宇宙暦788年10月9日 退役大将キョン提督の葬儀が行われた。軍の主催する葬儀だが、唯1名の遺族である、ミヨキチの強い希望で、自宅で挙行された
「SOS団マフィアの最後の1人が、地上から消えたわけか」。「一つの時代が終わったな」。 
「睡眠薬の量を間違えたって、戦場よりベッドの方が死に近いと言う事か。まあ苦しんでなくなったのではないからな」。
「それにしても、SOS団マフィアの連中はあまり幸福な余生じゃなかった・・・・おっと」。
「ヤン少佐」。「ええと、この度はお悔やみを申し上げます。ええと」。「ミヨキチで良いわ」。
「盛大な葬儀ですね」。葬儀に盛大と言う表現はまずいか。「本当に悲しんでいる人は、参列者の1割程度よ。他は形式で来ているだけ」。
「たとえ1割でも大した数ですよ。それに悲しんではいなくても、残念には思っているのでは。無論私もですが」。
私も少なくとも、キョン提督を尊敬していた積りです。私は偉い人は、苦手なんですが。キョン提督にはもっと早くお目にかかりたかったです」。
「ありがとう、祖父が聞いたら喜ぶわ。祖父はあなたの事を気に入っていたみたいだから」。困惑するヤン。
「急な事で驚きました。事故死と伺いましたが」?「運が悪かったのね、涼宮ハルヒは死んでからも仲間達の運を吸い尽くすのよ。彼らの
晩年は皆不幸だったわ。何か言いたい事が有りそうね。」「ミヨキチさんの意見は尊重したいのですが。
亡くなった提督方には迷惑かもしれませんよ。ええと、こう思うのです。SOS団マフィアの面々は、それぞれの人生の主役であり、決して運命に流されて
いた訳ではないと。」「ヤン少佐、貴方は事実と真実を混同しているのではないの。SOS団マフィアの面々は、それぞれの人生に満足し、異議を見出すのは、
彼らにとっての真実、だけど客観的な事実として、提督達の正当な権利が侵されているのだとしたら、それを見過ごすのは不公平というものだわ」。
なるほど、一理ある。皆満足していたのだから、それで良し・・・というのでは、歴史を研究する意味は無い。
「キョン提督の権利は侵犯されていた。とお考えなのですね」。「祖父の権利もよ。祖父は、ハルヒ提督の参謀長を勤める事が多かったけれども、無論私が、
言っているのは一般論じゃないわ。参謀の功は司令官に帰すとか、そういうレベルじゃないのよ」。この子は丸で、単語の女神様だなあと思うヤン。
「具体的に何か、いや、自分で調べろでしたね。それで、今後ミリアムさんはどうされるのですか。出過ぎた事とは思いますが」。
「本当に出過ぎているわね。」「すみません」。「また必要が無いのに謝るのね。心配しないで、私には婚約者がいるの。今フェザーンに行っていて、
葬儀には来られないけど、15歳年上で商船の機関士をしているの、才走った所も無く、取り立てて美男子でもないけれど、真面目で誠実な人だから、
祖父が見込んだ人なの。所で、ヤン少佐。今後もハルヒ提督の謀殺説を調べるの。犯人を見つけられそうなの」?
「私は、憲兵ではありませんから、犯人探しをする気は元から無いんです。私のやりたい事は別でして」。「負け惜しみでもなさそうね」。
「いいえ、負け惜しみですよ、多分」。そこに、進行係が来て、ミヨキチに話しかけた。
「さようなら、ヤン・ウェンリー少佐、貴方がなるべく他人を傷つけずに、功績を上げることを願っているわ」。握手して別れる2人。
「どうした、小鳥に逃げられたネコのような顔をしているぞ」。「何ですかそれは、で結局事故死ですか」?
「事故か自殺か、今一つはっきりしない。ただし、事件性は無いと判断されたらしい、警察が詳しい発表をしないんだ」。
「おや、あの男は誰ですか。あの舞台俳優みたいに目立つ男ですよ」。
「ああ、ヨブ・トリューニヒトだな。若手の代議員の中では一番有名だ。確か、国防委員になったばかりで、後数年もすれば、
最高評議会で閣僚の椅子を手に入れるだろうという噂だ。売り出し中という点ではお前さんと同じだな」。
「私は別に買ってもらわなくて、よいのですが」。そこへ士官学校の後輩のダスティー・アッテンボローがやって来た
「アッテンボローか、お前さんも来ているのか」?「軍部葬ですからね。在校生は全員狩り出されています。嫌々という訳ではありません」。
キョン提督は立派な人だし、何より授業が無くなるのがありがたい」。
「相変わらず、偽悪主義の口を聞く、後半年で、卒業なんだろ。あまり問題を起こすなよ」。
「この後、時間があったら少し付き合わないか」。「奢って頂けるのでしたら」。
葬儀後レストランに向かう3名、「と、言う訳だがお前さんはどう思う、アッテンボロー」?
「馬鹿馬鹿しいですねえ。」「そうかなあ」。「だけど、ハルヒ提督を消してしまったら、どうやって同盟を守るのですか」。
提督を謀殺したら、自分の足元に落とし穴を掘るようなものですよ。」「確かにその通りなんだが、権力者が保身の為に、
猜疑心から、有力将帥を粛清する事も歴史では珍しくないんだ。それは多くの場合、国家の滅亡に繋がっているのだけど、
逆に有力な将帥が、実際に国を奪って、新しい国家を作るケースも、歴史には枚挙に暇がない」。
「つまり、どのみち国家は滅びるという事ですか。1つの滅亡の道を塞いでも、別の道が開いてしまう」。
「そうだなあ。人が必ず死ぬように、国家も滅びる、長いか短いかの差だけだよ」。
「で、投書してきた奴の正体は判らないですか」。「今の所は不明だね。
阪中さんか、キョン提督の妹さんだと思ったけど、どちらも病死している。永遠に判らないかも知れないね」。
「真実は、常に複数なんだろうな、ヤン」。少し驚くヤン。「戦争をする奴の真実、させる奴の真実、させられる奴の真実、皆違うのさ」。
「ハルヒ提督について、無名の兵士たちの声を聞いてみてはどうでしょうか」。
「それは、批判の声も大きいだろうな。しかし、一将功なりて万骨は枯る。人間社会の根底だ。ハルヒ提督だけを責める訳にはいかんさ」。
「私は、責めるつもりはありませんよ」。私は、そんなに偉くありませんよ。と思うヤン出会った。
「無理に結論を出す必要は無いぞ。それに結論が出てもそれが公表されるかどうか判らないからな。」
「それでは、私は何の為に調査をしているのですか」。「人生勉強さ」。絶句するヤンとアッテンボロー。
「さて、今日はキョン提督と、SOS団マフィアの為に乾杯しようではないか」。無言でグラスを掲げる3名
涼宮ハルヒ提督の死後、SOS団マフィアのメンバーは分散し、一軍の派閥の長となることは無かった。
古泉一樹提督 その後も同盟軍の中枢として、帝国軍と戦い続けた。749年に大将に昇進。751年には宇宙艦隊司令長官に任じられる。
2年ほど大きな戦闘も無く、753年に無傷で退役する、未だ43歳であった。1年後、伝統ある市立大学の理事長になり、大過なく3年を過ごす。
その後、政界に進み、故郷の惑星知事に当選、3年後、中央政界に進み、最高評議会において、国防委員長に任じられる。同時にこれまでの
武勲から、元帥号を贈られる。彼の人生は順風万帆であり、社交界の名士として鳴らしたが、その後彼の周囲では幾つかの、スキャンダルが報じられる。
彼は無関係であったが、部下が起こした大規模な不正事件が露見した為、一件落着後に辞職せねばならなかった。
更に、その後5年来の愛人が麻薬中毒で死亡する等、更に小事件が起き、古泉の名声は地に堕ちた。彼は僅かな資産のみを携え
逃げるように、ハイネセンを離れ地方の小都市に隠棲した。3年後心臓発作を起こし急死、享年55歳であった。
谷口提督は、僚友達の中で、最も長く軍隊に留まった。749年には大将に昇進、753年には、古泉の後任として宇宙艦隊総司令長官に任じられる。
その後、帝国軍相手に勝敗を重ね続け、17年と言う宇宙艦隊司令長官の、最長記録を樹立した。764には、元帥号を贈られる。770年から
1年間統合作戦本部長を務めるが、これは可も無く不可も無く、と言った具合であくまで実戦の人と言える。
退役後、妻と宇宙旅行に出かけるが、その帰途宇宙船の爆発事故で妻共々死亡、享年61であった。
国木田提督は、750年に宇宙艦隊副司令官に任じられ、同時に大将に昇進する。しかし、翌年に起きた、パランティア会戦において彼は戦死してしまう。
彼の戦闘での指揮は、これまでの何れの戦闘よりも、精彩を欠き、一方的な攻撃を受け完敗を喫してしまう。
戦死者30万に達する大敗であった。谷口提督は、直ちに艦隊を率いて救援に向かったが、4時間遅れた。
戦場に着いた彼が見たのは、撃ち減らされた同盟軍と、完勝を収め帰路についた帝国軍であった。彼は帰還中の帝国軍の後背を撃ち、僅かながら
僚友の無念を晴らした、と彼は考えた・・・・・しかし、その後冷酷な噂が立つ。谷口提督は、救援を間に合わせる事が出来たのだが、功績を独占する為に、
故意に救援を遅らせ、国木田提督を見殺しにした、という内容であった。特にショックを受けた、国木田提督夫人は、激しく谷口提督を糾弾した。
後に、夫人は非を認め、谷口提督に謝罪したが、この後味の悪い事件は、両者の間に深い溝を残し、生者と死者の双方を傷つけた。後日、国木田提督に
元帥号が贈られた際、谷口提督が使者になったが、直接夫人に会うのは避けた。その後遺族が谷口提督の存命中に、彼と会う事は無かったのである。
長門有希提督は、751年に宇宙艦隊総参謀総長に任じられ、同時に大将に昇進する。別に嬉しそうでもなく、生死を掛けた戦いに赴く時と、同様だった。
755年に、宇宙艦隊司令長官をバイパスして、統合作戦本部長に任じられ、以後6年に渡り、谷口提督とコンビを組む、公人としての関係は問題なかったが、
残余のSOS団マフィアのメンバー同士の、私的な交友は途絶え、互いの家を訪ねることも無かった。
統合作戦本部長としては、実務能力に優れ、独創性は無いが、筋の通った作戦指揮と、温かみのある人事によって、まず名長官と言われている。
宇宙暦761年に元帥号を得るが、その直後に退役する。退役後、幾つかの法人の理事職を務めるが、あまり積極的に運営に関わる事は無かった。
しかし、内部で不正が行われた場合は別で、容赦なく糾弾し叩き出した。それ以外は、静かに読書をしている事が多かった。
涼宮ハルヒ提督同様、最後まで独身を貫き、幾人かの戦災孤児を養子として養育した。後年「トラバース法」の契機となり、
戦災孤児ユリアン・ミンツ少年が、ヤン・ウェンリー(当時大佐)の養子になる、遠因になる。「長門提督生涯最大の功績」と賞賛する
歴史家も多い。773年3月に、肺塞栓症による発作を起こし倒れ、同年11月に2度目の発作を起こし、重態となる、 
彼女は、死に際しても冷静で、「間もなく意識が混濁する。ろくでもないことをしゃべるかもしれないので黙る。また図書館で・・・・」。
それ以降、一切言葉を発せずに40分後に死亡。享年63歳であった。その数時間前、キョン退役大将は、病床で遺言を受ける。
財産の半分は、養子2名で半分ずつ相続、残りは福祉機関に寄付。「葬儀も埋葬も不要だから、行わないで」。
葬儀は、ともかく埋葬をしないわけにはいかない為、ハイネセン郊外のコリント墓地に、質素な墓が立てられた。生没年の他には
キョン提督が墓碑銘を入れた。「信頼を裏切る事の無い人生。母なる宇宙に還れ」。

 彼女の死によって、キョン提督は、かつての僚友全てを失った。以来15年、SOS団マフィア最後の1人として、孤塁を守って来たのである。
「友人達より長生きをして、キョン提督は幸福だったのだろうか」?提督の言葉が思い出される。
「ハルヒと同じ時代に生きた人全てが、彼女を愛し、崇拝しなくてはならない理由は何処にも無い」。
「これを自分に置き換えると、ささやかな教訓になるかもしれない。万人に理解して貰う必要は無いし、それを嘆く必要は無い」。
「コンピューター、第2次ティアマト会戦に参加した物の中で、現在現役の者のリストを出してくれ」。
「10月12日現在、第2次ティアマト会戦の士官20名、下士官20名、兵士30名が軍に在籍しています」。
「アレクサンドル・ビュコック・・・どこかで聞いた名だな。確かこの手記の作者だ。当時19歳という事は、現在62歳か。
准将まで昇進しているのか。げっ!マーロヴィア星域の警備司令官か、ド辺境じゃないか、会って話を聞くのは無理だな」。そこへキャゼルヌ登場。
「同盟軍英雄列伝は読み終えたかね。ヤン少佐。お前さんの新しい任地が決まったぞ。
惑星エコニアの捕虜収容所に赴任して貰う。どうにも慌しい事だが、今月末にはハイネセンを出立せよとの事だ」。
「所長じゃないですよね」。「ナンバー3だ、所長、副所長、参事官。所長が大佐で、副所長が中佐。参事官と警備主任が少佐だ」。
「参事官は何をするのですか」?「所長がミスをしたら、責任を被るのさ」。「では所長が有能である事を祈りましょう」。
「所で、どれ位で帰れると思う」。「そうですねえ。1年は帰れないと思います」。
「半年我慢しろ。何とか早く呼び戻せるように、手配してみるよ」。「期待していますよ」。「最も、俺自身が飛ばされたりしなければだが」。
「もしかして、ハルヒ提督の調査に関する件ですか」?「判らん、まあとにかく、これでハルヒ提督の謀殺説についての調査は終りだな」。
推測しても、この際は無益だと思う。もっと有益な事をするんだな。今日はもう帰って良いから、荷造りでもしろ」。
こうして、ヤン・ウェンリーは慌しく、惑星ハイネセンを離れる仕儀となった。この突然の辞令の裏には、どんな意図があるのか、
憶測せずにはいられないヤンであった。
 


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