退・屈。
 そうとしか形容の仕様が無い一日も、もう半分が過ぎている。無意識的に口を尖らせていたのに、今更気がついた。
 今は昼の休憩時間、いつもであれば直ぐに学食へ行って今頃あたしのお気に入りのメニューの半分が胃と言う名の一つの消化機関い収容されている頃だけど、今日に限って財布を忘れたらしく、それに気がついたのは食券を買おうとしているところ。勿論、お腹も空いてたからその辺の適当なヤツから借りようかとも思ったけど、ふと良い事を思いついた。
 丁度良い口実があるのだから、目の前の席に座っているあたしの部下、キョンの弁当でも貰ってやろう。
 確かキョンの食事のペースはあたしに比べて遅いはず。それに、今日のキョンは調子が悪そうだった。あたしが話しかけたり背中を触ったりすると異様にビクッて反応してたり、日直だったあいつの頭にチョークの粉がのってたから払った時、顔が凄く赤かったしちょっと変な顔をしていた。風邪でも引いているのかもしれない。なら今行っても8割は残っているだろう。
 即発案即時実行がモットーのあたしは、急いで教室へと戻ったのだけれど、
 
「あ? キョンのやつならいねーぞ」
 
「うん、そうだね。昼休憩が始まってからすぐに僕に声をかけて、どこか行っちゃった。ごめんね、行き先までは訊いて無いんだ」
 
「えーっと、多分旧校舎の方に行ったと思うのね。そっちの方向に行ってたから……確証は無いけど」
 
 国木田と阪中さんの話を聞くに、大方部室に行ったんだろう。そう結論付けて、あたしは部室へと向かっているのだけど、そろそろ限界。なんで……
 
「なんだってあたしがあいつを探し回んなきゃなん無いのよ!!!」
 
 
 
 そうよ、今まで散々にこうふつふつとしたものを抑えてきたけど、も~ダメ!! なんであいつは今日に限っていつもどおりにいないのよ!! 見つけたら弁当の中身を即時殲滅してやるんだから……。
 
「あっはっは、キョン君も大変だねっ!」
 
「わ、鶴屋さんじゃない!」
 
 あたしの独り言が聞こえたんでしょうね、背中から鶴屋さんの声が聞こえてきた。ホント、あたし並みに元気なのに気配が無いように近付いてくるんだもの、油断ならないわ……。
 
「で、どうしたんだいこんなところで? 向こうには部室等しか無いんじゃないっかなぁ~?」
 
「ええ、そうなんだけど。キョンを探してんのよキョン! 鶴屋さん、こっちの方に来たの見て無い?」
 
「キョン君かい? ごめんよ~、鶴にゃんは今日まだキョン君とは会って無いにょろよ。見かけたら話しかけるだろうからね、うん」
 
 なぁ~る、つまりみくるちゃんに話があったとか言うんじゃ無いみたいね。まぁ話があるからってわざわざ行くってんなら折檻ものだけど。も、勿論みくるちゃんに害を及ぼさない為の苦肉の策としてねっ。
 
「そうだっ! あたしも一緒にキョン君を探しても良いかいっ? 最近キョン君とはお話して無いっからね~、めがっさお話したいのさっ!!」
 
 キョン君のスモークチーズについての独自解釈は中々面白いからねっ、と鶴屋さんがこぼす。
 …
 …
 …
 …キョン、あんた鶴屋さんと何話してんの? 
 
 
 
 何はともあれ、あたしたちはあいつを探すこととなり、一応まず部室に行く事にしたんだけど、
 
「ようハルヒ。って、鶴屋さんも一緒か。こんにちは」
 
「…………」
 
「こんちはーっ! おんやぁ~、キョン君は有希っこと仲良く2人でお食事中だったのかい?」
 
「純粋な意味でならその通りです。いえ、長門に用事があったんでそのついでに」
 
「へえ~、ふ~ん、ほ~お……そうなのかい、有希っこ!?」
 
「そう。彼の言葉には間違いはない。私と彼は仲良く2人で食事をしていた」
 
「にゃはは~、こいつは一本取られちったね。次はこっちで確保しないと……じゃなくって。今度はあたしとみくるも誘ってよ! ハルにゃんとも一緒にみんな出たべるっさ!!」
 
「それはいいですね」
 
「確約する」
 
「ほいよ~、楽しみにしてっかんね! で、ハルにゃんは何を固まってんのかな?」
 
「………………………いや……」
 
 なんで、この状況で普通に会話が成立してんの? あたしの頭はパニック状態にあった。なにしろ、
 
「キョン あんた それ 何」
 
「何をそんな頭悪そうな口調で? まぁいい、これって……弁当だが?」
 
 …………そうじゃない。
 
「そうじゃなくって!! そのあんたの頭に乗っかってる二つの三角形で茶色いモノは何かって訊いてんのよこのアホンダラァ!!!!」
 
「アホはどっちだ。頭の上って、耳以外の何物でもなかろう」
 
 そうだ。いつもの見慣れたキョンの地味にイケメンじゃないかと思うくらいに実は綺麗に整っていた顔の上の頭には、茶色い三角形の物体が二つ、時折ぴくりと動きながら乗っかっていた。見紛うまでもなく、それはネコミミだ。しかも、
 
「じゃあ……そのあんたの後ろでゆらゆらと動いてる細長いモノは何なのよ…………」
 
「……お前、大丈夫か? 360度どこからどう見ても尻尾じゃないか。疲れてんなら保健室に行け」
 
 しかも、ご丁寧に尻尾まで生えている。常にゆらゆらと揺れ動き、思い出したようにぴくっと伸びる、茶色の縞模様のネコ尻尾。動きが明らかに生物的ね。
 それだけではなく、そのネコキョンがそれを当たり前のようにして、むしろそれを指摘するあたしの方が訝しまれている。おまけに、
 
「どうしたんだい、ハルにゃん? キョン君のお耳と尻尾は今日も凛としてるよっ?」
 
「可愛い……」
 
「ちょっ、ふたりともやめっ……くははっ、くすぐったい!」
 
 あたしたちSOS団きっての万能・無口文学少女の有希と、SOS団特別顧問のsuper元気っ娘の鶴屋さんもそれを自然に受け止めてネコキョンとじゃれあって……
 
「だ、だめ! それはあたしの特権なの!!」
 
「おんやぁ~? キョン君は誰のものでも無いんじゃなかったけぇ~?」
 
「彼は確かにSOS団に帰属し、その団員は団長の指示に従う義務がある。しかしそれは社会的地位であり、彼自身の占有権を有するのではなく、勿論彼にも拒否権がある。ましてや現時刻は当該団体の活動時間ではなく、貴女の命令は無効。よって却下。特権など皆無」
 
「な、なら今の俺にだって……くははっ、その拒否権を……や、やめっ、―――……行使っ、くあっ、する……そっ、そこはやめなさい!」
 
「ふっふっふキョン君……いや、キョンにゃん、キミは頭を撫でられるのが好きだったよねぇぇ~~?」
 
「つ、鶴屋さ……んっ……んんぅ~~……」
 
 頭を撫でられたネコキョンが、尻尾を鶴屋さんに巻き付けていたり、
 
「……甘い。彼のようなネコ科の有機生命体は咽喉部への接触を心地よく感じ、好む。このように」
 
「な、ながと、そこはっ……! ……むっ……う……うぅ…………んんぅ~……」
 
 のどをくいくいっとくすぐられているネコキョンが切なげに目を細め、その少し上気した頬を有希へをすりすりして……。
 可愛い。文句無しに可愛い。こんなに素直で純朴な感じのするキョンは初めてだし、加えてネコ属性……可愛い。正直、堪らないわ。情熱を、持て余す。
 でも…………………でも………でも!
 
「だっ、だめェ~~、それはあたしのなの!!! 有希も離しなさい、鶴屋さんも離れて!!!!!」
 
「断る」
 
「んん~、ハルにゃん、女にはどうしても譲れ無いものってのがあるんだよっ!! そしてこれは譲れないのさっ!!!」
 
「そうなのね、涼宮さん悪く思わないで欲しいのね」
 
「なっ、阪中さん!?」
 
「鶴屋さん……やっぱり、あたしも譲れませぇん!」
 
「やっぱり来たんだねっ、みくる!!」
 
「あら……あらあらあらあら、とても楽しそうですね、長門さん。でも私が頂きますよ、『その子』は」
 
「彼は――とても…――可憐……ね――」
 
「喜緑江美里、周防九曜……。彼はあなたたちの物では無い、この場の誰の物でも無い。でも私は彼の物。だから彼の占有権は私が守る」
 
「くっくっくっ、久しく見ない間にひどく可愛らしくなっているじゃないか、キョン。いや、キョンにゃんとかネコキョンと呼称しようか。しかしそのように可憐且つ愛らしく、それでもなおきみらしさも維持したその姿には色々と持て余すよ。キョンは僕が頂く」
 
「わ、私は佐々木さんのお力になるべくついて来たのです! 決してそのお零れとか、最後の最後で切り替えして奪って行くだなんて事は……。と、とにかく彼はわたしがもらって行くのです!!」
 
「くっ、佐々木さんにその連れ!?」
 
 なになに、なんなのよ!? なんでこうもほいほいあつまって……ていうか、キョンはどんだけ、
 
「おやおや、楽しそうですね。これは是非とも僕も混ぜてい」
 
「古泉一樹。あなたの存在は推奨しない、消滅を強く推奨する」 「古泉一樹を適正と判定し、当該対象の有機情報連結を速やかに申請いたします。承認を確認、解除開始します」
 
サラサラサラ
 
「ダメなのですか?寂しいで「――悪・即・消・滅……ね――」」
 
 古泉君は良くわかんないけど消えたようね。まあどうでもいいわこの際。とにかく今この場でキョンの所有権をハッキリしておかないと!!
 
「キョンはあたしのなのォおおおーーーーーーーーっ!!!!!!!」
 
 
 
 
 
第三者による後日談(いわゆる一つの、じょーほーとーごーしねんたいによる観測)。
 
 
 本件概要
 涼宮ハルヒより、これまでにない超強大な情報フレアを観測。それとほぼ同時に我々のインターフェース、二体{長門有希(主)・喜緑江美里(穏)}及び天蓋領域(暫定名称)のインターフェース、周防九曜をはじめ、準観測対象として認定されている準高度情報操作能力を有し、“佐々木”と呼称される有機生命体などなどの様々な有機生命体による情報フレアによって相殺・無効化された。
 その直後に、吉村美代子(ミヨキチとして親族より“彼”に深く関与する有機生命体)、森園生(擬似殺人事件発生時及び朝比奈みくる誘拐事件にて“彼”と関与)をはじめとした“彼”の同一クラスに所属する有機生命体『など』が幾人もが登場、我々の観測史上最大の俗称『修羅場』の展開を確認。有意義な情報収集を完了。
 
 本件発生について
 本件は急進派所属のインターフェース、朝倉涼子に起因する事件。急進派は残留データより朝倉涼子を再構成、即時“彼”の私室へ転送した。朝倉涼子は情報操作を使用せずに“彼”との精神的不符合性の緩和を果たし、その……『致し』かけさせる。しかしその直前にインターフェース長門有希(主)により再度情報連結を解除され、内部情報存在を主流派保安部メインバンクへと転送される。その際朝倉涼子は、“彼”へと4832903908732093328904388973210番の情報因子(補:俗称『にゃんこにちぇんじ♪ 一週間お試しver.』)を投与、“彼”へ小型有機生命体の一種(一般的には総称として“ネコ”と呼称されるネコ目ネコ科ネコ属の哺乳類)の生体的特徴及び神経伝達情報の変換作用などを誘発させる。
 誘発時刻は投与後の5標準時間32標準分21標準秒。当該時刻より30標準秒で長門有希(主)による局地的不可視遮音フィールドを展開、生体的変態部の光学観測を不可とし、改変情報の認識を強制させるよう情報を操作。
 しかし“彼”は生体的な改変による神経伝達情報の改変による不符合性に順応できず、長門有希(主)へと周囲の記憶情報の改変及び局地的不可視遮音フィールドの解除を要求。前者を喜緑江美里(穏)が、後者を長門有希(主)が実行(※:この際に何らかの取引があった模様。“彼”は先の二名と共に長門有希宅への宿泊を命ぜられ、承諾する。{添付情報:主流派による許可証明書})。後は上記の通り。
 
 本件における今後の方針
 4832903908732093328904388973210番の情報因子の効力がきれるのは6標準日後のため、それまでは観測に徹する。また、長門有希(主)・喜緑江美里(穏)については行動をフリーとする。
 
以上
 
情報統合思念体情報管理部メインバンク所蔵、一報告書より抜粋。
 
 
 

 

 


 

正直、スマン。こういう『ちぇんじ』もアリかと……。反省しています、笑って許して。

 



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