今日のハルヒは少し変だ。
どいつよりも一番長くハルヒと付き合ってきた俺が言うのだから間違いない。
いつもは蝉のようにうるさいハルヒが、今日は何故か静かだし、
顔もなんだか考え事をしているような顔だ。

 

 

 

「どうしたハルヒ。」
俺は休み時間になってからずっと窓の外を眺めているハルヒに話しかけた。
「なにがよ。」
「元気ないじゃないか。」
俺がそう言うと、ハルヒは眉と眉のあいだにしわをつくって、
「私はいつでも元気よ。」
「そうかね。そうは見えないんだがな。」
ハルヒは俺の言葉を無視し、窓の外に目をやり、
「今日も来るんでしょうね」
「どこにだ。」
「SOS団部室によ。」
いちいち聞くこともないだろうよ。
「ああ、行くよ。」
ハルヒは窓のそとにやっていた視線を俺の目に向け言った。
「絶対よ。」

 

 

 

 

 

 

 

今日の授業も全て終わり、俺はいつものようにSOS団部室―実際は文芸部室なのだが―に向かった。
ドアをコンコンとノックする。これもまたいつも通りだ。
「どうぞ。」
朝比奈さんの声でドアを開けると、ハルヒはもう既に団長席に座っていた。
「遅いじゃない。」
何を言ってる、いつも通りだ。
「来ようと思えばもっと早く来れるでしょう?まったく、意識が薄いのよ。
部室への集合にも罰金制度を取り入れようかしら・・・。」
なにやら不穏なことをぶつぶつ言っている。おいおい勘弁してくれ。
休日のオゴリだけでもきついのにそれに上乗せされちゃあ、たまったもんじゃねぇぜ。
「なら、明日からはもっと早く来るって約束しなさいよ。」
へいへい。だが、どうせ早く来ても俺のやることといったら古泉とのオセロぐらいしかないのだが。
「今日は負けませんよ。」
古泉は長テーブルにオセロのボードを広げて既にスタンバイOKのようだ。
お前はそう言って毎回負けるんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と古泉がオセロをしている間、ハルヒは珍しくいつものようにパソコンをつけずに、
俺と古泉の勝負風景をじっと眺めていた。
「なぁハルヒ。」
俺は視線はオセロのボードに落としたまま言った。
「なによ。」
「見られてると非常にやりにくいのだが。」
「プロの将棋師とかはたくさんの人に注目されてる中でやるのよ?
これぐらい耐えられなくてどうするのよ。」
どうもせん。大体、俺はプロじゃないし、今やってるのは将棋でもない。オセロだ。
そんなツッコミを入れつつ、俺は古泉の白を黒に変える。
「いやぁ、参りました。完敗です。」
古泉は両手をあげて言う。
「古泉くん弱いわねー。」
ハルヒはパイプ椅子から立ち上がった。何だ?
「私がやるわ。古泉くん代わって。」
マジで?
「どうぞどうぞ。でも、彼は強いですよ。」
お前が弱いだけだろうが。
ハルヒは古泉から譲りうけた席にでんと座り、
古泉はさっきまでハルヒが座っていた席に腰掛けた。
「さぁ、キョン。始めるわよ。私が黒ね!」
そう言ってハルヒはボードに一手目を置いた。
やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

結果。
俺が勝った。
「何よコレぇ!キョン!もう一回よ!」
またかよ。お前は勝てるまで続けるような気がする。
今度は俺が先手で始まった。

 

 

 

 

 

 

 

そして結果。
俺が勝った。
「なーにーコーレー!!なんで私が馬鹿キョンに負けるのよ!!」
毎日糞弱い古泉と鍛えているんだ。馬鹿にしないでほしい。
「もう一回よ!!」
・・・やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

「やった、勝った!キョン、あんた大した事ないわねー。」
俺に5回も負けといてよく言えるな。
「あんたはいつも古泉君と鍛えてるでしょー?私はオセロなんて滅多にやらないもん。」
なんじゃそりゃ。小学生か。
ふと、横を見ると古泉がニヤニヤしながらこちらを見ていた。何が面白いんだ。
「古泉くん!」
「なんでしょうか?」
「他にゲーム持ってないの?なんかこう、SOS団みんなで遊べるようなもの!」
そんなにたくさんゲームを学校に持ってきてるわけないだろう。
「ありますよ。」
あるんかい。
古泉はバッグのファスナーをあけると、中からずるずるとなにか取り出した。
「何だそれは?」
古泉はニコリと笑って見せた。
「人生ゲームです。」
「人生ゲームね!面白そうじゃない!有希!みくるちゃん!あなた達も参加しなさい!」
ハルヒの顔は輝いている。朝の鬱モードはもう既にどこかに吹っ飛んでしまったらしい。
「ふぇ?」
編み物をしていた朝比奈さんは、何の話か聞いていなかったらしく、きょとんをした表情で顔を上げる。
「だから、人生ゲームよ。有希ちゃんも、ほら。」
ハルヒが言うと、長門は読んでいた本をぱたんと閉じ、すたすたと俺の横の席まで歩いてきてすとんと座った。
「始めるわよ。みくるちゃんと古泉くんも席に着きなさい。」
朝比奈さんと古泉も着席し、ゲームが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった、結婚よ!いいでしょ、キョン。羨ましい?」
羨ましくない。ボード上の世界で結婚してもしょうがないだろう。
「でもあんた、現実でも、結婚はおろか彼女すらできないんじゃない?」
痛いところを突くな。と、次は俺の番か。
俺は出た数だけ駒を進める。
ん?「株で1000万儲けた」、ねぇ。本当にあればいいのにな。
現実はそんなに甘くないのだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

最終的に勝者になったのは長門だった。
その次からハルヒ、俺、朝日奈さん、古泉の順だ。
古泉お前、全員でやってもやっぱり弱いのな。
「面白かったわ!古泉くん、明日はあのスゴロク持ってきてちょうだい!」
"あの"スゴロク・・・?っていうとあれか。
大晦日のときにやったSOS団オリジナルの、やたらと俺いじめのマスが多いスゴロク。
あれはもうやりたくないな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分して。
ぱたん。と、長門の本が閉じられた。
「今日は皆で帰るわよ!」
ハルヒは両手を腰に当てて、偉そうに言った。
「すまん、ハルヒ。俺は今日早めに帰って見たいドラマがあるんだ。」
「何言ってるのよ。そんなの録画しとけばよかったんじゃない。
いい、キョン?団長の命令は絶対なのよ。例外は認められないわ。」
ハルヒは眉を吊り上げながら、俺に顔をぐいっと近づけて言った。やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、ハルヒはいつも以上にやたら活発だった。
急に競争をしようだとか、荷物持ちのじゃんけんをしようだとか小学生レベルの事を言い出したり、
どこから持ってきたのか、眼鏡を長門にかけさせて遊んだり、
朝比奈さんの胸を・・・っておい!!何をしているハルヒ!!
お前がもし男だったら俺の鉄槌の拳が飛んでいたところだ。
しばらくすると、はしゃぎ疲れたらしい、歩くのがゆっくりになってきた。
「ハルヒ、お前今日はやけに元気がいいな。」
「そう?いつももこれぐらいだと思うけど。」
ハルヒは軽く息を切らしながらハイビスカススマイルで答えた。
「そうかねぇ。」
しばらくそのまま歩いていると、ハルヒは急に足を止めた。どうした?
見ると、ハルヒの顔は先程のようなスマイリーな表情ではなく、
真面目な顔になっていた。
「ねぇ皆。ちょっと聞いて欲しいんだけど・・・。」
他の奴等も足を止め、ハルヒに注目する。
「・・・・・・・・・。」
ハルヒはそのまま黙り込む。何だ、言いたい事があるなら早く言えよ。
「・・・・・・。」
ハルヒは小さく口を開いて声を発しようとしたが、すぐにやめて口を閉じた。
焦らすな。早く言え。
それからまた黙り込んだあと、急にまたさっきのようなスマイルに戻って口を開いた。
「いや、ごめん。なんでもないわ。つまらないことだから気にしないで。」
そう言うと、ハルヒはまた歩き出した。合わせて俺達も歩き出す。
ハルヒが前で歩いていた朝比奈さんのところに駆けていったのを見計らって、
古泉は俺に近づいてきて小声で言った。
「何かありますね。」
「・・・ああ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、朝になるとハルヒはまた鬱モードに突入していた。
「よぉ。」
俺がバッグを机の上に置きながらハルヒに話しかけると、
ハルヒは挨拶を返すことなく言った。
「今日何日だっけ?」
そんなの前の黒板の日付みればいいだろ。
「3月・・・9日よね?」
ああ。
「金曜日よね?」
ああ。それがどうした。
「いや・・・、なんでもない。」
やっぱり何かあるな。昨日のハルヒも今日のハルヒも何かおかしい。
テンションも不規則に上がり下がりするし。
「ねぇキョン。」
ハルヒは顔をずいっと近づけてきた。
「今日も部室来なさいよね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日ハルヒに部室の集合に関してあーだこーだ言われたため、
今日はホームルームが終わってすぐに部室に向かった。
部室につくと、古泉がいつものニヤケ顔でパイプ椅子に座っていた。
「やぁ。」
古泉はさわやかな表情で慣れ慣れしく左手を挙げた。
「朝比奈さんはまだか。」
「えぇ。長門さんならいますけどね。」
古泉が片手で示した先には、いつも通り窓辺で本を読む長門がいた。
よくそんなに本ばかり読んで飽きないものだ。
「ところで、涼宮さんはまだでしょうか?」
「岡部に話があるんだとさ。まだ来ないと思うぞ。」
「それは都合がいいですね。話があるのですが、良いですか?」
なんだ。また何か面倒ごとに巻き込むつもりか?
「実は、昨日の夕方から夜中にかけて、大量の閉鎖空間が発生したんですよ。
はっきり申し上げますと、昨日の量は異常でした。
最近落ち着いてきたと思ってたんですがね。」
古泉はやれやれ、と肩をすくめた。
「・・・どういうことだ?」
俺は目を細めてみせる。
「わかりません。僕達の機関の調査では。」
古泉はニコニコ顔を崩さず言う。
「悩み事とかあるんじゃないでしょうか。
恋の悩みとか。ベッドの中であなたのことを考えるあまりに、
異常な量の閉鎖空間を生み出してしまった、とか。」
冗談にしては笑えないぞ古泉。
「完全に否定はできませんよ?フフフ。」
・・・何が面白いんだ古泉。というか、何故俺なんだ。
古泉は心外そうな顔をして、
「おや?あなたもしかしてまだ・・・」
そこで言いとどまると、ニヤケ面を5割増しして言った。
「いえ、言わないでおきましょう。」
何故か古泉のニヤケが無性に憎く見えた。
「何にせよ、涼宮さんが何かに苛立っているというのは明らかです。
ただし、僕達と一緒にいるときは閉鎖空間の発生はみられないそうです。」
何に苛立っているというんだ。
「ですから、それがわからなくて困っているのです。」
昨日今日のハルヒの様子が変なのもそのせいか。
「そのようですね。ところで、昨日の話ですが。
昨日涼宮さんが言いとどまった言葉、なんだと思いますか?」
さぁな。
「僕達になにか伝えようとしていましたね。
あの表情からして、とても重要な話だと思うのですが、どうでしょう?」
知らん。
「全員に呼びかけたってことは、告白ってわけではないでしょうね。」
古泉はニヤケ顔を更に5割増する。なんだその目は。
「いえ、何でもありませんよ。フフフ。」
そう言って微笑む古泉の顔が不気味に見えて仕方が無い。
「あの涼宮さんが言いとどまった言葉、
あれが涼宮さんの苛立ちと関係があるような気がするのですが。」
さぁな。
「涼宮さんに聞いてみたら早い話ですがね。」
ハルヒが言いたくないことを無理に聞く必要も無いだろう。やめとけ。
「当然そのつもりですよ。まぁ、聞かずともいずれ彼女から話してくれるでしょう。」
そうだな。
「ヤッホー!!皆元気~?」
毎回のようにドアを蹴り破って登場した我らが団長。後ろには朝比奈さんがついている。
「みくるちゃんとそこの廊下であって、一緒に来たのよ。」
そうかい。
「さて、キョンと古泉くん。」
「なんだ。」
俺が言うと、ハルヒは少し顔をしかめ、ドアの方を指さした。
ああ、そういうことね。と、俺は朝比奈さんをちらりと見て、
ドアの元まで行き、一礼して部室を出た。遅れて古泉も。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」
朝比奈さんの声を確認し、ドアを開けると、意外な光景を目にした。
朝比奈さんがメイド服を着ているのはいつも通りだが、
なんとハルヒが朝比奈さんが前に着ていたナース服を着ているではないか。
「これはこれは。」
古泉も少なからず驚いているようだった。
「たまには私も着てみたわ。どう?」
ハルヒは得意気に髪を掻きあげた。
「いいんじゃないか。」
「何よ、その薄いリアクションは!
もっとこう、『わー!ハルヒ可愛い!!』とかないの?」
わー。ハルヒかわいー。
「あーもう、イライラするわねー。もういいわ。」
とりあえず薄くリアクションしておいたが、内心、可愛いと思っていた。
朝比奈さんのナース姿も良かったが、ハルヒのそれもなかなかのものだ。
「僕は似合ってると思いますがね。可愛いですよ。」
「でしょ?ありがとう古泉くん。
やっぱりわかる人にはわかるのよねー。」
喜べハルヒ。その格好で秋葉原に行けば注目の的だぞ。
お前が言う"わかる人"ってのもいっぱいいる。

 

 

 

 

 

 

 

…ところで、いきなりナース服を着だしたりだとか、
やはり最近のハルヒは変だ。
まぁいいか、楽しそうだし。教室のときのように鬱にしてるのより何倍もましだな。
「さぁ、スゴロクやるわよ、スゴロク!!古泉くん、持ってきてるでしょうね?」
げ。
「はい、もちろん。」
げげ。
古泉はバッグのファスナーを開けると、ずるずると大きな紙を取り出した。
やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は日曜日、不思議探索パトロールをすることになってる日だ。
少しばかり寝坊した俺は、大急ぎで歯を磨き、髪を直し、服を着て待ち合わせ場所に走った。
他のメンバーは既に揃っている。
「遅い! 遅刻!! 罰金!!!」
このフレーズを聞くのも何回目だろう。これを聞くたびに俺の財布は打撃を受ける。
「と、言いたいところだけど、今日は私がおごるわ。」
は?
今ハルヒ何と言った?パードゥンミー?ワンモア、プリーズ?
「だから、今日は私がおごってあげるって言ってるじゃない。」
俺の耳は故障してしまったのだろうか。すまん、もう一度だけ頼む。
「今日は私のおごりよ!」
なんと。なんとなんと。思わず目眩がした。
今日は雪でも降るんじゃないか。いや、もう隕石が雨のように降ってきそうな勢いだ。
「何馬鹿なこと言ってんのよ。行くわよ、キョン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはりおかしい。絶対におかしい。ハルヒがおごるなんて普通考えられない。
「キョンは何にするの?今日は高いもの頼んでもらっていいわよ!」
こんなことを言う事も、だ。どういう気の変わりようだ?
「何もないわよ。ほら、さっさと選んじゃいなさいよ。」
俺は何かハルヒの陰謀があるのではないか、と
あえて高い物を選ばず、中くらいの物を注文した。
「何よ、遠慮することにないのに。」
何か怖くてな。すまん。

 

 

 

 

 

 

そして俺達は食事を済ませ、毎回恒例のくじ引きタイムに入った。
まず古泉が引く。無印。
次に朝日奈さん。無印。
次に俺。赤印
次に長門。無印。
「て、ことは私は赤ね。」
ハルヒは爪楊枝を掴んでいた手を開く。
爪楊枝の先には赤い印がはっきりと刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

横に彼女を連れて、手を繋いで歩く。これはモテない男誰もが夢見ることだろう。
しかし、俺が手を繋ぐのではなく、手首を掴まれているのは何故だろう。
答えは簡単。連れている女が涼宮ハルヒだからだ。
「ちょっとキョン!もっとシャキシャキ歩きなさいよ!
まず何処行く?デパートの食料品店で試食品でも食べ歩く?
それとも、服でも買いに行こうか?今日はたくさんお金持ってきてるしね。」
どうやらこいつは"不思議"を探す気などさらさら無いらしい。
「どこでもいいぞ。お前のすきなところで。」
なんだか今日のハルヒの足取りは軽い。全身からウキウキオーラが放射されまくっている。
「あっそうだキョン!あたし観たい映画があるんだったわ!
一緒に観に行きましょう!」
映画・・・か。まぁ、このままハルヒに色々連れまわされるよりはいいだろう。
「決定ね!じゃあ行きましょう!」
俺は手首を掴まれたまま、映画館まで連れて行かされた。

 

 

 

 

 

 

 

なにやら甘ったるい匂いがするのは、受付の横の、なにやら色々飲食物を売ってる店のせいだろう。
「チケット2枚。」
俺がハルヒの分のチケットも買ってやっていると、ハルヒがポップコーンとコーラを持ってきて、
「はい、これ。あんたの分よ。私のおごりね。」
今日のハルヒは気前がいいな。
「それじゃあ行きましょう。早く行かないと始まっちゃうわ!」
そう言ってハルヒはまた俺の手首を掴んだ。やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

映写機がじりじりとスクリーンに映画を映し出す。
観ている内にわかったが、これは流行りの"感動モノ"の映画らしい。
そして、今が一番泣き所のクライマックスのシーンだと思われるが、
どうした事か、俺の目からは涙の一滴すら落ちてこない。
もう少しピュアな心を持っていれば泣けるのだろうが、
俺の心はとっくにがさがさに荒んでいるのでな。
俺がふと横を見ると、意外な光景がそこにあった。
映画にかぶりついているハルヒの目に、若干涙が浮かんでいるではないか。
ハルヒはしきりに、服の袖で目を拭っている。
そのままハルヒはしばらくスクリーンを凝視していたが、俺の視線に気付くと、呆れ顔をつくって言った。
「何であんたこれで泣けないの?馬鹿じゃない?」
馬鹿ではないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出てみると、さっきは暗くてよくわからなかったが、ハルヒの目元が少し赤くなっていた。
「よかったわー、あの映画・・・。
あんなクオリティの高い映画はこの先そうそう作れないと思うわ。」
俺は全然泣けなかったけどな。
「あれで泣けないってのがおかしいのよ!
あれで泣けないなんて信じられないわ。人間じゃないわ!」
おいおい、ついには人間以下かよ。
「まぁいいわ。楽しかったし。
おっと、そろそろ集合時間ね。待ち合わせ場所に急ぎましょう!」
ハルヒはそう言うと俺の手首を掴む。もうちょっと穏やかにできないのか。
せめて手を繋ぐとか。
「手、手ってあんたと?私が?」
冗談だ。本気にするなよ。
「あ、冗談ね。冗談か。
そうよね、あんたと手繋いで恋人同士だと思われたらとんでもないわよ!」
ハルヒは何故か少し動揺しながら言った。なにを焦ってんだか。

 

 

 

 

 

 

 

ハルヒが俺の手首を掴んでずんずんと商店街を行く。
と、ここで見慣れた二人組が目に入った。
「あ、谷口と国木田じゃねぇか。」
俺は足を止める。と、同時にハルヒも足を止めた。
「ようキョン。」
「奇遇だね、何やってたんだい、キョン。」
谷口と国木田は私服姿だ。お前等こそ男二人で何やってんだ?
「別に。ゲーセンとか行ってぶらぶらと遊んでただけさ。」
そう言うと、谷口は俺とハルヒを舐めまわすように見てきた。何だ?
「お前等は二人してデートか?いいねぇ、お熱くて。」
馬鹿言うな。これはSOS団の不思議探索パトロールだ。
「不思議探索パトロール?それって何するんだい?」
国木田の言葉に少し返答に困った。まさか"映画をみたりすること"とは言えまい。
「街中で不思議な事が無いか探すんだよ。」
適当にごまかしておく。
「ふーん。変なことしてるねぇ。まぁいいや。じゃあ、僕達は行くよ。じゃあねキョン。」
「またな。」
「おう、じゃあな。あ、そうだ、待て谷口。チャック、開いてるぞ。」
「うわっマジかよ!!っていうか何で国木田教えてくれなかったんだよ!」
「え?それって新しいファッションかなんかじゃないの?」
「違ぇよ! やべーさっきこのままナンパしちまったよ。変態だと思われたかも・・・。」
「大丈夫だよ、谷口。君はもう顔が変態的だから。」
「えっ!?何それ?どういう意味!?」
「それじゃあね、キョン。」
「無視するなよ国木田!なんか今日お前悪い子だぞ!」
「じゃあな。国木田、谷口」
そう言って俺達は谷口達と別れた。
何やら後ろから「谷口ウザイ」という国木田の声が聞こえた気がするが空耳だろう。

 

 

 

 

 

 

 

集合場所につくと、既に他三人は揃っていた。
「ゴッメーン。遅れちゃった!」
ハルヒは右手を挙げる。
「それでは、また喫茶店に入りましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

本日2度目の喫茶店。今度もハルヒのおごりだった。
「それじゃあ、くじ引きしましょう。」
ハルヒは慣れた手つきで爪楊枝に印をつける。
まず長門が引いた。赤印。
次に俺。無印。
次に朝比奈さん。無印。やった朝日奈さんと一緒だ。
次に古泉。赤印。
「じゃ、私が無印ね。」
班分けは俺とハルヒと朝日奈さん、古泉と長門になった。
俺はいいのだが、古泉と長門は二人で話すことなどあるのだろうか、と少し心配になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハルヒは今度は片手は俺の手首、もう片方の手は朝比奈さんの手首を掴んで歩き出した。
「出発よ!さて、キョン、みくるちゃん?何処に行きたい?」
俺はさっきも言っただろう、お前に任せると。
「みくるちゃんは?」
「えーっと・・・じゃあ、お茶の葉を買いに行きたいです。」
「じゃあまずはお茶の葉ね!行きましょう!」
やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

歩く事数分、茶葉の専門店みたいなところについた。
朝比奈さんは目を輝かせていたが、俺とハルヒはお茶の葉のことについてなんて全然知識ないから
店内に置かれた椅子にすわって暇を持て余していた。
朝比奈さんは店長さんとお茶の話で盛り上がっている。
少し耳を傾けてみたがさっぱりわからん。
しばらくして、
「お待たせしました。では行きましょう。」
楽しそうに駆け寄ってきた朝日奈さんは、茶葉の入った箱を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

その後、デパートに行って試食品を食べ歩くなど地味ーなことをしたり、
ゲームセンターに行ってUFOキャッチャーを楽しんだりした。
楽しい時間は瞬く間に過ぎるもので、時刻はあっという間に集合時間前だ。
「楽しかったわー。キョンのUFOキャッチャーの腕前は意外だったわねー。」
ハルヒは俺が取ってやった熊のぬいぐるみを両手に抱えて、もこもこさせながら言った。
ゲーセンは谷口達とよく行ったからな。SOS団に入ってからは、あまり行くことも無くなったが。
「私も楽しかったです。ありがとうキョンくん」
いや、俺にお礼を言われても困るんですけど・・・。
「あ、有希!古泉くん!」
まだ集合10分前なのに、長門と古泉は既に集合場所に到着していた。
やはりやることがなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日はそのまま解散することになった。

 

 

 

 

 

 

 

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最終更新:2020年03月12日 14:02