「ねえ、やっぱり彼に教えてもらってからの方がよくない?」
「大丈夫」
「そうかなぁ」
「鍋に食材と水を入れて煮る。これだけの工程で間違いはありえない」
「そうかなぁ」
「食材は鍋用セット428円(調理済み)を使用。包丁も使わないから大丈夫」
「そうかなぁ」
「鍋用スープも加工品(塩風味)を使用。ガス料金も支払い済み(自動引き落とし)入念な下準備は済んでいる」
「そうかなぁ」
「そして料理を実行するのは私。信じて」
「あのね? そこが信じられないのよ、悪いけど」
簡単でおいしい!おかずレシピ「キョンの夕食」 5食目「オニーク」
「と、いう訳で助けを呼んだんです」
「……」
今の説明と、この現状が繋がらないんだが。
「えっとね? まずは鍋をガスコンロの上に置いたの」
「そして、素材を鍋に入れて火を通した」
「最後にスープを注いで完成」
鍋の淵や底に野菜と肉と魚がびっしり張り付いてる理由はそれか。なるほどな。
「……火を通してから煮た方がいいと思った」
そうだな。カレーならそうだ。油を使ってくれたら更によかった。
「これってなんとかなる?」
なんとかって……長門、そんな心配そうな顔で見なくていい。俺が何とかしてやる。
「信じてる」
あいよ。
さて、鍋に張り付いた食材を復活させるにはどうすればいいか?
とりあえずは無事な材料と汁を取り出す。
次は力技だな、鍋を傷つけないように木へらで剥ぎ取る。金へらだと鍋の破片を食う事になりかねない。
流石に焦げてしまった部分はどうにもならないからそこだけ取ってしまおう。
そして鍋を綺麗にした後ダシ汁を戻して、食材の中から火が通りにくい物から順番に茹で直す。一度沸騰させて後は中火で。
一般的に一番時間がかかるのは根野菜だ。
ジャガイモ、人参、ゴボウなんかがそうだな。
続いて野菜やキノコ類。後は型崩れしない物を入れていく。
鍋によく使う野菜は白菜、椎茸、葱。型崩れしないのはしらたきや練り物もこのタイミングでいい。
最後に型崩れしやすい豆腐等と、火を通しすぎると硬くなる肉や魚を入れる。
小まめにあくを取って、全体に火が通って一煮立ちさせたら出来上がりだぞ。
――さて、気温が下がる秋から冬にかけては鍋が美味しい季節でもある。
鍋を食べたいが料理に自信が無いって人は、長門みたいに調理済みの素材を買うのもいいかもしれないな。
「「いただきます」」
あいよ。
「! ダシが効いてて美味しい~」
既製品だけどな。
「この食材も食べ易いサイズ」
はいそれも既製品。
「……あっという間になくなっちゃったわね」
そもそも分量があってない。これ、1人分だったぞ。
「大丈夫。その為に追加の食材が冷蔵庫にある」
どれどれ……ん、これはしゃぶしゃぶ用の肉か。
「そう」
「ねえ、この鍋の残り汁でしゃぶしゃぶって出来るの?」
できるぞ。しゃぶしゃぶは肉の脂分を茹でる工程で減らして食べる料理であって、別にお湯でなければいけない理由は無いからな。
「オニーク」
好きなだけ食うがいい、お前の肉だしな。
「はふはふ、もぐもぐ、はふはふ」
長門、食いながらでいいから聞いてくれ。お前に頼みたい事があるんだが。
「!」
「食事と引き換えに頼みごとなんて……キョン君って意外に積極的なのね」
何を考えてやがる。
「そりゃあ、食欲を満たした人間が次に望むものなんて……ねえ?」
「貴方を満足させられるか自信がない」
暴走すんな、第一俺は何も食ってない。知り合いにお菓子作りを頼まれてるんだが人手が足りないんだ、悪いが手を貸してくれないか?
「……つまんない男」
次回は朝倉抜きで行こう。
「そんなぁ??!」
簡単でおいしい!おかずレシピ「キョンの夕食」 5食目「オニーク」 ~終わり~
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