意識がブラックアウトした直後、俺は教室で突っ伏して寝ていた。

「…元の世界に帰ってこれたのか?」
「そのようですね」

のわっ!古泉!!

「…頼むから背後に立つな。何か身の危険を感じる」
「おや、それは失礼しました」

…っていうか何でここに?

「長門さんから連絡があったので。あなたがここに戻ってくると」

…で、何の用だ?

「いえ、今回の現象について不明なことが多いので詳しい話を聞かせてもらおうかと」
「推測でもいいか?」
「構いませんよ」

…面倒くさいな。
まぁいいか。

「ハルヒは初めに何を望んでいた?高校生活の初めの頃」
「…世界中の不思議ですか?」
「あぁ…だけど実際ハルヒの周りにはそんなもの無いよな?」
「宇宙人や未来人や超能力者がいると思うんですが」
「ハルヒの意識下ではだ。お前のことを超能力者だなんてこれっぽっちも思ってないだろ?」
「あぁ、そういうことですか。確かにそれならそうですね」
「だけどハルヒは今の日常を楽しく感じていた。何でもない日常を…多分その楽しさを昔の自分に伝えたかったんじゃないか?」

あの世界のハルヒは友達と普通に遊ぶことでも十分に楽しいとあいつは気付けたんだ。
現実世界でそれに気付けなかった昔の自分を勿体なく思ったんだろう。

「…まぁ別の世界でのことなんだがな」
「案外そうでないかもしれませんよ?
「どういうことだ?」
「いえ、これも推測なんですが…あちらの世界で体感した一部がこちらに引き継がれてる可能性もありませんか?」
「…まさか」
「まぁ涼宮さんが望めば何でもできそうなのですが…しかし今回はお役にたてなくてすみませんでした」
「別にいいさ。いつも頼ってばっかだしな…ところで」
「…どうかしましたか?」
「…カニ鍋の残りはあるか?」
「もちろんです。ちゃんとあなたの分は残してありますよ」

おぉ、恩にきる。

「部室に材料が残ってますよ」

そう言うと古泉は教室から出ていく。
と、ここであることに気づいた。

「…ポケットに何か…」

写真が入ってた。
あの世界でハルヒが撮った写真。

高校生の俺が一人情けない笑顔で写っていた。









「あ、キョンくん!お帰りなさい!!」

部室に行くと朝比奈さんが迎えてくれた。

「あ、ただいま…でいいんですかね?」

朝比奈さんがクスリと笑う。
部屋の隅では長門が座っていた。

「って今日は冬休みじゃないんですか?」
「あ、そうなんですけど『大晦日で年越しパーティーやるから集合!』って涼宮さんが」
「そうだったんですか…ところでハルヒは?」
「食材を集めてきてるみたいですよ。この前鶴屋さんがカニを持ってきたから対抗したいみたいで」

…ハルヒらしいな。

「っとそうだカニだカニ。俺の分出させてもらっても良いですか?」
「あ、はい…確かこの辺に…はい、どうぞ」

おぉ…これは見事な毛ガニだ………あれ?

「…全部綺麗に中身がくり抜かれてるんですけど」
「えぇ!?そんなはずはないですよ!?」

あわあわしている朝比奈さんを横目に俺は長門を見た。

「………」
「…長門?」
「…カニ味噌は食べてない」
「まだ何も聞いてないぞ?」
「…迂闊」

…というか身は食べたのかよ…

「ごめんなさいキョンくん…」
「いえ、朝比奈さんは謝ることないですよ。それにカニ味噌だけでも十分ですから…」
「…カニ味噌は涼宮ハルヒが食べた」
「ちくしょおぉぉぉぉ!」

…カニ…食べたかったな。

あわあわしている朝比奈さんの横で全力で項垂れていると

「おまたせ!」

ハルヒが部室に入ってきた。

「みんないるわね!…っとほら!スッポンとって来たわよスッポン!これで鍋しましょ!」
「す、涼宮さん!生きてるじゃないですかそれ!」
「噛まれなきゃ大丈夫よ!キョン、あんたも持ってみる?」

星を宿したように輝いた眼でハルヒが俺に尋ねてきた。
そんな眼を見て「やれやれ」とかそんなこと言えるわけがない。

「いや、遠慮しとくよ…素手で捕まえてきたのか?」

「まさか。谷口を呼んで捕まえさせたわ」

…まぁお前が楽しいならそれで良いさ。

「よし、じゃあ早速調理しましょ!有希、お鍋の用意して…あ、そうだキョン」
「ん?どうした?」
「あんたこの写真見覚えある?」

そう言ってハルヒはポケットから一枚の写真をとりだして俺に突きつける。

「あんたと始めて会ったのって高校生に入ってからよね?」
「あぁ、そのはずだが…ってこの写真どこで見つけた?」
「知らないわよ。気がついたら家のアルバムの中にあったわ」

写真には心から楽しそうに笑うハルヒと俺が写っていた。

…あの公園で、小学生の姿のまま。

おわり

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