文字サイズ小で上手く表示されると思います



FRI 12:30
 秋も終盤、寒さのあまり人気の無い昼休みの中庭――
 えっ……本気ですか?
 驚いた僕の声と、
「ああ、もしもお前が暇だったらな」
 退屈そうな彼の顔。
 急な呼び出しにも驚きましたが、この提案にはもっと驚かされました。
 しかし――
 魅力的なお誘いではありますが、恐らく涼宮さんは何か予定を立てている事でしょうし、
残念ですがお約束はできません。
「そうか、まあそうだよな」
 つまらなそうな顔で立ち上がり、この場を去っていく彼を見送りつつ僕は温くなっていた
ココアに手を伸ばす。
 今のは冗談……にしても性質が悪いですね。
 小さくなる彼の背中を見ていると、急に気持ちが焦りだす。
 ……こんな事を言っても無意味だという事はわかっている。でも、無意味な事をする事に
罪は無いはずだ。
 あの! 
「ん」
 僕の声にすぐさま振り返った彼に告げる。
 もしも、涼宮さんが何も予定を立てていなかった時は、そのお誘いに喜んで応じさせて頂
きます。
 その言葉を聞いた彼は、小さく笑った。

 


FRI 13:45
 教師の説明の言葉も、手元のノートに書かれた自分の文字もまるで頭に入らない。
『今週末、俺と泊りで遊びに行かないか?』
 授業中だというのに、僕が考えているのは彼の言ったその言葉の意味だけ。
 これまで僕と彼の間にあったのは涼宮さんの仲間だという共通認識と、世界を崩壊から救
う為に奔走する仲間という感覚。
 一般人である彼にとって、世界の為という名目で危険に付き合わせてしまう僕の存在は、
疎ましく思うことはあっても好意的な存在にはなりえないはず。
 その彼が、何故?
「この続きを……古泉、読んでくれ」
 はい。
 席から立ち上がり、教科書へ目を落として音読を始める。
 そうしている間すらも、僕の意識は彼の事だけに注がれていました。
 思考の結果辿りつくのは一つの答え。
 これは、ありえないIFの話だという事。
 あの涼宮さんが週末に何の予定も立てていないなんて事はまずありえない、つまり起こ
るはずのないイベントを考えても無駄なだけなんです。
「……よし、そこまででいい。この文章の――」
 席に着いた僕は教師の発言へと耳を傾け、手元のノートに言葉を拾っていく。
『ああ、もしもお前が暇だったらな』
 ――それでも、彼の言葉は頭から離れないのでした。

 


FRI 16:30
「じゃあ明日は朝9時に有希の部屋に集合! 遅刻したら罰金だからね?」
 予定調和。
 涼宮さんによって週末の予定が提案と同時に決定された時、僕は何故か安堵していました。
「へいへい」
 溜息と共に彼も頷いている。
「わかりました」
 もちろん朝比奈さんが涼宮さんの提案を拒否するはずもない。
「……」
 小さな首肯。
 そして、僕も頷く。少し、胸に引っかかる物はありましたが。
 全員の反応に涼宮さんは満足そうに頷く。
 手早く片づけを進め、部室を出て行こうとしていた涼宮さんが振り向き、
「あ! 大事な事を忘れてたわ。明日は全員パジャマ持参ね、お泊りの準備もちゃんとして
くるのよ!」
 そう言い残して、彼女は去っていった。
「パジャマかぁ……恥ずかしいな」
 普段、様々な衣装を着せられている朝比奈さんでも多少の抵抗があるようだ。顔を赤らめ
つつ、彼に視線を向けているのだが……彼はその視線に気づいていない。
「ハルヒの奴、急に何を言い出すかと思えば……。っていうか長門、どうやら泊りになるみ
たいなんだがお前はこんな人数で泊りに行ったら迷惑じゃないのか?」
 彼に聞かれて、窓際に座る長門さんは首を横に振る。
「構わない」
「そうか」
 質問が終わっても、長門さんが自分の事を見ている事に彼は気づいていないようだ。
 ……ある意味、清清しい程に鈍いですね。
 

 

SAT 8:45
「なんでお前はもうパジャマなんだ」
 先に向かった涼宮さんを除いて、マンションの前で待ち合わせていた僕達が長門さんの部
屋を訪れた時、そこにはパジャマ姿の長門さんと涼宮さんが居ました。
 玄関で応対するパジャマ姿の可愛らしいお2人に、彼は頭を抱えています。
「いい質問ね。でも根本から間違ってるわ」
 楽しそうに指を振る涼宮さんに、彼は微笑ましくも苦い顔で答える。
「いいのか悪いのかどっちなんだ」
 黄色いパジャマを着込んだ涼宮さんは胸を張って答える。
「私は『もう』パジャマを着てるんじゃないの、『まだ』パジャマを着てるのよ! ってち
ょっとこら! キョン! 人の話は聞きなさい!」
「近所迷惑だ。長門、お邪魔するぜ」
 白いシンプルなパジャマを着た長門さんが頷き、僕達もそれに続く。
 部屋の中に入ってみると、そこには何故か布団が二組並んで敷かれていた。
「おいハルヒ! お前まさか」
「ようやくわかったみたいね。そうよ、私は昨日の夜にすでにここにお泊りしてたのよ! 
もちろんご飯も一緒だったし、お風呂も一緒。どう、キョン。羨ましいでしょう?」
 得意げな涼宮さんを半眼で睨みつつ、
「長門、迷惑だったら帰れって言っていいんだぞ?」
 彼はそう告げたが、長門さんは首を横に振った。
「楽しかった。とても」
「でっしょー! なんだかもう周7で泊りに来てもいい気分ね」
 まるで抵抗しない長門さんを、抱き枕の様に抱きしめつつ飛び跳ねる涼宮さん。
 さて、今日はいったいどんな一日になるんでしょうね?
 

 

SAT 9:30
「朝比奈さんはポテトチップスで好きな味ってなんですか?」
「えっと、フレンチサラダが好きです。こっちの時代ではまだ食べた事はないんですけど」 
 彼は頭を抱えて、朝比奈さんの今の発言に関して色々と言いたい事を飲み込んでいるよう
です。私服を来ていた僕達3人は、涼宮さんによって買出しを命じられて近所のコンビニへ
とやってきました。
「え~……人数分のジュースとお菓子とラーメンとお菓子とアイスとお菓子とお菓子とお菓子。
――なあ古泉。この場合、重複しまくってるお菓子って項目はどうすればいいと思う?」
 涼宮さんに渡されたメモを片手に溜息をつく彼ですが、内心はこの状況に楽しみを感じて
いる様に思えます。もちろん、僕もですが。
 そうですね。結果的に多く買いすぎてしまっても、後でゆっくり長門さんに食べてもらえ
ばいいでしょうから、書かれた数だけ買って帰りましょうか。大は小を兼ねると言いますし。
「予算が俺の財布だけでないのなら素直に同意してやる所なんだがな」
 もちろん支払いでもお手伝いしますよ。
「あ、爽ってこの時代にはすでに売ってたんですね! これ大好きなんです! わ! ホー
ムランバーもある! 凄いです~」
 ……お菓子の話題だと禁則事項は発動しないんでしょうか?
 アイスコーナーを見て、本気で感動している朝比奈さんはしばらく動きそうにない。
「古泉は普段お菓子とか食べるのか?」
 ええ、じゃがりことか好きですね。
「俺も好きだ。特にサラダ味」
 あ、僕もです。
「じゃあ2個取ってくれ。他にも何か買うか?」
 ――その場所で喋ったのは高校生同士としてはあまりにも何気ない会話でした。
 そして、機関に所属する僕が夢見ていたものでもある。
 任務の一環でごく普通の高校生として振舞う事はあっても、ここまで気を許した時間を過
ごした事はありませんでした。
「……ん、今日は何か変な笑い方をしてるな」
 そうですか?
「ああ、いつもは猫みたいに笑うのに今日は犬みたいだぞ」
 猫も犬も笑いましたっけ? 彼の表現する内容は僕にはよくわかりません。
 ですが……そうですね、もしも僕に尻尾が生えていたら今はきっと激しく振られていると
思いますよ。

 


SAT 11:00
 買い物を終えて長門さんの部屋に戻り、全員がパジャマに着替えた所でそれは始まりました。
 ――第1回 SOS団杯 大富豪 結果は――
「へっへ~ん。1位~! さあ古泉君、2枚渡しなさい!」
 了解です。……これは厳しい、最大の数字が一桁になってしまいました。
「キョン君。はい、1枚どうぞ」
「じゃあ俺からはこれを」
「……え? いいんですかこのカード?」
「ちょっとキョン! あんたイカサマしてるんじゃないでしょうね?」
「あのな、貧民と大貧民が渡すカードは最強じゃなきゃ駄目だが、富豪と大富豪が返すカード
はなんでもいいんだぞ」
「有希、そうなの?」
「大富豪は地方ごとのローカルルールが多いゲーム。彼が今言ったルールは、私の知っている
ルールと一致する」
「そうなんですか~」
「ところでハルヒ。お前、都落ちってルールは知ってるよな?」
「知ってるわ。まあ、あたしには縁の無いルールだけどね」
「ほえずらかくなよ?」
「あんたこそね!」
 ――最終結果、涼宮さんは不動の大富豪。僕は不動の大貧民でした。
 そして長門さんは最後まで平民、それはそれで凄いと思いますね。

 


SAT 12:15
『ピンポーン。――ピザのお届けにあがりました』
「お、来たか」
「……」
「楽しみです~」
「古泉君!」
 了解です。
 大貧民の務め、財布を片手に玄関の扉を開けると。
「お待たせしました、かにマヨネーズラージピザ1枚とチキングリルラージピザ1枚、セット
のポテトが二つになります。――古泉、金額は3780円だ」
 2段になったピザの箱を軽々と持った小柄な配達員は、僕の顔を見て何故か笑っていました。
 も……森さん?
「そうだ。5000円お預かりします、お釣りが1000円と、220円になります。お確か
め下さい。ご利用ありがとうございました。――パジャマのボタン、ずれてるぞ」
 営業スマイルの中に含み笑いを浮かべつつ、森さんは扉を閉めた。

 


SAT 13:30 
 食事が終わって、何故かテーブルまで片付けられ広くなった部屋の中。
「おいハルヒ、何故高校生にもなって昼寝なんぞしなくてはならんのだ」
 不満げな顔の彼に、涼宮さんは――前日に持ちこんだらしい――敷き布団を手渡す。
「寝る子は育つからよ」
 おや、長門さんの視線が朝比奈さんの胸の辺りで止まっていますね。
「今更何を育てるつもりなんだ」
「あんたのその足りない頭に決まってるでしょ? さあ! うだうだ言ってないで寝た寝た!」
 涼宮さんに押し切られて始まったお昼寝でしたが……。
 ――5分後
「しりとりしましょう」
 静かな部屋に響く涼宮さんの声、続くのはやはり
「寝るんじゃなかったのかよ」
 彼の突っ込みでした。
「じゃあしりとりの――「あ」からみくるちゃん!」
「どこに「あ」があるんだ。……っておい古泉、何を笑ってるんだ?」
 す、すみません、今のやりとりについ。
「どこが面白かったんだ?」
「あ、あ……アイス!」
「アイス食べたくなったからしりとり中止!」
「……少しは落ち着こうぜ」
 

 

SAT 16:20
 あ、そういえば夕飯はどうしましょうか?
「そうね……せっかく3人も女子がいるんだかし、また出前にしましょう」
「せっかくってのは、いったいどこを指してるんだ」
「女子が3人よ? つまり家事をしたくない人が3人居るって事じゃない」
「そうか」
 お昼はピザでしたが、何かリクエストはありますか?
「ん~みんなは何がいい?」
「カレー」
 挙手と同時に即答する長門さん。
「決まりね」
「みんなに聞くんじゃなかったのかよ」
「いいの、カレーって聞いたら口がカレーを求めちゃったんだから仕方ないじゃない」
 長門さん、頼むお店に希望はありま「カレーハウスCOCO一番屋。電話番号は短縮の1。
私は辛さ2のポークカレー特盛り。トッピングはチキンカツとチーズ。追加で、生卵を人数分
……急いで」
 メ、メモを取らせてください!

 


SAT 17:00
「……待って」
 え、なんでしょうか。
「貴方は今、生卵を手にした」
 はい。
「それを、どうするつもり」
 どうするって……カレーにかけます。
「その行為は推奨できない。せっかくのルーの味がぼやけてしまう」
「じゃあ長門。この人数分の卵はどうすればいいんだ?」
「卵はカレーではなくご飯にかけて、混ぜる。そうすればカレーその物の味を損なう事無く
辛さだけを押さえる事が可能。信じて」
 なるほど、やってみますね。
 ――結果は……僕には差が分かりませんでした。
「美味しい?」
 ええ、とても。
「そう」

 


SAT 20:00
「い~い、覗いたら殺すからね」
「安心しろ。万一覗いたとしてもお前だけは見ない」
「あたしを見なかったら殺すわよ?」
「どっちにしろ殺されるのかよ」
 そんな2人のやり取りを眺めつつお風呂に向かう朝比奈さんと長門さん。
 それにしても、本当に3人で一緒にお風呂に入るんですか? 浴室はそれ程広くなかった
と思うんですが。
「もちろん! 裸のみくるちゃんをじっくり眺めるチャンスなのよ? キョン、本当はあん
ただって本当は一緒に入りたいんでしょ?」
「す、涼宮さん?」
「コメントは差し控えさせてもらおうか」
「……あの、やっぱり順番に入りませんか?」
「みくるちゃん? お風呂の中で裸を見られるのと、ここで裸を見られるの。どっちが……
やっぱりここでじっくり見る方がいいわよね。盲点だったわ」
「わ! あの涼宮さん、せめてお風呂で? のー!」
 ……奥の部屋に移動しましょうか。
「だな」

 


SAT 20:30
「お先でした~」
 火照った顔が色っぽい朝比奈さんが戻ってきました。

 


SAT 20:40
「お先」
「あれ、ハルヒはまだなのか?」
「まだ」

 


SAT 21:00
 勢いよく開かれる和室の襖、その向こうに立つ涼宮さんの体はバスタオル一枚だけで包まれて
いて、隠されていない部分の肌は真っ赤でした。
「ずいぶん遅かったな」
 彼の言葉に、涼宮さんは何故か震えている。
「……何で来ないのよ」
「どこに」
「お風呂」
 彼女の声には、明確な怒りが含まれている。
「何しに」
「覗きによ!」
 ……流石にそれはちょっと。
「お前はそんなに俺を殺したいのか」
「このバカキョン! さっさとお風呂に行けー!」
 開かれた勢い以上の速度で襖は閉められ、柱にぶつかった反動で少し開いた隙間の向こう
では涼宮さんがペットボトルのジュースを直接口で飲ん「見るなー!」

 


SAT 21:10
「やれやれ……やっと落ち着けると思えば」
 湯気が立ち込める欲室内に、不満げな彼の声が響く。
 窮屈な思いをさせてしまってすみません。
 涼宮さんの指示により、男子2人も一緒にお風呂に入る事になってしまいました。
 それにしても、このスペースにどうやって3人が入っていたんでしょう?
 彼の入っている浴槽も僕が居る洗い場も、それ程広くはないのですが。
「なあ古泉、たまにはハルヒに逆らってみたらどうだ? 案外、あいつもそれを待ってるの
かもしれんぞ?」
 湯船の中、両手で水鉄砲を作りながら彼は退屈そうに聞いてくる。
 そうですね。
 僕の適当な返事に、彼はご不満の様だ。
 とはいえこれは理解してもらうしかないでしょう、世界の命運がかかっている以上、無難
な選択肢を選ばざるをえないのですから。
 僕の事よりも、貴方もたまには素直になってみたらどうですか?
「素直ってのはどんな意味だ」
 聞くまでもないでしょう。
 涼宮さんの気持ちに応えてあげるという意味です。
「意味がわからんね」
 そうですか? 僕には両思いにしか見えませんが。
 お互い、そろそろ素直になってもいいと思うんですけどね。
「古泉。お前、最後に視力検査を受けたのはいつだ」
 言い返してくる彼の顔は、湯気の中のせいなのか笑っている様にも見えま……あれ?
 あの、何か寒くないですか?
「後ろを見ろ」
 言われるままに振り向くと、浴室の扉は5センチほど開かれていてそこには
「……」
 す、涼宮さん?!
 床に伏せて、扉の隙間からこちらを覗いている涼宮さんの顔がありました。
「い、いつから気づいてたのよ?」
「いつからって……最初っからだ。お前、ばれてないとでも思ってたのか?」
「知ってて平気な顔でいるなんてあんたそーゆー趣味なわけ? この変態!」
 捨て台詞を残して、涼宮さんは苛立たしげに脱衣所から出て行きました。
「……なんていうか、あそこまで平然としている覗き魔ってのも凄いな」

 


SAT 22:00
「……さて、寝るか」
 そうしましょう。
 疲れた顔の彼に賛同し、僕は部屋の電気を消しました。
 隣の部屋からは涼宮さん達の声がまだ聞こえてきますが、まあそのうちお休みになる事で
しょう。
 いつもの様に振り回されっぱなしの一日でしたが……そうですね、僕にとって今日という
日は忘れられない思い出になるでしょうね。
 ただの高校生として、みなさんと過ごす。
 それは、僕の夢でもあったんですから。
「何にやけてやがる」
 襖の隙間から差す光で僕の表情は彼にも見えていたようです。迂闊でしたね、今のは素の
表情でした。
 今日という一日を振り返っていました。
「……にやけるような一日だったか?」
 ええ、それはもう。
「お前の笑いのツボってのは、俺にはよくわからん」
 仰向けになったまま器用に肩をすくめて見せる彼に、僕はまた笑った。

 


SUN 00:05
 あれ……どこに置いたかな。
「……どうしたんだ」
 起こしてしまいましたか。すみません、携帯をどこに置いたか忘れてしまって。
「電気をつけてもいいぞ」
 ありがとうございます……あれ?
「どうした」
 いえ、その……

――

「……有希? 何してるの」
 ふと目が覚めた時、隣に寝ていたはずの有希は布団には居なかった。
 何故か有希は、キョンと古泉君が寝ている部屋の襖の前に座って聞き耳を立てている。
「何か聞こえる」
 有希の小さな声で返事が返ってくる。
 その言葉に、あたしの中の面白い事センサーが振り切るような勢いで反応を示した。
 なになになになに! どんな音? 
 急いで有希の隣に這って行くと、有希は襖を指差して耳を当てるように促す。

『あれ……入らないぞ』
『もしかして。初めての経験なんですか?』
『うるさい。誰だって始めてはあるだろうが』
『僕は慣れていますので交代しましょうか?』

 ……なに? これってなんなの?
 あたしの質問に、真剣な顔をした有希は何も答えてくれなかった。
「涼宮さん、どうぞ」
 あたしと有希の間から、コップが二つそっと差し出される。驚いて振り向くと、そこには
いつになく真剣な顔のみくるちゃんが居た。
 数秒後、コップに耳を当てて襖に向かって座るあたし達の姿があったわ。

『何事も経験だ』
『では頑張ってください。ちなみに、あまり力を入れると危ないですからね』
『そうなのか?』
『ええ。ちゃんと角度が合えばすんなり入るように出来ているんです。じっくりと探して見
てください』
『わかった』

 い……いったい2人は何をしてるの? 有希、わかる?
「上手く言語化できない。情報の伝達に齟齬が発生する可能性がある」
 ああもう! じゃあみくるちゃんは?
「禁則事項です」
 なんなのよそれ? ……と、ともかく。これはじっくりと調査する必要があるわね。
「! ビデオ撮影の許可を」
 承認!
「了解した」
 有希、急いで!

『ここ……か?』
『暗くて僕にはわかりません』
『そうか。まあやってみるとしよう。――痛っ? あれ……違うのか?』
『慣れている人でも明るい場所でなければ戸惑う事が多いですからね。やはりここは僕が代
わりましょう』
『すまん、頼んだ』
『では、下になってもらえますか?』
『よし、こい……。――おい古泉、お前重いぞ』
『そうですか?』
『ああ、意外にしっかりした体をしてたんだな』
『ちょっ! あの! くすぐったいので変な所を触らないで下さい!』

「ビデオの準備完了」
 まってたわ! ……じゃあ襖を開けるわよ?
「ま、待ってください」
 どうして止めるの?
「あの……もう少し待ってからの方がいい絵が撮れると思います」
 そうなの?
「朝比奈みくるの意見に同意する。決定的な状況でなければ、誤魔化される可能性がある」
 誤魔化すって……何を?
「そ、それは……その」
「私の口からは言えない」
 なんなのよ2人とも! じゃあ、突入のタイミングは任せたからね?

『よしっ、入りました』
『もうか?』
『ええ、慣れていると言ったでしょう』
『たいしたもんだな』
『コツがあるんですよ。慣れれば誰でもすぐにできるようになります』
『面倒だからこれからはお前に任せていいか』
『ええ、僕は構いませんよ』

「今」
 有希の言葉に、あたしはそっと襖を開いた。
 真っ暗な部屋の中が少しずつ見えてきて、息を飲んで2人の姿を探していると……。
 パッ――
 真っ暗だった部屋に、突然照明の光が差す。

――

 あの、何をしているんですか?
 僕達が部屋の電球を代え終えて電気を付けた時、何故か部屋の襖は少し開かれていて、
その隙間からこちらを覗く3人の視線がありました。
「あ、あれ?」
 慌てふためく真っ赤な顔の朝比奈さん。
「……」
 何故か残念そうな顔でビデオを構えている長門さん。
「ま」
 口を開けて固まっている涼宮さん……ま?
「紛らわしい事するなー!」
 涼宮さんのその叫びは、マンション中に響き渡るのでした。

 


 パジャマ☆パーティー ~終わり~

 

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