宇宙暦788年10月14日、青年はキョン退役大将の自宅を訪れようとしていた。
「10月は黄昏の国、人と光は黄昏の中を音も無く歩き去る・・・・」既に周囲の並木は。美しい紅葉の季節を迎えていた。
「あれは、誰の詩だったかな。こういう場面にはぴったりだけど、どうせなら恋人とでも歩けたら・・・これも給料の内か」。
「ええと、メープル・ヒル17番地、この先だな」。質素な邸宅を発見し、早速、呼び鈴を押し、直ぐに門が開かれた。のだが・・・・
「!」ヤンは仰天した。どう見ても10代の美少女だったからである。あわてて番地を確認する。
「ヤン・ウェンリー少佐?えと祖父から話は聞いています。どうぞ」。お孫さんかと安堵するヤン。
書斎に通されるヤン。実は彼は長門提督同様の活字中毒患者である(歴史関係)。
「いいなあ。こういう部屋は理想だな。しかし、こういう書斎のある邸宅は、ある程度年齢を重ねないと似合わないだろうな」。
その時、ドアが開きヤンは慌てて立ち上がった。
「訪ねていただき光栄だ、ヤン少佐。私のように半分世を捨てた身でも、エル・ファシルの英雄の名は知っている」。
ヤンは照れながら握手をする。キョンがゆっくりと語りだした。
「で、涼宮ハルヒの事を聞きたいそうだが」ヤンは事情を説明する。キョンは紅茶を淹れヤンに渡す。
「妻が死んでから長いのでね。慣れている」。ヤンは少し味が濃いなと感じた。
「そうか、ハルヒが死んでからもう43年になるのだなあ。」ここは話を急かすべきではないと、ヤンは感じた。
「ハルヒの幕僚の中で、私より有能な奴はいくらでもいた。唯私が一番長生きなので。こうして偉そうに語る事ができる。
長寿の特権という奴かな。」
「谷口も、古泉も、長門も、国木田も、鶴屋さんも皆いなくなってしまったなあ。朝比奈さんも・・・おっと最後のは忘れてくれ」。
「互いに言い合ったものだ、先に死んだら、生き残った奴に後でどんな悪口を言われるか、知れたものじゃない。
だから何としても生き残ってやろうと」。ヤンには、一瞬SOS団マフィアの面々が見えた気がした。
「それで、閣下。ハルヒ提督についての奇妙な噂があるのです」。
「神話があれば、反神話が生まれるのも当然だな。彼女と同じ時代に生きた人全てが、崇拝し、賞賛すべき理由は何処にも無い」。
「問題になった投書は、ハルヒ提督の死は戦死ではなく、謀殺であったと主張しているのです」。
「ふ、軍部としては、ハルヒの死の、不名誉な噂を放置できなくなったという訳だな、それで君がこうして、老人の元を訪れたという訳か」。
「閣下には、何か心当たりがおありですか」?問いに対し、キョンは即答した。
「無い、たとえ有っても言うつもりは無い。せっかく訪ねて来てくれた君には悪いが」。
「私は、神話が作られる側に加担した。不当に過大評価したつもりは無いが、自分の中のハルヒ像を壊そうとも思わん。
私に、異を唱える事が出来た者は、あの当時ならいくらでも居ただろうがな」。
「死人に口無しですか」?ヤンを睨むキョン。やがてふと笑みを浮かべ、
「その通りだ。今ここで私が何を喋っても、否定できる者は居ない。生き残った者の勝ちと言う訳だな」。
「雑談で結構です。閣下の中のハルヒ像や、他の提督達の、人間像についてお聞かせ下さい」。
「ハルヒは戦機を計るのが、比類無きほど巧みだった。あれは、天才としか言えんね」。
「戦機ですか」。「そう1分早くても遅くても、作戦行動は瓦解してしまう。その何万分の1の戦機を、ハルヒは確実に掴んだ。
正しく神業としか思えなかった。勝利の女神ではなく、時間の女神が彼女に味方している、と賞する者もいた。
私は、ハルヒは戦略家ではなく戦術家だと思っているが、それでも、この上なく華麗で壮大な戦術家だったなあ。」
その評価は過大ではない、連戦して連勝した彼女の、武勲がそれを証明している。だが否定しようの無いその華麗さが、
どのような微成分を含んでいるか、それが問題となるのだが。
「閣下は、ハルヒ提督が戦略家ではなく、戦術家だと仰いましたが」?
「与えられた戦場で、これほどまでに神業的用兵を示した提督は、存在しなかった。戦う都度勝ち続けた。だがそれによって
宇宙の歴史に変革をもたらした訳ではない、という事だ。」確かにダゴン会戦以来、帝国と同盟の間に何らの変化があったわけではない。
「例えばイゼルローン回廊だが、帝国が要塞を建設する前、同盟でも要塞の建設計画があった。実はハルヒもその構想を抱き、
基本案を、国防委員会に提出した事もある。だが、ハルヒは大艦隊を指揮統率する魔力に取り付かれており、
この案は、艦隊戦力を強化する案が、最高評議会で可決されるのと同時に廃棄されている。軍事は莫大な予算を必要とする。
どうせ金が掛かるなら、要塞より艦隊に金を掛けるべきだと言うのが、ハルヒの用兵理論だった。それはそれで間違ってはいない」。
結果的に、イゼルローン回廊には、先に帝国軍が要塞を建設してしまった。もし、ハルヒが要塞建設を推進していたら、歴史は変わっただろう」。
「ところで、閣下から見た、ハルヒ提督の人為はどんな感じでしたか」。
「うん、自信と覇気を兼ね備えた女性だった。その性格は、当然ながら上官と衝突や、摩擦を繰り返した物だった。
君と同じ少佐の時代だが、上官の大佐が彼女に怒号を浴びせた事があった。
「大体、貴官は思い上がっているぞ、今までの武勲が全て実力で、運ではないと思っているのか。自分には不可能な事など無いと思っているのか」。
「いいえ、あたしにも不可能な事があるわ。それは大佐以上の失敗をやってのけるという事ですわ」。
「こういうことを言われて怒らずにいられるのは、広くて深い度量を持った人間だった。無論そんな人物は滅多にいないがね。
だがハルヒは実力と実績で上官達の不快感を跳ね除けた者だがね」。
 
「そう言えば、閣下は奥様とは死別だと伺いましたが」。キョンは立てられている写真立てを懐かしそうに眺める。
「ハルヒが死んだのと、同じ年の7月だった。前から妻は病床にあったのだが、出征が決まって私は行かねばならなかった。
別れ難い様子の妻を宥めて、私は戦場へ向かったのだが、帰ってきた時、妻は既に死亡していた。私は妻の臨終に立ち会う事が出来なかった。
その衝撃は、私自身が驚くほど尾を引いた。私は打ちのめされ、精神的な活力を失ってしまった。心配した、谷口や古泉が休養を勧めてくれた。
自身今の状態が、任務に耐える事が出来ないと解っていた為、休養を決意した。
「今年の内に、帝国軍と大きな会戦がありそうなのよ。あんたが司令部を運営してくれないと困るわ」。
「気力が続きそうに無いんだ。迷惑をかけるといけない。休ませてくれ」。ハルヒは再三翻意を促したが、
私は休ませてくれの一点張りで、ついに休養の要求を押し通した。だが結局1ヶ月で復帰した。
精神的な喪失感を埋める為には、職務に邁進するしかないという事に気付いたのだ。その3ヵ月後に第2次ティアマト会戦が起き、
涼宮ハルヒにとって、最後の戦いに臨む事になる。」
キョンは語り出した。43年前の第2次ティアマト会戦会戦の顛末を、
それは銀河帝国と自由惑星同盟の、長い長い流血の抗争の歴史の中で、最も名高い一幕だった。

 

 


設定の説明

 
ハルヒは既に「力を失って」います。
長門さんは「人間に」なっています。しかし、優秀な点は変わっていないですね。
朝比奈さんは未来に帰ったので登場しません。
ハルヒはもとの原作の人と違い「独身」の設定です。
キョンは誰と結婚したかは想像に任せます(笑)まあ佐々木さんか阪中
さんかそれ以外ですね。ミヨキチは孫娘という設定。
キョンの妹さんは、宇宙暦788年4月頃に病死。
 


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