宇宙暦745年、帝国暦736年12月4日。人類社会を二分する2大勢力は、ティアマト星域に大軍を集結させた。この戦いに望む面々は以下の通りある。
宇宙艦隊総司令長官涼宮ハルヒ大将、同総参謀長キョン中将、第4艦隊谷口中将、第5艦隊古泉一樹中将、
 第8艦隊長門有希中将、第9艦隊鶴屋中将、第11艦隊国木田中将、動員されたのは、6個艦隊4万8千隻、兵員363万6千人に及ぶ。
この陣容は、当時の同盟軍が望みうる最高の物であったが、それでもなお、非難の声を免れる事はできなかった。
首都星ハイネセンで、報道陣がハルヒや政府高官に質問をしている。(時系列的に少し前の10月末ごろと推測)
「出征は決定されたのですか」?「今回はダゴン会戦を上回る、大会戦になるというのは本当ですか」?
「これは戦闘ではない、SOS団マフィアの私的な軍事ピクニックだ、多くの人命を損ね、彼らが武勲を誇るだけではないか。
国家の中に軍が存在し、更にその中に私的集団があるのでは、軍閥化の恐れがあるぞ」。
国防委員長の嫌味を込めた発言に対し、ハルヒ提督もマスコミに対し発言を行った。
「この戦いに勝てば次は元帥ね。そうすると私には昇るべき階段が、無くなるわね。タゴンの英雄の轍を踏まないようにしたいわね」。
「提督、それは退役後、政界に進まず不遇を囲った、両元帥に様になりたくない。即ち政界進出の意思表明と受け取ってよろしいですか」。
「提督は、意図的な発言で問題提起をなさる場合が多いですが、今回も同じですか」?「軍閥化の指摘をどう思いますか」?
ハルヒ提督はそれらの質問には答えず、車でその場を後にした。しかし、政治家達の懸念は杞憂だったかもしれない。
SOS団マフィアと呼ばれる面々は、共通の権力欲で結ばれた関係ではなかったからである。政治家達の懸念が杞憂であるもう1つの理由は、
会戦の直前、SOS団マフィアの中で激しい対立が生じていたからである。
「これ以上の、議論は不要よ。皆は私の言う通りに動けばいいのよ」。これに対し国木田中将が反論を行った。
「それは、どういう事、この作戦は仮説の上に、仮設を重ねただけの物だよ。こんな不十分な説明だけでは納得できないよ」。
涼宮さんの意見を鵜呑みにするだけで、僕たちには考える必要は無いという事?一体どうしてしまったの」?
「国木田こそ大丈夫?あたしが司令長官よ。これまでだってあたしが立てた作戦で上手く行ってきたし、あんたも黙って指示に従って来た筈よ」。
「これまでだって言いたい事は有ったよ、でも今回は動員規模から違う。曖昧な論拠と直感に頼っただけのような作戦案に、
唯々諾々と従える状況じゃないよ」。普段、温厚な国木田にしては珍しく怒っていた。
「大規模でも、あたしのやることに間違いはないわ。あたしが正しいのだから、異なる意見は必要ないわ。あんたは、いつも通り黙って自分の責務を果たせば良いのよ」。
「これ以上話しても無駄という事だね。涼宮さんは変わったね、それとも最初からそうで、僕に見る目が無かったのかな」。
提督たちが不機嫌な顔で退室していく、鶴屋さんだけが残っている。
これまでも、罪の無い揶揄や毒舌の応酬は珍しい事ではなく、むしろ同盟軍司令部を活性化し、多くの戦術案を生む土壌となって来た。
ハルヒは天才的な用兵家であると同時に、機知と能力に富んだ司令部の中枢でもあった。しかしこの会戦に先立ち、彼女は妙に高圧的であり、
作戦についての説明を嫌った。それが不協和音の原因になっていたのは間違いない。
1人会議室に残っていた、鶴屋さんは一際陰鬱であった。
個人的な事ではあるが、彼女の家で飼っていた熱帯魚が、若いメイドさんの不注意で、全滅してしまったのである。ショックから、
メイドさんに初めて罵声を浴びせ、メイドさんは泣きながら飛び出していった。数時間後には後悔したが、その時には既に
ハイネセンを離れてしまっていた。和解の機会は後日と言う事になりそうである。
「ひどいことを言ってしまったにょろ。帰ったら謝らないといけないにょろ。彼女許してくれるかな」?
「これで、帝国軍に勝てるのか?提督連中のあんな不景気な顔を見た事が無いぜ」。
「だけど、今回は谷口提督の順番からすれば勝ちの番だぜ。」兵士が指を数えながら確認する。
「谷口提督だけが指揮を取るわけではない。局地戦では第4艦隊が勝っても、全体では負けという事もあるさ」。
「そう心配するな、ハルヒ提督が総司令官だ。多分問題無いよ、提督は天才だ」。
「向こうに更に上の天才が居たらどうするんだ。」「俺に聞かれてもなあ。提督たちに聞いてみたらどうだ、勝てますかって」。
「聞けるかよ、必勝の信念がなくて、勝てる訳無いわって怒られるのが落ちだ。人によっては補給や情報より、そちらが大事らしいぜ」。
「SOS団マフィアはそんな無能な連中とは違うよ」。「そう願いたいねえ」。兵士達にしても、勝つ意味を中々見出せずに居た。
ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが築いた、邪悪な専制国家と戦い、人類の平和と正義を守るのだ、そう言われて戦い続ける事、
百年に及ぶ、そうそうたゆまぬ情熱を持って殺し合いを続ける訳には行かなかった。それでも防衛戦争という意識があるだけ、同盟のほうがマシかもしれなかった。
勝って得る物は少ないが、負ければ全てを失うのだから、
一方の帝国軍は、負けて失う物より、勝って得る物のみを考えていたと言えるだろう。総司令長官は、宇宙艦隊司令長官たるツィーテン元帥、元帥は必勝を期し、
7個艦隊 5万6千隻、将兵650万という空前の大兵力を動員している。中でも、憤死したケルトリング元帥の甥である、
ヴィルヘルム・フォン・ミュッケンベルガー中将率いる艦隊の士気は高く、提督以下の将兵は妙な熱気に動かされていた。
「全艦に告ぐ、この戦闘は弔い合戦であり、賊将ハルヒの首を取り、軍務尚書の無念を晴らすのだ。奴を倒した物には、恩賞は思いのままだぞ。
決して命を惜しむな」。この檄に対し、批判的な物も居る。少壮の戦術家として知られる、ハウザー・フォン・シュタイエルマルク中将である。
「これでは私戦を扇動するものではないか、ハルヒ1人を倒して、それでよしとするのであれば、帝国軍が鼎の軽重を問われる事になる。
帝国軍の高級士官は、戦場を個人的な武勲の立て所としか考えていない。故に、同僚との協調性に乏しく、兵士への情愛も薄い。憂慮すべきだな」。
「ですが、総兵力において我が軍が有利です。敵に地の利があろうとも、よもや我が軍が後れを取る事は。ありますまい」。「そうだとよいがな」。
12月5日9時50分、遂に戦端が開かれる。
「敵艦隊に着弾確認」。「前進よ、敵の中央と右翼の間を突破しなさい」。直ぐに発光信号で短く指令が飛ぶ。
「国木田提督、命令を確認しました。どうしますか」?
「指示には従うよ、前進命令を」。「こっちも前進にょろ」。
「敵の2個艦隊が急速前進してきます」。「敵の本隊に留意しつつ、前進してくる敵艦隊に砲火を集中せよ」。
 
「接近を許すなあー、撃って撃って撃ちまくれ」。ミュッケンベルガー中将の怒号が飛ぶ、
「第9艦隊に攻撃が集中しています」。「鶴屋さんには悪いけれど、盾になってもらうよ。その隙に僕達は前進」。
「突破を許すな。敵の正面を抑えろ」。シュタイエルマルク中将の冷静な指示が飛び、第11艦隊は前進を阻まれてしまう。
「敵の足が止りました。」「前進して、敵の後方に割り込み、退路を遮断せよ」。ミュッケンベルガー艦隊により、第11艦隊は後方を遮断されてしまう。
「連携の遅れから、時差が生じ、第11艦隊は退路を絶たれ、敵中に孤立してしまいます」。
「古泉君、国木田君は、酔っ払い集団になってしまったわ。少し水を掛けて、酔いを醒ましてあげて頂戴」。
「仰せのままに」。古泉、かっこつけている場合じゃないぞ。全くこいつときたら。
「谷口、敵の狙いは大規模な迂回進撃よ。敵の総兵力は、恐らく半数の2万3千ね。これをあんたの艦隊で足止めして」。
「おいおい、俺の艦隊だけでか?敵は3倍だぞ、どうしろと言うんだ」。ハルヒが地形図を示し、小惑星帯の出口を示す。
「敵は、恐らくこのコースを通るわ。ここなら恒星と小惑星の影響で、大兵力を展開できないわ。少数でも互角の戦いが出来るわ。敵を撃滅するのよ」。
「それは、了解した。しかしその情報は正しいのか」?少し考えながら返答する谷口。
「その判断は、総司令部でするわ。現場はあたしを信じ従って居れば良いわ」。
「解った、従おう。しかしハルヒの言う通りで無かった場合は、勝手にやらせてもらうぜ」。
「そうはならないわ」。「俺もそう願うぜ」。「閣下、現在の少ない情報から、どうやって判断されたのですか」?
「あたしには解る、それだけよ」。幕僚達が、驚いた顔をしている。それは当然の反応だった。
「ハルヒ、いくらなんでも独断が過ぎるぞ」。キョンも不安になったのか。ハルヒを嗜める。
「キョン、大丈夫よ、それより第5艦隊の状況はどうなの」?「間もなく、敵艦隊と接触します」。
「第9艦隊と11艦隊の間を分断している敵の側面を攻撃します」。
「叛乱軍の新たな艦隊が左側面から攻撃してきます。このままでは、こちらが反包囲されてしまいます」。
「慌てるな、2正面作戦を避け、現在包囲している艦隊を殲滅した後、味方と合流し、後背の敵を討つ、まずは目前の敵の撃滅に専念する。急げ」。
「味方の増援だね、慌てて敵が飛び出してくる所を攻撃するよ」。慌てて飛び出してしまった、ミュッケンベルガー艦隊はたちまち浮き足立つ事になった。
「閣下、味方が航続していません。旗艦が前に出過ぎていて、集中砲火を浴びる恐れがあります」。
「前方に新たな敵影」。「回頭しろ」。慌てて転蛇した「クーアマルク」はたちまち集中砲火を浴び、紅蓮の炎に包まれた。
「叔父上、無念であります。」軍務尚書の肖像画が、落ちて火に焼かれていく。中将はロケット(写真入メダル)を取り出し、妻子の写真を眺めた。
「ヴィルヘルミナ、グレゴールを立派な軍人に育てよ。グレゴール私の仇はお前が、いつかー」!中将の意識は白一色になり消失した。
後に、彼の子息は望み通り軍人になり、元帥・宇宙艦隊司令長官の要職に付く事になる。最も、同盟を滅ぼしたのは別人だが。
「敵旗艦爆沈、敵は混乱しています」。「この隙に、一気に攻撃を集中させ、後退するよ」。
「第11艦隊の退却を支援します。艦列を広げて、敵を圧迫します」。
「チャンスにょろ、他の艦隊に負けてはいられないね。突入して敵を混乱させるにょろ」。
 「ふふふ、鶴屋さんも攻勢に出たようですね」。緒戦においては、同盟軍の方が戦果を挙げたと言えるだろう。
ミュッケンベルガー中将を戦死させ、艦隊をほぼ壊滅させたのである。これらは、ここの艦隊司令官の非凡さを証明する物ではあるが、ハルヒの兵力投入
のタイミングも絶妙であった。第11艦隊は危機を脱したと言えるだろう。ハルヒも報告を受け満足げに頷いた。
「第11艦隊、戦列に復帰しました」。「ふむ、それでは勝ちに乗じるとしましょうか。急進して、敵の左前方に押し出します」。
半円を描くように、敵の艦列を分断します。」「閣下、総司令部の許可を得ませんと」。
「構いません。これ以上涼宮さんに武勲を独占させるのは嫌です。僕たちも花束の中から、薔薇の1本くらいは分けてもらう資格があるはずです」。
「閣下、承知・・・・・致しました」。参謀長も、諦めて指示に従う。
「第5艦隊、突出します」。「古泉君、構想は正しいわ、しかし敵が黙っているかしら」。
ハルヒの予想通り、あるいは懸念通り、第5艦隊の動きに呼応する様に、帝国軍のシュタイエルマルク艦隊が動き出した。その動きは敵軍よりも速く、
第5艦隊が半円を描く様に、高速前進を開始すると、急突出してきたシュタイエルマルク艦隊が、円運動の結果8時方向からの攻撃をかけてきたのである。
結果として古泉提督は、敵軍の即背攻撃を成功させてやる形となってしまった。
「B04砲塔、何故砲撃しない、応答せよ」。「こちらはアレキサンデル・ビュコック軍曹です」。
「B04砲塔、何故砲撃しない」。「先ほどの砲撃で弾を撃ち尽くしてしまいました」。
「次の戦闘の際は、もっと有効に使わないと。最も、次の戦闘があればの話だけれども」。
「敵艦隊が、中央を突破、さらに侵食されています。」「止むを得ませんね、総司令部に連絡」。
「第5艦隊より入電、我背中より槍を突き刺され、抉られて、傷口を広げつつあり。以上です」。
「古泉らしい言い草だな」。無駄に感心するキョン。「救援を求めているの」?
「はっきりとは言っていません」。「さすがに自分から、助けてくれとは言え無いわね。もう少し放っておきましょう。
見殺しにはしないわよ、私に考えがあるの。まあ任せて頂戴」。
「司令部は何も言ってきませんね。独断専行の見せしめにでもする気でしょうか。やはりここは、自力で何とかして見せないと格好がつきませんね」。
「視点を変えましょう、中央突破されたと思わずに、方位殲滅の好機と考えましょう」。部下も呆れています。
「変だな」。シュタイエルマルク中将は敵の兵力が少な過ぎる事に、疑念を感じたのだ。
「第9、11艦隊は、わが軍本隊と戦闘中なので動けないのは解る。しかし、何故我々に中央突破された艦隊の、救援を出さないのだ。参謀長の意見は」?
「確かに、敵本隊は余力を残しているように見えます。「敵の推移と、移動距離をグラフ化して出してくれ」。やがてデータが表示される。
「やはり、敵は我が軍の迂回進撃を見抜いているぞ。そればかりか、側背攻撃を仕掛ける為に、主力を温存しているとしか思えない。このまま作戦を続行
するのは危険だ。総司令部に急ぎこの事を報告しないと。連絡艇を用意させよ。報告書を届けさせる」。
しかし、連絡艇は戦闘に巻き込まれ全滅してしまう。「後続を出しますか、それとも傍受の危険はありますが、通信しますか」?
「いや、最早時間はない。我らは本隊と合流する。」しかし、この状態から兵を引くのは至難の技である。
「幸い、我が艦隊は敵の中央に食い込んでいる。このまま突破し、味方の左翼艦隊と合流する」。
「安全が確保され次第、私が直接司令部に赴き報告する。その方が良さそうだ」。艦隊は突破に向け前進を開始する。
「敵艦隊離れていきます。結果としては敵に中央突破を許す形となってしまいましたが」。古泉は軽く舌打ちし、
「格好が悪いのは仕方ありませんが、あのまま侵食されるよりはマシでしょう。再集結急いでください。一旦第9,11の両艦隊のラインまで下がり、艦列を立て直します」。
「それにしても、涼宮さんはこうなる事を見越して、わざと動かなかったのでしょうか?艦隊が苦戦しているのを承知で」。古泉にこれまでにない怒りが芽生えた。
「やはり、敵のほうが先に引いたわね」。「これも判っていたのか、ハルヒ」?
「いいえ、仕掛けただけよ。帝国軍は、当初の迂回進撃を断念し、兵力の再集中を図るわ。こっちも谷口を呼び戻して、体制を整えるわ」。
前半において、ハルヒの天賦の才は、如何無く発揮されたと言えるだろう。
「一旦、全艦隊を5光秒下げて、戦列を立て直すわ。さあ勝負はこれからよ」。彼女は如何にして、戦機を掴み得たのか?勝利の女神、あるいは時の女神に、
愛されたからとしか、言い様の無い、超常的な力による物なのか、あるいは・・・・・
だがこの時点で、その答えを見出すのは、いささか性急と言えるかもしれない。戦いは未だ始まったばかりである。ミュッケンベルガー艦隊を壊滅させたとは言え、
未だ、総兵力は帝国軍が上回っているのである。ハルヒが時の女神に愛されていたかどうか、その真価が問われるのはむしろこれからであった。
 


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