…痛い。

いや、別に怪我はしてないんだ。
なんていうか、こう、身体的なそれじゃなくて。

とりあえず今俺はハルヒの手を引っ張って歩いているわけで。そのハルヒは「ちょっと!どこ行くの!?」とか喚いているわけで。

…周りの視線がめちゃめちゃ痛いわけで。

やっぱり小学生って言ったって男女が手を繋いで歩いてたら興味をもつような年頃なんだな。
ハルヒも騒いでるから目立ちやすい。

「キョン!聞いてるの!?」
「あぁ、とりあえず静かにしてくれ…お、いたいた」

谷口達がドッジボールをしてるとこにたどり着いた。

「お、キョンと…涼宮?」
「いきなりいなくなってスマンな。とりあえず再開するよ。ハルヒも」
「え!?ちょっとキョン!」
「まぁとりあえず一緒なやろうぜ。つまんなかったら何でもいい、罰ゲーム受けるからさ」
「…私は別にいいけど…」

そういってハルヒはみんなを見る。

「………」

…怯えた目でハルヒを見てる女子がいるな…昨日ハルヒに話しかけてた子か。
まぁあそこまで突き放された態度とられたら傷つくよな。

「何よ!私のせいだって言うの!?」
「でかい声を出すな。驚いてるだろ」
「…っ!」
「まぁまぁ落ち着けって涼宮」

…谷口。

「時間も少ないし遊ぶなら一緒に遊ぼうぜ。そこの女子もいいだろ?別に涼宮はお前らのこと取って食おうなんて考えてねぇんだし」
「ちょっと谷口!何勝手なことを…」
「ハルヒ…叫ぶな」
「…むぐ」

見ると他の女子がクスクス笑ってる。

「とりあえず涼宮さんはこっちのチームに入りなよ」
「え?あ…わかったわ」

良い空気になってきたな…久しぶりに谷口に感謝。

「よし、じゃあ再開しようぜ!そっちのボールからな。キョンはこっちのチームでいいだろ?」
「あぁ」

ハルヒと別々か。

「ほら、涼宮さん」
「え?あたし投げていいの?」

あっちのチームも気を使ったのかハルヒの投球から。

「まぁいくら涼宮といっても所詮は女子だ。そう凄い球は投げられないだろ」

だな。いくらハルヒったって小学生レベル…

「どおぉぉぉりゃあぁぁ!!!」
「ぶはあぁぁぁ!!!」

…前言撤回。
見えない何かが俺と谷口の間を通り抜けて後ろの男子に直撃した。

「お、おい大丈夫か!?」
「…白目向いてるわ…あそこの日陰で休ませましょう」

…さらば、名も無き少年A。

「うわぁ!涼宮さん凄い!」
「どーやったらあんな球投げられるんだよ!」
「べ、別に普通に投げただけよ!ほら、早く用意しないとあっちが投げてくるわよ!」

…というか少年Aの心配もしてやれよ。

「よし、とりあえず涼宮以外を狙おう。あいつに投げても簡単に取られる気がする」

そういって別の男子…少年Bとしようか…が相手のチームにボールを投げる。

「のわっ!」

おぉ、当たった…って…

「えいっ…ほら、ボーっとしてると狙われるわよ」

またもハルヒのスーパープレイ炸裂。
まぁ何が起こったかというと人に当たったボールが地面につく前にハルヒがキャッチしたわけで

「どっせえぇぇぇい!!」
「ぶるあぁぁぁぁぁぁ!!」

哀れ少年Bはハルヒのカウンターを食らって撃沈したわけで。

「…ひとつ良いかキョン」
「…言って見ろ」
「…全く勝てる気がしないんだが」

ふと日陰をみると少年AとBとCとDと…あ、Eも追加…みんな仲良くダウンしてる。
あっちのチームはハルヒのお陰で被弾者ゼロ。

「…確かに。だが何とかして一矢報いたいな」
「とりあえず外野とボールを回して翻弄してみようぜ」

そう言って谷口が外野にボールを投げる。
なるべくキレイな四角形が出来るように回していく。

「ひゃっ!」
「うわっ!」

相手チームがどんどん中心に集まっていく。
ってか谷口ボール回すの上手いな。

「まぁ勉強より外で遊ぶ方が100倍楽しいしな」

好きこそものの上手なれってやつか。

「涼宮さん…どうしよう…きゃっ」

隙を見て一人命中。
さすがに密集地帯だとハルヒもカバーに回れないか。

…しかしドッジボール始まってから俺特に活躍してないな。

「だったらキョンもボール回すか?ほら」

おぉ、このボールの感覚も懐かしいな。
とりあえずあの外野に向かって…

「とおっ!…あ…」
「………」

…一気に場が静かになった。

…いや、ね。
俺も頑張ったんだよ?

中学校入ってから部活にも入らず運動から離れた俺がだよ?

全力だ。全力でやったんだ。
あの外野にボールをパスすることだけを考えて投げたんだ。

「………」

…まさかすっぽ抜けて真横にいる谷口の顔面に当たるなんて…

「…ノーコンってレベルじゃねぇぞ…」

…遅いツッコミありがとう。そしてすまん谷口。

そのまま谷口は少年A~Eの横に運ばれていった。

…少し運動する癖でもつけようかな。

あれ?そういやボールは?

「キ、キョン…後ろ…」

どうした名も無き少年Fよ。
後ろにボールがあるのか…?

「…さぁてキョン…」

…確かにボールはあった。

「…覚悟はいいかしら?」

仁王立ちしているハルヒの右手に収まっていた。

「ちょっとまて!外野と回す作戦は俺じゃなくて谷口が…」
「問答無用!!!」

というわけで。
少年Eに続いてのハルヒの投球被弾者は

「しゃーんなろおぉぉぉぉ!!」
「ぐはあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

…言わずもがな俺だった。

…っていうか俺も…顔面…かよ…

























…気がつくと俺は保健室で横たわってた。
まだボールが当たった所が痛い。

「…すげぇ馬鹿力だったなハルヒの奴…」

っていうか何で俺は保健室に?

「…昼休みが終わってもあんただけ気絶したままだったからよ」
「のわっ!ハルヒ!?」

いるならいると言ってくれ。

「授業が終わってからずっといたわよ…一応キョンにボール当てたのあたしだからね」

なんだ…心配してくれたのか…って授業終わってから?

「もう放課後よ?」
「…まじでか」

結局ドッジボールはハルヒチームの圧勝で終わったらしい。

「…どうせ馬鹿力よ」

…聞こえてたのか。

「ところでキョン、覚えてるかしら?」
「ん?何をだ?」
「…罰ゲーム」

…あれか。

『つまらなかったら罰ゲーム』

「…楽しくなかったか?」
「ありきたりよ!クラスで集まってワイワイ遊んで騒いで…」

そう言ってハルヒは下を向く。

「…昔はそれが楽しかったはずなのに全てを避けていたあたしがいた…それが嫌なの」
「………」
「…だからもう一度楽しむことにしたわ!というわけでキョン!あんたあたしの友達になりなさい!罰ゲームよ!!」

この世界始めてのとびっきりの笑顔でそんなこと言われても…
…というか罰ゲームもなにも

「もう友達だろ?俺とハルヒは」
「え?」
「…違うのか?」

そういうとハルヒは真っ赤になって

「ま…まぁあんたがそう言うなら…別にいいんじゃない?」

そう呟いた。

「とりあえず帰ろう。いつまでも保健室にいるわけにはいかないだろ」

…この世界にもな。












「昼休みが終わってから色んな人と話をしたわ」
「ほぉ」
「なんていうか…こう…くだらないことなんだけど楽しいような…」

小学生ハルヒとの帰り道。

公園のブランコに乗りながら嬉しそうに話すハルヒの横で俺の頭にはあの言葉が浮かんでた。

『期限は今日いっぱい』

正直な話俺が今日ハルヒにしたことが正解かどうか自信がない。
…帰れるかな…俺。

「まぁ谷口は相変わらずだったんだけどね…聞いてる?」
「すまん、ぼーっとしてた」
「もう!ちゃんと聞きなさいよ…あたし、今…明日が楽しみって思えるの」

………

「ありきたりで、ありふれて、何てこともない日常も楽しみなの」

目を輝かせてハルヒが言う。

…ちゃんとハルヒに「伝わった」みたいだ。
…ハルヒが俺にしてほしいこと。
…元の世界のハルヒがこのハルヒに伝えたいこと。

「…なぁハルヒ」
「どうしたの?キョン」
「…俺そろそろ帰らなきゃ」
「家に?」
「…あぁ、そんなところだ」
「もうそんな時間なのね…そうだ!ちょっとそこで待ってなさい!」

そう言うとハルヒは走って公園を出て行った。
…何をする気なのだろうか?

数分後、ハルヒは何かを抱えて持ってきた。

「親父のポラロイドカメラ持ってきたわ!記念撮影しましょ!」
「記念撮影?何のだ?」
「あたしとキョンが友達になった記念よ!ほら、もっとこっちに来なさい!」

おい、ひっぱるな!

「いいから…よし、ほら!」

パシャ

「ちゃんと取れたかしら…あれ?」
「どうした?」
「…キョンだけ写ってない」
「そんなわけないだろ…って」

確かに現像された写真には俺の姿が無かった。

…この世界の人間じゃないから記録に残らないのか?

「ちょっとあんたそこに立ってみなさい!…あれ?また写らない…故障かしら?」
「…もういいよハルヒ」
「だって折角カメラ持ってきたのに…」
「また今度撮ればいいだろ…それに」
「…それに、何?」

…お前のその眼にみんなが写ってたらそれでいいよ。

「いや、何でもない。忘れてくれ」
「ふーん?まぁいいけど…あ、この写真いる?」

…まぁ貰っとくか。
二枚目にハルヒが撮った写真にも俺の姿はなかった。
一枚目の写真はハルヒが持っていくようだ…どうせハルヒしか写ってないんだが。

「じゃああたしの家あっちだから」

そう言ってカメラを抱えて走るハルヒが振り向いてこう言った。

「じゃあねキョン!」

じゃあねって…違うだろ。

「…またな」

そう言ってハルヒに手を振った。

「うん!また明日!」

笑顔で走っていくハルヒが遠くなる。

そのまま俺の意識はブラックアウトした。



上の目次からエピローグへ続く

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最終更新:2020年06月04日 18:01