『台風一過のハレの日に』
○ 第一章:再会
「その節はいろいろとお世話になりました」
そう言って、長門のリビングのコタツ机の向こう側に座っているこゆきはにっこりと微笑みながら小さく頭を下げた。
マンションの前の通りで久々の再会を果たした俺たちは、ひとまず長門の部屋にやってきた。
ちょっと大きめのコタツ机以外には家具の無い相変わらず殺風景なリビングに、宇宙人製アンドロイドと、小柄な液体宇宙人と、なんの変哲も無い平凡な地球人が集まった。
数ヶ月前、梅雨時の退屈を持て余したハルヒの「雨の中から宇宙人が降ってこないかしら」という願望をきっかけにして、地球上に分散していた液状化分散集合生命体がこの周辺に降り注ぐ雨として集まった。
長門の力も使いつつ、その雨水をためたここの浴槽の中からすっと立ち上がったこゆきの姿を初めて見たときは本当に驚かされたことをはっきりと覚えている。
今、久しぶりに長門とこゆきを交互に見比べて、俺は二人がそっくりなことを実感した。以前、こゆきの口元は俺似にしたということだったが、少し修正されたのか今ではすっかり長門そのものになったようだ。ただし、ここで最後の挨拶をした時よりも少し大人びた感じがする。
バルコニーの大きなガラス戸越しに雨と風の音が少し聞こえている。ますます雨風が強くなっているようだが、俺、今日は家に帰れるのだろうか、という心配が少しばかり頭をよぎるが、それ以上にこゆきとの再会は予想外でうれしい出来事だった。
「この前は、あまりに急に新しい惑星に行くことになったので、涼宮さんをはじめSOS団のみなさんにきちんとご挨拶ができなくて、それがすごく心残りでした」
「そうだったな」
俺は、梅雨明け前日にあった講堂での大騒ぎとその夜の急な別れのことを思い出していた。
あの日、講堂を埋めた多くの生徒の前で、壇上に並んだ五人のメイドと二人の執事が梅雨明けを祈念してちょっとしたパフォーマンスを繰り広げた。ま、実態はほとんど撮影会に近かったのかも知れないが。
そして、ほっと一息をつく暇も無く、情報統合思念体が探し出してくれた移住先の惑星に旅立つこゆきを、長門と二人だけで見送ったその日の夜の公園でのこと。
梅雨空の雨の中、季節はずれの一片の雪とともに去っていくこゆきの姿を見えなくなるまで追い続けていた長門の横顔が記憶の中にはっきりと残されている。
「それにしてもよく戻ってこられたな」
「たぶん、お会いできるは最後のチャンスだと思うので……」
どうやらこゆきたちが移住した惑星と、地球とはこの先どんどん離れていってしまうらしい。統合思念体の力を借りたとしても、こうして会うことはほとんどできなくなるそうだ。長門とこゆきはなにやら難しい話をしていたが、俺にはさっぱりわからなかった。
「新しい惑星に移った後、情報統合思念体さんによってわたしたち向けのコンタクト用インターフェースが派遣されました。今回はそのかたにお願いして、ここに連れてきてもらいました」
情報統合思念体を『さん』付けで呼ぶのは妙な感じだな。それにしても情報統合思念体はなかなか面倒見がいいようだ。こゆきたちのためにわざわざ専用のインターフェースを用意してくれたらしい。長門のように優秀なタイプであればいいんだが。
というよりそいつは長門のように人間型をしているのか、それとも単なる液体なのだろうか?
そんなどうでもいい考えをおっぱらって、俺は長門に話しかけた。
「こゆきが帰ってきたことをハルヒに話すのは、明日、学校に行ってからでいいだろう。きっとこの週末は歓迎会を開いてくれるぜ」
「たぶん」
と、長門。表情は変わらない。
「すみません、よろしくお願いします」
こゆきは少し肩をすくめながら微笑んでいた。
もし、今こゆきのことをハルヒが知ったら、この嵐の中でSOS団全員に召集がかかるに違いないが、古泉はともかく朝比奈さんまで呼び出されるのは申し訳ない。
どっちみち台風は今晩中に通過するはずだし、明日は金曜日で一日待てば週末だ。集まるのはその時でも十分なのだが、ハルヒのことだ、明日の午後の授業が終わるなり、こゆきに会うためにここに飛んでくるはずだな。
「いつまで、地球に?」
お茶に軽く口をつけた後、長門が質問した。
「一応、十日間です、来週の週末まで。すみませんが、それまでまたここにおいてもらえますか?」
「わたしは構わない。あなたは?」
長門は俺の方に振り向いて問いかけた。
「え? こゆきがここにいても俺は別に構わな……」
「キョンくんもここで一緒にどうですか、ってことですよね、有希さん」
そういってこゆきはニコニコしている。
長門は、少し驚いたように瞬きをしながら、
「わたしはそのような意味で言ったわけではない」
「俺もここで暮らすわけには……」
「ふふふ、冗談ですよ……。でも、三人一緒なら楽しいかなって」
すこし首を傾けながらこゆきは笑っていた。俺もつられて笑ってしまったが、長門だけは普段と変わらぬ仏頂面を通していた。
確かに三人で生活すると楽しいかもしれないが、長門はその状況で楽しいと感じるのだろうか、ふと疑問も浮んだわけだ。
その後しばらくして、雨脚が少し弱くなったのでその隙に帰ろうと思い、俺は長門のマンションをあとにした。雨は少しの間だけ小降りになる、という長門の予報ははずれる事は無かったので、俺は暴風に吹き飛ばされることもなく無事に帰宅することができた。
その夜は台風の通過に伴い雨も風もかなり激しかったが、明け方までにはおさまり、翌金曜日は朝からいい天気で、抜けるような青空だった。こういうのを、台風一過のさわやかな秋晴れ、っていうんだろうな。
この界隈では特に何もなかったようだが、ニュースによると結構な被害が出た地方もあったそうだ。
教室に入るとすでにハルヒは席についていた。何か言いたそうなオーラを撒き散らしながら、俺がハルヒの前の席に着くのを手ぐすね引いて待っているようだった。
近づいた俺は、ハルヒの様子を伺うように当たり障りのない話を始めようとした。
「よお、夕べはすごい雨だっ……」
「キョン、聞いた? こゆきちゃん帰ってきてるんだって!」
どうやら、もう長門はハルヒに連絡を入れていたらしい。
「お、おう、さっき長門に聞いた。そうらしいな」
ここでいう『さっき』は昨日のことではあるが……。
「今は有希んちにいるらしいから、放課後になったら行くわよ」
「今日はSOS団の活動は休みか?」
「もちろん! みんなで行くから、みくるちゃんと古泉くんにも伝えとくように」
「はいよ」
きっと朝比奈さんも古泉もびっくりするだろうが、会いたがるはずだ。そうだ、鶴屋さんにも伝えてもらったほうがいいだろうな。
カバンを机の横にぶら下げて、席に落ち着いた俺が、さて、と、ハルヒの方に顔を向けると、ハルヒは、机に置いた両手の指を軽く組み合わせて、少しもぞもぞと動かしながら話し始めた。
「こゆきちゃん、おっきくなったかなぁ……」
「おいおい、あれからほんの数ヶ月しかたってないぜ。そんなに変わらんだろ」
昨日見た限りでは、確かに身長とかは変わりない様子だったが。
「何言ってんの。あの年頃の子はね、成長早いんだから。ちょっと見ないうちにすっかり大人になっていたりするのよ、あんたの妹ちゃんだって日々成長してるでしょ?」
うちの妹は大して変わってないぜ。それにしても、実際のところこゆきは地球人だとすると何歳に相当するんだろうかね。
それはともかく、ハルヒにお前も少しは大人になれよ、と言いたくなるのをぐっと抑えつつ、
「そんなにこゆきに会いたいのか?」
「そうよ、こゆきちゃんはね、SOS団が誇る無敵の妹キャラだしね」
「妹キャラ?」
「あんたはね、あんたには似合わないぐらいいい娘の妹ちゃんがリアルにいるからいいけど、世間ではね、こゆきちゃんのような素直ないい子は引っ張りだこなのよ」
「はぁ? 俺には何のことかよくわか……」
「と・に・か・く! 早く会いたいわぁ」
いつものように人の話を最後まで聞かないやつだ。そんなハルヒは軽く腕を組みながら鼻歌交じりに窓の外の青空を見つめていた。
妹なんかいたって面倒なだけだが、世間では妹キャラって人気があるのか? 今度、谷口に聞いてみるか。 いや、この手の話題は国木田の方がいいかな?
放課後、いったん部室に集合したSOS団の五人と朝比奈さんから話を聞いて駆けつけてくれた鶴屋さんは、長門の自宅マンションを目指して出発した。台風のおかげで今日は少し暑さも和らいだようだ。青い空に秋の雲が点々と見えている。
ハイキングコースの下り坂の先頭を鶴屋さんとハルヒと朝比奈さんが並んで歩いている。
しばらく行くと相変わらず元気な鶴屋さんの声が、少し後ろを歩いている俺のところにも届いてきた。
「そっかー、こゆきちゃん帰ってきたのか、うんうん。でもねー、あたし心配してたんだ、少しばかり」
「えっと、ジンバブエだっけ、政情不安定だったみたいだしね」
「さすがハルにゃん。そうなんだよ、事件とか事故に巻き込まれたりしないかってね。よかったよ、無事に帰ってこられて」
そんな会話が、坂道を降りていく前の方から聞こえてくる。俺は一番後ろを歩いている長門の方に振り向いて、
「なぁ、また一週間後にはこゆきはどこか外国に行くことになるんだろ。今度はどこの国にするんだ?」
と、そっと聞いてみた。
「アンティグア バーブーダ」
即答。
「なっ?」
「アンティグア バーブーダ」
「どこそこ?」
「カリブ海の島」
「そんな国、あったのか?」
「ある」
「なぁ、知ってるか?」
俺は隣で首をかしげている古泉に尋ねてみた。古泉は両手を軽く上げるしぐさをしながら答えた。
「いえ、知りませんでした」
「だよな。よくそんな国、見つけたな」
「……」
長門は、なぜ知らなかったの? とでも言いたげな表情で俺たちのことを見つめている。普通知らんだろ、そんな国……。ま、あとでググって見るか。
しばらくして俺たち一行は長門のマンションに到着した。もうすっかりおなじみになったエントランスを抜け、七〇八号室の前へとやって来た。
長門が鍵を開けて先に玄関に入った。すぐにそのあとをハルヒが続く。
「こゆきちゃーん、元気だったー?」
ハルヒの声が外廊下まで聞こえてきた。どうやらすでにハルヒはこゆきとの再会の感激を味わっているらしい。
俺が玄関で靴を脱ごうとしていた時には、ハルヒはこゆきの肩を抱きながら廊下の先のリビングのドアを開けようとしていた。ハルヒの隣のこゆきが、ハルヒを見上げて微笑んでいるのが見えた。
やがてリビングのテーブルの周りにSOS団と鶴屋さんがこゆきを囲むようにして席についた。テーブルの上には長門と朝比奈さんがキッチンから運んでくれたお茶とお茶菓子が置いている。
ちょこんと正座したこゆきは、テーブルの周りで微笑んでいるメンバーを一人ひとり確認するように眺めながら話し始めた。
「えっと、先日は本当にいろいろとお世話になってありがとうございました。そして、急に帰ることになって、ご挨拶もできずにすみませんでした」
そこまで言って、ショートカットの髪を少し揺らしつつ申し訳なさそうに頭を下げた。
「どうしても、皆さんにもう一度会って、きちんとご挨拶がしたくて……。ちょうど一時帰国することになりましたので、また、少しの間ですけどこちらにお邪魔させていただくことにしました」
すっと背筋を延ばしたこゆきは、ちらっと長門に視線を送った後、正面に座っていたハルヒにむかってもう一度深々と頭を下げた。
「涼宮さん、本当にありがとうございました」
「いいの、いいの、こゆきちゃん。あたしもみんなも気にしてないから。こうしてまた会いに来てくれただけでとってもうれしんだから」
「そうだよ、気にすることはないっさ」
「涼宮さん、鶴屋さん、ありがとうございます!」
元気いっぱいの笑顔のこゆきは、今日の青空のようにさわやかに答えた。
「今度は、いつまでいるのさ?」
机の上のチョコレートの包みを開けながら、鶴屋さんが尋ねた。
「来週の日曜日にはまた出国します」
「そうか、そりゃ大変だね。また、ジンバブエに戻るのかい?」
「いえ、今度はアンティグア バーブーダです」
「おや、カリブ海だね」
へぇー、さすがは鶴屋さんだ、知っているんだ。こゆきも意表を突かれたようだ。
「ご存知なんですか?」
「いや、行ったことはないけどね。カリブ海は好きなんだ」
「ひょっとして、そこってバミューダトライアングルの近くじゃない?」
そういって急に身を乗り出して瞳を輝かせているのは当然ハルヒだ。
げ、ひょっとしてそうなのか? 驚いた俺がそっと長門のほうを見ると、長門もしまったというような視線を俺に送ってきている。どうやら長門もそこまでは考えが及ばなかったらしい。古泉も少し引きつった笑いを浮かべているが、朝比奈さんは無邪気に微笑んでいらっしゃる。
「あははは、ハルにゃんはホント好きだねぇ」
「えーっと、確かに近くですけどね。でも、バミューダトライアングルって別に何もないんじゃないですか?」
と苦笑いをするこゆきにハルヒがたたみかけた。
「いえ、火のないところに煙はたたず、よ。こゆきちゃん。もし、あっちに行ってね、なにか怪しげなうわさとか事件とかあったら知らせて! すぐに調査に行くから」
ハルヒはそこまで言うと、こゆきの目を覗き込むようにしてそっと続けた。
「それにね、こゆきちゃん自身も気をつけるのよ、いきなり宇宙人が尋ねてきて、遠い星に連れて行かれるかもしれないから」
「は、はい……わかりました」
こゆきは少し戸惑いながら、俺と長門をちらちらっと見ながら小さくなっている。
宇宙人に面と向かって宇宙人に遠い星に連れて行かれるって、なんてことを言いだすんだ、とも思いつつも、実際それに近い状況なわけだが。
しかし、やばいな、何かのきっかけでハルヒがこゆきのところを訪問するなんてことを真剣に考えないように注意しなければ。カリブ海の小国で不思議探索なんかしたくはないぞ。単にカリブ海へリゾートに連れて行ってもらえるだけなら大歓迎だけどね。
そんなこんなでしばらくはわいわいと盛り上がっているうちに、夕方近くになってきた。ふと気がつくとおいしそうなカレーの香りがただよってくる。どうやらキッチンの方で長門とこゆきがなにやら準備しているようだった。
しばらくして、リビングで大富豪をしていた俺たちのところに長門がやってきた。
「よかったら夕食を一緒に。今朝からこゆきがカレーの準備をしてくれている」
「ほんと? このおいしそうな香りはこゆきちゃんのお手柄だったのね」
ハルヒは、鼻をくんくんとさせる仕草をしながら、右手でおなかをさすっている。
「いい感じに食欲をそそるわ!」
「レトルトではない。スパイスから用意した本格的なもの」
「そりゃいいじゃないか、遠慮なくいただくよ」
鶴屋さんはそう言うと、すっと立ち上がってキッチンへ向かって行った。
「何か手伝うことはないかい?」
キッチンへ消えていく鶴屋さんの後姿に続いて、「あ、あたしもなにか……」と朝比奈さんもパタパタとスリッパの音を響かせてキッチン向かって行った。
それから十五分ほどしてますます空腹感が高まってきた頃を見計らうかのように、お盆にいくつかカレー皿を載せた鶴屋さんがリビングに入ってきた。
「ほらほら、お待たせー。どうだい、めがっさおいしそうだろ」
「ううーん、いい香り。たまんないわ、早く食べたい!」
今にも一人だけ先にパクつきそうなハルヒを何とか落ち着かせているうちに、テーブルの上には人数分のカレーと、サラダがたっぷり入ったボールが置かれた。
「どうも、おまたせしました。みなさんへの感謝の気持ちをこめて、有希さんにもお手伝いいただいてカレーを作ってみました。みなさんのお口に合えばいいんですけど……」
「こゆきちゃん、ありがとね、そんなに気を使ってくれなくてもいいのに」
と、ハルヒは隣に座って小さくなっているこゆきをぎゅーっと抱きしめた。ハルヒに包み込まれたこゆきは恐縮するように少しばかり息苦しそうに笑っていた。
最後にお茶を持ってきた朝比奈さんと長門が席に着き、全員が揃ったところで、ハルヒが立ち上がった。
「みんなスプーンを持って!」
ん、スプーン?
「じゃ、有希の妹分、こゆきちゃんとの再会を祝して、カレーを食うぞ、おー!!」
ハルヒがスプーンを持った手を大きく突き上げた。
「「おーー!!」」
なんとなく勢いで俺もスプーンを突き上げてしまったが、何だこりゃ? 乾杯かなんかのつもりだったんだろうか。
いまひとつ腑に落ちないは俺だけだったのかもしれない。ハルヒも鶴屋さんもこゆきも朝比奈さんも、当たり前のようにさっき突き上げたスプーンでにこやかにカレーを食べ始めている。
ちらっと古泉を見ると、やはり少し引きつった笑いを浮かべながら、一口目を食べようとしているところだった。長門? いわずもがなだな。すでに淡々とスプーンを動かし続けている。
ま、いいか。俺も食おう。
軽くご飯とルーを混ぜ合わせて口に運んだ。野菜の甘みを含んでまったりしているなかにきりりとスパイスが効いている。
うん、これはうまい!
何度か食した長門のカレーも決してまずいわけではないし、幼い頃から馴染んでいるお袋のカレーもそれなりにお気に入りなのだが、こゆきのカレーはまた格別の美味さだ。
「おいしいわねー、こゆきちゃん、最高よ!」
ハルヒが叫んでいる。そう、同感だ。
絶賛の嵐だった。
ハルヒが三皿目をたいらげる頃には、あの朝比奈さんも二皿目として少しばかりおかわりをよそっていた。長門も、ハルヒとほぼ同じペースで黙々と食べ続けていた。
かくいう俺も二皿目を食べ終え、満足感で幸せな気分にひたっていた。
鶴屋さんも満ち足りた表情で、福神漬けをぽりぽりと食べている。
大き目の鍋にたっぷりあったカレーもほとんど空っぽになったようだ。結局、七人で何人前を食べたことになるんだろうかね。
「ねぇ、明日は何しようか」
さすがに三杯目でごちそうさまをしたハルヒは、カレー皿に残ったらっきょをスプーンに乗せようとかちゃかちゃといわせながら、天井の片隅を見つめながら誰とはなく話し始めた。
「今日は食欲の秋だったから、明日はスポーツの秋なんていかがですか」
ハルヒの隣でテーブルの上のコップに片手を添えながら、こゆきが答えた。
「いい感じね、それいただき!」
えっ、と少し表情を曇らせる朝比奈さんが視界に入った。朝比奈さんにスポーツの秋は似合わないな、読書の秋なら長門だし、他に何があったけ?
とにかくここは、去年の野球大会出場みたいにいきなりハイレベルな他流試合に借り出されてはかなわないので、早いうちに朝比奈さんでも何とかなりそうなものを提案しておかないと。
「じゃ、また野きゅ……」
「ボ、ボウリングなんてどうだ?」
とっさに口に出たのは、先日見たテレビコマーシャルでなにやらプレゼントキャンペーン中であること宣伝していたボウリングだった。
「お、面白そうじゃないか」
食いついてきたのは鶴屋さんだった。
「SOS団ボウリング大会だね。うん、なんなら賞品も提供するっさ、盛大にいこうか!」
「鶴屋杯争奪、第一回SOS団主催こゆきちゃん歓迎ボウリング大会ね!」
ハルヒの瞳がらんらんと輝きだしたのがわかった。俺のとっさの提案は、よかったのか、悪かったのか……。
「こゆきちゃん、いい?」
ハルヒの問いかけにこゆきは元気いっぱいに答えた。
「はい! みなさん、あしたはがんばりましょうね」
ま、いいか、ボウリングなら朝比奈さんでもなんとかなるだろうし、野球の時のように他のチームの参加者に迷惑をかけることもない。
こうして翌日もSOS団とユカイな仲間たちは、ボウリングでこゆきとの親睦を深めることになった。それにしても鶴屋さん、どんな賞品を用意してくれるのだろう、ちょっと楽しみだ。
第二章に続きます