粉雪、ねえ。心まで白く染め上げたなら――ああ……はぁ……。

 

 台所に舞い散る白い粉、それは降り注ぐ粉雪の様にその場に居る者全てへ平等に降り注ぐ。

 

 何故かチョコまみれの顔で笑ってやがる妹。

 

 電源の入ったハンドミキサーを片手にあわあわしていらっしゃる朝比奈さん。

 

 無表情でボウルに入ったホットケーキミックスを舐める長門。

 

 そして――俺。

 

 ハロウィンが間近に迫った秋の日、我が家の台所は雪化粧を始めていた。

 

 

 

 簡単でおいしい!おかずレシピ「キョンの夕食」 6食目 「番外編 ハロウィン・クッキー」

 

 

 

「はぁ……せっかくお手伝いを頼まれたのに大失敗しちゃった。――キョン君、怒ってるかな」

 

「みくるちゃん大丈夫だよ! わたしはもっとすごいこと毎日してるけど、キョン君は全然怒るもん」

 

「ありがとう。……あ、あれ? 怒るの?」

 

 台所から長門が大きなトレーを持ってやってきた。

 

「出来上がったお菓子を持ってきた」

 

「あ、は~い。じゃあみんなで袋に入れて綺麗に飾りつけしようね」

 

「うん!」

 

「そして私が食べる」

 

「だ、駄目ですよ?」

 

「試食」

 

「じゃあ、少しだけならいいですよ」

 

「わかった。1/3と1/6と1/2だけ試食する」

 

「ええ? えっと。1/2が半分だから、それに1/3と1/6を足して……」

 

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ」

 

「わかった! 答えは全部!」

 

「もぐもぐ正解もぐもぐ」

 

「それはだめです~!」

 

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 なんか不吉な声が聞こえてくるが……まあいいか。

 

 今回の料理はお菓子だ。

 

 そして今更だがタイトルに問題がある、残念ながら今回ばかりは簡単とは言えん。

 

 前回とはえらい難易度の差だな。

 

 以下の工程を試す気になれない人は、コンビニとかでお菓子を買うときに「これって結構面倒なんだな」とか思ってもらえたら幸いだ。

 

 

 さて、みよきちに頼まれたイベント用のお菓子1000食分←これについてはトリック・オア・トリックを先に読んでもらえるとありがたい。

 

 予算も時間も余裕はない、そして冒頭のシーンを見てもらえば分かるように期待していた援軍は調理の手助けにはならなかったわけだ。

 

 とはいえ、袋に詰めたりラッピングする作業には自信があるそうなのでそちらをお願いする事にしよう。

 

 材料配分、比率、調理方法まで詳しく説明してると書いてる人が空腹で息絶えるから今回は概略でいくぞ。

 

 え~まずはクッキーを作る。

 

 ホットケーキミックスに粉砂糖とベーキングパウダー等を混ぜる。量はネットで調べて実践して色々試して覚えてくれ。

 

 水を加えて練りこんで、クッキングシートの上に広げて小さなコイン型の型でくり抜く。

 

 くり抜いた生地をオーブン用のシートを引いたトレイに載せて、オーブンへ。

 

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 サクッ、カリッ! もそもそ――……!

 

「わわっ! 美味しい! 凄いなぁ……キョン君」

 

「美味しいでしょ? 機嫌がいいとたまにお菓子を作ってくれるの~」

 

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」

 

「あ、あの長門さん?」

 

「水」

 

「は~い。――じゃなくって!」

 

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 焼いている間に小さくて深めの鍋にチョコを溶かしておく、言っておくが普通の板チョコを溶かすのは難易度が高いぞ。

 

 俺は手抜きでチョコフォンデュ用のを使ってるが、量に対してちょっと値段が高いのが難点だな。

 

 それと、今回はクッキーの生地が甘いからチョコは少し苦めにしておく。

 

 まあ、粉末カカオを足しただけ……あ、そういえばあいつは苦くするのを嫌がったっけ。

 

 ――中学の頃、俺にこのお菓子の作り方を教えてくれた級友の事を思い出した。

 

 あいつは本当に甘いのが大好きだったんだろう。

 

 こっそりカカオを入れようとすると、抱きついてまで止めようとするんだもんな。

 

 ……おっと、のんびりしてる時間は無いんだった。

 

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「はい! できた~。みくるちゃん見て見て!」

 

 クッキーが入った袋には、カボチャやお化けのシールが所狭しと貼られている。

 

「わ~可愛くできたね」

 

「へへへ! 有希ちゃんはできた?」

 

「袋に貼るシールの選択に戸惑っている」

 

「妹ちゃんのシールコレクションは一杯あるから迷っちゃいますよね」

 

「好きなシールを選べばいいんだよ~」

 

 ペタペタペタペタペタ

 

「完成」

 

 長門によってデコレーションされた袋を色で言うならば――黄色。

 

「有希ちゃんの袋、カレーのシールだらけだ!」

 

「食欲を持て余す」

 

「こ、これ以上試食しちゃだめですよ!?」

 

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 待ってる間にやる事はもう一つ、スコーンを作る。

 

 が、省略する。

 

 ぶっちゃけると粉の種類と配分、後は入れる材料が少し違うだけでクッキーと変わらないからな。

 

 本当に変わらないんだ、これが。

 

 一応、味はプレーンと紅茶味の二種類を準備する。

 

 生地を練り上げて、適当な厚さに伸ばして焼く。形も適当でいいぞ。

 

『チーン!』

 

 お、クッキーが焼けたな。

 

 出来上がったクッキーは金串に何枚か重ねて刺して並べておく。間隔は2センチ程あればいいだろう。

 

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「ね~ね~。有希ちゃんはキョン君の事が好きなの?」 

 

「コクコク」

 

「ふええ?!」

 

「みくるちゃんは?」

 

「え? あ、その。えっとね?」

 

「嫌い?」

 

「お、お友達として好きかな?」

 

「ふ~ん」

 

 …………突然部屋を襲う言いようの無い威圧感。

 

「……キョン君は……渡さないからね」

 

「「?!」」

 

「えへ、冗談だよ」

 

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 出来上がったスコーンは適当な袋に入れ、叩いて粉々にしてくれ。そして、広い容器に移して冷蔵庫で冷やす。

 

 次は、金串に刺したクッキーをチョコの中に沈めてコーティングする。

 

 このままだと食べる時に手が汚れてしまうからもう一工夫しよう。

 

 ――確か、「いいかい? 手が汚れてしまったら、お菓子で甘くなった雰囲気が台無しじゃないか」……だったっけ?

 

 冷蔵庫で冷やしたスコーンの破片の上にチョコまみれのクッキーを載せて、上からも降りかける。

 

 冷えたスコーンがチョコから熱を奪って固めてくれるから、張り付いたスコーンで表面のチョコが覆われるわけだ。

 

 ぼろぼろこぼれて食べにくいスコーンと、手が汚れるチョココーティングの問題をこれで解決させる。

 

 後は金串からクッキーをゆっくりと抜いて、トレーに並べて

 

「私が食べる」

 

 そう長門が……って食うな!!!

 

 

 簡単でおいしい!おかずレシピ「キョンの夕食」 6食目 「番外編 ハロウィン・クッキー」 ~終わり~

 

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