの全てを頼み込んで現在に至ります。

「面目無いです…」
「本当ですよ!絶対に返してもらいますからね!」

…20000円かぁ…

「で、今日は何のようですか?」

今日は、というように橘さんとはちょくちょく会っている。
会っているというか一方的に押し掛けられているだけだが…

隣でもくもく食を進める長門さんの手元から、カレーまんを一つ取り出して橘さんに渡す。

「ん、ありがとうございます…そのですね…相談ごとがあってですね…」
「敵対組織である僕に意見を求めるのもどうかと思いますがね」
「で、でも!…私は反対してるのに…規定事項なんだー!ってみんな聞かなくて…」

大抵は今回みたいに相談ごとをされる。
…僕に言われてましてもねぇ…

「…朝比奈みくるさんの誘拐です」
「それはそれは…また思い切ったことを」

長門さんは全く興味が無いのか、もくもくとカレーまんを食べ続けている。
っと、そちらの相談に入る前に一つ質問したいのですが…

「え?あぁ、構わないですよ」
「…先程から長門さんをガン見している彼女は誰ですか?」
「九曜さんなのです」

九曜さん、そう呼ばれた彼女はピクリとも動くことなく長門さんを見つめ続けている。
真正面でメンチを切り続ける九曜さんと、我関せずといった感じで食を進める長門さん。

「…あの、九曜さん?」

恐る恐る話しかけてみる。

「─…それは、何?」

え?

「─…彼女が──…食べているもの」
「…あぁ、カレーまんですよ」
「─…カレー…まん」

欠伸が出そうになるほど眠そうな声で九曜さんは呟き続ける。

…あの、いつもこんな感じなんですか?

「九曜さんは良くも悪くもそんな感じなのです」
「…そうですか」
「…あの、そろそろ相談に入っても良いですか?」

ん、すみませんでした。

「しかし誘拐ですか」
「他人事みたいに言わないでください。私なんか台本まで渡されて…」

台本?

「失敗した時のです。しんがりとでもいうのでしょうか」
「…違う気もしますがね」
「規定事項ならあなた達の仲間に誘拐を阻止されてなんたらかんたらー…って」

そういうことになってるんですか。
…後で新川さん達に敵対組織の見張りを頼んでおきましょう。

「…規定事項ならいいんじゃないですか?」
「でも!最悪朝比奈さんに危害を加えてしまうかも知れませんよ!?」
「そちらの組織が思っているほど、朝比奈さんは虚弱な方ではありませんよ、それに」
「…それに?」
「僕がここで何と言おうが、最後に決断を下すのはあなたです。もう決まってるんじゃないですか?」
「それもそうですね…よし!頑張って朝比奈さんを誘拐します!」

…まぁそこまで気張られても困りますが。

「あはっ、それもそうですね!」
「こちらも注意深くあなた方を見張っておきます」

…ところで。

「…さっきから長門さんと九曜さんは何をしてるんですか?」
「─…食べてみたい」
「…ダメ」

九曜さんがフラフラ手を伸ばして、のらりくらりと長門さんがカレーまんを遠ざける。

「…ひとつくらい渡してあげたらどうですか。そんなに沢山あるんですし」
「…拒否する。彼女には個人的な恨みがある」

…恨み?

ふと、橘さんを見る。

「え?私は知らないのですよ?」
「じゃあ恨みって…え?というか2人は知り合いですか?」
「─…一応──…襲撃して来て…って─…指示されたことが…ある」

襲撃!?
じゃあ長門さんは九曜さんに襲われたんですか!?

「初耳なのです…」
「…そう、彼女…九曜周防は私の家に忍び込み…」

………

「…私の、カレーパンを、盗み食いした」

一つ一つ噛み締めるように長門さんが呟く。

「………」
「─……」

…はぁ。

「よし、帰りましょう、はい、九曜さん、カレーまんをどうぞ」
「…あ」
「─…ありがとう」
「今日はありがとうございましたなのです」
「いえ、まぁほどほどにしてくださいね」
「了解なのです!」

ふふふ、と悪戯っぽく彼女は笑う。
…多分また相談を受ける予感。

「─…ブランコ」
「ブランコ好きですねぇ、でもカレーまん食べてからにしましょうね」

長門さんはカレーまんの入ってた袋と僕と九曜さんを交互に見つめ続けている。

「それじゃあまた!」
「…まぁ出来ればあまり会いたくないですが」
「─…美味しい──…また、会いましょう」

そういうと二人はのんびりとブランコの方に歩いていった。

「…何故?」
「…何がですか?」
「…何故彼女にカレーまんを?」
「別に良いじゃないですか。被害はカレーパン1つなんでしょう?いちいち気にしてたら身が持ちませんよ」
「…あれは最後の一個」


…え?

「えぇぇぇ!?あの量を全部食べたって言うんですか!?」
「…そう」

それが何か?みたいな顔しないでください!

「…僕一個も食べて無いんですよ!?」
「…あ」

今気づいたように言わないでください…

「…大丈夫」
「…え?」
「…私がキチンと報復する」

…そっちですか。

「…カレーパンの恨みは恐ろしい」

…もう何でも良いですよ。

ちなみに長門さんが購入した宝くじ。
当たってるかどうかは神のみぞ知る、というところです。



















数ヶ月後

ふわぁ…眠いです。
春眠暁を覚えずなんかよくいったものですね。

誘拐事件は見事失敗に終わりました。
朝比奈さんには悪いことをしました…
あのいけ好かない未来人にはもう少し空気を読んでほしいものです。
やれ規定事項だやれ規定事項だ…うるさくてかないません。

「─…良い…匂いがする」

そして今日も九曜さんとブラブラ街を歩くのです。
そういえば今日はお昼まだでしたね。

「─…カレーまん?」
「相当気に入ったのですね…でもたまにはコーヒーをのんでゆっくりしたいのです」

すると突然九曜さんがふらふらと別の方向に歩き出した。

「ちょっと!どこに行くんですか!?」
「─…喫茶店」

あぁ、もう目星は付けてたんですか。
九曜さんが指差した方向に小綺麗な店が見える。

「カレーまんは無いと思いますよー?」
「─…信じる」

そう言って九曜さんがドアに手をかけた刹那。

ガッシャーン!!!!

ガラスか何かが派手に割られる音と。

「はわわわわわわ…」

と、どこかで聞いたような愛くるしい悲鳴が聞こえてきた。


ただ、彼がバイトを始めた理由 前編を見ていない方はそちらを先に読んでください。
めんどくさくてすいません。

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最終更新:2020年05月28日 10:04