涼宮ハルヒの奇妙な憂鬱

 

 

 

1.

 百聞は一見にしかずと昔の人は良く言ったもので、ついさっきまで車の中で俺に向かって長々と持論を浴びせてきたこの男──古泉一樹──が言った事に間違いは無かった。ここは…この世界は、物理法則が全てを支配する超常識的な俺達の世界とはかけ離れていたのだ。今目の前で起きている事実を端的に説明するとなると次のとおりだ。

 

“古泉は、赤色に鈍く光る球体に包まれ、ビルを一心不乱になぎ倒している巨人相手に空中を自在に舞いながら攻撃している”

 

 俺の生きてきた十何年もの間にこのような夢のような出来事は一切起こらなかった。…そんな出来事があって欲しいと心から願っていた時期もあるにはあったが、しかしこんな夢まぼろしな光景なんぞ、『起こりえる訳がないッ』と考えるのが正解だと既にお子様を卒業した20代目前の俺の頭は解答した。
 この常識ハズレな展開が今まさに起こっている状況で、俺は意外にも冷静だった。…冷静に考えている事は…そう、古泉が延々と喋ったうちの一部だ。

 

 “スタンド”

 

 スタンドとは生命体が持つ精神エネルギーが力を持ち、実体化したもの。各々に応じた特殊な能力を身に付けているということ。そして。

 

 全てのスタンドは “涼宮ハルヒ” が与えたものであるということ。

 

 涼宮ハルヒというは入学早々に異世界人や未来人、超能力者に宇宙人なんかを本気で招集しようとした、一言で言えばイカレた女子であり、その行動も口頭に負けぬ程の変態っぷりである。というのは半ば無理矢理に入部させられた “SOS団” などと言うハルヒの言動がそのまま反映された新生の奇天烈部にて判明したものなのだが…中学時代の涼宮ハルヒを知る同級生達の噂は全く以って鮮明で正確なものだったのだとこの時になってようやく気づいたのだ。…人間、未来を知る事が出来ればどんなに良い事だろうか。…クソッ!
 しかしだ。部活を立ち上げたのがこれだと集まる部員も部員だった。部室として強引に借りた文芸部に元々いた長門有希という女子は後に自分を宇宙人と紹介し、書道部から無理矢理拉致してきた2年生の朝比奈みくるさんとやらは後に自分の事を未来人だと言い、そして入学式からそう経っていない妙な時期に転校してきた古泉は超能力者であると自己紹介した。無論、そのような戯言なんぞ信じる気すら無かった。…今日までは。古泉は自分が超能力者であるということを今日、実証して見せたのだ。

 さてここで少し1時間前に遡ろう。古泉がしたスタンドの話は確か続きがあった。人の話を完璧に覚えられるほど俺の頭の出来は良くはないが、しかしあまりにも電波的だったその内容は未だに掠れることなく頭の中にあるのだ。

 

 「涼宮さんのスタンドとはまさに世界を “超越” したスタンドと言っていいでしょう。ありとあらゆる法則を無視し、自分の望んだものをこの世界に反映させる事ができます。そして必要が無くなれば世界ごと消してしまえる、実に神がかった能力です。…その正体とは何か?

 

…スタンド名 トウェンティ・ツー 。21を超えた者、スタンドを創り出すスタンドです。」


 古泉はこの時俺がスタンドについて理解したと仮定したうえでこう言い放ったのだ。いや、むしろ見抜かれていたのかもしれないな。長門や朝比奈さんが俺に正体を説明した時に既に聞いていた単語だったことを。

 

 自分が涼宮ハルヒによって与えられたスタンドは特定の状況下でないと発動できない特殊なスタンドだと古泉は語る。長話が終わって車から降ろされた俺がこいつに連れられて来た場所こそがその特定の状況なのだと言う。その時古泉が言った言葉を俺は聞き逃さなかった。
 「これであなたがスタンド使いなのか解ります。」

 古泉に手を引かれて一歩踏み出した瞬間、それまでそこになかった壁のようなものが俺達2人を避けて大きく裂け、不気味な空間に入り込んだのだという感覚に襲われた後あたりを確認してみると、そこはもう俺が普段見慣れた世界とは違っていた。まだ夕方で日が沈みかけていた頃だったのが、今はどうだ。空は曇りでもないのに靄が掛かったように薄暗く、夜になりきらない夕方と例えようか、とにかく異質な雰囲気の漂う世界へと変わっていたのだ。そして古泉が誘うビルの屋上に着いてから俺は目を疑った。マンガやアニメにしか存在しないような、青白い巨人が見下ろしたビルの間にひっそりと佇んでいるのである。

 「見えますか?あれが。あれが見えるなら…これも見えるはずです。」
その声に振り向くと。なんと今度は赤いガラス状のものが古泉の身体の周りで球を成すところではないか。続けてこう説明する。
 「これが僕のスタンド、僕に与えられたスタンド。名前は ケイク・アンド・ソドミー です。詳しい説明はまた後で。」
そう言うと青白い巨人めがけて重力を完全に無視し、一直線に飛んでいったのだ。そして話は冒頭に戻る。

 

 その青白い巨人とは何か?結論から言えばこれもまたスタンドなのだという。さらに詳しく言えば主を与えられなかったがために暴走して独り歩きしてしまったスタンド。
「名前はゴッド・ブレス・ザ・チャイルド。僕は個人的に “神人” と呼んでいますがね。独り歩きしてしまった哀れなスタンドです……。あれに与えられた能力とは見ていただいた通りの、単なる破壊だけではありません。頭の中でサンドバックを殴るように、誰も見ていないところでクッションを殴るように、…あれを誰にも迷惑のかからないこの空間でのみ暴れられるよう、僕達の世界から放逐したのです。
…いえ、そう設定したのでしょう。つまり元の世界と異なるこの世界とは神人が能力によって創りだしたもので、丁度さっき通った壁もスタンドによるものですよ。」


 古泉はいとも容易く、その神人とやらを倒してみせた。神人が完全に崩れ落ちるのを見届けた後舞い戻ってきたのはいいが、俺が聞きもしないうちから説明を始めるのはこいつの癖なのだろうか。
「そして僕のスタンド、ケイク・アンド・ソドミーは一言で言えばスタンドの攻撃を “跳ね返す” スタンドなんです。スタンドによる壁があるならば抗力だけでこれを壊せますし、スタンドが攻撃してきたならば立ち向かうだけで圧倒できます。」

 

「正直、衝撃的な出来事が多すぎて良く把握できないが…とにかくお前のスタンドとやらは余程凄いということでいいのか。」

 古泉は意外な回答をした。
「ええ、凄く面倒なスタンドですよ。あまりにも不完全過ぎて今回のような場面で無ければまともに扱えませんから。」

 さらなる説明によれば、ケイク・アンド・ソドミーとはスタンドに対して病的に防衛的なスタンドであり、発現させるのに敵の攻撃を待たなければならないこと、そしてスタンドの攻撃以外には無力である、ということがその究極の不完全さの理由であるとの事。まず敵スタンドが正体を曝け出し、真っ向から近づいてきて殴りかかってくる事などまず起こりえないという点、そしてスタンドの腕力で投げられた瓦礫などを防ぐことが不可能なのでその時点で完全に敗北が決定するという点。その2点だ。

「敵スタンド…と言ったな。俺にお前の弱点をベラベラと喋ってしまってもいいのか?俺はこの先、お前の敵スタンドとやらに接触するかもしれないんだぜ?」

 

「正確には敵スタンド使い、ですね。…それはともかく。こうして僕の手の内を包み隠さず喋ったのは、僕があなたの敵ではない、ということを理解して欲しかったからです。この先、敵であるにもかかわらず、自分の事を味方だのと紹介するスタンド使いが現れるやも知れませんから。」
 それをわざわざ俺に言ってどうなる。
「まだ、解りませんか?あの壁が視えたこと、あの巨人が視えたこと、そして僕のケイク・アンド・ソドミーが視えたこと……。スタンドはスタンド使いにしか視認出来ません。」

 …俺が……スタンド使い。

「一つ、説明が抜けていましたね。スタンド使い同士は惹かれあうという事を……。」

 

 その時だった。この異質な世界を保つためにあった壁が割れる音が響き渡ったのは。
 ……その破片が古泉の頭にクリーンヒットしたのは。

 

「古泉…。お前の防御のスタンド…今少しの時間、解除しないでかぶってりゃあ良かったのにな…。」

 

 

 

【古泉一樹:ケイク・アンド・ソドミー:装甲型(現時点)】
 破壊力-∞(E) スピード-A 射程距離-なし
 持続力-B 精密動作性-A 成長性-A
 能力:触れたスタンドの攻撃に自身の攻撃力を加算して跳ね返す。

     よって、必ず攻撃力を上回ることになる。
     ①跳ね返せるのはスタンド、スタンド攻撃のみであり、飛散した瓦礫などには極めて無力。
     ②装甲型で射程距離が無いために、自分の身ごと敵に接触する必要があるのがネック。
     ③スタンドの性質は「防衛」であり、敵に攻撃されて始めて発動できるスタンド。
 ダメージのフィードバック:スタンドの攻撃に対しては無敵。スタンド以外の攻撃には無力。

 

 

 

【本体不明:ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド(神人):独り歩き型】
 破壊力-S スピード-B 射程距離-10m
 持続力-∞(ハルヒの精神状態による)
 精密動作性-C 成長性-D
 能力:命令を与えられていないがためにただ暴れまわるだけのスタンド。
     無意識的な能力として自身の周囲に自己の世界を構築するための壁を張る。
     本来の世界には干渉させないようにしようとしたハルヒの心理が与えた唯一の能力。
     ただし現在その抑制力もかなり不安定なようで、

     発現した後に野放しにしておくと壁を拡大させて世界を入れ替えてしまうという。
     かなり単純な構造のスタンドであり、

     倒す事が出来たとしてもまた新たに発生する事がある厄介なスタンド。

 

 

 

【涼宮ハルヒ:トウェンティ・ツー:型不明】
 能力:スタンドを創るスタンド。

     詳細不明。

 

 

 

2.

 その後の話を語ろう。

 

 何時の間にか用意されていた車に載って、来た道を戻る事数十分。その間に俺は古泉からのさらなるスタンドの説明にしばらく耳を傾けていた。これがこの会話だけであったなら俺はあっという間に夢の世界へと旅立っていただろうが、実際この眼球でスタンド対スタンドの戦闘の一部始終を見た後では考え方も変わるッてもんだ。そうして家に着いた後はテレビも風呂も無視して真っ直ぐ自分の部屋を目指した。俺もあんなスタンドを使えるのなら、是非とも使ってみたい。その時考えていた事はただそれだけだったのだ。

 結論を言おう、からっきし駄目だった。あらゆるポーズを、あらゆる精神統一を、あらゆる掛け声を発してみたものの、何分経ってもスタンドが現れる気配は無い。奇声に反応して現れたのは妹だけだ。その哀れみの眼差しはこれまで生きてきた中で初めて見るものだったように思う。全く、古泉の奴もなんていい加減な事を抜かしやがる。スタンドが見えるからスタンド使いだと?そしてスタンド使い同士は惹かれあうだと?さらにはそれが味方であるとは限らないだと?…実にふざけている。スタンドの出せないスタンド使いが敵スタンド使いに遭遇した時にはどうなるか。言うまでも無い、避けられぬ “死” だ。

 やり場の無い怒りをどこへぶつけるでもなく、ベッドに横になってみる。物に当たったって何も解決しないって事はこの歳にもなれば嫌でも解るからさ。

「そういえば、こうして寝転がってる時にここで長門に借りた本の中から栞を見つけたんだよな…」

 長門有希。大人しい元文芸部員。その正体は涼宮ハルヒを観察する対有機生命体…ナントカって言ったっけ。俺を栞による伝言で自宅に呼び出し、古泉に負けぬくらいの電波話を始めた張本人。古泉の話が与太話ではないって事が理解できた今、長門の電波話も理解でき始めているのは事実。その話の中で聞いたアレは…アレはもしかすると、長門のスタンドの名前ではないのだろうか。

 

“……私という個体に情報統合思念体から分け与えられたスタンド、アーティチュードの力を以ってしても涼宮ハルヒ本人に気取られる事無く完璧に観察し続けるのは容易では無かった……。でも、あなたが涼宮ハルヒに部活の立ち上げを促した。その結果、我々が思い描いていた形から外れる事になった。……現在は観察に支障は無し。むしろ至近距離での観察が容易なものとなり、好都合。感謝している。”

 覚えている部分は大体このくらいだな。スタンドとは、そしてアーティチュードとは一体何なんだ、と聞けば長門は
「いずれ解る」
 とだけ返してきやがった。…たしかに “いずれ” 解ってしまったが。

 長門も古泉と同じスタンド使い…。わざわざ自分の手の内を紹介してきた古泉が俺の味方だと言い張るように、長門もまた俺の味方であるということを主張したかったのではないだろうか。それがあの小一時間に及ぶ話の本当の意味なのだろう。

 しかし、そうすると一つ理解できない点が出てくる。古泉は俺がスタンド使いであるかを同行中から見極めた訳だが、長門は俺がスタンド使いであるかどうかを何一つ確認しなかったのだ。まるで、既に解っていたかのように。

 と、いろいろ考えていると俺がスタンドの出せないスタンド使いだってことをまた思い出してしまった。…やれやれだ。古泉は敵の襲来があるかもしれないと言っていたが…。この状況、ハッキリ言おう。どうにもならん。大体な、敵だのなんだのと言ってもそれが俺の生命の危機に関わるようなものではないだろう。俺達まだ高校生になったばかりだぜ?一体誰の恨みを買ったって言うんだ。仮に買ったとしても、それが殺したい程に昇華しちまった奴が近くにいるって言うのか?ないない、ないね。全く、無駄に脅かすなよ。

 

 しかし、そんなお気楽な考えはこの世界の扉を開けた後では全く通用しないと言う事を、俺は次の日まで知る由が無かった。

 

 その日、俺がまず向かったのは古泉の元だった。こいつは自信満々に俺をスタンド使いだと言い放ったのだ。しかし事実はどうだ?俺のもとには現れてくれるスタンドなんか蚊程もいないぜ。それとも何か?俺のスタンドは妹に哀れみの目で見られるってのが能力なのか?

「あなたが昨夜どれだけ張りきっていたのかは知りませんが、本来スタンドとは僕が最初に説明した通り、その人の精神力の表れなのです。それ以上でも以下でもありません。涼宮さんのスタンドは確かにスタンドを与えるスタンドです。が、その対象の精神力がスタンドに伴っていなければ、それは眠るか、暴走するか、独り歩きするかのいずれかになるのです。昨日の神人のようにね。あなたの場合は…恐らくまだ目覚めていない状態なのでしょう。だからスタンドを出す事ができない。ですが、むしろこの状態は好都合なんですよ。」

 

 何故好都合なんだと聞いてやったら更にこう説明を続けた。
「涼宮さんは、自分がスタンド使いであることに気づいていないようなんです。…それもそのはず、涼宮さんのスタンド、トウェンティ・ツーは遠隔自動操縦型であり、更に知性さえ持ち合わせているのです。いつもどこにいるのか全く見当が付きませんが、トウェンティ・ツーは自分の意思で涼宮さんから離れた場所で力を振るっている訳なんです。」

「ん…?それは独り歩きって奴とは違うものなのか?」

「非常に似通っていますが…トウェンティ・ツーは“スタンドを創る”能力を、涼宮さんの願望どおりに発動している点から、あれは独り歩きとはまた別物と考えていいでしょう。…さて話を戻します。つまり、涼宮さんは今に至るまで自分自身のスタンドを視認していないのです。また同時に、この為に世界は無事でいられると言えますね。これは僕の仮説ですが、涼宮さんの深層心理が100%反映されたスタンドであるがために、どこかで自己を制限するように創られたのではないでしょうか。」

 仮にもし、涼宮が自分の事をスタンド使いだと、そしてその能力がどんな能力でも新たに創る事の出来るものだと知っていたら世界は既に涼宮が望んだファンタジーやメルヘンな世界に変貌していただろう、と古泉は説明した。

「そこで僕達はまず、次の一点に気を付けなければなりません。…涼宮さんの目の前で絶対にスタンドを出さない事。」

 成る程、確かにそうなるな。形はどうあれ涼宮も列記としたスタンド使いである事は間違いない。ならばスタンドを認識=自分がスタンド使いである事を理解した時点で世界はグラリと形を変える。

「ですから、あなたがスタンドを出す事が出来ない状況というのはむしろ良い事なんです。敵スタンド使いにもあなたがスタンド使いだと気づかれにくいでしょうしね。」

 しかしスタンド使い同士は惹かれ合う、という点だけ注意を怠ってはならない。古泉がそう付け加えたところで丁度始業のチャイムが鳴り響き、俺達は向かうべき場所、つまりそれぞれの教室へと戻っていった。俺自身のスタンドについてはひとまず置いておこう。眠っている奴を無理矢理起こせば面倒になるってのは現実世界では良くあることだ。それに則り、対スタンドにおいても無理矢理起こしてやるより自分から起きるのを待ったほうが良いはずだ。いや、決して俺のスタンドの性格が俺と同じく寝起きの悪い奴だと考えているわけではないぞ。

 さてそれよりも今はもう一つの気になる事があった。それは古泉に用意しておいた文句をぶつける前。
学校に到着して校内を動き回る為にまずすることといえばそう、靴の履き替えだ。その時俺が下駄箱の中に見つけたもの、それは一通の手紙だったのだ。中を開けてみれば予想通りの文面、わざわざ放課後なんて時間指定までして俺に会いたい人がいるらしい。
 何故もこれほど淡々と説明しているかだって?理由は簡単。
俺が、モテない人間にカテゴライズされていると、自覚しているからだ。なればこの手紙は悪戯である可能性が極めて高い。浮かれてスキップでこの指定された場所であるここ、つまりこの教室にやってきたものなら待ってましたとばかりに写真に撮られるハメになるだろう。それを平気でやるのは…恐らくあの谷口と国木田か。この手紙を無視する訳にはいかないが、是非とも第六感をフル稼働させて身に降りかかることに対処しなければ。入学早々歩くお花畑なんてあだ名に変えられたくも無いしな。それならばまだキョンと呼ばれるほうがマシッてもんだろう。等と考えつつ、ついにその時間がやってきてしまった。


 SOS団などと言う俺がいてもいなくても変わらないような、特に何をする訳でもないような、そもそも部活としての意味が見出せないような、そんな部活が終わった今、決心して俺は教室の前に立ち、呼吸を整えた後一気にドアを開けた。
そこで待っていたのはクラス一の美人と認めてやっても良く、さらには性格まで美貌に伴った谷口曰くAA+とランク付けされるクラス委員長、朝倉だった。

 正直もう既に話など耳に入っていなかった。前置きが幾らあろうと無かろうと、俺を嵌める為に呼び出したのならいずれ告白タイムが始まる。勿論偽りのだがな。俺がすべき事はただ一点。朝倉に悪事を唆した張本人、恐らくこの教室に潜んでいる谷口か国木田の存在を露にする事だ。どこだ、どこにいる…?幾ら馬鹿でも掃除用具入れの中なんてありきたりな場所にはいるまい。…そう理論立てている時だった。
 妙な事に気づいた。朝倉の長々とした前置きはどうにもこの場所、この状況には不似合いなのだ。適当にしか聞いていなかったが、涼宮についてどう思ってるかなんて言って話し始めたかと思えば、人間の行動心理について聞いたり、距離を置いた場所から経済について説いてみたりと、まるで自分が人類の観察者のつもりであるかのように話しているようだ。そんなことに気づけたのはやはり…四六時中思い浮かべたくも無いが、古泉のせいか。

 

 スタンド使いは惹かれあう…もしや。

 

 ついには組織がどうの、上がどうのと頓珍漢な事を喋りだし、ああ、これは確実に普通じゃないなと思った次の瞬間耳に飛び込んできたその言葉を俺はしっかりと聞き取った。

 「あなたを殺して、涼宮ハルヒの出方を見る。」
 ありのまま今起こった事を話そう。その言葉を発したかと思ったら次の瞬間ナイフを手にした朝倉が俺の胸を目掛けて飛び込んできた。何を言っているのか理解できないとは思うが、俺もこんなことをされるとは思っていなかった。

 

 危機一髪。昨日の一件があるまでの俺ならば確実にその刃は心臓に付き立てられていた事だろうな。
そうならなかったのはこの教室に入ってから今まで警戒を怠らなかった為だ。…しかしこの後はどうする。
今の初撃は避けられたとはいえ、状況は1ミリすら良くなってなどいない。バランスを崩して派手に転んだ朝倉は何事も無かったかのように立ち上がり、再度俺の方に身を向けて完全にロックオンしている。
 こういう絶体絶命の状況に陥った場合、次に何をすればいいのか?俺は解っている。俺が親父に教えられた唯一つの、我が家系の伝統的な戦いの発想法。それは…

 

 逃げる、だ!!

 

 「無駄よ。」
 さっき通ってきた入り口はあろうことか、明らかに地球上には無い物で塞がれてしまっている。触るとダメージはないが、とにかく“反発”する力だけを備えた壁のようだ。

 「何も知らないあなたに何を説明しても時間の無駄だけど、どうせ最期だから教えてあげるわ。今のはアーティチュードによる情報改竄能力。これで入り口の座標に“反発する壁”を書き込んだの。その結果がこれよ。」

 「何?アーティチュードは長門のスタンド……あっ!しまった!」
 なんてことだ。黙っていれば俺がスタンド使いであることを気づかれずに済んだのに。…いやまて、この状況で俺の能力からすれば知られても知られなくても同じか。…というのは全くの見当違いだった。俺がスタンド使いである事を朝倉は知ってしまった。その為朝倉は一瞬で俺から距離をとった。

 「あなたも…スタンド使いだったとはね。気づかずに返り討ちを喰らうところだったわ、危ない危ない。」
 そうだ。スタンドを自分の意思で出せないとはいえ、それさえ相手に知られなければブラフが通る。これはチャンスだ。

 「チッ。もう少しで巧くいくところだったんだがな。」
 とさらにハッタリを掛けてみる、するとどうだ。さっきまで俺を殺そうと躍起になっていた少女は罠に掛かったネズミのように戦意を無くしている。
まず俺の能力をどうやって見極めてやろうかなどと考えているのだろうな。そんな大層な能力、さらっさら無いんだが。さあて、次はどんな大層な能力名でも言って惑わせてやろうか。…そう考えていると。

 「…へぇ、…なぁんだ。あなた、まだ自分のスタンドが目覚めてないスタンド使いだったのね。無駄に気張って損しちゃった。」

 

 例えるなら悪戯が母親にばれてしまった餓鬼の心情といったところか。完全に図星を突かれた俺は一瞬よろめきそうになった。
 「なっ、何を根拠にそんな事を!」

 「う・し・ろ。」

 振り返ってみるとそこにいたのは。ドレッドのヘアスタイルのようにコイル状の鋼鉄の束が頭部に張り付いたような出で立ちのクリーチャー。その目元はさながら照準器のようだ。そして腕を組み、ただ観察だけしているだけのような…これはスタンド!しかしどういうことだ?スタンドは基本的に一人一能力のはず。
涼宮のスタンドが幾ら万能なスタンド製造機だとしても、そのルールは曲げられないと聞いたが。

 「アーティチュードは私を“創りあげた”スタンド。私達インターフェースはアーティチュードと共にあるの。融合体と言えば理解できるかしら?…厳密にはちょっと違うんだけどね。私たちはアーティチュードを自己の能力として振舞える。…でもそれは本来の持ち主以下に制限がかかるから私にとっては“使えない”の。

…そこで私が“自分のスタンドを手に入れるための起爆剤として一度アーティチュードを捨て去って得た”のがこのスタンド。名前はシャッフルデイズよ。私はあなたのように人を騙すのは得意じゃないから、正直に教えてあげるわ。シャッフルデイズの能力は相手のコピー。一度捨てたアーティチュードの能力は使えなくなる代わりに、姿、性格、そして精神をそれぞれ個別にコピーできるの。どうしてこんな学校にこんな性格の良い、美人がいると思う?…全てはあなたに近づき易くするためよ。」

 成る程出来すぎていると思った。朝倉のような普段真面目で成績優秀で気の利く美人(谷口基準でAA+)がこんなパッとしない学校に来るはずが無い。近くにある進学校に余裕で入学できるレベルなのだから。

 「そしてこの、精神のコピーこそがシャッフルデイズの最高の能力。精神を知る事、それはつまりその人自身となる事と同義。その人が考えている事は全て筒抜けって事。例えば…あなたがあの子に対して少なからず好意を持っていることもね。クスクス。」

 くっ、あの子って誰だよ、なんて突っ込んでやりたいがそれも全て筒抜けだと考えると言い返す気力も削がれる。なんせ打開の案すらバレバレなのだから何かを考える事すら朝倉が言うとおり、“無駄”になる。クソッ、腹の立つ言葉だな。
 朝倉は、朝、顔を洗った後寝癖を直すように、靴を履くときに靴べらで足を宛がうように、極自然な動作でナイフを構えなおし、今度こそ俺を殺そうと飛び掛ってきた。

 

 三択──ひとつだけ選びなさい

 ①ハンサムなキョンは突如アイディアがひらめく
 ②仲間が来て助けてくれる
 ③かわせない。現実は非情である

 

 「③よ。負けて死になさい!」

 

 

 

 死ぬ寸前には全ての動作がスローに見えると聞いたことがある。ナイフを突き立てられて絶命するまでの時間が何十倍にも引き延ばされて、苦痛も同じように何十倍にも膨れ上がる。だからこそ俺は目を固く瞑った。自分の死は死ぬ瞬間まで実感したくなかったからだ。ああ、俺は死ぬのか…まだまだ青春時代を充分に満喫できちゃいないというのに。…父さん、母さん、そして妹よ、すまん。

 しかしいつまでたっても俺の身体を貫くはずのナイフの感触が無い。こっちは断末魔の叫びの一つや二つくらいは用意していたと言うのに。…と、こんな状況でいつまでも冷静ぶるのもやめていいだろう。スローな世界が徐々に速度を取り戻した頃、俺は自分が生きているのか死んでしまったのかを確かめるために、
ついに目を見開いた。

 

 答え ―② 答え② 答え②

 

 「な…がと?」
 そこにいたのは元文芸部員、現SOS団員、そして正体は宇宙人の長門有希であった。そしてその20mほど向こうには顔を思いっきり殴られたシャッフルデイズと朝倉がぶっ倒れている。

 「…せっかく貸し与えられたアーティチュードも、使い方が荒ければ大きく痕跡を残す、だから私に気づかれる。ならば初めからアーティチュードを用いる必要は無い。なぜなら物理的な手法の延長上でしか無いから。私へも与えられたアーティチュードによって容易に解除できる。…あなたの限界は所詮こんなもの。
私のバックアップでしかないあなたには無理な細工。」
 ダメージが足に来ているのか、がくがくと震えながら立ち上がる朝倉。アーティチュードについてようやく解ってきた…アーティチュードとはこいつらの親玉のスタンドってことだ。しかし朝倉はそれを自分用に作り直した、シャッフルデイズへとスタンドを作り変えている。いくら長門がアーティチュードの扱いに長けていると言っても…!
 「長門、気をつけろ!朝倉はアーティチュードとやらを作り変えた、“コピーする”スタンドを持ってるんだ。触れられたら最後、姿や性格のコピーはどうでもいいとして、精神をコピーされて思考が全部読み取られてしまう!そうなったら勝ち目は薄い!」

 「……理解。そしてその能力は一度消去しなければ新たなコピーが不可能、という制限があると推測。でなければあなたの発言を邪魔している筈。」

 「いらない勘違いは避けて欲しいものね。私がキョン君の語りを放っておいたのは、どのみち息の根を止める事になるからよ。…順番が狂っちゃったけどね!」
 そう言うと同時に間合いを取って、どこから出したのか大量にナイフを長門目掛けて投げてきやがった。
 「長門!!」

 その俺の声は激しい金属音によってかき消された。俺の心配は無碍に終わったようだ。長門は涼しい顔で全てのナイフを弾き返しているのだ。朝倉は人間離れした動きで翻弄しながら絶え間なくナイフを投げ続け、長門はその人間離れした手の速さで全てのナイフを叩き落す。その光景を見て、ああ、この二人は確かに人間ではないのだなと心から感じた。


 しかし拮抗していたように見えた戦いの空気が一瞬にして変わる。長門が急に振り向いたと思ったら俺を蹴り飛ばし、
 「なッ、何をする…」
 その瞬間俺が元々いた場所には無数のナイフが降り注いだ。そう、朝倉は無力な俺を狙う事こそ最良の方法だと気づいたのだ。その思惑は正しかった。俺に降るナイフから護る為には長門は迎撃する機会を完全に失う事になる。結果、スタミナが続く限りナイフを止め続ける羽目になるのだ。

 「長門…もう、いいよ…」
 俺が、俺さえいなければ、こんな荷物が無ければ、長門は勝つ事も難しくなかっただろう。しかし今はどうだ、避け切れなかったナイフが長門の身体を切り刻み、辺りには血だまりが幾つも出来ている。
 「問題ない。」
 とは言うものの、その言葉と苦悶の表情とは全く結びつかない。

 「ダメ押しにもう一本。」
 あらゆるものを書き換える能力、アーティチュード。無数のナイフを作り出すだけが能では無かった。朝倉が最後に選んだ武器、それは杭だった。かつてイエス・キリストの死刑に使われたものより遥かに大きく、まるで電信柱を持ってきてそのまま突き刺したような光景が目の前に広がった。その刺された対象とは誰か?それは言うまでも無い事だ…。

 「あっははは!邪魔者はこれで消えたわ!…さぁてキョン君、あなたも長門有希の後をすぐに追わせてあげるからね?」

 万事休す。絶体絶命。対抗できる力は朝倉の前に散った。これが運命だとしたら、俺は何の為に生まれてきたのだ。死ぬために生きるとはどっかの偉い奴が言った言葉だが、それは結局のところ人生に充分満足した人間が発した言葉にすぎず、本来生きられるであるはずの時間から3/4がマイナスされてしまう俺にはそんな言葉なんぞ理解したくも無い。しかし目の前にある現実はなんだ。ナイフを量産する朝倉、一切スタンドを出せない俺。そして長門は杭に貫かれて……いない!?

 

 「名づけるならば……コズミック・トラベル……あらゆるものを“強化”するスタンド……このナイフの「切れ味」を強化した……」

 

 朝倉のシャッフルデイズの全体的に黒を基調としたカラーリングに対し、長門のコズミック・トラベルは白銀を基調とし、キャップを深く被った中に見える眼光は非常に鋭い。ジャンパーを羽織ったアーティストをモチーフとした筋骨隆々のスタンド、それがコズミック・トラベルだ。
 その手に持つナイフは絹を引き裂くかのように、竹を割るかのように、鉄杭を真っ二つに裂き長門の身体を貫かせなかった。

 

 「へぇ…あなたも“自分の”スタンドに目覚めたのね…見た限りではたった今、奇跡的に発現しましたって感じね!そんな軟弱なスタンド、私の敵ではないわ!」

 しかし朝倉の指摘は間違いだった。

 「……硬性を強化。あなたのナイフはこの木製の机にすら刺さらない。」
 そう言って机を盾にするだけで雨の如きナイフの嵐は机に弾かれて山積みになっていく。

 「ルーキーの癖に生意気よ。これならどう?」
 またも鉄杭を作りだし、軽く投げ飛ばす朝倉。

 「血中に含まれる塩分の金属腐食効果を強化。」
 長門はそう言うと腕から滴り落ちていた血液の雫を飛んでくる鉄杭に向かって浴びせる。するとどうだ、
巨大な鉄柱は極小隕石が地表に到達することなく燃え尽きるように、長門の目の前ギリギリで鉄の粉と化して消えていったのだ。

 しかし。

 

 「発想はまずまず。でも残念、そっちは囮。」
安心したのも束の間、朝倉の急接近を許してしまった長門は朝倉のスタンドに掴まえられてしまった。コピーするスタンド、シャッフルデイズに。

 「全てはこの一瞬の為だったのよ!私のオリジナル、長門有希!!…フフフ、あなたのスタンドに滲み出ている強大な精神力、それをコピーすることで私はあなたを上回れる!…シャッフルデイズの完成によってね!」

 「なに…を……」
 首根っこを掴んだまま持ち上げるシャッフルデイズの身体が眩く光る。長門のコズミック・トラベルがこれをやっとのことで弾き飛ばした頃には。

 

 ソレは、完成していた…。

 

 

 

 「うふふ…シャッフルデイズPt.2と名づけるわ。長門有希!あなたによって完成されたこのスタンドに最早欠点は存在しないわ!この“スタンドをコピーする”スタンドにはね!!」

 

 スタンドとは精神力の顕れであり、その大きさに伴った能力を持つ。ひょっとしたら朝倉のスタンドは元々此れほどまでに多様なコピーを可能とする能力を持っていなかったのではないだろうか。精神力を更新してはスタンドを際限なく進化させ、その末出来上がったのが…今俺の瞳に移る漆黒のコズミック・トラベルなのだ。完成したシャッフルデイズ、いやシャッフルデイズPt.2はあろうことか、コズミック・トラベルそのものに形態を変化させた。それが形容ごときの模写ではないって事は容易に解ってしまった。

 朝倉のコズミック・トラベルと長門のコズミック・トラベルが対峙する。武器の強化は防具の強化により結局同条件のために拮抗してしまい、勝負が付かないからあえて自己のスタンド同士を戦わせる事を選んだのだろう。単純に身体能力を強化すれば後はスタンドの純粋な性能差で勝負が決まる。これこそが、戦闘能力として成長前のアーティチュードに劣るシャッフルデイズの妥当であり正当なスタンドバトルなのだ…。

 先に動いたのは朝倉だった。一動作ごとに「無駄」と言い捨てながら猛ラッシュを浴びせる。これに対し長門は冷静に受け流して対処する。ああ、嫌な予感はしていたともさ。もしも朝倉のシャッフルデイズのコピー能力が、自己に対しての上書きではなく貼り付けだったとしたら?…もしそうならコズミック・トラベルのパワーを1とすると、シャッフルデイズがいくらパワーがなかろうとかならず1を超過する。つまり同じ能力、同じ攻撃方法である時点でパワーが下回る長門のスタンドには勝ち目がないのだ。
 それが確証されたのは長門がスタンドもろとも吹っ飛ばされた時だ。

 「長門ッ!」
異質な空間に響き渡る叫び声に返事をするかのように体勢を立て直す長門。
 「長門!やっぱり朝倉の能力は…」
駆け寄ろうとした俺を長門は黙って右手で制した。

 「朝倉涼子のスタンド、シャッフルデイズPt2はコピーした情報を、コートを着るかのように貼り付ける。それを今の攻防で理解した。」
その通りだ。だからこそこのままでは俺達に勝ち目は…無い。

 「理解が早いのは結構。でも解決に繋がらせられないんじゃあ、…無駄よねぇ。」
そう言いながら新たにナイフを構える朝倉。
 「あなたはあなたのスタンドで殺してあげる。もちろん直接切り刻んであげるわ。
だって、あなたのスタンドでこのナイフがどれだけ殺傷能力を強化できたのか楽しみで、ただ投げつけて終わりだなんて勿体無さすぎるわ。」
最早快楽殺人鬼のような笑顔しかそこには残っていなかった。

 「じゃあ、死んで。」

 

 長門を助けようと必死に足を動かそうとしても全く動かなかった。それは朝倉の表情からの、生まれて初めて感じた、吐き気を催すような邪悪が俺を蝕んだからだ。情けない事に、大の大人直前、しかも男という性別にある俺はただ、ナイフが長門の身体に刺さるのを見届けるしかなかったのだ。

 

 しかし凶刃が長門の身体に突き立てられてからもただただ滑稽な姿を晒していたかと言えばそうではない。それ以前に、この大惨事は回避されたのだから。…結論を言ってしまおう。

 

 “さっきまでそこにいた長門の姿は幻影だった。”

 

 「なっ…?!一体どうやって幻を?何故あなたが私の背後にいる!?何故私は身動きが取れないのよおおおおおっ!!!」
尋常ではない朝倉の呻きにも似た叫びに、長門はこう答えた。
 「私のバックアップであるあなたがこれしきの事を自分の演算処理能力で解けないなんて、ただ愚かさを誇張しているだけだとは思わない?」
 「くっ…質問に質問で返すなんて低脳な人間のやることよ。」
もうただの罵倒にしか聞こえないが。

 「……質問には答える。まずはあなたが私と誤認した幻影の正体。私は眼鏡のレンズにコズミック・トラベルを使い、“集光度”を強化した。……それはまるでスクリーンに映像を投影するように、砂埃の舞い上がる空間に私の姿を映し出すのは非常に容易だった。レンズはあの時あなたがいた場所に設置した
。あなたを焦点にちょうど同じ距離後ろに私がいた。それにすら気づかないのはあなたが自分の力に酔っていたから。これが今あなたの背後を取っている理由。そしてあなたが動けない理由は…。」
長門が指差す方向にあった朝倉のスタンド、コズミック・トラベルをコピーしたシャッフルデイズの容姿は微妙に変わっていた。
 「私のスタンドは自分自身を強化する事は出来ない。しかしコピーされたスタンドならば…?」
成る程、これはコズミック・トラベルから進化した新たなスタンドなのか!
 「そう。名づけるならば“サイコ・トラベル”。朝倉涼子は私のスタンドの取扱い方法を、コピーの段階で手に入れてはいるが、この私さえ知らないサイコ・トラベルの取扱い方法は持ち得ていない。だから動かせない。」

 「シ…シャッフルデイズッ!コピーを解除しなさ…」
 「遅い。」
哀れ、朝倉はスタンドと共に殴り飛ばされていた。

 「げほっ、長門有希!ただそれだけの事で私に勝てると思うなッ…!!解除してしまえばこれしきの事!」


 「あなたの敗因は3つ。インターフェースならば誰でも扱えるアーティチュードで罠を張った事。私に劣る演算能力で私に勝負を挑んできた事。そして最後に…

 

…あなたは私を怒らせた。」

 

 朝倉はようやくスタンドを解放して反撃準備をするが、コズミック・トラベルの容赦ないラッシュには無意味だった。

 

 『アァアラララララララララララララララララララララララララアアアァァーーー!!!』


 コズミック・トラベルが繰り出す拳は正確に朝倉の顔を、身体を、そしてスタンドを殴りつける。やがて戦意の欠片すら無くなった朝倉は足元から光の泡となって消えていく。

 「よ、良かった…わね、キョン君…。長門、さんのおかげで…命拾いして。でもこれで終わった訳じゃないわ……長門さんだって…私のように考え方を“改める”時が…来るかもしれない。…情報統合思念体に創られた存在である限り…。」
 朝倉は最後にそういい残し、やがて完全に消滅した。

 「……完了。」
という言葉と同時に倒れる衝撃音。
 「長門ッ!大丈夫か!?」
今度こそ長門の元へ駆け寄ることができた。長門の身体には朝倉の容赦ないナイフの雨により痛々しい程に傷が付けられている。
 「この怪我…」
 「私の身体の修復は後回し。先にこの部屋を元に戻す。」
そう言うと身動き一つせずコズミック・トラベルを戻したかと思ったら、教室が異質な世界に変わっていった過程を逆再生するかのように元通りに戻っていったのだ。…コズミック・トラベルを出している間はアーティチュードを使えない、だから一旦コズミック・トラベルを仕舞った。これは紛れもなくアーティチュードによるもの。能力は…“物質を別の物質に作り変える”…なのか?
 「身体の修復ってのも、そのアーティチュードがやってくれるのか?」
抱き起こした長門は一言、
 「そう。」
とだけ言ったのだが、すぐに何かに気づいたようで、何やら顔をぺたぺたと触って確認している。

 「どうした?」
 「…眼鏡の再構成を忘れた。」
ああ、朝倉戦で投影機代わりに使ったあの眼鏡か。この教室が元通りになる時に巻き込まれたのだろう。
 「してない方が可愛いと思うぞ。俺、眼鏡属性なんて無いし。」
 「…メガネゾクセイとは何の能力?」
 「妄言だ。なんでもない、気にしないでくれ。」
 「…そう。」

丁度その時だった。まるで漫画のような絶妙なタイミングでこの教室に侵入してくる生徒がいるとはッ…。
 「WAッWAッWAッ忘れ物~ッ………なッ!?」
…谷口だ。…そして俺と、俺が抱きかかえる長門の姿を見てから一言。
 「……………すまんッ!ごゆっくり~~~ッ!!!」
……十中八九、逢引の現場と誤認して去っていきやがったな…いや、この状況を見れば、そう考えるのも当然だろう。誰だってそー思う。俺もそー思う。

 「はぁ~あ、どうすっかな…これから。」
 「問題ない。あの男子生徒はスタンド使いではない。」
いや、そういう意味ではなく。
 「朝倉涼子の事なら私が対処しておく。」
…もういいや。

 

 

 

【情報統合思念体:アーティチュード:遠隔自動操縦型】
 破壊力-なし スピード-なし 射程距離-∞
 持続力-∞ 精密動作性-A 成長性-E(完成)
 能力:あらゆる情報を書き換える。
     ①原子情報を書き換えれば全く異なる物質すら作り出すことが可能。
     ②情報統合思念体とはこのスタンド能力によって生み出され、存在させられている。

       故にスタンド体でもある。
     ③同様の手段でTFEIを数体創り、能力を貸し与え、

       涼宮ハルヒの観察のために地球に送り込んだが、
       このせいでスタンドエネルギーをかなり消費してしまった。

       (それでもその他の有機物の創造と情報改竄がこれ以上出来なくなるだけの制限。)
       これによりTFEIに貸し与えられた能力も本来のものより性能が落ちる。

       (その際スタンド像は現れない。)
     ④情報統合思念体の目的は成長性の閉塞を解消する事である。
ダメージのフィードバック:なし

 

 

 

【朝倉涼子:シャッフルデイズ:中距離型】
シャッフルデイズ(Pt.1)
 破壊力-C スピード-C 射程距離-30m
 持続力-C 精密動作性-E 成長性-A
 能力:触れた相手の精神、性格、容姿をコピーする。
     ①コピーする箇所はそれぞれ個別に設定でき、

       これを使ってキョンに接触しやすい性格と容姿をコピーしたものと思われる。
     ②精神をコピーすればその人間の動作すら手に取るように解る。
シャッフルデイズPt.2
 能力:触れた相手のスタンドをコピーする。
     スタンドを目覚めさせるに至った長門の精神をコピーしたことで、自身のスタンドをも進化させた。
     制限としては一度に一スタンドのみのコピー。
ダメージのフィードバック:部位相応

 

 

 

【長門有希:コズミック・トラベル:近距離型】
 破壊力-A スピード-A 射程距離-2m
 持続力-A 精密動作性-A 成長性-B
 能力:触れたものを強化、または進化させる能力。
     ①対象は物質でも、生物でも、スタンドでも可能。
     ②特性、身体的な能力、基本的な能力についてを強化できるが、

       一度には一つの対象に対して何か一つしか強化できない。
       (スタンドの能力を強化すれば、第三者の能力は強化できない。)
     ③自分、またはコズミック・トラベル自身を殴る事は出来ない。
 ダメージのフィードバック:部位相応

 

 

 

【キョン:スタンド名不明:型不明】
 能力:不明

 

 

 

<=To Be Continued


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