あたしは中学に入学して他の奴らとは違う「特別」な人間になってやると改めて決心した。
「特別」な人間になる為に他の奴らが絶対やらない様な事を片っ端からやった。
そんな事をしている内に学校内でも特に浮いてる存在になっていた。
周りの奴らがあたしの事をどう思おうが噂しようがそんなのはまったく気にしなかった。
そんなあたしがイジメのターゲットになるのに時間は掛からなかった・・・



涼宮ハルヒの改竄 version H



まず上履きを隠された。
でも、そんな幼稚な遊びに付き合う気がなかったあたしは全く気にもしなかった。
そんな事を気にしてたら「特別」な人間になんて永久になれないと思ったからだ。

どうやら、それが気に入らなかったみたいで翌日にはあたしの机に幼稚な中傷が彫刻されていた。
まったく、ノートが取り辛いったらありゃしないわね。
バカとかブスとか死ねとかってもうちょっとなんかなかったのかしら?
まぁ、こっち見て笑ってるアホ面見たらこの程度ねって納得できるんだけど。
その他にも教科書に落書きとか机の中に虫とかとにかく幼稚なイジメが続いた。
「イジメの教科書 初級編」ってのがあったら全部載ってそうなもんばっかね。

1週間後には精神的なイジメから肉体的なイジメへと変わっていた。
「ちょっと面貸しなさいよ。」イジメグループのリーダーみたいのが胸倉掴みながら言ってきた。
「は?なんであたしがあんたたちみたいのに付き合わなきゃいけないの?」って言ったらお腹に膝蹴りをいれてきた。
不意打ちで動けなくなったあたしは腕を縄跳びで縛られて体育館裏まで連れて来られた。
放課後の体育館裏で集団リンチってあんたたち金○先生の再放送見過ぎなんじゃないの?
痣が見えない様に服の上ばっか狙ってきて姑息ったらありゃしないわね。
理由はクラスで一番格好いいらしい男子から告白されたかららしい。
ほんとバカバカしいったらありゃしないわ。
告白をOKした途端、自分の理想を押し付けてきてばっかりだったから昼休みに振ってやったわ。
・・・
どれ位時間が経っただろう?
体の感覚があまりない。
リーダーみたいのが満足したらしくもう蹴りはこなかった。

リーダーみたいのが何かしゃべっているとグループの一人が鞄からデジタルカメラを取り出した。
そして動かなくなったあたしにいやらしい笑みを浮かべながらあたしの制服を脱がし出した。
「ちょっと!!何すんのよっ!?」
痛みで抵抗したくても出来ないあたしはされるがままに半裸にされ、何枚もその様を写真に撮られた。
あらかた写真を撮り終えると「明日が楽しみだわぁ」と笑いながら帰っていった。

翌日、まだ痛みが抜けない体で登校したあたしは教室に入って愕然とした。
あいつらは昨日撮った写真を餌にお金を要求してくると思っていた。
だけど・・・それより質が悪かった。
あいつらは昨日撮った写真を大量に焼き増ししてクラスメイトにバラ撒いていた。
男子は今夜のオカズだと言わんばかりに写真を見た後あたしの体を舐め回すように見てくる。
女子はゴキブリを見た時みたいな嫌悪感丸出しの目であたしを見てくる。
あたしの心がガラガラと音を立てて崩れていく感じがした。
リーダーみたいな奴の耳障りな笑い声だけがいつまでも耳に残っていた。

気が付くとあたしは上履きのまま闇雲に町中を走っていた。
視界はぼやけて何も見えない・・・
頭は真っ白で何も考えられない・・・
あたしは自分を変えようと一生懸命なだけなのにっ!!
一生懸命頑張ってるだけなのにっ!!
どうしてっ!?
どうして誰もあたしを認めてくれないのっ!?
どうして何も起こってくれないのっ!?
どうして誰も・・・あたしを助けてくれないの?
「宇宙人でも未来人でも超能力者でもなんでもいいからあたしを認めてよっ!
助けてよぉぉぉおお!!」

そこからの事はあんまり良く覚えてない。・・・と思う。
多分、公園の真ん中でうずくまって泣いてたと思う。
そしたら知らない奴が声を掛けてきた。
「おい、どうしたんだ?」
そいつはやる気のない声で聞いてきた。
「・・・ひっく・・・・っく・・・・・」
あたしは何も答えられなかった。
「あー、その、なんだ。とりあえずベンチに座って落ち着かないか?」
そいつはそう言ってあたしの肩に上着を掛けてくれた。

そいつはあたしの肩を抱いてベンチへ連れてってくれた。
「まぁ、これ使え。」
そいつはあたしにシワくちゃのハンカチを差し出した。
いつものあたしだったら文句の1つでも言っているだろう。
でも、この時はそんなシワくちゃのハンカチが何より嬉しかった。

ハンカチで拭いても拭いても涙は止まらなかった。
そいつは何も聞かずにあたしが泣き止むまでずっと隣に居てくれた。
あたしが泣き止んだ頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
あたしが泣き止んだのを確認するとそいつは
「帰れるか?送ってってやるぞ」なんて言ってきた。
「一人で帰れるからいい」と言ってあたしは立ち上がろうとした。
けど、足に力が入らなかった。
転びそうになるあたしをそいつが慌てて抱き留める。
あたしが呆然としているとそいつは「やれやれ」と言いながら溜息をついた。
そしてこう言った。
「上履きでの土足は校則違反じゃないのか?残念な事に今日だけ校則違反する奴が許せないんだ」

「は?だから何?」

「背中に乗れ」

「な、な何言ってるのよ?」

「なんならお姫様抱っこでもいいが?どっちがいい?」

「どっちも嫌よっ!!」
そいつは少し考えると「よし!お姫様抱っこだな」と言ってあたしを抱きかかえようとしてきた。
「ちょ、ふざけないでよっ!!だったらおんぶの方がマシよっ!!」
そいつはしてやったりな顔をしながら「そうか、よし乗れっ!!」と言ってきた。
あたしは観念してそいつにおんぶされることにした。
そいつの首に両腕を回してしっかり掴まるとそいつの耳が見る見る赤くなっていった。

「よし行くぞ」と言ってそいつは歩き出す。
あたしが「そっちじゃないわ。正反対よ」と言うとそいつはコケそうになる。
「どうしたの?」

「かなり緊張してる」

「自分でおんぶするって言ったんだからしっかりしなさいよね」

「仕方ないだろ、妹以外の女の子おんぶするの初めてなんだから」

「ふーん、初めてなんだ。あたしもあんまり踏ん張れないんだから気をつけてよね」
そいつは肩をすくめながら「すまん」とだけ言った。
あたしはちょっと悪い事を言った気がした。
「まぁ、いいわ。よろしくね」
あぁ、ホント素直じゃない。
なんで「ゴメン」って言えないんだろ。
「おう、任せとけ」
そいつはあたしがヘコんでるのに気が付いたらしく明るくそう言ってくれた。

おんぶしてもらってる最中あたしはそいつに聞いてみた。
「ねぇ、自分を変えるために変なことばっかりしてるクラスメイトが居たらどう思う?」
そいつは少し考えてからこう言った。
「ん~、バカだと思う」

「そう」
あたしやっぱりバカで変なんだ。
また涙が滲んできた。
「でも、羨ましいよな。そこまで自分にバカ正直になれるなんてさ」
え?今のどういう意味?
「俺達ってさ、自分に何かしら嘘をついて生きてると思うんだ。
それが利口な生き方なんだって自分にいっぱい言い聞かせてさ」
あたしは黙って聞いていた。
「周りから浮かないように体裁を取り繕ってさ。
嘘で自分を縛り上げて自分が本当に行きたい所じゃない所をいつの間にか目指してるんだ」
あたしには何故かそいつが辛そうにしてる様に思えて腕に少しだけ力を込めた。
「だから、そんな風に自分にバカ正直になれる奴がいるならさ。
どれだけ周りからバカにされても自分が本当に行きたい所を目指して欲しいと思うし、応援する。」
あたしはいつの間にか泣いていた。
悲しいからじゃない。
今、心がとてもあったかいから出る涙。
それはとても心地よかった。
あたしはそいつに言った。
「ありがとう」と。

幸せな時間と言うのは楽しい時間より更に短いらしい。
あたしの家の前に着くと親父と母さんが立っていた。
親父は何か誤解したらしくあたしを降ろした「そいつ」と呼んでいる奴の胸倉を掴んでいた。
「お前なんぞに家の娘はやらーん!!」とか言ってるし。
確かにもう外は暗いし、あたしの目は真っ赤になってるのだから誤解しても仕方がない。
あたしはその誤解が少し嬉しかったけどこのままではやばいので誤解を解くことにした。
誤解が解けやっと親父から開放されたそいつはまた「やれやれ」と溜息をついた。
そいつがペコッと頭を下げて帰ろうとした所を親父が
「娘の恩人を徒歩で帰らせたらバチが当たる」とか言って無理矢理車の助手席に押し込んだ。
そして別れの挨拶もロクに済まさないまま車は発進した。
それを見送るとあたしは家に入って一人遅い夕食を食べていた。
向かいの席で母さんがニコニコしながらこっちを見てくる。
ご飯を飲み込む度に「あの子彼氏なの?」とか「もうチューした?」とか質問してきた。
違うと否定しようと思った。
でも、それ以上に話したい事が沢山あった。
とてもあったかくて
とても嬉しくて
とても大事な話をしたいと思った。

どれ位話しただろ?
まだ、半分も話せていないと思う。
そんな事を考えていたら親父が帰ってきた。
親父がいうにはあいつの家はあたしの家から歩くと1時間以上は掛かる所だったらしい。
親父はあいつと車内で色々な話をしたらしい。
あたしも乗って行けば良かったと後悔した。
親父曰く「中々骨がある」とか「話してて気持ちいい」とか言ってた。
すっかりお気に入りに追加された様だ。
母さんの「もう遅いから明日にしましょう」という一言で今日は解散になった。
あたしは自分の部屋に入って制服をハンガーに掛けた。
その時、ポケットからシワくちゃのハンカチが落ちた。
あ、返すの忘れてた。
そういえば、名前聞くのも忘れてたわ。
また、会ったときに返そう。
それまでこのハンカチにはあたしのお守りになってもらおう。
きっとまた会える。
これは予想でも予感でもない。
あたしが生きてきた中で一番の確信。

Fin

エピローグ

相変わらずイジメは続いたけど、銀河最強のお守りを得たあたしには怖いものなんて無かった。
片っ端から真っ向勝負をした。
もうどんな事をされても負けない自信があった。
もうどんな事をされても挫けない確信があった。
そうして徐々にイジメも無くなっていった。
結局、自分が「特別」な人間になれたかなんて分からないけど、
あいつのおかげであたしは本当の意味で「あたし」になれたと思う。

エピローグ2

今日は7月7日、つまりは七夕だ。
宇宙に向けてメッセージを校庭に書くため学校に不法侵入しようとした時誰かに呼び止められた。
振り向いた先に居たのはあいつだった。
正確にはあいつのそっくりさんの高校生だった。
前に会ったあいつは中学の制服着てたんだから今目の前にいるのはあいつじゃないと分かった。
少し残念だな。
そのそっくりさんに名前を聞くとジョン・スミスと名乗った。
あたし一人じゃ骨が折れそうなのでジョンに手伝わせた。
あたしの言う事に文句を言いながらも最後まで付き合ってくれた。
やっぱりあいつに似てる・・・
するとジョンは「やれやれ」と言って溜息をついた。
やっぱりあいつだと確信した。
やっと会えたという嬉しさがある反面、一緒にいるお姉さんとどういう関係なのかという不安も生まれた。
頭の中にあることが現実になるのが怖くて、あいつなのか確かめることが出来なかった。
あたしは心の中で一つの決心をした。
ジョンの着ていた制服の学校へ行こうと。



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